才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章 落とされたもの

第23話 デーモン

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「ぐっ。なんでこんなに重く!」

「きゃ!」

 圧力は僕らを地面に押し付けようとしてくる。僕は何とか持ちこたえられるけど、スティナさんやイーマちゃん、ルルスさんは顔を地面に押し付けられてる。

「はっ!」

「おっと~……。ほ~、三倍に耐えるどころか切りかかってくるとは」

 そんな中、シエルさんは現れた黒い魔物に切りかかっていく。

「奴がデーモンだ。闇の魔法を無音で使ってくる。魔法名を言うこともない。私達に使っているのは重力を扱う闇魔法だ。奴の話からして体重が三倍になるのだろう」

 ルルスさんの説明に頷いて答え、僕は立ち上がってやつに手をかざす。

「【ファイアボルト】」

 シエルさんを少しでも援護する。重さで震える手をもう片方の手で支えて放つとデーモンの顔に見事に当たる。

「ほう、戦えるのがもう一人いたか。幼い見た目だが、面白い」

 僕のファイアボルトをものともしないデーモンは僕とシエルさんを交互に見て笑みをこぼす。

「では、これにも耐えられるかな?」

 デーモンが僕らに両手を向けてくる。少しすると一瞬で目のまえが暗くなる。意識が遠くなって行くのを感じた。

『アート。もういいのよ。眠ってなさい』

「……エマさん?」

 真っ暗な中、エマさんの声が聞こえてくる。
 あれ? 僕はダンジョンにみんなを助けに来たはず。

『眠って一緒に楽になりましょ。天国へ行きましょ』

 エマさんの声が更に聞こえてきた。僕は思わず拳に力が入る。
 エマさんの声、だけど。

「エマさんの声で僕を惑わすなんて、許せない」

 これは幻聴だ。デーモンの魔法なんだ。

『アート、もういいのよ』

「うるさい! 僕はそんなエマさんの言葉聞きたくない。許さないぞ!」

 一瞬で視界が晴れる。デーモンが笑みをこぼしているのが見えると僕は白銀の剣で切り付けていた。

「許さないぞ! エマさんを穢したお前を!」

「ぐっ。ほ~銀の武器か。これは怖い。しかし、いいのか? そちらの獣人は幻惑から逃れられていないぞ」

「シエル!?」

 不意に放たれた僕の剣を腕でガードするデーモン。剣はやつの腕の半分ほどで止まった。
 やつは笑みをこぼしてシエルさんを指さす。彼女を見ると震えながら立ち尽くしてる。
 彼女の目から涙が流れて地面に落ちていく。どんな幻惑を見ればあんな悲しい顔になるんだ。

「くく、ははは。楽しいな人間ってよ~。あの顔を見ろ。今にも精神が崩壊して魂を手放してしまうぞ」

 デーモンは楽しそうに声をあげてシエルさんを指さす。僕の剣が刺さっているのも無視をして笑い声をこぼす。僕は怒りに身が震える。

「やめろ! 【ファイアボルト】」

「おっと~。流石に至近距離でそれは受け入れられないな」

 ゼロ距離で放ったファイアボルトを躱される。デーモンみたいに何も言わずに放てれば当たってたはずだ。

「動ける!? 私も援護するぞ!」

 ルルスさん達が動けるようになった。デーモンが離れたことで魔法を両立できなかったみたいだな。よく見ると傷ついた腕が塞がってる。治すことにも魔法を使っていたのか。

「騎士が加わっても無駄だぞ。おっと、そういっていると獣人の心が折れたようだな」

「シエル!?」

 デーモンが余裕の声をあげるとシエルさんが座り込んでしまって目の輝きがなくなってる。ユラさん達と同じだ。

「ふはは、これはいいものを見せてもらった。記念にその獣人をもらうか」

 デーモンは嬉しそうに笑うとシエルさんの背後に回って頭を掴む。そんなことさせるわけがない。僕はすぐに駆け付けて剣を振り上げる。

「させるか!」

「おっと。剣筋は良いがお前の剣は単純で避けやすいな」

「ぐっ」

 剣を振り下ろすと躱されて腕を掴まれる。凄い力で握られて痛みが走る。

「くくく、俺の腕を傷つけたお返しに折ってやろう」

「こっちもいるんだぞ!」

「ふん。ただの剣、それもお前のような低レベルの奴の剣など痛くもないわ!」

 更に強い力で握ってくるデーモン。ルルスさんが切りかかってくれるけど無視を続けるやつは僕の腕を握る力を込めていく。骨の軋む音とルルスさんの斬撃の音が響く。

「痛っ。ぐあっ!」

「そらそら! 折れてしまうぞ」

 痛みで膝をついてしまう僕へと更に力を込めるデーモン。
 このままじゃ本当に腕が折られる。折られてもポーションを飲めば治るけど、そんな時間を与えてくれるとも思えない。そうだ!

「ルルスさん。この剣を使って」

「了解だ!」

 白銀の剣を手放して声をあげる。ルルスさんはすぐに反応してくれて剣を拾ってデーモンに切りつける。奴の背中についていた羽根が切り落とされる。

「ちぃ、その剣は素晴らしいな。しかし、その獣人を守りながら戦えるかな?」

「!?」

 羽根を切り落とされたデーモンは僕らから距離を取ると、大きな黒い球の魔法を放ってきた。

「あれはグーゼス様に使われた魔法、グラビティボール!? 触れたらダメだ!」

「で、でも避けたらシエルに!」

 黒い球が迫ってくる中、ルルスさんが声をあげる。
 グーゼス様は普通の冒険者より強いって言われていた人だったはず。そんな人を倒した魔法は絶対に危険だ。今のシエルさんに当たったらどうなってしまうか。考えたくもない。

「シエルお姉ちゃんは私が守る!」

「い、イーマちゃん! 危ない!」

「大丈夫、私は魔族だから。こんな魔法おやつだもん」

「え?」

 イーマちゃんが黒い球の前に駆けていく。そして、声と共に大きく口を開いて黒い球を吸い込んでいく。
 驚きのあまり、口が開きっぱなしになる僕とルルスさん。

「お返し」

「なっ!?」

 イーマちゃんが手をデーモンにかざすとまったく同じ魔法を放つ。それもデーモンが放った時よりもかなり早くて躱せずに腕が吹き飛んでいた。

「なっ!? あなた様はもしや……エンシェントデーモンのご息女!?」

 腕を抑えるデーモンが変なことを言って来た。

「何それ? 知らない。それよりも後ろに気をつけたほうがいいよ~」

「へっ?」

 イーマちゃんが首を傾げてデーモンへと忠告するとやつの首が宙を舞った。
 いつの間にか目を覚ましていたシエルさんが、やつの背後に回って大きく槍を振りかぶって横なぎに切りつけていた。白き閃光の一線が見えたと思ったら首が飛んでた、さすがシエルさんだ。
 間抜けな声を最後にデーモンは絶命した。
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