才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章 落とされたもの

第20話 ダンジョン前は大盛況

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「到着しました」

 村を経由して、ダンジョンの前にたどり着いた。御者の少年の声でみんな降り始める。

「わ~、人が沢山……。魔物の群れの時みたいだ。あそこがダンジョンかな?」

 冒険者が集まっていて小さな村よりも人がいる状態になってる。出店なんかも出てて賑わってるな~。

「ボイドさ~ん。ポーションが切れちゃったよ~」

「なに!? もうないだと! かなり持ってきただろ?」

 出店を開いているおじさんとお姉さんが話してるのが聞こえてくる。かなりの数の冒険者が来たからポーションがなくなったみたいだな。

「騎士の方々が持てるだけ買っていたから予想以上に売れちゃいました」

「誤算だったな。ポーションを仕入れなおすにも時間がな。グーゼス様が攻略してしまったらダンジョンがなくなってしまうし」

 お姉さんたちの話を聞いて閃く。この人達に落とし物バッグのポーションを売れば僕の儲けも多くなるな。

「あのすみません」

「ん? なんですか?」

 お姉さんの方に声をかける。お姉さんは僕の背丈にあわせてしゃがむ。

「あのポーションがなくなったと聞いたんですけど?」

「あ~うん、そうなのよ」

「僕らもポーションをいっぱい持っているのでおろしてもいいですよ」

「え? 本当?」

 お姉さんは僕の提案を聞いて目を輝かせる。

「僕の名前はアートです。イシリアの町で商人をしています」

「え? あなたが? 後ろのお姉さんじゃなくて?」

 僕の自己紹介を聞いて首を傾げるお姉さん。

「私はフル、あっちのおじさんはボイドさん。ボイドさんがボスだからね」

「ふん。持っていると言っても100もないだろう。馬車ももたん弱小が」

 フルさんが紹介するとボイドさんが鼻息荒くあしらってきた。

「Eランクのポーションでいいですかね? いくらくらいほしいですか?」

「ふん。用意できるならしてみろ。1000だぞ」

 僕の話にニヤニヤしてそう言ってくるボイドさん。1000でいいのか。

「すぐ出せるんですけど、一本いくらで買ってくれますか?」

「銀貨1枚で売れる商品だから大銅貨30枚だな」

「え? 大銅貨50枚じゃないですか?」

 僕がグランドさんから受け継いだ卸値は大銅貨50枚だ。ボイドさんはこの期に及んで安く買いたたこうとしてるみたいだな。

「ふん。どうせ用意できないくせに」
 
 僕のことを甘く見ている様子のボイドさん。フルさんも呆れてため息をついてる。

「ボイドさん。持っていないものを買えるんだから普通の値段で取引しようよ。今を逃すと大変だよ」

「……。ちぃ。わかった。フルのいうことも一理あるしな。1本大銅貨50枚、いや、60枚で買ってやる」

 フルさんの説得で考えを変えるボイドさん。それでも彼女のことは信頼してるみたいで上乗せしてきた。

「アート様。このような無礼な人に売るべきではないと思いますが……」

「うん。確かにね」

 シエルさんのいうことも一理ある。ボイドさんは少し横柄だ。だけど、なんだかおかしな感じなんだよな。

「ん? どうした? 用意できないのか?」

 いつまでもポーションを出さない僕らをおちょくるように言ってくるボイドさん。フルさんは頭を抱えてる。

「アート様。この方には売らなくていいと思います!」

「うん! 私もそう思うよ!」

 シエルさんとスティナさんが声をあげる。
 僕も少し腹が立ったけど、ボイドさんは無理をしておちょくっているように感じる。

「ちょっと待っててください」

 みんなと一緒に人気のない場所に移動する。周りを確認してポーションの入った木箱を5箱取り出す。一つに25本入っている木箱をもって戻るとボイドさんとフルさんが目をパチクリさせた。

「ひゃ~。驚いた……」

「冷やかしじゃなかったか」

 二人はそう言って真剣な表情に戻る。

「すまなかったなアート君。少々からかいすぎた」

「ふふ、ボイドさんはアート君達を試してたんだ。馬車もないのに1000本なんて用意できるはずないからね。まさか、【マジックバッグ】を持っている商人とはね~」

 ボイドさんが素直に謝ってくると小声でフルさんが耳打ちしてくる。
 マジックバッグは僕の落とし物バッグと同じように何でも入るバッグだ。中に入れたものは重量がなくなって時間も止まる代物。
 商人でも数人しか持てないものだから、持っている人はかなりの大物と思われる。僕はその大物と思われてるってわけだ。

「アート君はどの商会に属しているんだ? 聞いたことがなかったんだが?」

「えっと、グランドさんの」

「グランド商会か!? 納得の商会だ。ここいらじゃ、貴族も頭の上がらない商会だぞ」

 ボイドさんの疑問に答えると彼はかなり驚いて握手を求めてきた。握手を交わすとすぐにポーションを見ていく。

「品物もいいもんだ。傷一つない瓶に綺麗な赤いポーションが入ってる。さっきまで俺達が売っていたものが粗悪品になっちまうな。流石はグランド商会の品だな」

 落とし物バッグのアイテムはすべて綺麗な状態になる。イーマちゃんに汚くしたアイテムを落としてもらって確認したが、綺麗な状態で落とし物バッグに入ってきていた。複製されるから無限に増やせるし、異常なバッグだよな~。

「じゃあ、約束通り大銅貨”70000枚”だな。銀貨にしたほうがいいよな。ほれ、大銀貨7枚だ」

「え? 60000枚じゃないんですか?」

 ボイドさんが更に上乗せしたお金を手渡してくる。僕が声をあげると彼は首を横に振った。

「子供だと侮った俺の罪滅ぼしさ。儲けはちゃんともらうけどな」

 にししと笑みをこぼすボイドさん。本当の彼を見れたような気がする。

「残りはここに出してくれ」

「はい」

 残りのポーションも渡すと取引が成立。思わぬところで稼げちゃったな。

「ありがたいな。アート君達はダンジョンに行くのか?」

 お礼を言うボイドさんがふと気が付いたかのように聞いてくる。僕らが頷いて答えるとニッコリと微笑んだ。

「帰りも寄ってくれよ。俺の馬車で送るからよ」

「あっ、はい。ありがとうございます。行ってきます」

 ボイドさんとフルさんに見送られてダンジョンの入口へと向かう。

「いや~、まさかマジックバッグをアート君がね~。グランドさんが任せるわけだ~」

「はは、黙っててすみません」

 スティナさんが感慨深げに呟く。それよりも反則の落とし物バッグなんだけどね。

「でも頼もしい! いくらでもポーション持てるから前衛の私にとっては最高のパートナー! やっぱり一緒にパーティーを」

「ダメです! 今回限りです!」

 スティナさんが早速誘ってくる。シエルさんがすかさず間に入って断る。

「ちぇ~。まあ、今回来てくれただけでも嬉しいからいいか~」

 スティナさんは断られて拗ねるけど、すぐに気を取り戻す。

「騎士隊が苦戦! 増援求む!」

「ん? どうしたんだろう?」

 ダンジョンの遺跡みたいな入口で騒いでる少女の声が聞こえてくる。騎士隊が苦戦? ルルス様達のことかな?
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