ビートとドラゴン 殻を破るは人か龍か

カムイイムカ(神威異夢華)

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第20話 温かさ

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 眠りについたビートはオリビアの家で目を覚ます。ツィーダの町で生活していて初めて料理の匂いで目を覚ます。目玉焼きと白いパンの香り、薄く切った腸詰めも焼かれて横に置かれる。
 ドラゴンの卵はビートの寝ていたベッドの横にリュックに入ったまま転がっていた。オリビアは何とかビートの背中から下ろしたのだろう。それかドラゴンの卵が手を貸したのかもしれない。

「おはようビート君」

 匂いに誘われるままビートはベッドから出て扉をゆっくりと開ける。扉を開けるとすぐリビングが広がっていた。
 オリビアが気が付いて微笑んでフライパンに乗っている目玉焼きを木の皿にのせる。香しい油の香りが食欲を誘う。
 『食べましょ』ずっと無言のビートに何か言うわけでもなく、料理の乗る席に誘う彼女、彼は頷いて席に座る。

「まずはお礼。ありがとうビート君」

 向かいの席に座るとオリビアがお礼を言って頭を下げる。ビートは『僕が許せないと思っただけなので』と謙遜する。
 彼女は首をゆっくり左右に振るとビートの手を取る。
 『みんなが出来なかったことをしてくれた』そう言ってギュッと手を握る。とても温かい手と金木犀の香りにホッとするビート。彼の心を表すように、ドラゴンの卵は嬉しそうに床を転がる。

「でも、これから大変になると思う。心配しないで職権乱用しようともあなたを守るわ」

 オリビアはそう言って目玉焼きをパンに乗せて頬張る。トーストになっている部分が子気味いい音を立てる。ビートはその音と香りで我慢できずにパンを頬張る。
 『美味しい!』その声にオリビアはクスクスと笑った。

「5年前なら美味しいお店も多かったものね。今じゃ一軒もない。みんな別の町に行っちゃった。店を持つには高い税金を払わないといけなくなっちゃったからね」

 『冒険者や兵士を優遇して税を調整してるから』と付け加えて話すオリビア。
 本当に戦争を進めるような町になっていたと改めて分かった。
 ビートはカリッとトーストされた丸いパンを食べる。少し硬いけれど、パンの香りが体いっぱいに香らせてくれる。
 オリビアがいるからビートはこの町を好きになっていた、と改めて分かった。彼はこの町をよくしようと動いていた。
 大切な人が暮らす町、それをよくしてしまえば町を好きでいられる、出ていかないで済むから。

「食事が悪くなると人も悪くなる。必然よね」

 白いパンを食べ終わって行儀悪く指をしゃぶるオリビア。ビートにみられているのを忘れていた。顔を真っ赤にして『今のは真似しないようにね』と言って食器を片付けていく。
 ビートはゆっくりと用意された食事を食べていく。オリビアはそれを優しく見つめながら鍵を手渡す。

「これはこの家の合鍵。いつでも遊びに来て。じゃあ先に出ちゃうから。ギルドの仕事はサボれないの」

 ビートがキョトンとして鍵を受け取ると、有無を言わさずに家を出ていくオリビア。
 受け取れないと思っていたビートは返事をする暇もなく去った彼女にクスッと笑う。
 『僕が何かするとも思ってない。ほんと優しい人だな』ビートはそうこぼして目玉焼きの目玉をかき混ぜる。君を白いパンにつけてかじると涙の味がした。
 いつの間にかオリビアの温かい心にシーナを思って泣いていた。帰りたい、こんなすさんだ町に居たくない。本心が心の中で爆竹のように弾ける。
 でも、シーナのようなオリビアと離れたくない。こんな優しい人を叩くような人のいる町に置いていくなんてできない。
 拳じゃなくて剣だったら、シュラインは短剣を持っていた。ミスリルの短剣。凄い切れ味だった。今、僕のリュックに入っている短剣だ。
 ビートは転がって来たドラゴンの卵の、リュックから顔を出す二本の短剣を睨む。
 心無いシュラインならばやってのける。そんなことをさせるわけにはいかない。

「ビート? 今日も冒険者ギルドに行くの?」

 レナラが心配して声を上げる。彼女とレッシーにも領主であるシュラインとのことを話した。
 その心配もあって声をかけるレナラに『そうだよ』と答えて冒険者ギルドに駆けていくビート。
 あの日から一週間ほどが経った。ビートは毎日オリビアの家に泊まりに行って夕食と朝食をいただいていた。もう立派な家族といった感じ。
 レナラはそんな彼に頬を膨らませて憤りを薬棚にぶつける。ドスンと叩かれる棚はカランと食器がなる。
 レッシーはそんな彼女を見て『悪い虫がついちまったかね。これは一大事だよ』と言ってからかう。
 レナラはそれを聞いてビートの後をつけることとなった。彼女はビートに気がある様子。やれやれとレッシーは首を振ってベッドに横になる。彼女はビートのポーションのおかげでだいぶ調子が良くなってきた。
 冬が終わり、春になってきているというのもあって体が軽くなってきている様子だ。

 春、愛多き春。自然と体が近づく春は龍も高揚を知る。風と踊り、龍は猛る。ドラゴンの卵もビートの心と共に温かくなっていく。
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