才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
19 / 40
第一章 落とされたもの

第19話 領主ご一行

しおりを挟む
「良し! 着いたな。ルルス! すぐにダンジョンへと向かうぞ!」

「はっ! ……」

 私はルルス。魔物の群れを撃退してグーゼス様に報告するとダンジョンを攻略すると言い出してしまった。その為、グーゼスさまと共に騎士隊と冒険者数名を連れてダンジョンに赴いた。

「ダンジョンを攻略し! 貴族として名を馳せる。そしてゆくゆくは。ぐふふふ」

 私欲に満ちた声をもらすグーゼス様。私にしか聞こえていない声だが、聴くに堪えない。
 それでも私は騎士隊と共に彼についていくしかない。

「ふむ、ゴブリンが群れを成したと聞いた通り、ダンジョンのランクも低いようだな。拍子抜けだな」

 ダンジョンに潜り先頭をいくグーゼス様。まるで遺跡のようなダンジョン。ゴブリンなどの知能の低い魔物がでるダンジョンはもっと洞窟のような作りになるはずなのだが。

「またゴブリン共か。芸のない」

 ゴブリンの大群を相手に道を切り開いていくグーゼス様。彼は言うだけあってなかなかの剣の腕。ゴブリンごときでは止まらない。
 
「ルルス様。進軍が早すぎます。後方がついてこれていません」

「ああ、分かっている」

 魔法使いとして雇った冒険者、ユラが声をあげた。それに答えてすぐにグーゼス様に駆け寄る。

「グーゼス様! 少し速度を落としてください」

「ん? どうしたルルス。臆したか? ゴブリンなどに私は止められないのだ。がっはっはっは」

 私の言葉に見向きもしないグーゼス様。ダンジョンを攻略した領主と、箔をつけたいのは分かるが。

「後方がついてきていません。グーゼス様を守ることが出来なくなります」

「ん? 私を守る? そんなものはいらん。後方は後方で戦えばいいのだ。ついてこれるものだけでよい」

 私の進言に聞く耳を持たないグーゼス様。話し終えるとすぐに数人の騎士達と進んでいく。
 幸い弱い魔物達が多く、問題なく進めている。それでもダンジョンマスターと呼ばれるボスを倒すには、後方の魔法使いに頼る場面が多くなるものだ。このままでは危ない。

「ユラさん、フィアさん。あなた達だけでもついてきてくれますか? 後の部隊は自身を守りながらついてきてください」

 冒険者として訓練されているユラさんとフィアさんは足腰がしっかりとしている。騎士隊に属していた魔法使いは歩くことになれていない様子だ。彼らでは無理だと判断して、グーゼス様を援護出来る二人に声をかけた。二人は呆れた表情をするものの無言で頷いてついてきてくれる。
 前方の部隊が後方の部隊からどんどん離れていく。
 迷路のようなダンジョンを進んでいくが、グーゼス様の嗅覚は確かだ。迷うことなくダンジョンを進んで大きな扉のある広間に差し掛かった。
 これはダンジョンマスターの間への扉、いよいよ最後か。

「がはは、2日ほどでダンジョンマスターへ挑めるとはな。簡単なダンジョンだったな!」

 グーゼス様はそう言って疲弊している騎士達を無視して扉を開け始める。戸惑う騎士達、私もユラさんとフィアさんと顔を見合って冷や汗をかいた。

「さあ! 出てこいダンジョンマスター!」

 剣を構えて駆けだすグーゼス様。それが最後の言葉になるとは私も思わなかった。

『うるさいゴミめ』

「!?」

 ぞわっ! エコーのかかったような異質な声と共に気配が響き渡る。扉の向こうを見ると上半身のなくなったグーゼス様が倒れるのが見える。今の一瞬で殺されたのか。

「撤退だ!」

 私はすぐに指示を飛ばした。

「ふむ、指揮官だと思ったがお前が本命か」

「!?」

 撤退を開始する騎士達と共に駆けていると背後から声が聞こえてくる。異質な気配を纏った人型の何かが大きな黒い鎌を作り出した。その大きな鎌が私達へと横なぎに払われた。

「グッ!」

 ガギン! 剣と盾で受け止めて騎士達を救う。しかし、私ではその程度のことしかできない。

「ルルス様! マナよ。火を纏い我が敵を爆ぜろ!【ファイアボール】」

 ユラさんの声に反応してやつの横へと駆ける。彼女の炎の球体が爆発を起こして煙が立ち込める。そんな中、私はやつのいたところへと剣を振り下ろす。

「煙がたっていても構わず切り込むか。気概はよし。だが、悪手でしかないぞ」

「だ、だまれ! お前は誰だ? ダンジョンマスターではないだろ!」

 剣を指で受け止める黒い男。こんな強いダンジョンマスターなんて聞いたことがない。

「ダンジョンマスターだよ。デーモンと言われる種族のな」

「デーモン!? Aランクの魔物じゃないか!?」

 Aランクの魔物は100人の部隊でも勝てない。強い戦士と魔法使いがいない状態では。

「ルルス様! 撤退です!」

「!? そうだった……」

 フィアさんの声に我に返る。グーゼス様が死んでしまった今、ダンジョンを攻略することは意味をなさない。ダンジョンを封鎖し、攻略できる冒険者を探せばいいのだ。私達が無理をしてやらなくていい。

「ふはは。そう簡単に逃げれると思っているのか?」

「マナよ。水を纏い我らを隠せ【ウォーターミスト】」

 フィアさんの魔法で霧が発生する。煙をぬけて騎士達の走った方向へと駆けだす。後ろを振り返ると霧がうまく私達を隠している。優秀な魔法使い達だ。ぜひ、騎士隊に欲しい。

「ルルス様!」

「!? いいタイミングだ! 魔法を準備しろ。炎は爆発、土は崩れた壁や天井を補強して道を塞ぐように!」

 後方の部隊が撤退した騎士達と合流して戻ってきていた。魔法使いの部隊の彼らに指示を飛ばすとすぐに実行に移すしていく。

『マナよ。火を纏い我が敵を爆ぜろ!【ファイアボール】』

『マナよ。土を纏い我が敵を穿て【ストーンボルト】』

 複数の爆発が起こりダンジョンの壁や天井が崩壊していく。崩れゆく天井や壁がストーンボルトによって頑丈さを増していくと静かになって行く。

「すぐに撤退する。まだ余裕のある者は先頭を行くように」

 静かになって撤退を再開する。ここはやつのダンジョンだ。すぐに外に出ないとどうなるか。

「ユラさん、フィアさん大丈夫ですか?」

「え、ええ、大丈夫」

「すぐに帰ろう。スティナが待ってる」

「うん」

 座り込む彼女達に手を貸して立たせる。マナを少し使うだけで立てなくなってしまっている。グーゼス様が急がせた結果だ。先ほどの魔法を使った魔法使い達もヨロヨロとまともに歩けないでいる。
 ……こんな時にゴブリンにでも襲われたら。

「ゴブリンだ! 動けるものは応戦しろ!」

「!?」

 まずい、撤退を送らせる気だ。がれきを片付けられたらやつに追いつかれる。外に助けを求めるか?

「ジェシイ! この紋章をもって外へ向かってくれ」

「え? 私がですか? ルルス様」

「ジェシイ君の脚なら1日もかからずに行けるだろう。鎧を脱げば半日で行けるはずだ。違うか?」

「……」

 ジェシイは騎士隊でも珍しい女性の騎士。成人には達しているが少女のような体躯をしている。グーゼス様にも無言でついていける強い女性だ。
 鎧を脱いで剣だけでも十分戦える【剣士】の才能を持っている。彼女なら外へこの事態を知らせられるはずだ。

「僕らの命は君に掛かっている。任せたぞ」

「……あたまを撫でてくれますか?」

「え?」

 まさかの返答に唖然とする。戦闘中だというのにこの子は。隙あらば私に甘えてくるのは昔からだな。

「任務を達成したら頭を撫でてくれますか?」

「ああ! いくらでも撫でてやる」

「分かりました! 行ってきます」

 鎧を脱ぎ捨てて前方を塞いでいるゴブリンを踏んずけて飛び越していく。ついでに切り伏せていくほど彼女は身軽だ。

「皆! 1日の辛抱だ! 必ず増援が来る。諦めるな!」

 自分に言い聞かせるように声をあげる。必ず誰か来てくれるはずだ。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

のほほん素材日和 ~草原と森のんびり生活~

みなと劉
ファンタジー
あらすじ 異世界の片隅にある小さな村「エルム村」。この村には魔物もほとんど現れず、平和な時間が流れている。主人公のフィオは、都会から引っ越してきた若い女性で、村ののどかな雰囲気に魅了され、素材採取を日々の楽しみとして暮らしている。 草原で野草を摘んだり、森で珍しいキノコを見つけたり、時には村人たちと素材を交換したりと、のんびりとした日常を過ごすフィオ。彼女の目標は、「世界一癒されるハーブティー」を作ること。そのため、村の知恵袋であるおばあさんや、遊び相手の動物たちに教わりながら、試行錯誤を重ねていく。 しかし、ただの素材採取だけではない。森の奥で珍しい植物を見つけたと思ったら、それが村の伝承に関わる貴重な薬草だったり、植物に隠れた精霊が現れたりと、小さな冒険がフィオを待ち受けている。そして、そんな日々を通じて、フィオは少しずつ村の人々と心を通わせていく――。 --- 主な登場人物 フィオ 主人公。都会から移住してきた若い女性。明るく前向きで、自然が大好き。素材を集めては料理やお茶を作るのが得意。 ミナ 村の知恵袋のおばあさん。薬草の知識に詳しく、フィオに様々な素材の使い方を教える。口は少し厳しいが、本当は優しい。 リュウ 村に住む心優しい青年。木工職人で、フィオの素材探しを手伝うこともある。 ポポ フィオについてくる小動物の仲間。小さなリスのような姿で、実は森の精霊。好物は甘い果実。 ※異世界ではあるが インターネット、汽車などは存在する世界

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

処理中です...