ビートとドラゴン 殻を破るは人か龍か

カムイイムカ(神威異夢華)

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第15話 村を出る

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 猛る龍は咆哮を上げる。風も共に声を上げて吹雪を作り出す。ダイヤモンドダストが中空を埋め尽くす。村を覆い隠さんとするその吹雪は激しく朝から夜まで続いた。まるでビートの旅立ちを阻むように。

「まだかな~」

 ビートはあたたかな自宅のベッドで呟く。吹雪が止んだ時、それが彼の旅立ちの時。龍と風はそれを阻む、彼らはビートとドラゴンの卵に外へ行ってほしくない様子。
 大きなため息をつくビートは旅立ちの支度をしたリュックサックを見つめる。ドラゴンの卵が真ん中に鎮座するリュックサック。入れられる量は限られている。食べ物と水、ポーションも少し。野営の装備は持てない、火打石で焚火をするくらいしかできない。

「吹雪が激しくなってきたわね」

 シーナは心配そうに外を見つめる。このままじゃ家が潰れちゃうわ。シーナはラトスを見つめる。
 『ビートを外に出したくないみたいだね……』ラトスはビートの荷物を見ながら呟く。ドラゴンの卵を外に出したくない。そう思っているんだろうとラトスは推測する。
 吹雪は二日程つづいた。ビートは待ちきれずに朝になると外へと飛び出す。

「いい加減にして! 僕は外に行くんだ!」

 吹雪に文句を言うビート。その口には雪が入り込んでくる。それでもお構いなく文句を口にする。
 彼の背中のドラゴンの卵も一緒になって跳ねる。すると不思議なことに吹雪が止む。音がなくなると白い雲が晴れて頂上の山が姿を現した。

「え……。こいってこと?」

 頂上から光が差し込む。まるでビートを導くように。彼はすぐにドラゴンの卵と共に頂上へと登った。一瞬でたどり着くビート。
 彼は訓練のおかげで人間を超越した。今ならカレンにも簡単に勝ててしまうだろう。
 頂上にたどり着くと太陽が影を作り出す。白い雲に描かれる龍の姿。山の形が龍になっている山、人はそれを見て龍が住む山だといった。迷信などそんなことばかりだ。
 しかし、その影は形を変える。まるではばたく龍のように姿が変わっていく。神秘的な光景にビートはため息をつく。長い長い影絵のアニメーション。まるでビートとドラゴンの卵の旅立ちを描いているように感じる。

「行ってらっしゃい?」

 そう感じたのはビートも同じだった。山の頂上のとんがりを見つめて呟く。すると風が鳴り、ドラゴンの声が聞こえてくる。風と岩が作り出す音、ドラゴンの声が迷信。だけど、確かに聞こえた。
 ビートは雪山の龍を信じて、声を上げる。

「行ってきます! みんなをよろしくね!」

 最後の挨拶をしたかった雪山の龍。彼を頂上に招くと粋な計らいを見せる。自然とは不思議なものだ。時に厳しく人を殺め、時に人に奇跡を見せる。ビートは微笑んで頂上にお辞儀をした。
 頂上を降りて自宅に戻ったビート。彼はラトスとシーナに深くお辞儀をして『行ってきます』と声を上げた。二人はそれを見て涙を流す。我が子の旅立ち、いつまでも近くにいてほしいのに。離れていく最愛の子。涙で揺れる視線で見送る二人は手を振った。
 振り返って手を振り返すビート、しばらくすると白い雲が家族を遮る。もう振り返るな、前を見ろ、龍はそう言って見送った。

「温かくなってきた。服を変えよう」

 山を下りると気温が変わる。前に来た時はシーナとラトスがやってくれたこと。彼は一人でできるようになっていた。
 薬の作り方を教えてもらっている間、それだけを教えられたわけじゃない。火の起こし方や、野営の仕方なども教わった。ラトスは抜け目なく、すべてを教えていた。冒険者の基本を叩きこまれたビートは最強に近づいている。

「あと少し」

 野営の装備は持てない、それなら早く町に着いちゃおう。そんな考えでビートは草原を駆けた。
 すぐにツィーダの城壁が見えてきた。恐ろしい速度だ。
 見たことのある城壁が大きく横へと広がってる。子供のころよりも低くなってる? そう思ったビートは首を傾げる。だが、それは勘違い、彼が大きくなっていただけ。
 身長が1メートル程だったころとは違う。今は1メートル50センチ程になっている。ビートの実の父親は長身だった。彼もまたおおきくなるのだろう。

「冒険者です」

 城門の衛兵に冒険者のタグを見せる。昔はこれで通れた。ラトスが見せるだけで家族みんなが通れていた。
 だが、情勢が変わっていた。衛兵はお金を要求してくる。銅貨2枚だ、そう吐き捨ててくる衛兵。嫌な感じがしつつも仕方なく支払うビート。お金を出すと問題なく通してもらえた。
 
 城門を通ると町の中も変わっていた。昔は色んな音と匂いが迎えてくれた。とても綺麗な町だった。そう思ってた。
 
「パンの匂いも魚や肉の焼ける匂いもしてない……。お酒の匂いばっかり」

 夕日が落ちかけている時間だから? そう思いながらも声をあげたくなる光景。道路にはごみが多く捨ててある。昔はこんな風景じゃなかった。
 ビートは落ち込みながらもレッシーの店へと向かう。冒険者ギルドで依頼をこなして、レッシーの店にポーションを卸す。二つの仕事をこなしていこうと考えていた。
 レッシーにはラトスが話をつけてくれてる。手紙で確かに伝えていた。

「レッシーさん。いらっしゃいますか?」

 レッシーさんの店は覚えていた。昔の同じ城壁沿いのお店。店から出ると城壁が向けてくれるほど近く。石の土臭い匂いがする。これも前と違う。昔は薬のなんとも言えない匂いがしていたのに。

 店に入って声を上げると白髪のレッシーと黒い帽子をかぶる女の子が迎えてくれる。女の子が支えながらレッシーが僕の顔を見つめる。
 『確かにあの時の子供だね。待っていたよラトスの息子』、レッシーはそう言ってヒッヒッヒと笑う。笑い方は一緒でビートはホッと胸をなでおろす。

「私はレッシーお婆ちゃんの孫のレナラ。お婆ちゃんの薬づくりを手伝ってるの」

 レッシーを支える女の子が自己紹介をしてくれる。ビートも改めて自己紹介をするとニッコリと微笑んでくれる。
 『この子はね。親に捨てられたのさ。私のところなんかに置いてかれたんだよ。まったく、ラトスを見習ってほしいね』レッシーはそう言ってため息をつく。
 レナラは捨てられた子、彼女は恥ずかしそうに頭を掻く。
 覚えが悪くてね、でも可愛い子だ。見捨てるわけには行かないさ。レッシーはそう言って大きくため息をつく。

「早速ポーションを作ってくれるかい? 正直、私はもう駄目さ。教えることは出来ても作ることはできなくなっちまった。魔力が尽きたんだ」

 レッシーはそう言って苦笑いを浮かべる。それで薬の匂いがしなかったのか。ビートは悲しい顔になって調合棚へと向かう。
 手際よくポーションを作っていく。その過程で色濃く魔力が放たれる。自然と出来ていた魔力を込める工程、ラトスがわざわざ教える必要もなかった工程だ。
 レッシーはそれを見つめて『学びなレナラ』と言って彼女を見つめる。彼女は綺麗と呟いて瞬きをすることを忘れながら見つめ続ける。
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