才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章 落とされたもの

第35話 天使

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「ぐぬぬぬ、どういうことだルドガー!」

 静寂を破ってブロガが声を荒らげる。ツカツカとルドガーに詰め寄ると胸ぐらを掴み頬を叩く。

「落ち着いてください、ブロガ様。まだ私がいます。私は負けることはありません」

「その言葉本当だろうな?」

「はい」

 唇から血を滲ませて話すルドガー。ブロガは彼の言葉を聞いて口角をあげる。

「ブロガ。あの実について話がある。この決闘が終わったら覚悟するのだな」

「くっ。ルドガー! 絶対に勝つのだぞ!」

 アームストロング様が睨みを利かせて声をあげる。ブロガはルドガーを睨みつけてる。仲間のはずなのにな。こんな人に従わないといけないなんてルドガーも大変だな。
 ルドガーが舞台に降りてくる。気絶してるゼパードを舞台の外に寝かせるとシロトに視線を送った。

「シロト。回復魔法は使えるか?」

「うん」

 すぐにシロトがゼパードの隣に座って回復魔法を唱えていく。

「あれ? 俺……負けたのか」

 ゼパードはすぐに気が付いて声をもらす。

「うん。ゼパードカッコ悪かった」

「うるせえ。でも、強かったな、あの獣人。今まであった人の中で間違いなく一番だ」

「うん。ゼパードも僕が出会った人の中で一番カッコよかった」

 手を握り合って話し合う二人。なぜかキラキラ空間が出来上がって眩しくて見れない。

「アート。こい」

「え? ああ、そうか。次は僕か」

 ルドガーの声に気が付いて舞台に向かう。するとシエルさんが僕の手を掴んで止めてきた。

「アート様。その白銀の剣の声を聞いてください。そうすれば、真の名前を教えてくれるはずです」

「真の名前?」

「はい。このグングニルもそうでした。意思を持っているんです」

 シエルさんの言葉に首を傾げる。この白銀の剣も彼女のグングニルのように特別な武器なのか。でも、声が聞けたことなんて一度もない。僕に出来るのだろうか?

「早くしろアート!」

 そうこうしているとルドガーが待てずに声を荒らげる。僕はシエルさんの手を握り返して舞台にあがる。

「お待たせ」

「……遺言でも残してたか?」

「ううん。僕は死なないから、それに君もね」

 ルドガーの言葉に笑顔で答える。彼は少し目を瞑ってエマさんのいる応援席に視線を移した。

「俺はあの人の前でまた誰かを傷つけなくちゃいけないのか」

 ルドガーは握りこぶしを作って声をもらした。

「そのことならエマさんに話しておいたよ。誤解だってね」

「そうか」

 僕の言葉に感慨深く俯くルドガー。でも、そんな感傷に浸っている時間は与えてくれない。

「ルドガー! 早くせんか!」

 ブロガの憤慨の言葉が決闘場に響く。ルドガーはその声を聞いて顔をあげると僕を睨みつけてきた。さっきまでの彼の表情じゃない。

「アート、死ぬなよ!」

「!?」

 ルドガーが声と共に切り込んできた。上段から振り下ろしたと思ったら切りかえして切り上げてくる。目まぐるしい攻撃を何とか防ぐと一度距離をとる。

「今のを防げるとはな。お前もこの一年で変わったってことか」

「君もね。何の魔法?」

 僕は違和感を感じた。今の一瞬の攻撃には意思が感じられなかった。
 やみくもに切りかかってきたようなそんな感じだった。
 だけど、ちゃんと急所を狙っていた。そんな気持ち悪い攻撃だったから僕でも気づけた。

「ブロガの契約魔法さ。やつの命令に忠実に動く。俺の知識と命令で動いた攻撃だ。それを躱したお前は正直、凄いと思う。だが」

 ルドガーは話すと同時に切りかかってくる。左右から正確に腕を狙ってくる。

「くっ!」

「左腕はもらった」

 鋭い痛みが走る。ガードが追い付かずに左腕が切りつけられる。

「いいぞルドガー! 言っておくが降参はなしだ! その小僧が死ぬまで終わらんからな! アームストロング様もそのつもりで」 

「まったく、小悪党というのはいつの時代も。すまんなアート君」

 ブロガの声にアームストロング様が申し訳なさそうに俯く。僕は首を横に振ることしかできない。ルドガーから視線を外すわけには行かないから。

「その小僧を殺せルドガー!」

「はい。天を支配し、地上を見下す天使長アマリエル。我がマナを糧とし眼前に現れたまえ。いでよ【アマリエル】」

 ブロガの激昂の声を聞いてルドガーが詠唱に入る。彼の召喚はとても綺麗な女性型のゴーレムだた。

「休む暇を与えるなアマリエル!」

「……」

 ルドガーの容赦のない言葉でアマリエルが僕へと攻撃を始める。長い騎士槍を素早く突き入れてくる。

「アマリエルだけでも手一杯だろう。そんな状態で俺の攻撃が躱せるかな」

「!?」

 アマリエルと連携し始めるルドガー。僕は紙一重で躱すことしかできない。だけど、躱すことが出来てる。

「凄い、凄いぞアート! まさか、お前がこれほど強くなっているなんて! あの才能なしが! だれもなしえなかったことだぞアート!」

 ルドガーは楽しそうに声をあげて切りつけてくる。アマリエルと一緒に息をする暇も与えてくれない。

「アマリエル! 右腕だ!」

「それは出来ません」

「!?」

 ルドガーが声をあげる。しかし、アマリエルはそれを聞かずに僕の胸に槍を突き刺してきた。
 
「アート様!?」

「シエル……」

 倒れこむ僕の視線にシエルさんとイーマちゃんの泣き顔が映った。
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