才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章 落とされたもの

第14話 総力戦

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「確実に撃破していくぞ!」

「応っ!」

 ルルスさんの声に応じて兵士さんが隊列を組んで突き進んでいく。ゴブリンを切り伏せて踏み進む。

「教会の裏手の壁に穴があるんだね?」

「はい。大きな音がしたのでトロールが壊して大きくなっていると思います」

「そうか……点検が行き届いていなかった所を狙われたというわけだな」
 
 ルルスさんの疑問に答える。
 司祭様から領主様には伝わっていたはずなのに彼は知らないみたいだ。

「とにかく、魔物を撃退していく。門の方もぬかりなく進める。兵士達の一部は門で待機。残りの兵士と冒険者諸君は私に続いてくれ」

「僕も行きます」

「ああ、出来れば案内してもらいたい」

 ルルスさんの号令でみんなが動き出す。僕も手をあげると頷いて了承してくれる。

「アート様がいくなら私も!」

「シエルさんがいれば心強いよ!」

 シエルさんも声をあげてくれる。イーマちゃん達はエマさんがちゃんと見ていてくれる。安心してゴブリンを討ちに行ける。

「ちぃ! 思ったよりも数がいる。各個撃破し、教会の裏手を目指すぞ!」

 教会の前に着くとすでにゴブリンが教会を占拠していた。ただのゴブリンだけじゃない、僕ら人間と同じように才能を持っているゴブリンもみられる。
 大きな剣を持っている戦士や弓矢を持っている狩人、この分だと魔法使いとかもいるかもしれない。

「この分だとジェネラルもいるかもしれないな」

「ジェネラル?」

「ああ、指導者と言われる才能持ちだ。ゴブリンはそれに従って動く。ヒーローやロードと言った指導者もいるがそこまでの規模ではないと思う」

 ルルスさんの呟きに首を傾げると説明してくれた。そんな魔物がいるのか、怖いな。

「とにかく攻め落とす。皆、死なないように気をつけて戦ってくれ、ポーションがもったいないからと言って命を捨てるなよ!」

 ルルスさんはそう言ってゴブリンへと切り進んだ。先頭を切って戦う指導者。彼はとても勇敢で頼もしい。

「僕らも行こうシエルさん!」

「はい!」

 ルルスさんの勇気に後押しされて僕もゴブリンに切り込む。白銀の剣は難なくゴブリンをこん棒ごと切り伏せていく。

「はっ!」

 シエルさんの声が聞こえてくると5体のゴブリンが絶命してるのが見えた。僕は彼女くらい強くなりたいな。

「グルルルァァァ~~!」

「!?」

 ゴブリンをみんなで蹴散らしていると教会の裏手の方から大きな雄叫びが聞こえてくる。すぐにその声の主が姿を現した。

「で、でかい!」

 スティナさんが驚愕して声をあげる。それもそのはず、トロールはゴブリンの3倍程の魔物と言われていて、僕はそれを想像していた。みんなもそれを想像していたんだ。
 教会の影から顔を覗かせてきているトロールは教会を越える大きさだ。流石の大きさにみんなたじろいでる。

「私が行きます!」

「シエルさん!?」

 みんなが動かないでいるとシエルさんが声をあげてトロールへと駆けていく。ゴブリン達はスティナさん達が相手してくれてる。僕もトロールに!

「アート君。待つんだ!」

「ルルスさん。行かせてください」

「落ち着いて、魔法で援護します。あんな巨人級のトロールに近づくのは自殺行為だ!」

 ルルスさんがそう言うと魔法使いの兵士二人が氷の粒をトロールに放ち始める。

「効かない? 炎の魔法はできないのか? トロールの弱点は火だ」

「じゃあ僕が!」

 ルルスさんの声に声をあげてすぐに魔法の詠唱に入る。魔法の詠唱は斥候のゴブリンの時に聞いた。

「マナよ。火を纏い我が敵を穿て!【ファイアボルト】」

 初めて使う魔法がトロールへと放たれる。火がトロールの顔面に当たると燃え広がる。

「出来た! シエルさん今!」

「ありがとうございますアート様!」

 僕の声に答えてシエルさんが動く。
 燃えるトロールの体を貫いていく彼女の槍。刹那の時の中、下から正中線を何度も突き、最後に眉間を貫く。トロールは声をあげる暇もなく、絶命していった。

「ハァハァ……あとはゴブリンだけ」

 一安心と声をもらすシエルさん。彼女に歩み寄る。その時、

「シエルさん……!? 【ファイアボルト】」

「え!?」

 顔に傷のある少し大きめのゴブリンが大剣を振りかざして襲ってきていた。僕はすかさず魔法を放ちそのゴブリンに当てた。

「ゴブリンジェネラル! はっ!」

 シエルさんは襲ってきたゴブリンジェネラルに槍を突き入れる。胴体を軽々貫通する彼女の槍、引き抜くとヨロヨロと後ずさっていく。
 燃えながらも恨めしそうに僕を見つめてくるジェネラル。やらせるわけがない。
 ジェネラルはトロールの後ろに隠れていたみたいだな。抜け目がないというかなんというか。

「こっちも終わり!」

「ふぅ。ポーションに助けられたね」

 スティナさん達もゴブリンを倒して一息つく。もう、朝日が昇り始めてる。

「壁はすぐに補修工事だ。みんなご苦労様。報酬は各々受け取ってくれ」

 ルルスさんが声をあげる。
 冒険者は冒険者ギルドで受け取れる。兵士さんは普通に給料がでるはずだ。……僕たちはどうなるんだろう?

「アート君達は後日伺わせてもらうよ。心配しないでくれ」

「あっ、はい」

 そう言ってルルスさんは壊れた壁の方角へと兵士さん達と向かって行く。残党がいないか心配だけど、疲れた。今日はもう休もう。

「アート君、お疲れ様!」

 スティナさん達が声をかけてくる。

「今日は休みにするでしょ? 一応聞いておこうと思って」

「はい、流石に疲れてしまって」

「はは、そうだよね。じゃあ、また明日ね」

 スティナさん達はそう言って門の方へと歩いていく。彼女達はまだまだ仕事があるみたいだな。流石は本業、体力に余裕がありそうだ。

「アート様」

「わっ、シエルさん……恥ずかしいよ」

 シエルさんがお姫様抱っこをしてくる。彼女も疲れているはずなのにな。

「恥ずかしくありませんよ。アート様は立派です」

「ん、ありがと。少し疲れちゃった」

 シエルさんの温かさが僕の瞼を重くさせる。すぐにウトウトと彼女に抱かれながら眠りについてしまった。
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