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第一章 落とされたもの
第30話 歴史
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「ルルスさん! 帰ってきてくれたんですね!」
「ああ、ジェシイに見つかってね。アート君が無茶しているのも聞いたよ。スティナさんからね。なんでそんな危険なことを」
駆け寄って声をかけると俯いて答えてくれる。悲しそうな表情、喜んではくれないのかな。
「ルルス様! アート君はあなたの為に」
「嬉しいですがブロガは決定を覆すことはありません。昔からやつを知っていますからね」
ジェシイさんが怒って声をあげるとルルスさんが椅子に座って語りだす。
「グーゼス様は決していい領主ではなかったのですがブロガはもっと恐ろしい男です。聖騎士隊の者達を見たでしょう? みな、幼く才能のある者達。幼い命が燃え行く姿を見るのが好きな、やつのことです。無駄なことに使い、捨てていくことでしょう。私の場合もそうです。騎士隊を解散するだけでは収まらないと思い、私が命を差し出したのです」
「約束を守らないとわかっていて?」
ルルスさんは頭を抱える。僕の疑問に無言で頷いた。ブロガは本当に碌な領主じゃないな。
「アート君達だけ戦わせるわけには行きません。私が戦います。アート君は下がっていてください」
「そうですね。ルルスさんに戦ってもらいたいですが、三人必要なんです。僕とシエルとルルスさんで」
「三人!? ブロガの奴……」
三人だと知るとルルスさんの怒りが沸点に突破したみたいでメラメラと目を燃やす。
「【騎士】の才能持ちを舐めるなよ!」
「ちょ、ルルス様~。じゃ、じゃあ皆さん明後日の試合で。ルルス様~!」
ルルスさんが走って孤児院からいなくなるとジェシイさんがお辞儀をして彼を追いかけて行った。
「はぁ~。じゃあ、僕らも訓練しようかシエル」
「訓練ですか?」
「うん。才能を持っていても努力しないとね。折角の才能が腐っちゃう」
筋力や魔法の力は才能で強くなっているけど、それを扱うコツのようなものは僕自身の力だ。
デーモンの時に訓練していたらもっと簡単に倒せたはずだ。もっと僕は強くならなくちゃ。
「やっ! はっ!」
「いいですよ。もっと角度をつけてください。受け流されても体をもってかれないように踏ん張って」
「はい!」
シエルさんの指導をうけながら孤児院の庭で素振りをする。偶に彼女が僕の振るう白銀の剣を受けたり受け流したりしてくれる。そのたびに体がぶれたりしてしまって体が流される。
「シエルは本当に凄いな~」
「急にどうしたんですか?」
「いや、計算とかも出来るのに戦闘も出来るでしょ? 凄いよ」
そういえば、シエルは才能をいくつ持っているんだろう? 彼女達の暮らしていた時代の話もきになる。町の名前のイシリアっていう人とも面識がありそうだったしな~。
「才能はありませんよ」
「え?」
「才能のない獣人。そういって、私は捨てられていました。そして、前のご主人様、アクリア様に拾っていただいたのですが……」
僕の考えていたことを悟ったみたいでシエルさんが答えてくれた。才能がないのにこんなに強いのか。彼女はそのご主人様の為に強くなったんだな。
「そういえば、その人のことを調べようと思ってたんだよな~。過去を調べるには図書館かな?」
訓練の途中だけど、知りたくなってしまったのだから仕方ない。すぐに図書館へ行こう。
「本屋さん?」
「本屋さんじゃなくて図書館だよイーマちゃん。本を借りたり見せてもらったりできるんだ」
シエルさんとイーマちゃんと共に図書館へやってきた。中に入ると髪を団子に結んだ眼鏡の女性が受付にいたので声をかける。
「あのすみません。この町の歴史についての本を探しているんですが」
「歴史ですか? え? シエル様!?」
なぜか女性はシエルさんに気が付くと口を抑えて涙を流しだす。
「【白銀のシエル】様! お美しい!」
鼻血まで出して喜ぶ女性。シエルさんは後ずさっていく。びっくりしたけど、そう言えば僕らは有名人になってるんだよな。
「わたくし、ジュディーと申します。何なりとお申し付けください。ハァハァ」
「……あの、歴史に関する本を~」
「はい! こちらです~」
狼狽えるシエルさんに代わって僕が声をあげると僕を見ずに案内を始めた。この人は女性が好きな女性なのかな? まあ、シエルさんが綺麗だから仕方ないか。
「こちらでございます~。また何かありましたらすぐにお申し付けください~。ハァハァ」
「わ、わかったから離れて」
ジュディーさんが迫って言ってくるものだからたまらず突き放すシエルさん。
「【イシリアの歴史】」
紹介された本棚を見ると真っ先に目が留まる表題の本を手に取る。
「手分けしようか」
「イーマはアート様と一緒の見る」
「はは、じゃあ一緒に見ようか。つまらないかもしれないから別なのでもいいよ?」
「ううん! 一緒がいい」
イーマちゃんが一緒に見てくれるみたいだ。心強いな。
「じゃあ、私は別の歴史に関するものを見ていますね」
「うん。お願いねシエル」
シエルさんは別なのを見てくれる。二人で手分けすれば何か分かるはず。僕はそう簡単に考えていた。
「……見つからない。イシリアっていう人の名前はあるのに」
アクリアのアの字もない。シエルさんの名前もイーマちゃんの名前も見られない。
「でも、一つ分かったことはある。シエル達はこの町が出来る前にいたってことだ」
城壁が出来る前の集まりみたいな、集落のような状態の時の人達ってことだ。生きていたら300歳くらいかもな。
ってことは落とし物バッグはそれよりも早く存在していたってことか。
「アート様、一つ見つけました。アクリア様の手記が」
「え? 【我が愛しの獣人】」
シエルさんが声をあげて本を見せてくれる。その表題は彼女に当てられたかのようなものでびっくりしてしまう。
「『ああ、我が愛しき獣人。光をも塗りつぶす闇に一筋の輝きを照らす白銀の美しき人よ。我が屍で彼女を生き返らせることが出来るのならば喜んで差し出そう。さあ、喰らえ』そういって、彼は闇に食われていった。……」
本の最後の方に目を通す。
僕は鳥肌が立った。シエルさんの名前が書いてあるわけじゃないけど、これは間違いなくシエルさんのことだ、と思う。推測でしかないけれど、彼女の顔を見ると頷かざる負えない。
「アクリア様……そこまで私のことを」
ポロポロと涙を流すシエルさん。イーマちゃんと一緒に彼女に寄り添うと涙を拭う。
「では私がその落とし物バッグに入ったのはこの時?」
「分からない。だけど、おかしいんだ。生き返らせるために食らわせてるって書いてある。だけど、その喰らってる人が書かれてないんだよ。何に命を授けたんだろう?」
アクリアさんはシエルさんを生き返らせるために”何か”誰か”に命を捧げた。でも、彼女は生き返ってもいない。思わずデーモンの顔が思い浮かぶ。
「……アート様。過去の話はまた今度にしましょう。それよりもルドガーに勝つ訓練を」
「そうだね……。まずは目の前の問題から。とりあえず、この本棚は覚えておこうか」
歴史に関する本棚の場所は覚えておこう。これでいつでも調べられる。もう外は暗くなってきてる。オレンジ色の夕日が寂しく沈んでいくな~。
「お腹すいた~」
「僕もだよイーマちゃん」
「ふふ、じゃあ帰ったらすぐに夕食を作りましょう。何か食べたいものはありますか?」
「お肉~!」
「じゃあ、僕はシチュー」
二人と楽しく会話をして帰路を歩く。
過去も大事だけど、今はもっと大事だ。この小さな幸せを大事にしないとな。
「ああ、ジェシイに見つかってね。アート君が無茶しているのも聞いたよ。スティナさんからね。なんでそんな危険なことを」
駆け寄って声をかけると俯いて答えてくれる。悲しそうな表情、喜んではくれないのかな。
「ルルス様! アート君はあなたの為に」
「嬉しいですがブロガは決定を覆すことはありません。昔からやつを知っていますからね」
ジェシイさんが怒って声をあげるとルルスさんが椅子に座って語りだす。
「グーゼス様は決していい領主ではなかったのですがブロガはもっと恐ろしい男です。聖騎士隊の者達を見たでしょう? みな、幼く才能のある者達。幼い命が燃え行く姿を見るのが好きな、やつのことです。無駄なことに使い、捨てていくことでしょう。私の場合もそうです。騎士隊を解散するだけでは収まらないと思い、私が命を差し出したのです」
「約束を守らないとわかっていて?」
ルルスさんは頭を抱える。僕の疑問に無言で頷いた。ブロガは本当に碌な領主じゃないな。
「アート君達だけ戦わせるわけには行きません。私が戦います。アート君は下がっていてください」
「そうですね。ルルスさんに戦ってもらいたいですが、三人必要なんです。僕とシエルとルルスさんで」
「三人!? ブロガの奴……」
三人だと知るとルルスさんの怒りが沸点に突破したみたいでメラメラと目を燃やす。
「【騎士】の才能持ちを舐めるなよ!」
「ちょ、ルルス様~。じゃ、じゃあ皆さん明後日の試合で。ルルス様~!」
ルルスさんが走って孤児院からいなくなるとジェシイさんがお辞儀をして彼を追いかけて行った。
「はぁ~。じゃあ、僕らも訓練しようかシエル」
「訓練ですか?」
「うん。才能を持っていても努力しないとね。折角の才能が腐っちゃう」
筋力や魔法の力は才能で強くなっているけど、それを扱うコツのようなものは僕自身の力だ。
デーモンの時に訓練していたらもっと簡単に倒せたはずだ。もっと僕は強くならなくちゃ。
「やっ! はっ!」
「いいですよ。もっと角度をつけてください。受け流されても体をもってかれないように踏ん張って」
「はい!」
シエルさんの指導をうけながら孤児院の庭で素振りをする。偶に彼女が僕の振るう白銀の剣を受けたり受け流したりしてくれる。そのたびに体がぶれたりしてしまって体が流される。
「シエルは本当に凄いな~」
「急にどうしたんですか?」
「いや、計算とかも出来るのに戦闘も出来るでしょ? 凄いよ」
そういえば、シエルは才能をいくつ持っているんだろう? 彼女達の暮らしていた時代の話もきになる。町の名前のイシリアっていう人とも面識がありそうだったしな~。
「才能はありませんよ」
「え?」
「才能のない獣人。そういって、私は捨てられていました。そして、前のご主人様、アクリア様に拾っていただいたのですが……」
僕の考えていたことを悟ったみたいでシエルさんが答えてくれた。才能がないのにこんなに強いのか。彼女はそのご主人様の為に強くなったんだな。
「そういえば、その人のことを調べようと思ってたんだよな~。過去を調べるには図書館かな?」
訓練の途中だけど、知りたくなってしまったのだから仕方ない。すぐに図書館へ行こう。
「本屋さん?」
「本屋さんじゃなくて図書館だよイーマちゃん。本を借りたり見せてもらったりできるんだ」
シエルさんとイーマちゃんと共に図書館へやってきた。中に入ると髪を団子に結んだ眼鏡の女性が受付にいたので声をかける。
「あのすみません。この町の歴史についての本を探しているんですが」
「歴史ですか? え? シエル様!?」
なぜか女性はシエルさんに気が付くと口を抑えて涙を流しだす。
「【白銀のシエル】様! お美しい!」
鼻血まで出して喜ぶ女性。シエルさんは後ずさっていく。びっくりしたけど、そう言えば僕らは有名人になってるんだよな。
「わたくし、ジュディーと申します。何なりとお申し付けください。ハァハァ」
「……あの、歴史に関する本を~」
「はい! こちらです~」
狼狽えるシエルさんに代わって僕が声をあげると僕を見ずに案内を始めた。この人は女性が好きな女性なのかな? まあ、シエルさんが綺麗だから仕方ないか。
「こちらでございます~。また何かありましたらすぐにお申し付けください~。ハァハァ」
「わ、わかったから離れて」
ジュディーさんが迫って言ってくるものだからたまらず突き放すシエルさん。
「【イシリアの歴史】」
紹介された本棚を見ると真っ先に目が留まる表題の本を手に取る。
「手分けしようか」
「イーマはアート様と一緒の見る」
「はは、じゃあ一緒に見ようか。つまらないかもしれないから別なのでもいいよ?」
「ううん! 一緒がいい」
イーマちゃんが一緒に見てくれるみたいだ。心強いな。
「じゃあ、私は別の歴史に関するものを見ていますね」
「うん。お願いねシエル」
シエルさんは別なのを見てくれる。二人で手分けすれば何か分かるはず。僕はそう簡単に考えていた。
「……見つからない。イシリアっていう人の名前はあるのに」
アクリアのアの字もない。シエルさんの名前もイーマちゃんの名前も見られない。
「でも、一つ分かったことはある。シエル達はこの町が出来る前にいたってことだ」
城壁が出来る前の集まりみたいな、集落のような状態の時の人達ってことだ。生きていたら300歳くらいかもな。
ってことは落とし物バッグはそれよりも早く存在していたってことか。
「アート様、一つ見つけました。アクリア様の手記が」
「え? 【我が愛しの獣人】」
シエルさんが声をあげて本を見せてくれる。その表題は彼女に当てられたかのようなものでびっくりしてしまう。
「『ああ、我が愛しき獣人。光をも塗りつぶす闇に一筋の輝きを照らす白銀の美しき人よ。我が屍で彼女を生き返らせることが出来るのならば喜んで差し出そう。さあ、喰らえ』そういって、彼は闇に食われていった。……」
本の最後の方に目を通す。
僕は鳥肌が立った。シエルさんの名前が書いてあるわけじゃないけど、これは間違いなくシエルさんのことだ、と思う。推測でしかないけれど、彼女の顔を見ると頷かざる負えない。
「アクリア様……そこまで私のことを」
ポロポロと涙を流すシエルさん。イーマちゃんと一緒に彼女に寄り添うと涙を拭う。
「では私がその落とし物バッグに入ったのはこの時?」
「分からない。だけど、おかしいんだ。生き返らせるために食らわせてるって書いてある。だけど、その喰らってる人が書かれてないんだよ。何に命を授けたんだろう?」
アクリアさんはシエルさんを生き返らせるために”何か”誰か”に命を捧げた。でも、彼女は生き返ってもいない。思わずデーモンの顔が思い浮かぶ。
「……アート様。過去の話はまた今度にしましょう。それよりもルドガーに勝つ訓練を」
「そうだね……。まずは目の前の問題から。とりあえず、この本棚は覚えておこうか」
歴史に関する本棚の場所は覚えておこう。これでいつでも調べられる。もう外は暗くなってきてる。オレンジ色の夕日が寂しく沈んでいくな~。
「お腹すいた~」
「僕もだよイーマちゃん」
「ふふ、じゃあ帰ったらすぐに夕食を作りましょう。何か食べたいものはありますか?」
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「じゃあ、僕はシチュー」
二人と楽しく会話をして帰路を歩く。
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