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第一章 落とされたもの

第1話 僕アート

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「おいアート。俺達の代わりに掃除しておけよ!」

「そうだぞ。能無しのお前にはお似合いの仕事だぞ!」

 僕の名前はアート。孤児院で生活してる金髪青い瞳の少年。みんなそれぞれ生まれた時に才能を与えられるんだけど、僕は何ももらえなかった。
 才能って言うのは職業を表している。戦士や魔法使いと言ったもの。戦士は力が上がり、魔法使いは魔力が上がる。力は文字通り、重いものを持てるようになり、魔力はマナを扱える量がふえたり、魔法の威力があがる。
 マナはこの世界に満ちてる。それを集めて使うには魔力が必要。孤児の僕にはよくわからないけど、マナは火や水に姿を変えて魔物を倒す力に変わってくれる。
 魔物って言うのもマナが集まって生まれる存在らしいけど、よくわからない。
 魔物が多いせいで僕らは城壁の中で生活をしてる。その城壁内の一番端っこに教会が建ってる。教会の一部で孤児院を経営してる形。
 孤児の僕たちはそれぞれの仕事を持っている。戦士の才能をもってる子は薪を作ったり、力の必要な仕事。
 魔法使いの子は水や火を使う大人に付き添う仕事。比較的魔法使いの子の方がお金になるらしい。魔法が使えない大人も多いからね。僕みたいに。
 僕は能無しだから孤児院の掃除くらいしかできない。教会全部の床は僕が掃除してる。僕の自慢だ。

「アート。毎日掃除ありがとね」

「エマさん!」

 自慢げに胸を張っていると不意に頭を撫でられる。教会のシスターエマさん。長い緑髪のエマさんは子供達が大好き、そんなシスターは子供たちの人気者、もちろん僕も大好き。

「すぐに食事にするからね」

「あ、はい! それまで掃除してます」

「ふふ、偉い偉い。じゃあまたね」

 エマさんはそういって孤児院に歩いていく。教会の中は結構広いけど、毎日褒めに来てくれる。本当にいい人だな~、綺麗だし。

「ふんっ! おっと、汚しちまった。掃除しとけよ能無し!」

「ルドガー……」

 通路の花瓶をわざと落とす同じ孤児のルドガー。彼は【聖騎士】の才能をもらっている凄い子。性格以外はね。
 仕方なく掃除をする。才能のない僕が彼に勝てるはずもない。

「ふんっ! 意気地なしだな、お前。偶には歯向かってみろよ」

 そう吐き捨ててルドガーは孤児院の方へと歩いていく。彼と喧嘩した戦士の子は前歯を全部折られてた、そんな人と僕は喧嘩したくない。何より、エマさんは喧嘩する子嫌いだしね。

 そんな毎日を暮らして、みんなの旅立ちの日がやってくる。僕以外のみんなの。

「エマさん! 帰ってきたら結婚してください! 俺、もっともっと強くなって帰ってきます!」

「ルドガー……。そうね、強く、優しくなって帰ってきたら考えてあげる。でも、そのころには私なんかよりもいい人が見つかると思うわよ?」

「いいえ! エマさんよりも魅力的な女性はいません! じゃあ、行ってきます」

 ルドガーが告白をして孤児院を出ていった。彼は僕を一瞬だけ視線に入れて、睨みつけてきていた。そんなに僕は恨まれていたのかな?

「はぁ~……どんな子達でも別れは悲しいな」

「エマさん……」

 椅子に座って机に突っ伏するエマさん。涙を机で隠してるのかな。僕は背中を摩ることしかできない。

「ありがとアート。優しいね君は」

 お礼を言って頬を撫でてくれるエマさん。あなたの方が優しいよ……。

「さあ、新しい子を迎えてあげないと手伝ってねアート」

「は、はい……。僕もいつかは旅立つんだよな」

 エマさんが両頬を叩いて気を取り直す。僕が旅立つ日も彼女は泣いてくれるのかな。
 そんな日から一年程が経つ。僕の旅立ちの日は来ない。

「ふふ、アートは私の後を継ぐのかもね」

「それは嬉しいですけど」

 朝食を食べながらエマさんにからかわれる。新たな孤児たちはみんな3歳程の子達だったから大変だった。エマさんも僕が旅立ってなくて良かったって言ってくれてる。少しでも彼女の役に立てたなら嬉しいな。

「ここにアートと言う子はいますか?」

 そんなある日、僕を探しているおじさんが孤児院にやってきた。

「アートならこの子ですが?」

 エマさんが応対して僕を紹介する。とうとう、僕の旅立ちの日がやってきたのかな。

「掃除がとてもうまい少年がいると聞きまして、ぜひ、うちの道具屋で雇いたいと」

「……アートをですか?」

「はい」

「……」

 おじさんは道具屋さんみたいだな。なぜかエマさんは乗り気じゃない。

「私はグランドと申します。準備が出来ましたらグランド道具店に来てください。では」

「……」

 グランドさんはそう言うとすぐに孤児院を後にした。エマさんは浮かない顔で僕へを視線を落とす。

「エマさん?」

「……」

 静かに涙を流すエマさん。悲しい表情で僕を見つめる。

「アートも旅立ってしまうんだね」

 優しく抱きしめてくれるエマさん。ルドガーやみんなにはこんなことしてなかった。泣いてもくれてる、嬉しいな。

「あなたはとても優しい子。誰よりもみんなを見ていて、傷つけることはしなかった。
 私のことも見てくれて助けてくれてた。いつかあなたのその優しい凄い才能が誰かに知られてしまうと思ってたけど、嬉しい反面残念だわ。もっと一緒に孤児院経営をしたかった」

 涙を流しながら微笑んでくれるエマさん。抱きしめる力が強くなるのを感じると僕も抱き返した。お母さんがいたらこんな感じなのかな。

「準備は自分で出来る?」

「はい。荷物もないので大丈夫です」

 いつの間にか僕も泣いていて、エマさんが拭ってくれる。僕の荷物なんか片手で足りるくらいしかない。服はエマさんが新しいものを見繕ってくれるから着ていけばいいしね。

「じゃあ……。今日が最後かな」

「エマさん。同じ町で働くんですからいつでも会えますよ」

「そ、そうよね」

 別に他の町に行くわけでもないのにエマさんは凄い残念そうにしてる。もう会えないかのような彼女を見ていると彼女には悪いけど、凄い嬉しい。僕だけみんなと違う、彼女にとっての特別な人みたいな気分だ。
 こうして、僕はグランド道具店へと旅立つこととなった。そのグランド道具店で特別な存在になるとは思いもよらなかったよ。
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