つまみ食いしたら死にそうになりました なぜか王族と親密に…毒を食べただけですけど

カムイイムカ(神威異夢華)

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第18話 風の王と夕日の王女

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 ヴェルディア王宮の広場に、再び民との対話の場が設けられた。 今回は、シリル王子だけでなく――王様も、静かにその場に現れた。

 空気が、一瞬で張り詰める。 でも、前回とは違っていた。

 王様の足取りは重くなく、目には迷いがあったが、確かに風を感じていた。

「民よ」 

 王様の声が広場に響いた。

「私は、長く空気を閉ざしてきた。 名前を呼ばず、声を聞かず、秩序だけを守ってきた」

 民たちは、静かに耳を傾けていた。

「だが、風は止まらなかった。 ある者が、果実の香りと共に風を通し、空気を揺らした」

 私は、広場の端でその言葉を聞いていた。 焼きたてのパイを手に、風の行方を見守っていた。

「これからは、名前を呼び合おう。 声を聞き、空気を整えよう。 私の名は――エルヴァン。 ヴェルディアの王として、皆の空気を受け入れる」

 その瞬間、広場の空気がふわりと揺れた。

「エルヴァン様…」 

 誰かが、そっと名前を呼んだ。

「エルヴァン王、ありがとうございます」 

「エルヴァン王様が我々を見てくださった!」

 シリル王子は、王の隣で静かに微笑んでいた。 そして、私に目を向けて、そっと頷いた。

 私は、深く一礼した。 風は、通った。 渋みのある空気も、芯の甘みを見つけた。

 その夜、私は荷をまとめた。 果実の香りが残る布、焼き型、そして風の記憶。

「アイリスさん、もう帰るんですか?」 

 ルカが、少し寂しそうに言った。

「風は、通ったら次の空へ向かうんです。 でも、また果実が揺れたら戻ってきますよ」

 ミラは、紅茶を手に言った。

「レオが待ってるわね。 君の風、きっと彼の空を揺らすわ」

 私は、笑って頷いた。

「レオの空は、夕焼けの色です。 そこに、私の風を吹かせに行きます」

 馬車に乗り、ヴェルディアの町を後にした。 路地では、誰かが名前を呼び合っていた。

「マルク、今日の果実、甘いね」 

「リーナ、パイの焼き方、教えてよ」

 窓の外から聞こえてくる声に笑みがこぼれる。
 ヴェルディアはとても優しい空気を纏う国へと変わっていった。よかった、これで戦いは起こらずに終わる。




 王宮の庭園に、夕焼けが差し込んでいた。 果実の木々が揺れ、風が静かに通り抜ける。

 私は、馬車を降りて、懐かしい空気を吸い込んだ。

「ただいま、レオ」

 その声に応えるように、庭の奥から足音が聞こえた。

「アイリス…!」

 レオが駆け寄ってきた。 その瞳には、夕焼けの色と、少しだけ涙の光が混ざっていた。

「ヴェルディアの王様が話を聞いてくれた。優しくなってくれたの」

「君のやってくれたことは、ずっと届いてたよ。 手紙も、ミラの話も、全部…でも、やっぱり君の声で聴くのが一番だね」

 私は、笑って言った。

「レオの空が、私の風を支えてくれたからです。 だから、私は迷わず通れました」

 レオは、深く息を吸い、そして静かに言った。

「アイリス。 僕は、君の風に何度も救われた。 毒を食べた君が、誰よりも優しくて、誰よりも強かった」

 私は、彼の瞳を見つめた。

「レオ…?」

「僕は、君を愛してる。 風のように、君の存在が僕の空を揺らしてくれる。 だから、これからは……一緒に、隣で一緒に空を見てほしい」

その言葉に、風がふわりと揺れた。

「…はい。 私も、レオにパイを焼いてあげたい。一緒に食べたい。もちろん、空を見ながらね」

 庭園の果実が、ひとつ落ちた。 それは、風が結ばれた証のようだった。

 数日後、王宮で静かな結婚式が開かれた。 果実の香りが漂い、パイが振る舞われ、名前が呼び合われた。

「レオ様、アイリス様、おめでとうございます!」 

「風の夫婦だね!」 

「芯が甘くて、渋みも愛しい!」

 ふたりは、風の中で誓いを立てた。

 赤毛のアイリスの私の物語はここでおしまい。 毒を食べた私は、今や王子の空を揺らす風となり、 名前と想いを結び、夕焼けの空に誓いを立てた。
 
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