才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章 落とされたもの

第34話 隠された力

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「ルルスさん。勝ちましたね!」

「ああ、何とか。うっ」

 舞台から降りるルルスさんに声をあげると彼が倒れて膝をついてジェシイさんが介抱するけど、結構のダメージみたいだ。すぐにポーションを手渡して回復させる。

「ありがとうアート君」

「いえ」

 ルルスさんがお礼を言ってくると僕は首を横に振って答えた。

「シロト! 負けるとは何事だ!」

「……ごめんなさい」

 ルルスさんの無事を喜んでいると怒号が聞こえてくる。ブロガが声を荒らげて木の棒でシロトを叩いているのが見える。衣服が破れるほど強く叩きつけて白かった彼の体が赤や青に変わっていく。

「やめぬか! これ以上は死んでしまうぞ!」

「アームストロング様。これは私の所有物です。何をしようと口だししないでいただきたい」
 
 アームストロング様の声にも負けじと声をあげるブロガ。再度叩きだすと顔をニヤつかせる。

「ブロガ様! もういいでしょ。次は俺が行くんだからさ!」

「ん? おお、そうだったな。ゼパードお前の力を存分に見せて見よ」

 勢いよく席から立ち上がるゼパードが声をあげるとブロガの手が止まった。息も絶え絶えのシロトを、ゼパードは一瞥すると拳に力を込めていた。

「次は俺だ! 卑しい獣人出てきやがれ!」

 ゼパードが階段を勢いよく駆け下って飛び上がると舞台の中央に着地する。
 司会が戸惑いながらも僕らを見るとシエルさんが舞台にあがって行く。

「シエル! 頑張って!」

「シエルお姉ちゃん頑張れ~!」

「はい!」

 シエルさんを応援するとイーマちゃんも一緒に応援してくれた。僕らに答えて微笑むと槍を振り回して構える。

「へへへ、俺は最初から本気で行く。司会! 早く合図をしろ!」

「す、すみません。では、開始!」

 ゼパードがニヤニヤしながら司会の男に声をあげる。すぐに振り下ろされる合図にゼパードが詠唱を始める。

「【神の私兵よ。我がマナを喰らい、我が身に降りかかる災難から守り戦わん】……ん? 何してやがる? 詠唱を邪魔しねえのか?」

 ゼパードが詠唱をしているのにシエルさんは何もせずに見ているだけ。おかしいと思った彼が問いかけると彼女は首を横に振って答えた。

「【アークナイト】を呼ぶのでしょ? 好きにしなさい。あなたの本気と言うのを完膚なきまでに叩きのめして差し上げます」

「!? 言ってくれるね~。じゃあ見せてやるよ! 【アークナイトMK2】」

 シエルさんの声にいら立ちを見せて召喚を行使していく。
 シロトと同じように彼の足元に光の円が描かれていく。光の中から翼の生えたゴーレムが現れる。

「俺様のアークナイトMK2はさっきみたいにはいかないぜ!」
 
 ゼパードもアークナイトの肩に乗ると威勢よく声をあげる。両手にメイスを持ったゴーレムはシエルさんへと幾度もメイスを落としていく。

「オラオラ! これで終わりか!」

 肩の上から見下ろすだけのゼパード。土煙でまったく見えないけど、僕は心配していなかった。だって、アークナイトのメイスがどんどん小さくなっていくから。

「オラオラ~。ん? メイスがなくなってやがる?」

 やっと気が付いたゼパード。でも、時すでに遅し。

「うわっ!? な、なんで肩が落ちるんだよ」

 次の瞬間、ゼパードの乗っていたアークナイトの肩が崩れ落ちた。

「これで終わりですか?」

「ひぃ!? ど、どうなってんだ?」

 土煙を引っ張りながらシエルさんがゼパードに槍を突きつける。凄いスピードで煙から出てきたのか。

「アート様から頂いたこの白銀の槍に切れないものはありません。降参しなさい」

 シエルさんは槍を抱きしめながら話す。

「こ、降参なんかするか! まだ終わってねえ! 我が身に宿れアークナイト~!」

 ゼパードは負けじと声を張り上げる。すると、アークナイトがバラバラになって行って、ゼパードに張り付いていく。白き鎧を纏ったような彼はニヤリと笑うとシエルさんの背後を取った。
 大きくなったから遅くなるなんて言うことはないみたいだ。だけど、シエルさんにスピードで挑むのは自殺行為だ。

「どこを見ているんです?」

「はぁ? ど、どこに行きやがった!」

 目の前にいたシエルさんを見失うゼパード。決闘場にいた誰もが彼女を見失うことはなかったがゼパードは自分の背後に気が付くことはなかった。そして、シエルさんが彼の背後で拳に力を込め始める。

「これでおしまいです!」

「!?」

 シエルさんの拳が淡く光りだすと同時にゼパードの腹部を強打。場外へと吹き飛ばされた彼はそのまま応援席の壁に叩きつけられる。

「司会。終わりでしょ?」

「え? あ……」

 壁にめり込みピクリとも動かないゼパードを見てシエルさんが声をあげると司会の男はブロガに視線を泳がせる。ブロガは悔しそうに拳を握り締めて頷く。

「待て! ……待ちやがれ」

 勝負がついたと思ってシエルさんが舞台から降りようとするとゼパードが声をあげた。

「まだ終わっちゃいねえ」

「ゼパード! 使っちゃダメ! それは僕たちの命を」

「うるせぇ! あんな卑しい獣人に負けちゃ生きてる意味ねえんだよ!」

 ゼパードが腰のポシェットから果実を取り出した。シロトが声をあげるけど、聞く耳を持たない彼は果実を一口口に含んだ。

「命の果実か」

「アームストロング様」

 あれは何だろうと思ってみていると背後から声が聞こえる。応援席から降りてきたアームストロング様が腕組みをして話す。

「別名禁断の果実。人類が神の忠告を聞かずに食べてしまったとされている果実だ。神の力を宿している。若い頃は儂も食べたいと思ったもんじゃがな。寿命を縮め、一時的な効果で終わることもあるからな。儂はとどまることが出来たがあの子は負けてしまったか」

 アームストロング様の説明を聞いていると黒い風が会場を包み込んだ。

「さあ、これからが本番だ!」

「!?」

 黒い風を身に纏ってゼパードがシエルさんに襲い掛かる。舞台の中央で衝突する二人。黒い風が呼応するように集まって行くと上昇気流を作り出す。あれじゃまるで竜巻だ。

「シエル!」

「シエルお姉ちゃん!」

 イーマちゃんと共に心配で口を開く。薄っすらと見えるシエルさんは笑っていた。

「大丈夫。少しおいたがすぎる子供が騒いでいるだけです。私とこの槍が、この【グングニル】が揃えば怖いものはないんです」

 風の吹き抜ける音を遮るようにシエルさんの声が聞こえてくる。グングニル? あの白銀の槍が?

「さあ、私を悪夢から救ってくれたアート様から頂いた槍、【グングニル】。あなたの真の姿を見せて!」

「な、なんだってんだ!?」

 シエルさんが叫ぶ。眩い光が彼女とゼパードを包み込んでいく。

「深淵をも切り裂く閃光……か」

 アームストロング様が呟く。眩い光が天へと軌道を変えて昇ってく。煌々と輝いていて雲さえも切り裂いていく。そして、気が付くとゼパードは元に姿に戻って気を失っていた。
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