ビートとドラゴン 殻を破るは人か龍か

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
1 / 4

第1話 ビート

しおりを挟む
 雪の山には龍がいる。そう言った人がいた。
 そんな山に村が一つある。その村は20人程の集まり。その中に彼がいた。
 彼の名前はビート。彼はまだ5歳になったばかりの少年。

「ビート! 薪になる枝を取ってきなさいって言ったでしょ! いつになったら行くの!」

 毎日彼は雪の積もる森へと小枝取りに行っていた。今日は出かけるのが遅くなり、母親にこっぴどく怒られる。
 彼は悲しい表情で寒い外へと出て森へと入っていく。

 ビートはこの時間が好きだった。冬の雪の葉っぱを付けた森。太陽の光を雪の葉っぱが更に輝かせる。とても綺麗な天井。
 空を見上げながら森の中を歩くのが好きだった。空を見上げているから彼は枝を集めるのが下手で、いつも母親から叱られる日々。
 でも、彼は楽しくて嬉しい。少しでも彼女の役に立つことが出来ているから。大好きな母親と一緒にいられるだけで彼は幸せだった。

「お帰りなさいあなた!」

 そんなビートが更に嬉しい日がある。それは父親が帰ってきた時だ。
 彼の父親は雪山を下りて町へと出稼ぎに行っている。一か月に一度帰ってくる。
 父親が帰ってくると母は満面の笑みで迎える。彼女は彼が帰ってくると、ご馳走を用意する。
 雪山のごちそう、シカ肉のステーキと塩のスープと黒いパン。町では普通の料理、彼は表情にしなかったがあまりうれしくなさそうだった。

「今日は話があるんだ」

 父親は料理を口にしながら話し出す。
 あまりいい話じゃないのは母親の顔を見ればわかった。ビートは悲しくなる。
 静かな食卓、少しずつ冷めていく料理。ビートだけが食事をする。
 母親は涙して寝室へと入っていった。彼は驚いて父親を見つめる。すると父親はニッコリと微笑んでくる。

「ごめんな」

 笑顔で告げてくる謝罪の言葉。ビートは訳が分からずに首を傾げる。彼は母親の元へと走った。寝室の扉を開くと、母親が泣いている姿が見える。
 彼は悲しくなって涙が頬を伝って床に落ちる。涙のシミがじわりと床に残った。

「早く薪を持ってきなさい!」

 父親がいなくなってからは激しいものだった。母、シーナはビートに声を荒らげて外へと叩きだす。
 彼は驚いて小枝を取りに森へと入った。お母さんはなんであんなに怒っているんだろう? そう思いながらも大好きな森の天井を見上げる。
 いつも通り、雪の葉っぱが太陽の光をいくつも作り、ビートを輝かせる。光の妖精、彼はそう言って微笑んで手を伸ばした。
 そんな日が続いたある日。いつもと違う雪の森がやって来た。
 光がビートを照らさずに彼の前を照らすようになった。彼は光の妖精に案内されるように歩いていく。

「何があるの?」

 ビートは興奮気味にそう言って雪山を登っていく。
 光が彼を案内して安全に連れていく。寒くてかじかむ手を息で温めるビート、足がもつれて転びそうになる彼は期待で顔を赤くさせている。
 とても楽しそうな彼は疲れを感じなかった。

「ハァハァ……」

 ビートは息を切らせながらも前を向いて見上げる。そこは雪山の頂上、5歳の少年が普通にたどり着くことのない場所。
 『光の妖精さんが連れてきてくれた』とビートは喜んで頂上からの景色を楽しむ。
 村が小さく見える。自分の小指と見比べる彼は本当に楽しそうだ。
 四方の景色を見ていると光が目に当たる。まぶしさで顔を手で覆うビートは足元に視線を落とした。

「白い岩? 卵かな?」

 雪山に保護色のような白い岩。卵のような形をしているそれはとても綺麗。ビートは目を奪われて触れる。彼が両手で抱えるほどの大きさの卵。
 その卵に光が集まる。とても温かくなっていく卵。彼は触れている手だけでは収まらずに体全体で抱きしめる。

「温かい、お母さんみたい」

 懐かしい母の温かさを感じて目を瞑るビート。
 卵は脈打って答えてくれる。母に抱かれていたころの心臓の鼓動のような音、とても心地いい。すぐにでも寝息を立ててしまいそうになる。
 
「大きな卵……。お母さん喜んでくれるかな?」

 ビートは喜んで声を上げると卵を抱きかかえる。
 母に卵をプレゼントする。母の笑顔を取り戻すんだ。ビートはそういきこんで村へと引き返す。
 帰り道はとても快適だった。卵が温かくて体が軽く感じる。
 まるで空を飛んでいるような心地で来た時と違う。村から2時間くらいかけて頂上に行っていた。
 帰りは30分もかかっていない。頂上から飛んできたかのように早かった。卵を抱えているのに異常な早さ。

「ビート! 早く枝を持ってきなさいって言ったでしょ! いつまで待たせるの! まったくあなたは!」

 家にたどり着いて扉を叩く。するとシーナは声を荒らげて迎える。
 ビートは恐る恐る卵を見せる。彼女は卵を見て首を傾げる。
 卵だと思わなかった彼女だったが、すぐに理解してビートを家に入れる。

「大きな卵ね。すぐに食べてしまいましょ。美味しそうだわ」

 シーナはそう言って卵を割ろうと手で叩く。いくら叩いても割れる気配がない卵。
 彼女は木槌を持ってきて叩く。それでも割れないとみると斧を持ってくる。鉄製の斧で卵が割れた……そう思ったけれど、やはり割れることはなかった。

「白い岩ね……捨ててきなさい」

 シーナは息を切らせて、そう吐き捨てる。ビートはうなだれて卵だと思っていた岩を抱きかかえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

処理中です...