才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章 落とされたもの

第22話 魂の抜け殻

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「おかしい……。ルルス様達も逃げているならそろそろ合流できるはず」

 ダンジョンに入って一日程がたった。ジェシイさんが顔を青ざめさせて話すとみんな息を飲んだ。

「最悪は考えない。ジェシイさん」

「……分かってる。行きます」

 シエルさんがジェシイさんを慰めるように肩に手を置いて話す。
 気を取り直してジェシイさんが先頭を歩いていく。

「あれ? この道」

「どうしたのジェシイさん?」

 先頭を歩いてるジェシイさんが首を傾げて地面を触る。声をかけると一本の鉄の針を見せてきた。

「私のマナをつけた針です。道しるべを作っておいた。道が続いてるはずなのにこの先の針が壁の中……」

「え? それって」

「うん。道が変わってる」

 ジェシイさんの話を聞いて声をあげると彼女が頷いて壁を見つめる。

「じゃあみんな生きてるかもね!」

「イーマちゃん……そう、だね。そうだよ! 道に迷ってここまで来れなかっただけなんだよ」

 イーマちゃんの声にスティナさんが嬉しそうに声をあげる。そうか、まだたどり着けていないってことか。

「急ごうジェシイさん」

「ううん。だからこそゆっくり気をつけていく。冒険者達はここまで降りてきていないみたいだから、魔物が沢山出てくるはず」

 僕が声をあげると首を横に振って答える彼女。彼女は冷静に現状を把握してる。流石は騎士隊の人だな。
 彼女のいう通り、冒険者はなぜかここまで来ないでいる。何かを察知して、手前で止まってるんだよな。

「ダンジョンにはその階層、エリアを守る魔物の強さが記されます。これを見てください」

 ジェシイさんが説明しながら地面を指さす。ポーションや魔物の強さを記すBの文字が記されてる。

「普通は隠されている物。冒険者が探して見つけたと思う。ルルス様と来た時は確かにDと書かれてた。だけど今はBになってる」

 ジェシイさんはそう言って考え込む。ってことは道が変わったと同時に魔物も強くなったってことかな。

「イーマちゃんは帰る方がいいかな?」

「そうですね」

「!? いや!? 私も一緒!」

 危険だと思ってイーマちゃんを避難させようと声をあげるとシエルさんが同意する。イーマちゃんは拒否してくるけど、危険だもんな。

「イーマちゃん。ここは危険だからね」

「いや! 私もアート様の役にたつの!」

 スティナさんの説得も虚しくイーマちゃんがダンジョン奥へ走っていってしまう。

「イーマ!」

「いこう! ここで一人にするわけにはいかない!」

 すぐにイーマちゃんを追いかける。

「イーマちゃん一人じゃ危ないから!」

「アート様! ユラさんがいたよ!」

「え!?」

 イーマちゃんに追いつくと彼女が嬉しそうに報告してくれる。指さす方向を見ると確かにユラさんが立っていた。

「ユラさん! 大丈夫ですか? 助けに来ました」

「……」

 ユラさんに近づいて声をかける。彼女は無言で僕の声が聞こえていないかのように明後日の方向を見つめる。

「ユラ? 私だよ! スティナだよ!」

「……」

 おかしいと思ってスティナさんも駆け寄って声をかける。彼女が両肩をゆすっても明後日の方向を見つめているだけ、まるで魂がないかのようで不気味だ。

「ど、どうなってるの?」

「アートお兄ちゃん!? あの人達!」

「イーマちゃん? わ!?」

 ユラさんの様子がおかしいことに首を傾げているとイーマちゃんが声をあげた。彼女の指さす方向を見ると、フィアさんと騎士隊の人達がユラさんと同じように焦点のあっていない視線を壁や天井に向けていた。

「アート君!? 何故君がここに!」

「あ! ルルスさん」

 不気味な光景を見ているとルルスさんが顔を青ざめさせて現れた。とても疲れてる様子だ。
 僕はすぐに落とし物バッグからCランクのポーションを手渡した。

「あ、ありがとう。出来れば食べ物も欲しいんだが」

「はい。すぐに」

 ルルスさんは何日か彷徨っていたかのように疲弊している。パンと水を手渡すと一気に飲む干していった。

「ありがとう」

「ルルスさん。何があったんですか?」

 ほっとしてるルルスさんに状況を聞く。

「デーモンの奴がみんなの魂を抜いたんだ。魂の抜けた体はただただ彷徨うゾンビのように歩くだけ。奴を倒さないと元には戻らないだろう」

「そうだったんですね……」

 ってことはデーモンを倒さないといけないってことか。

「アート様、デーモンを倒すなんてそんなことできるのでしょうか?」

「ん~。僕は魔物とかよく知らないから。シエルさんの方が詳しいでしょ?」

 シエルさんに聞かれたけど、彼女の方が魔物関係の知識を持ってると思うんだけどな。

「逃げることは出来ません。仲間がこんなことになっているのですから。なので私が一人でデーモンと戦います。皆さんは騎士隊たちを集めて危険から守ってあげてください」

 シエルさんがそう言って槍を背負う。一人でって何を言ってるんだ?

「では」

「まってシエル!」

「アート様?」

 早々にダンジョンの奥へと向かおうとするシエルさん。腕を掴んで引き止めると涙目になっていた。何かを覚悟したようなそんな様子。

「一人でなんか行かせるわけがないよ! ちょっと落ち着いて」

「私は冷静です! 私ひとりならどうとでもなるんです。だから……」

 シエルさんはみんなを守るために言ってるだけだ。彼女を一人で行かせるわけにはいかない。

「シエル。手があるならみんなで倒そう。デーモンに効く武器とか知らない?」

「……私は分かりません」

 提案を却下するとシエルさんは顔をしかめる。彼女は優しい、僕らの中の誰かが傷つくことを恐れてるんだろう。本来はルルスさん達と合流して帰る予定だったからな。

「デーモンは銀の武器が弱点です」

「え?」

 ルルスさんが声をもらす。僕はびっくりして首を傾げた。

「デーモンの奴が自分で言って来たんですよ。奴は私の苦しむ姿をずっと見てきていたので」

「え? ずっと見てきてた?」

 ルルスさんの話を聞いて僕は嫌な予感で背筋が凍った。

「そうさ! 俺はずっと見ていたぞ」

『!?』

 天井から声と共に圧力が僕らに襲い掛かる。
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