才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章 落とされたもの

第18話 イシリアをでて

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「結構遠いですね」

「うん。二日程の距離だね。でも、乗合馬車だから安全だよ」

 みんなで乗合馬車に乗り込み、僕の故郷の町【イシリア】を出発した。結構な距離みたいで思わず声をもらすとスティナさんが話しだす。

「一つの村で休憩するから野営はなくて済む。一人銀貨1枚かかるけど、安い方だよ」

「そうなんですか?」

 乗合馬車ってもっと安いイメージがあったけど、結構高いんだな。Eランクのポーション一本買えちゃうよ。

「魔物がでた! 戦える方! お願いします!」

 話していると御者の少年から声があがる。安全と言っても魔物には襲われるんだよな。
 乗合馬車に乗っていた僕らと冒険者二人が馬車から降りて魔物を見据える。

「【白銀のシエル】と【無詠唱のアート】様か」

「頼りになるぜ」

 二人の冒険者が僕らを見て何やら名前の前につけて呼んできた。あれは何だろう?

「むふ、二つ名を持ってる商人なんてアート君達くらいじゃない?」

「二つ名! 今のって二つ名なんですか?」

 スティナさんがニヤニヤして説明してくれる。冒険者の高ランクの人が主につけられる二つ名。強さの象徴としてつけられるらしいんだけど、一度戦ってる姿を見せただけでつくなんて思わなかったな。

「相手はゴブリンか。あの群れの残党か?」

「ああ、そのようだな。でかいのはあんたらにやるよ。雑魚は任せろ」

 斧を持ったおじさんと槍を持ったお兄さんが駆けていく。ゴブリン十体くらいと少し小さめのトロールの魔物だな。
 おじさん達がゴブリンを倒してくれてるから僕らはトロールだ。あの時と比べると全然小さいから余裕だな。

「イーマちゃんは待っててね」

「うん! みんな頑張れ~」

 馬車に乗ったままのイーマちゃんに声をかけてトロールに視線を戻す。彼女の元気な声に気合が入る。

「アート様、私がけん制しますのでやってみたい魔法を存分に仕掛けてください」

「え? 僕が?」

 シエルさんが声をあげてトロールに駆けていく。
 僕の魔法を彼女は見たいってことかな? でも、僕は【ファイアボルト】しか知らないんだけど。

「お? 【無詠唱のアート】の魔法が見れるのか」

「いいね~」

 冒険者のおじさん達の声が聞こえてくる。
 そうか、僕は無詠唱で魔法が使えたんだよな。ってことは魔法名を言えば魔法が使えるはずだ。よ~し、

「【ファイアランス】!」

『おお!?』

 魔法を放つとおじさん達のどよめきの声があがる。
 ファイアランスは大きな炎の槍を生み出す魔法、威力も高くてトロールに直撃すると上半身を粉々に爆散させる。音を立てて倒れるトロールの下半身、絶命していくトロールを見て、確かな手ごたえを感じた。
 よし! ちゃんと魔法は使えるみたいだ。

「流石アート様です!」

「お兄ちゃん凄~い!」

「いや~……」

 シエルさんとイーマちゃんに褒められて頬が緩む。しかし、無詠唱で魔法が使えるなんて才能って凄いな~。……ってそうじゃないだろう!

「才能を持ってるのはもちろんだが、無詠唱なんてすげぇなアート君」

「ああ、俺の知り合いの魔法使いは才能持っててもそんなことできないぞ」

 おじさん達もゴブリンを倒し終えて集まってくる。
 そう、才能があっても無詠唱なんて出来ない。ゴブリンの群れの時に魔法を使っていた人も詠唱をしていたように。
 ということは僕が落とし物バッグから取り出した才能が特別ってことだ。
 もしかしたら凄い魔法使いの才能なのではないだろうか?

「無詠唱と言えば、50年前の【イシリア】様が有名だな」

「イシリアの町名になった賢者様だな」

 おじさん達がそう言って馬車に戻って行く。
 イシリア様か~、孤児院にいた時に何度か聞いたことがある。急死したっていう話だよな……。それって暗殺されたんじゃ?
 落とし物になるってことは建物の外に出ないとダメなはずだ。そこで命を落とすことで才能を落とす。イーマちゃんと実験した結果ではアイテムしかわからないけど、外であるのは絶対だと思う。
 
「イシリア……」

「知ってるのシエル?」

「はい。前のご主人様の知り合いにそんな名前の方がいたと思います」

 シエルさんの前のご主人様だった人は貴族だったのかな?

「私の元ご主人様は大きな商会の長でしたので顔が広かったのです。イシリア様はそんなご主人様を好いていて、よく顔を出していました」

「へ~、結構和気あいあいとしていたんだね」

 シエルさんの話を聞いて感慨深く頷く。バレンティを知って殺伐としていたんだなと思ってた。

「あの後、イシリア様が中心となって町を起こしたのでしょうか? それとも、町を守るために魔法を覚えて有名になられたのでしょうか」

「……」

 シエルさんが考え込んで呟く。少し寂しそうだ。

「今度調べてみよう。イシリア様の文献は多く残ってるはずだしね」

「!? アート様……はい!」

 シエルさんの背中に触れて声をかけると嬉しそうに微笑んで頷いてくれた。

「二人は本当に強いね~。私なんか見てるだけで終わっちゃった」

 みんなで馬車に戻るとスティナさんが不貞腐れて声をもらす。おじさん達が討ちもらしたゴブリンを数体倒していた彼女だったけど、冒険者としては悔しいのかもな。

「そんなことねえぞスティナ」

「その若さであれだけ動ければたいしたもんだって、俺の若い頃はもっとゴブリンに傷をつけられたもんだ」

 そんなスティナさんを見ておじさん達が声をかけてくる。嬉しそうに腕の傷や胸の傷を見せてくる。

「おじさん達さ~。そんな自慢はいいんだよ~。二人は商人なんだよ~? 冒険者の私達が敵わないのが悔しいの~」

 おじさん達の自慢話を一蹴するスティナさん。おじさん達はシュンとして馬車の端っこに戻って行く。なんだか可哀そうだな。

「スティナさんは剣と盾を使うんですね。戦う姿を見るのはこれで二度目ですけど」

 魔物の群れとの戦いのときに見た一回と今回で二回。
 ゴブリンの攻撃を受け流す盾と流れるように首を狩る剣、鍛錬している彼女だから出来る動きだろう。僕なんかが思いつかない動きをしてる。

「うん。二人を守らないといけない剣と盾だからね。私が倒れるわけにはいかないんだ。まあ、今は離れてるから守れないけど……」

 スティナさんはすぐに悲しい顔に変わっていく。

「ユラさんとフィアさんは大丈夫でしょうか?」

「シエル?」

 心配そうに呟くシエル。

「ダンジョンはとても危険ですからね。何があるかわからない。ゴブリンが出てきたからと言ってゴブリンがいるわけではない。もっと強い個体がいる場合もあるんです」

 シエルはそう言って馬車の前方へと視線を向ける。

「騎士隊でも難しい?」

「魔物によります。魔法に強くて剣も強いような魔物がダンジョンマスターをしていたら」

「ダンジョンマスター? この間も言ってたね」

 疑問を投げかけるとシエルさんが答える。

「はい。ダンジョンマスターとはそのダンジョンの核となる魔物のことです。ダンジョンマスターを倒せばダンジョンを攻略したことになります。ダンジョンの意思もマスターを失うと何もできなくなります」

 なるほど、親玉ってことか。

「皆さん、村が見えてきました。今日はここで休憩といたします~」

 御者の少年がそう言うと村が見えてきた。村での飲み食いは別料金らしい。旅ってお金がかかるな~。
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