才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章 落とされたもの

第7話 使命

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「もぐもぐ。もう! グランドさんは」

 売り上げの計算も終わってシエルさんと一緒に夕食中。グランドさんが僕に相談もなしにお店を任せるどころか譲ってくれる、なんてことを決めてしまって憤り中。相談する時間は十分あったと思うけどね。

「ふふ、グランド様は何か考えがあってのことだと思いますよ。私みたいな獣人にも分け隔てなく接していただきましたし」

「ん~、そうなのかな」

 落とし物バッグを僕が持っていることも分かっているみたいだったし、シエルさんのいうことも一理あるかもな。

「まあ、僕はエマさん達に少しでも仕送りが出来ればいいんだけどね」

 孤児院を出てまだ二日だけど、今すぐにでもエマさんのところに行きたい。

「エマさんですか?」

「あっ。言ってなかったっけ? 僕は孤児院育ちで」

「え? グランド様のご子息様では?」

「ええ!? 違うよ!」

 シエルさんが凄い誤解をしてた。確かに息子かと思うよな、それだけ良くしてもらってるけど違う……と思う。
 僕が孤児院に預けられたのは才能がないからだと思う。エマさんが言うにはある朝、教会の前に僕は捨てられていたらしい。とても綺麗な籠に入れられていたと聞いていたけど、グランドさんじゃないと思う。だって、彼ならそんなこと……。

「そうですか? グランド様からはアート様と同じ匂いが少しするのですが? 髪の色は染めているようでしたし」

「え!? そうなの?」

 むむ、獣人のシエルさんがそう言うなら怪しいな~。でも、年齢的には親と言うよりはおじいちゃんって感じだけど。もしや……。

「今度会った時に私が聞いてみましょうか?」

「ううん。そう言うのは本人からの方がいいはずだよ。僕が聞く」

 シエルさんに頼るのは違うと思うんだよな。

「そうですか。ではエマさんと言うのはシスターということでしょうか?」

「うん、僕の育ての親と言っても過言じゃない人だよ。僕はあの人の為に働いてる」

 シエルさんの問いに迷いなく答える。彼女は顎に手を当て、考え込むと頷いた。

「とても優しそうな方ですね。アート様を育てられたのですから」

「うん。とても綺麗で女神様だと僕は思ってるよ」

 シエルさんが優しい表情でエマさんを褒めてくれる。嬉しくなって思わず笑顔がこぼれた。

「では私もエマ様の為にアート様をお守りします。体を治してもらった恩も返します!」

 シエルさんはそう宣言した。あんまり気張らなくてもいいけどな。
 でも、僕も頑張らないとな。シエルさん以外にも落とし物バッグの中には奴隷だった人たちがいっぱいいるんだから。

「よし! 頑張ろ~」

「はい!」

 シエルさんと一緒に声をあげる。
 忘れ物バッグの中の人達は300人以上いる。そのすべての人を解放するにはお金が必要だな~。頑張らないと!

「よし! お店の準備もおわった。後は寝るだけ」

「はい」

 夕食を終えて、お店の商品を並べる。夜のうちにやってしまえばグランドさんが来た時に話が出来る。
 お店を任せられることがいやと言うわけじゃない。売り上げのどの程度が給料になるかとかも話していないから嫌なんだ。
 グランドさんのことだから全額僕の、とか言ってきそうだもん。それは絶対にダメ。グランドさんにも利益がないと絶対にダメだ。
 
「……シエルさん? ここは僕の部屋ですよ?」

「え? でも、昨日は一緒に?」

 なぜか僕の部屋までついてきたシエルさん。疑問に思って声をかけると昨日のことを持ちだす。
 昨日は才能を入れてしまってあんなことになった。それもあって今日は才能を取り出すことはない。

「あれは病気だったからで」

 才能が熱くてなんていえるはずもないのでそう言うとシエルさんは急に抱き着いてきた。

「だからです! いつまたあんなことになるかわからない。昨日は運が良かったんです! 私が他の部屋で寝ていて、あんなことになったら」

「し、シエルさん……」

 抱き着いて涙ながらに話す彼女に、もう何も言えなくなってしまう。

「おやすみなさいアート様」

「うん。おやすみなさいシエルさん……」

 同じベッドで顔を見合って眠ることに。こんな綺麗な人と同じベッド……。エマさんと一緒に寝たこともあった、その時も緊張したけど。

「ス~ス~」

「……」

 シエルさんの寝顔。眠れるはずもなくついつい見つめてしまう。
 エマさんと一緒に寝た時よりも緊張してしまうよ~!

「んん……、イーマ……」

「え? イーマ?」

 シエルさんが寝言を言って涙を流してる。イーマって人の名前かな?

「……そうだよね。彼女の知り合いもいたはずだよね」

 落とし物バッグの人達の中にはシエルさんの知り合いがいる。彼女が涙して会いたいと思っている人もいるんだ。

「いつか、みんなと会えるよ」

「スースー」

 寝ているシエルさんに小声で伝える。聞こえているのかいないのかわからないけど、心なしか微笑んでいるように見えた。
 本当にそうできるように頑張らないとな。 
 彼女の微笑む姿を最後に僕も意識を手放した。

「……おはようございますシエルさん」

「おはようございます!」

 目を覚ますとすでにシエルさんが目覚めていて、メイド服に着替えていた。またもや、僕のいる前で……。目のやり場に困る。

「さて! グランドさんが来るまで朝食にしようか」

 今日こそはグランドさんとお店について話すぞ~。

「はい! 今日は私が作りたいです!」

「え? いいの?」

「はい! 昨日はアート様のおかげでよく眠れたので!」

 ああ、そうか。おとといは僕が倒れてしまったからよく眠れなかったもんな。

「食材はなににする?」

「えっとベーコンと卵を」

「了解」

 シエルさんに食材を渡す。落とし物バッグの中は時間が止まっているからどんな食材も鮮度抜群。
 最高の料理が期待できるぞ。

「出来ました。ベーコンエッグです。白いパンも作りましたので一緒に食べましょう!」

 シエルさんは料理も出来るんだな。足と手がなかったようなことを言っていたけど、これも見て覚えたのか。凄い人だな。

「ん! 旨い」

 ベーコンの塩気が卵にあう、白いパンも一緒に食べると格別だ。

「次はスープも作りたいですね」

「はは、じゃあ、明日もお願いしようかな」

「はい!」

 シエルさんと朝食を楽しんだ。

「……。グランドさん遅いな」

「ですね。このままじゃ開店時間になってしまいますね」

 お店で待っていると刻々と時間が迫ってきている。折角、夜のうちに準備しておいたのに。グランドさんに逃げられたか? それとも彼に何かあったのかな?
 
「何かあったのかな?」

 心配の声をもらすとシエルさんも心配そうに外への扉を見つめる。
 と、その時!

「手紙です。アート様はいらっしゃいますか?」

「え!? はい、僕ですけど」

 町に集まった手紙を配るお兄さんが店に入ってきた。手紙を受け取って差出人の名を見るとグランドさんだった。
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