才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
2 / 40
第一章 落とされたもの

第2話 旅立ちと覚醒

しおりを挟む
「行ってらっしゃいアート」

「行ってきますエマさん」

 僕の旅立ちの日。エマさんが涙目で見送ってくれる。孤児達も一年一緒に居たから寂しそうに指を咥えて見送ってくれる。少し余裕が出来たらお土産でも持ってきてあげようかな。

「えっと、グランド道具店はあそこかな?」

 孤児院を出てまっすぐにグランド道具店へと向かう。場所はエマさんに教えてもらった。孤児院からあまり出たことがないから町に住んでいてもよくわかってなかった。
 結構、大きな町だから道具店もいっぱいあるしね。

「すみません。アートですけど」

 看板を確認して扉を開ける。真っ暗な店内、人はいるのかな? 扉を閉めると暗いので扉の前で待っていると外からコホンと言う咳ばらいが聞こえてきた。

「アート君。おはよう」

「あっ! グランドさんおはようございます」

 グランドさんだった。挨拶してくれてニッコリと微笑む。

「早速、店の掃除をお願いできるかな?」

「あっ、はい。分かりました。えっと、このお店は他に人はいるんですか?」

 真っ暗な店内だったから誰もいないと思って聞いてみるとグランドさんは首を横に振る。

「今はアート君だけだよ。君にはこのお店を綺麗に維持しながら経営をして欲しいんだ」

「ええ!? 経営ですか? 掃除じゃなくて?」

 グランドさんから驚きの提案をされる。掃除だって聞いていたからグランドさんが店を切り盛りすると思っていたんだけどな。

「この町にグランドと言う名の店がたくさんあるんだが知らないかい?」

「え? それって?」

「ああ、すべて私の店なんだ。その一つ一つに人員を割いていたら人手が足りなくなるだろう? なのでこのお店は君だけで経営してほしいんだ。な~に、私の指示した商品と君の選んだ商品を売ればいいだけだ。簡単さ」

 この町の多くのお店を持っているグランドさん。人員を削減して利益を出しているのかな。

「で、でも、僕は8歳ですよ! 自信がありません」

「大丈夫大丈夫。もちろん私も手伝うよ。あと、店の地下に【マジックバッグ】と言われる道具があるのだが、触らないようにね。少々いわくつきだから。ではまずは掃除だね。一緒にやろう」

「は、はい……」

 グランドさんはとてもいい人で一緒に掃除をしてくれた。お金のやり取りの仕方や、一番人気の商品を目立たせる方法などを教えてくれた。
 うう、お店を出来る自信がなくて胃が痛いよ~。

「今日は掃除で終わりにしていいよ。お店の二階が住宅になっているからね。寝泊まりはそこでもいい。もちろん、孤児院に一度帰ってもいいよ。それじゃあね」

「はい。ありがとうございました」

 一通りやり方を教わるとグランドさんは帰っていった。お店の経営のことを考えると胃が痛いから掃除に専念しよう。
 現実逃避をするためにお店の掃除を隅々までやって行く。気が付くといつの間にか地下に居て、グランドさんに言われた道具の前を掃除していた。

「これがいわくつきの【マジックバッグ】か。マジックバッグって確か、無限に物が入るバッグだよな~。凄い高そうだ」

 見た目は普通のバッグに見えるマジックバッグ。本当に無限に物が入るのかな? 少し試してみたいな。 そんな子供心を出すとついつい手が伸びていく。

「普通のバッグだな~。僕には少し大きいように感じるけど。!?」

 肩掛け型のマジックバッグを手に取る。普通のバッグだと思って眺めていると不意にバッグが肩にかかった。まるで生き物のように体に吸い付いてくる。

「な、なんだこれ! 離れない!」

 思いっきり力を込めて離そうとするけど、全然離れない。ちぎろうと思ってひねったりもするけど、ちぎれない。どうなってるんだ。

『無能力者を検知しました。落とし物バッグが作動します』

「へ?」

 バッグから変な声が聞こえてくる。女性のような声だけど、人っぽくない声。棒読みで心を感じない声だ。

『【落とし物バッグ】の機能を所有者に転送します』

「え? ええ!? うっ!? ……」

 再度声が聞こえてくると一瞬で目のまえが真っ暗になって行く。どうやら、僕は気絶してしまったようだ。
 目を覚ますと【落とし物バッグ】の使い方が分かるようになっていた。

「……町の落とし物がバッグに複製される。こんな反則的なアイテムがあるなんて……」

 落とし物バッグの仕様が凄すぎて思わず呟いてしまう。
 端的に言うと、町の落とし物がバッグの中に生まれる。更にバッグは何でも入るマジックバッグと同じで無限に物が入る。普通に荷物も入れることは可能。

「既にたくさんのアイテムが入ってる……。とにかく、確認してみよう」

 HPポーション、MPポーション。ポーションは効力の強さでランクが付く。魔物の強さと一緒でEランクからD、C、B、A、Sとなっていて、落とし物バッグは全て網羅してる。

「確か、Eランクのポーションでも銀貨1枚だったような……」

 銀貨1枚あれば僕の1か月ほどの食事代だ。銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨と通貨があるから銀貨は孤児の僕にとっては高価。100枚で次の硬貨に出来るから銀貨が1枚あれば節約すれば2か月はいけるかもな。

「他にもやばいアイテムが盛りだくさんだな~。町は広いって言うのが分かる。それにしても才能まで落ちてるなんて……これはもしかして、路上で生きていけなかった人たちの才能かな」

 落とし物バッグの中は整理されている。中身を覗くといくつかの黒い板が浮いていて、何があるのか僕に見せてくれる。それぞれの分別してまとめられていて見やすい。

「こっちが薬品、こっちが才能。こっちは乗り物。馬車まで落とすの? 凄い人もいるもんだな~。まあ、こっちの方が問題だけどね。なんで人も落とし物に入るんだろ?」

 中には人という黒い板もある。獣人やエルフ、ドワーフまで網羅されてる。

「そうか! 奴隷か! でも、なくなることはないはずなのに……。主人が死んじゃったら物じゃなくなるはずだから落とし物には分類されないよな~。まあ、複製されているから生きてはいると思うし、気にしない方がいいかな」

 落とし物に入ると複製されるから生きていて持ち主のところに帰ってもバッグの中身は維持される。完全に反則な落とし物バッグ。こんなものをグランドさんはどこで手に入れたんだろう?

「グランドさんには当分黙っておいた方がいいかな。代わりに似たようなバッグを」

 落とし物バッグが置いてあった棚には代わりのバッグを置いておく。古いバッグだから代わりはいくらでもある、落とし物バッグの中からバッグを取り出すのはなんだか面白い。

「は~、前途多難。だけど、売れるものはたくさんあるってことだから楽しみだな~。よ~し! 外から見える位置にポーションとか置いて、冒険者さん達に売り込もうかな!」

 とりあえず、グランドさんの置いておいてくれた道具の中にもあるポーションを売り込む。何年この地下にあったか知らないけど、在庫も恐ろしい数入ってる。Eランクのポーションなんか1万1500個も入ってるよ。これだけで豪邸が買えてしまう。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

のほほん素材日和 ~草原と森のんびり生活~

みなと劉
ファンタジー
あらすじ 異世界の片隅にある小さな村「エルム村」。この村には魔物もほとんど現れず、平和な時間が流れている。主人公のフィオは、都会から引っ越してきた若い女性で、村ののどかな雰囲気に魅了され、素材採取を日々の楽しみとして暮らしている。 草原で野草を摘んだり、森で珍しいキノコを見つけたり、時には村人たちと素材を交換したりと、のんびりとした日常を過ごすフィオ。彼女の目標は、「世界一癒されるハーブティー」を作ること。そのため、村の知恵袋であるおばあさんや、遊び相手の動物たちに教わりながら、試行錯誤を重ねていく。 しかし、ただの素材採取だけではない。森の奥で珍しい植物を見つけたと思ったら、それが村の伝承に関わる貴重な薬草だったり、植物に隠れた精霊が現れたりと、小さな冒険がフィオを待ち受けている。そして、そんな日々を通じて、フィオは少しずつ村の人々と心を通わせていく――。 --- 主な登場人物 フィオ 主人公。都会から移住してきた若い女性。明るく前向きで、自然が大好き。素材を集めては料理やお茶を作るのが得意。 ミナ 村の知恵袋のおばあさん。薬草の知識に詳しく、フィオに様々な素材の使い方を教える。口は少し厳しいが、本当は優しい。 リュウ 村に住む心優しい青年。木工職人で、フィオの素材探しを手伝うこともある。 ポポ フィオについてくる小動物の仲間。小さなリスのような姿で、実は森の精霊。好物は甘い果実。 ※異世界ではあるが インターネット、汽車などは存在する世界

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

処理中です...