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第一章 落とされたもの
第28話 領主ブロガ
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そして僕らは署名を集めて次の日。
新しい領主様に会う約束をして町から少し離れた屋敷にやってきた。
「き、緊張するね。えっと領主様の名前って何だっけ?」
「名前くらい覚えておきなさいよ。ブロガ様よ」
スティナさんがガチガチに緊張して話しているとユラさんが教えてくれてる。
僕も名前を知らなかったから助かる。
それにしてもユラさんとフィアさんは余裕があるな。綺麗なお洋服も着ているし、なれてる感じだ。
「ん? どうしたのアート君?」
「私達おかしいかな?」
視線に気が付いた二人が首を傾げて聞いてくる。
「お二人が慣れている様子なので気になったんです」
「あ~、そのことね。魔法を使えると貴族の人からも声が良くかかるの」
「そうそう、容姿もそこそこだと特にね~」
僕の話を聞いて答えてくれる二人。冒険者の人ってみんなスタイルいいもんな~。やっぱり動けないと戦えないのかな?
「皆さまお静かにブロガ様が参ります」
執事の人が一声あげる。お辞儀をして待つ僕らに緊張が走る。
「早急に騎士隊を解散して聖騎士隊を結成する。いいな? まったく、動きの遅い……。ん? こやつらがルルスの死刑に反対する者達か」
複数の執事と共に歩いてくる太った男、僕らがお辞儀をして待っていると不意に僕の頭に領主の手がのった。
「儂はブロガだ小僧。儂が伯爵という地位にいることを知っているな?」
「うっ……」
頭に乗せられた手に力がこもっていく。髪をもちあげられて痛みが走る。
「アート様!?」
「だ、大丈夫だよシエル」
心配するシエルさんに声をかけるとブロガはニヤッと口角をあげる。
「小僧のくせに良い獣人を持っておるな。そちらのちびや冒険者の娘っ子達は要らないがそれなら受け取ってやらんでもないぞ。どうじゃ? ルルスの死刑を無しにしてやると言っておるんじゃぞ」
ブロガは髪を掴んだまま言ってくる。元から署名何て見る気もないみたいだな。
「ブロガ様。今日はこの署名を見てほしくて」
「ハンッ! こんな汚いもの触りたくもないは! 薄汚い平民達が触りまわったものだろ」
パン! みんなが署名してくれた紙をはたき落とすブロガ、流石の状況でスティナさんがブロガの手を叩く。
「おっと、叩いたな! お前も死刑じゃ。不敬罪じゃ!」
「不敬で結構。仲間が傷つけられてるのにいつまでも黙ってられないよ!」
「よく言った! 皆の者! この者達を殺せ! 見せしめじゃ」
スティナさんとブロガの声が終わると騎士達の抜剣の音が響く。僕らは帯剣を許されていない。丸腰だ。
「お待ちくださいブロガ様。ここは私に」
緊張の走る中、少年の声がホールに響く。みんなが視線を向けると少年がブロガの横にたった。
「ん? お~ルドガーか。どうした?」
「最近聖騎士隊の我々の腕が訛っています。なのでこの者達と決闘をし、日々の訓練に刺激を与えたほうがいいと思うのです」
ブロガと少年が話しあってる。
内容が入ってこない。だって、少年がルドガーだったから。
「ふむ、ではルルスもこの中に入れるか?」
「そうですね。それがよろしいかと」
「よし! 決まりだな。日時や場所の決定はおぬしに任せるぞ。では夕食後にな」
「はい、ブロガ様。お任せください……」
ブロガに答えながらルドガーは僕をずっと見つめてくる。ブロガは言うだけ言って奥の部屋に入って行った。
「行ったか……。外に行くぞアート。話がある」
ルドガーは僕の知ってるころの彼じゃなくなってる。生気のない瞳、今にも泣きだしそうなそんな表情に見える。
「みんなは先に帰ってて」
「だ、大丈夫なのですか?」
「うん、大丈夫。友達と話すだけだからさ」
シエルさんが心配そうに聞いてきたけど、みんなには先に帰ってもらう。
ルドガーには訳があるみたいだからね。
「さて、困ったな……」
「ルドガー?」
本が沢山ある部屋に案内された。考え込むルドガーは席に座ると頬杖をついた。
「久しぶりだなアート。相変わらず何も考えてない無能っぽりだな」
「ひ、酷いな。ルドガーも相変わらずみたいだね」
皮肉たっぷりに話すルドガー。僕も言い返すと驚いた様子で僕を見つめてきた。
「おいおい。アートが言い返すなんて槍でも振るのか? お前もだいぶ成長したってことか」
「ま、まあね」
ルドガーは嬉しそうに言ってくる。今思えば、彼は僕をいじめる為に何かを言って来たことはなかった。
一度だけ花瓶をわざと落としたことがあるくらいだ。
「あのねーちゃん達はお前のなんなんだ? 孤児院の修道女には見えないが?」
「うん、違うよ。彼女達は僕のお店のお客さんと仲間だよ」
「はぁ!? 店?」
彼の質問に答えると驚き戸惑う。初めて見る表情でなんだか面白い。
「養子とかじゃなくて店か?」
「はは、養子って言うのはあながち間違いじゃないよ。僕を捨てた人のお父さんが僕を見つけてくれてね。それで償いみたいな形で任せてくれてるんだ」
「……そうか。なんか一気に差をつけられたな。俺はあんな豚にこびへつらって聖騎士隊の隊長になったってのに」
ルドガーは悲しい表情になって机に指で文字を書く。あの文字を書く癖は孤児院にいたころと一緒だな。大抵はエマさんに結婚を断られた時だったけど。それにしても8歳で聖騎士隊の隊長って凄すぎると思うんだけどな。聖騎士隊なんだから全員聖騎士でしょ。流石ルドガーだ。
「再会に喜ぶのもこれまでだ。馬鹿な正義感で命を無駄にするな。署名を破棄して決闘を選ぶな」
「え? 決闘は君が」
「あの豚は決闘が好きなんだよ。特に若い男が散っていく姿がな。自分よりも優れた雄が死ぬ姿が好きなんだとよ。まったく、いけ好かない男だよ」
ブロガのことをけなすルドガー。彼はいやいやブロガの下で働いてるってことか。
僕らを守るためにあの場で嘘をついたってことか。
「こうやって庇ってやるのは最後だ。そう言えば前にもこんなことあったよな。あの戦士のクソガキの前歯を折った時みたいだ。ブロガと同じように太ってたな」
ルドガーがエマさんに叱られる原因になった子だな。僕のお腹を蹴ってきたあの子を負かしてくれた時だ。エマさんにはちゃんと言ったんだけど、それでもやりすぎだって言ってすっごい怒ってたっけ。
「ちぃ。また昔のことを考えちまう。まったく。紙を渡せ。俺が話しておく」
「ううん。ごめんねルドガー。これだけは渡せないんだ」
「はぁ? 話を聞いてなかったのか?」
顔をしかめるルドガー。それでも僕は視線をずらさない。
「ルルスさんはとてもいい人なんだ。前の領主様も少し変わっている人だったんだけど、その人の代わりにお金をみんなに払ったりしてたんだ。僕のお店にも何度か来てくれたんだ。彼を見捨てるなんて僕には出来ない」
「……」
僕の話を無言で聞いてくれるルドガー。
「エマさんはお前が死んだら悲しむんだよ。それが俺の手だったら。お前は決闘に出るなよ。絶対にな……(俺はお前を殺したくない)」
「え?」
「何でもない! 日時は後日知らせる。以上だ」
ルドガーはそう言って背中を向けて本を読み始める。もう話はしないってことか。
僕は諦めて帰路にたった。
新しい領主様に会う約束をして町から少し離れた屋敷にやってきた。
「き、緊張するね。えっと領主様の名前って何だっけ?」
「名前くらい覚えておきなさいよ。ブロガ様よ」
スティナさんがガチガチに緊張して話しているとユラさんが教えてくれてる。
僕も名前を知らなかったから助かる。
それにしてもユラさんとフィアさんは余裕があるな。綺麗なお洋服も着ているし、なれてる感じだ。
「ん? どうしたのアート君?」
「私達おかしいかな?」
視線に気が付いた二人が首を傾げて聞いてくる。
「お二人が慣れている様子なので気になったんです」
「あ~、そのことね。魔法を使えると貴族の人からも声が良くかかるの」
「そうそう、容姿もそこそこだと特にね~」
僕の話を聞いて答えてくれる二人。冒険者の人ってみんなスタイルいいもんな~。やっぱり動けないと戦えないのかな?
「皆さまお静かにブロガ様が参ります」
執事の人が一声あげる。お辞儀をして待つ僕らに緊張が走る。
「早急に騎士隊を解散して聖騎士隊を結成する。いいな? まったく、動きの遅い……。ん? こやつらがルルスの死刑に反対する者達か」
複数の執事と共に歩いてくる太った男、僕らがお辞儀をして待っていると不意に僕の頭に領主の手がのった。
「儂はブロガだ小僧。儂が伯爵という地位にいることを知っているな?」
「うっ……」
頭に乗せられた手に力がこもっていく。髪をもちあげられて痛みが走る。
「アート様!?」
「だ、大丈夫だよシエル」
心配するシエルさんに声をかけるとブロガはニヤッと口角をあげる。
「小僧のくせに良い獣人を持っておるな。そちらのちびや冒険者の娘っ子達は要らないがそれなら受け取ってやらんでもないぞ。どうじゃ? ルルスの死刑を無しにしてやると言っておるんじゃぞ」
ブロガは髪を掴んだまま言ってくる。元から署名何て見る気もないみたいだな。
「ブロガ様。今日はこの署名を見てほしくて」
「ハンッ! こんな汚いもの触りたくもないは! 薄汚い平民達が触りまわったものだろ」
パン! みんなが署名してくれた紙をはたき落とすブロガ、流石の状況でスティナさんがブロガの手を叩く。
「おっと、叩いたな! お前も死刑じゃ。不敬罪じゃ!」
「不敬で結構。仲間が傷つけられてるのにいつまでも黙ってられないよ!」
「よく言った! 皆の者! この者達を殺せ! 見せしめじゃ」
スティナさんとブロガの声が終わると騎士達の抜剣の音が響く。僕らは帯剣を許されていない。丸腰だ。
「お待ちくださいブロガ様。ここは私に」
緊張の走る中、少年の声がホールに響く。みんなが視線を向けると少年がブロガの横にたった。
「ん? お~ルドガーか。どうした?」
「最近聖騎士隊の我々の腕が訛っています。なのでこの者達と決闘をし、日々の訓練に刺激を与えたほうがいいと思うのです」
ブロガと少年が話しあってる。
内容が入ってこない。だって、少年がルドガーだったから。
「ふむ、ではルルスもこの中に入れるか?」
「そうですね。それがよろしいかと」
「よし! 決まりだな。日時や場所の決定はおぬしに任せるぞ。では夕食後にな」
「はい、ブロガ様。お任せください……」
ブロガに答えながらルドガーは僕をずっと見つめてくる。ブロガは言うだけ言って奥の部屋に入って行った。
「行ったか……。外に行くぞアート。話がある」
ルドガーは僕の知ってるころの彼じゃなくなってる。生気のない瞳、今にも泣きだしそうなそんな表情に見える。
「みんなは先に帰ってて」
「だ、大丈夫なのですか?」
「うん、大丈夫。友達と話すだけだからさ」
シエルさんが心配そうに聞いてきたけど、みんなには先に帰ってもらう。
ルドガーには訳があるみたいだからね。
「さて、困ったな……」
「ルドガー?」
本が沢山ある部屋に案内された。考え込むルドガーは席に座ると頬杖をついた。
「久しぶりだなアート。相変わらず何も考えてない無能っぽりだな」
「ひ、酷いな。ルドガーも相変わらずみたいだね」
皮肉たっぷりに話すルドガー。僕も言い返すと驚いた様子で僕を見つめてきた。
「おいおい。アートが言い返すなんて槍でも振るのか? お前もだいぶ成長したってことか」
「ま、まあね」
ルドガーは嬉しそうに言ってくる。今思えば、彼は僕をいじめる為に何かを言って来たことはなかった。
一度だけ花瓶をわざと落としたことがあるくらいだ。
「あのねーちゃん達はお前のなんなんだ? 孤児院の修道女には見えないが?」
「うん、違うよ。彼女達は僕のお店のお客さんと仲間だよ」
「はぁ!? 店?」
彼の質問に答えると驚き戸惑う。初めて見る表情でなんだか面白い。
「養子とかじゃなくて店か?」
「はは、養子って言うのはあながち間違いじゃないよ。僕を捨てた人のお父さんが僕を見つけてくれてね。それで償いみたいな形で任せてくれてるんだ」
「……そうか。なんか一気に差をつけられたな。俺はあんな豚にこびへつらって聖騎士隊の隊長になったってのに」
ルドガーは悲しい表情になって机に指で文字を書く。あの文字を書く癖は孤児院にいたころと一緒だな。大抵はエマさんに結婚を断られた時だったけど。それにしても8歳で聖騎士隊の隊長って凄すぎると思うんだけどな。聖騎士隊なんだから全員聖騎士でしょ。流石ルドガーだ。
「再会に喜ぶのもこれまでだ。馬鹿な正義感で命を無駄にするな。署名を破棄して決闘を選ぶな」
「え? 決闘は君が」
「あの豚は決闘が好きなんだよ。特に若い男が散っていく姿がな。自分よりも優れた雄が死ぬ姿が好きなんだとよ。まったく、いけ好かない男だよ」
ブロガのことをけなすルドガー。彼はいやいやブロガの下で働いてるってことか。
僕らを守るためにあの場で嘘をついたってことか。
「こうやって庇ってやるのは最後だ。そう言えば前にもこんなことあったよな。あの戦士のクソガキの前歯を折った時みたいだ。ブロガと同じように太ってたな」
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「ちぃ。また昔のことを考えちまう。まったく。紙を渡せ。俺が話しておく」
「ううん。ごめんねルドガー。これだけは渡せないんだ」
「はぁ? 話を聞いてなかったのか?」
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「ルルスさんはとてもいい人なんだ。前の領主様も少し変わっている人だったんだけど、その人の代わりにお金をみんなに払ったりしてたんだ。僕のお店にも何度か来てくれたんだ。彼を見捨てるなんて僕には出来ない」
「……」
僕の話を無言で聞いてくれるルドガー。
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