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第一章 落とされたもの

第29話 昔の記憶

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 領主ブロガの屋敷から帰ってきて次の日。
 約束通り、ルドガーがお店にやってきてルールと日時を説明してくれる。

「決闘の日時は騎士ルルスの死刑の予定だった明後日。決闘は試合形式で一対一だ。一人では面白くないとブロガ様はおっしゃっていた。三人程予定しているがいいか?」

「三人? 一人じゃダメなの?」

「ああ、三人だ。昨日も言っただろ。やつは自分よりも若いものが苦しむ姿が好きなんだよ」

 椅子に座ってため息とともに説明してくれるルドガー。
 どうやら、三人出場しないといけないみたいだ。

「私は大丈夫ですが」

「うん。僕も出るから二人は決まったね」

「……本来はアート様には出てもらいたくないのですが」

「スティナさん達に任せるわけにもいかないよ。一応、僕が代表ってことになっているしね」

 シエルさんが不満げに声をもらす。

「アートは結局出るのか。お前その獣人と出来ているのか?」

「「え!?」」

 シエルさんと顔を見合って話しているとルドガーが問いかけてきた。

「いや、違うよ! 僕なんかじゃシエルと釣り合わないから! それに年齢だって!」

「……そうですね。私ではアート様と釣り合いません」

「え? いやいや、そうじゃなくて」

 シエルさんが俯いて答える。誤解してるみたいだから声をあげて誤解を解こうと思ったらルドガーが僕の肩を叩いた。

「そんなことはどうでもいい。エマさんはどうするんだ? お前も彼女が好きだったんじゃないのか?」

「え? なんで今エマさんが出てくるの? エマさんはお母さんだよ。好きに決まってる」

「……そうか。話は終わった。俺はもう帰るぞ」

 ルドガーは僕の答えを聞くとすぐにお店を出ていった。
 お店をでて町の出口じゃない方向へと歩いていくルドガー。おかしいと思ってお店から出て彼の背中を見ると教会の方へと向かっているのが分かった。

「ルドガーはエマさんが本当に好きなんですね」

「うん。結婚してくれって言っていたからね。それでも教会には入らないだろうね」

「なぜです?」

 シエルさんもお店から出てきた。首を傾げる彼女に無言で微笑むと僕も協会に歩き出す。

「お店は休みにしよう。孤児院に遊びに行くからイーマちゃんも連れてきて」

「分かりました」

 そう声をかけてルドガーを追いかける。明後日に決闘が開催される。お店をやってる場合じゃないよな。

「教会には入らないのか」

 ルドガーは教会の裏手に回っていく。僕もついていくと彼はあの壁を調べていた。

「直ってるのか。聞いた話じゃゴブリンが壊したと聞いたが」

「そうだよ。ゴブリンが入ってきたんだ。大変だったよ」

「アート……」

 彼の疑問を聞いて声をかける。隣まで歩いていくとルドガーは壁に背を預けて座り込んだ。

「覚えてるか? この壁」

「ゴブリンが来た時にふと思い出したよ。君のいう通り、魔物が壁を壊して入ってきたってわけだ」

「俺のいうことに間違いはないからな……」

 感慨深く天を仰ぐ彼の言葉に答えると彼は微笑んだ。

「今からでも遅くない。お前は決闘に出るな」

「ううん。それは無理だよ。ルルスさんの死刑は許せないからね」

「それがどうした! 自分をもっと大事にしろよ!」

 ルドガーは僕の答えを聞いて声を荒らげた。

「ルドガー。迎えに来たぞ。どうしたんだ? 大きな声をあげてよ~」

「ゼパード」

 ルドガーらしくない声に驚いていると黒髪の少年と白髪の少年が声をかけてきた。黒髪の少年がゼパードと言う名前みたいだ。

「俺達を倒して隊長になった男がこんな奴に泣かされてるのか?」

「!? 泣いてなどいない。それよりもなんで迎えなんか。それもゼパードとシロト二人で」

 ゼパードがルドガーの肩に手を回す。ルドガーは目元を拭うと問いかけた。白い髪の方はシロトっていうのか。

「ブロガ様が迎えに行けって」

「一番のお気に入りだからなお前は」

 シロトとゼパードがそう答えるとルドガーは悲しい表情になって行く。ルドガーが隊長になる聖騎士隊。
 少し気にはなっていたけど、みんな幼いからなのか。

「お前が決闘相手か? 弱っちそうだな。才能はなんだ?」

「弱そう……」

 ゼパードとシロトが話しかけてくる。値踏みして判断してるみたいだけど、なんか嫌な感じだな。

「こいつは才能なしだよ。相手にしないで帰るぞ」

「なんだよ、能無しか」

「そうなの?」

 ルドガーが答えるとみんな帰ろうと振り返る。

「エマさんに会わないの?」

「……俺はまだ強くない。会っても結婚できないんだよ」

 僕の言葉にルドガーはそう答えて帰っていく。壁のことを心配して来てくれたのか。優しさも持っていて聖騎士隊の隊長になった。一年でそんなに強くなれるなんて凄いと思うけどな。

「アート様~。みんなと遊んでるね~」

「あっ、うん。遊んでな~」

 気が付くとイーマちゃんとシエルさんも孤児院に来ていたみたい。エマさんもいて心配そうに僕を見つめていた。

「大丈夫だった? いじめられなかった?」

「大丈夫ですよエマさん。僕をいじめる子は別の子だったから」

「そうなの?」

 エマさんの声に答えると首を傾げて聞いてくれる。ルドガーは一度だけ花瓶を落とす嫌がらせをしてきたことがあった。あれだけで悪口とかは別の子だ。
 ルドガーはその子をボコボコにしてしまったからエマさんからいじめっ子と思われちゃったんだろうな。

「ルドガーは僕を守ってくれたことの方が多いかな」

「え? そうだったの? でも、今回決闘をするんでしょ? シエルさんから聞いたわ」

 シエルさんから聞いてしまってるみたいだ。思わずシエルさんを見ると子供達と遊びに行ってしまった。ばつが悪いと思ったのかな。

「実はそうなんですけど、ルドガーは僕がでるのを嫌がってくれて」

「……それはアートが強くなったからじゃないの? 負けたくなくて」

「え!? いや、違いますよ。たぶん……」

 エマさんの指摘を聞いて思わず考え込んでしまう。僕に負けたくなくてそんなことを言っていたのかな? いやいや、才能がないと思っていたから勝つのは確定だと思っていたはずだ。ってことはやっぱり戦いたくなかっただけ。ルドガーは優しいんだ。

「ルドガーは優しい子です」

「そう、アートが言うならそうなんだろうけど」

 エマさんは納得してくれたみたいだ。よかった、誤解が少しは解けたみたいだ。

「アート君……」

 エマさんと話してると僕を呼ぶ声が聞こえてきた。孤児院の入口にジェシイさんとルルスさんが立っていた。
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