才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
28 / 40
第一章 落とされたもの

第28話 領主ブロガ

しおりを挟む
 そして僕らは署名を集めて次の日。
 
 新しい領主様に会う約束をして町から少し離れた屋敷にやってきた。

「き、緊張するね。えっと領主様の名前って何だっけ?」

「名前くらい覚えておきなさいよ。ブロガ様よ」

 スティナさんがガチガチに緊張して話しているとユラさんが教えてくれてる。
 僕も名前を知らなかったから助かる。
 それにしてもユラさんとフィアさんは余裕があるな。綺麗なお洋服も着ているし、なれてる感じだ。

「ん? どうしたのアート君?」

「私達おかしいかな?」

 視線に気が付いた二人が首を傾げて聞いてくる。

「お二人が慣れている様子なので気になったんです」

「あ~、そのことね。魔法を使えると貴族の人からも声が良くかかるの」

「そうそう、容姿もそこそこだと特にね~」

 僕の話を聞いて答えてくれる二人。冒険者の人ってみんなスタイルいいもんな~。やっぱり動けないと戦えないのかな?

「皆さまお静かにブロガ様が参ります」

 執事の人が一声あげる。お辞儀をして待つ僕らに緊張が走る。

「早急に騎士隊を解散して聖騎士隊を結成する。いいな? まったく、動きの遅い……。ん? こやつらがルルスの死刑に反対する者達か」

 複数の執事と共に歩いてくる太った男、僕らがお辞儀をして待っていると不意に僕の頭に領主の手がのった。

「儂はブロガだ小僧。儂が伯爵という地位にいることを知っているな?」

「うっ……」

 頭に乗せられた手に力がこもっていく。髪をもちあげられて痛みが走る。

「アート様!?」

「だ、大丈夫だよシエル」

 心配するシエルさんに声をかけるとブロガはニヤッと口角をあげる。

「小僧のくせに良い獣人を持っておるな。そちらのちびや冒険者の娘っ子達は要らないがそれなら受け取ってやらんでもないぞ。どうじゃ? ルルスの死刑を無しにしてやると言っておるんじゃぞ」

 ブロガは髪を掴んだまま言ってくる。元から署名何て見る気もないみたいだな。

「ブロガ様。今日はこの署名を見てほしくて」

「ハンッ! こんな汚いもの触りたくもないは! 薄汚い平民達が触りまわったものだろ」

 パン! みんなが署名してくれた紙をはたき落とすブロガ、流石の状況でスティナさんがブロガの手を叩く。

「おっと、叩いたな! お前も死刑じゃ。不敬罪じゃ!」

「不敬で結構。仲間が傷つけられてるのにいつまでも黙ってられないよ!」

「よく言った! 皆の者! この者達を殺せ! 見せしめじゃ」

 スティナさんとブロガの声が終わると騎士達の抜剣の音が響く。僕らは帯剣を許されていない。丸腰だ。

「お待ちくださいブロガ様。ここは私に」

 緊張の走る中、少年の声がホールに響く。みんなが視線を向けると少年がブロガの横にたった。

「ん? お~ルドガーか。どうした?」

「最近聖騎士隊の我々の腕が訛っています。なのでこの者達と決闘をし、日々の訓練に刺激を与えたほうがいいと思うのです」

 ブロガと少年が話しあってる。
 内容が入ってこない。だって、少年がルドガーだったから。

「ふむ、ではルルスもこの中に入れるか?」

「そうですね。それがよろしいかと」

「よし! 決まりだな。日時や場所の決定はおぬしに任せるぞ。では夕食後にな」

「はい、ブロガ様。お任せください……」

 ブロガに答えながらルドガーは僕をずっと見つめてくる。ブロガは言うだけ言って奥の部屋に入って行った。

「行ったか……。外に行くぞアート。話がある」

 ルドガーは僕の知ってるころの彼じゃなくなってる。生気のない瞳、今にも泣きだしそうなそんな表情に見える。

「みんなは先に帰ってて」

「だ、大丈夫なのですか?」

「うん、大丈夫。友達と話すだけだからさ」

 シエルさんが心配そうに聞いてきたけど、みんなには先に帰ってもらう。
 ルドガーには訳があるみたいだからね。

「さて、困ったな……」

「ルドガー?」

 本が沢山ある部屋に案内された。考え込むルドガーは席に座ると頬杖をついた。

「久しぶりだなアート。相変わらず何も考えてない無能っぽりだな」

「ひ、酷いな。ルドガーも相変わらずみたいだね」

 皮肉たっぷりに話すルドガー。僕も言い返すと驚いた様子で僕を見つめてきた。

「おいおい。アートが言い返すなんて槍でも振るのか? お前もだいぶ成長したってことか」

「ま、まあね」

 ルドガーは嬉しそうに言ってくる。今思えば、彼は僕をいじめる為に何かを言って来たことはなかった。
 一度だけ花瓶をわざと落としたことがあるくらいだ。

「あのねーちゃん達はお前のなんなんだ? 孤児院の修道女には見えないが?」

「うん、違うよ。彼女達は僕のお店のお客さんと仲間だよ」

「はぁ!? 店?」

 彼の質問に答えると驚き戸惑う。初めて見る表情でなんだか面白い。

「養子とかじゃなくて店か?」

「はは、養子って言うのはあながち間違いじゃないよ。僕を捨てた人のお父さんが僕を見つけてくれてね。それで償いみたいな形で任せてくれてるんだ」

「……そうか。なんか一気に差をつけられたな。俺はあんな豚にこびへつらって聖騎士隊の隊長になったってのに」

 ルドガーは悲しい表情になって机に指で文字を書く。あの文字を書く癖は孤児院にいたころと一緒だな。大抵はエマさんに結婚を断られた時だったけど。それにしても8歳で聖騎士隊の隊長って凄すぎると思うんだけどな。聖騎士隊なんだから全員聖騎士でしょ。流石ルドガーだ。

「再会に喜ぶのもこれまでだ。馬鹿な正義感で命を無駄にするな。署名を破棄して決闘を選ぶな」

「え? 決闘は君が」

「あの豚は決闘が好きなんだよ。特に若い男が散っていく姿がな。自分よりも優れた雄が死ぬ姿が好きなんだとよ。まったく、いけ好かない男だよ」

 ブロガのことをけなすルドガー。彼はいやいやブロガの下で働いてるってことか。
 僕らを守るためにあの場で嘘をついたってことか。

「こうやって庇ってやるのは最後だ。そう言えば前にもこんなことあったよな。あの戦士のクソガキの前歯を折った時みたいだ。ブロガと同じように太ってたな」

 ルドガーがエマさんに叱られる原因になった子だな。僕のお腹を蹴ってきたあの子を負かしてくれた時だ。エマさんにはちゃんと言ったんだけど、それでもやりすぎだって言ってすっごい怒ってたっけ。

「ちぃ。また昔のことを考えちまう。まったく。紙を渡せ。俺が話しておく」

「ううん。ごめんねルドガー。これだけは渡せないんだ」

「はぁ? 話を聞いてなかったのか?」

 顔をしかめるルドガー。それでも僕は視線をずらさない。

「ルルスさんはとてもいい人なんだ。前の領主様も少し変わっている人だったんだけど、その人の代わりにお金をみんなに払ったりしてたんだ。僕のお店にも何度か来てくれたんだ。彼を見捨てるなんて僕には出来ない」

「……」

 僕の話を無言で聞いてくれるルドガー。

「エマさんはお前が死んだら悲しむんだよ。それが俺の手だったら。お前は決闘に出るなよ。絶対にな……(俺はお前を殺したくない)」

「え?」

「何でもない! 日時は後日知らせる。以上だ」

 ルドガーはそう言って背中を向けて本を読み始める。もう話はしないってことか。
 僕は諦めて帰路にたった。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

のほほん素材日和 ~草原と森のんびり生活~

みなと劉
ファンタジー
あらすじ 異世界の片隅にある小さな村「エルム村」。この村には魔物もほとんど現れず、平和な時間が流れている。主人公のフィオは、都会から引っ越してきた若い女性で、村ののどかな雰囲気に魅了され、素材採取を日々の楽しみとして暮らしている。 草原で野草を摘んだり、森で珍しいキノコを見つけたり、時には村人たちと素材を交換したりと、のんびりとした日常を過ごすフィオ。彼女の目標は、「世界一癒されるハーブティー」を作ること。そのため、村の知恵袋であるおばあさんや、遊び相手の動物たちに教わりながら、試行錯誤を重ねていく。 しかし、ただの素材採取だけではない。森の奥で珍しい植物を見つけたと思ったら、それが村の伝承に関わる貴重な薬草だったり、植物に隠れた精霊が現れたりと、小さな冒険がフィオを待ち受けている。そして、そんな日々を通じて、フィオは少しずつ村の人々と心を通わせていく――。 --- 主な登場人物 フィオ 主人公。都会から移住してきた若い女性。明るく前向きで、自然が大好き。素材を集めては料理やお茶を作るのが得意。 ミナ 村の知恵袋のおばあさん。薬草の知識に詳しく、フィオに様々な素材の使い方を教える。口は少し厳しいが、本当は優しい。 リュウ 村に住む心優しい青年。木工職人で、フィオの素材探しを手伝うこともある。 ポポ フィオについてくる小動物の仲間。小さなリスのような姿で、実は森の精霊。好物は甘い果実。 ※異世界ではあるが インターネット、汽車などは存在する世界

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

処理中です...