才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
33 / 40
第一章 落とされたもの

第33話 アークナイト

しおりを挟む
「!? ブロガ様。これはどういうことです!」

 応援席の奥、ブロガが座る貴族席から声があがる。ルドガーが抗議してくれてるみたいだ。

「ルドガー。あの者達は私に逆らった反逆者なのだ。私が許すわけがないだろう。余興としてお前達聖騎士隊を使うだけだ。何か問題でもあるかルドガー?」

「……いえ」

 ブロガの一睨みでルドガーが黙り込んでしまう。気が付くと僕らの背後に聖騎士隊の鎧を着た少年が槍を背中に向けてきていた。僕らは黙って舞台の横に歩く。

「さあ皆さん、見てください。この方々が反逆者の代表達です。元騎士隊の隊長ルルス、隊員のジェシイ。無詠唱のアート、白銀のシエル。あとは見たことのない獣人でしょうか。まあ、それはいいですね」

 舞台の上から僕らを品定めする仮面の男。僕らは罪人扱いか。

「おかしいぞ! どうなってんだ!」

「あの人達は罪人じゃねえぞ!」

 応援席から声があがる。署名してくれた人が声をあげてくれたみたいだ。みんな見に来てくれたんだな。

「署名の紙は受け取ったぞ。自分から集まってくれる反逆者とは簡単に事が済む」

「ひぃ!?」

 聖騎士隊がみんなにも槍を突きつけていく。こんなの許されない!

「や!」

「やめろブロガ!」

「誰だ? 私を呼び捨てにするとは命知らずめ」

 僕が声をあげようと思ったら応援席から声があがる。その声の方向を睨むブロガ、声の主を見ると顔を青ざめさせた。

「あ、あなた様は」
 
「ブロガ、偉くなったものだな」

 背中を向けたままのお爺さんに声を震わせるブロガ。お爺さんは肩幅がかなり広くて凄い強そうな人だ。

「アームストロング様……」

「ガハハ。何をそんなに顔を青くさせる必要がある? これがお前の正義なのだろう。ならば、執行するがいい。だが寄ってたかってと言うのは格好が悪いぞ。話で聞いた通り、試合を進めて勝ち負けを決めるがいい」

 顔を青ざめさせて名前を呟くブロガ。あの人がボイドさんの言っていたアームストロング様か。
 アームストロングさんが笑いながら話すとブロガが歯ぎしりを始める。

「ぐぬぬぬ。ではアームストロング様は関わらないと約束していただけますか?」

「この世は勝ったものが作った歴史の上にある。平和な世があるということは強きものが正しい歴史を作ったからだ。これからも同じだ。お前のような小悪がまだ生きているということにも理由があるのだろうな」

 ブロガの言葉に立ち上がって階段を登って行くアームストロング様。ブロガの座る席の横に着くと見下ろしながら声に圧をかけた。

「アート。ボイド、グランドからそなたの名は聞いておる。幼き身に無理を言っているのは重々承知しているがそなたたちの力に任せたい。いいかな?」

 アームストロング様は僕に視線を落として声をあげる。拡張の魔法を使わずに凄い声量だ。

「は、はい! 僕らは負けるつもりはないので」

「ガハハ、いい返事だ。力こそ正義。司会! 処刑ではなく試合を進めるがいい!」

 元気に返事を返すとアームストロング様が司会の仮面の男に声をあげた。
 司会の男はブロガを一目見てから咳ばらいを一つして進めていく。

「では聖騎士隊から、第一試合、シロト。聖騎士隊の第三位の実力者。そして、反逆者からは元騎士隊、隊長ルルス」

 第一試合はルルスさん。僕はルドガーと戦いたいから最後にしてもらった。

「ん、アートとやりたかった」

 シロトはそう言って剣を引き抜くと屈んで構えた。

「甘く見られているな」

 中段に剣を構えて声をもらすルルスさん。静寂が決闘場を支配すると視界の男が手を振り上げた。

「はじめ!?」

 司会の手が振り下ろされると同時に中央でぶつかり合う二人。鋭い衝突のせいか焦げ臭いにおいが鼻をつつく。

「凄い! 騎士隊の隊長も捨てたものじゃないね!」

「それはどうも。お前も三位なんて謙遜じゃないのか?」

 軽口を言い合うシロトとルルスさん。話している間も剣と剣をぶつけ合って音を響かせている。

「その盾邪魔だね!」

「くっ! こちらは剣をもらおうか!」

 盾を嫌ったシロトは回し蹴りで盾を吹き飛ばした。お返しとばかりにルルスさんが両手で剣を握り、打ち込む。見事にシロトの剣が舞台の外に叩きだされる。

「降参しろ。素手でお前に勝ちはない」

 ルルスさんはそう言って剣を突きつける。

「剣では負けちゃったか。じゃあ次にステージだ! 我がマナに答えて体現せよ。【アークナイト】」

「!?」

 シロトは頭を掻きながら詠唱を行って行く。ルルスさんは危険を感じて距離を取ってしまった。
 でもそれは正解だった。シロトの足元に光が現れて円を描くとその円の中から白い翼の生えたゴーレムが現れた。

「神の兵【アークナイト】聖騎士にだけ許された召喚魔法。ルルスだっけ? 降参する?」

 アークナイトの肩に乗って余裕を見せるシロト。ルルスさんはため息をついて、剣を構えた。

「自分で戦うことも出来ない子供に降参などしない!」

「……言うね。じゃあ、死んじゃえ!」

 ルルスさんの言葉にシロトが声をあげるとアークナイトが持っていたメイスを振り下ろす。大きな衝撃で舞台にひびがはいる。

「動きは遅い!」

「そう見える?」

「!?」

 アークナイトの攻撃を紙一重で躱したルルスさんがメイスを駆け上る。シロトに剣が届く、そう思った瞬間、ルルスさんの体が宙に舞った。

「僕も戦えるんだよ!」

 シロトが突きつけられた剣をバク転で躱してルルスさんの頭を蹴り上げた。それだけでは終わらずにアークナイトのメイスが再度振り下ろされる。

「ルルス様!」

 舞台を破壊する程の衝撃に土煙が舞う。静まり返る決闘場にジェシイさんの声が響いた。

「お~わり。とどめはまだしちゃダメだよね」

 シロトはそう言ってアークナイトの肩から降りて舞台を降りようとした。
 だけど、まだ勝負は終わっていなかった。

「アークナイト。戻っていいよ。……? アークナイト、戻れ」

 シロトの声に反応しないアークナイト。召喚を解除しようとしてるみたいだけど、消えないでいる。

「そいつはもう死んでる。これは使いたくなかったが」

「!?」

 土煙が落ち着いてくるとルルスさんがペンダントを握りしめて声をあげた。ペンダントは一瞬輝きを強くすると崩れ去っていった。

「このペンダントは一度だけ攻撃してくれる聖属性魔法、【ディバインカッター】がこもっていた。【聖騎士】だった父の形見のペンダントさ」

 ルルスさんが悲しそうにペンダントの残骸を握ると砂のように流れていく。それと同時にアークナイトも砂となり、舞台の一部になって行く。

「……僕のアークナイトが負けた? そんなバカなことあるわけ」

「お前の負けだ! 降参しろ! 命までは取りたくない」

「……降参だよ。僕は弱い」

 シロトは信じられないといった様子だったけど、ルルスさんの言葉に俯いて答えた。どうやら、ルルスさんの勝利みたいだ。良かった。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

のほほん素材日和 ~草原と森のんびり生活~

みなと劉
ファンタジー
あらすじ 異世界の片隅にある小さな村「エルム村」。この村には魔物もほとんど現れず、平和な時間が流れている。主人公のフィオは、都会から引っ越してきた若い女性で、村ののどかな雰囲気に魅了され、素材採取を日々の楽しみとして暮らしている。 草原で野草を摘んだり、森で珍しいキノコを見つけたり、時には村人たちと素材を交換したりと、のんびりとした日常を過ごすフィオ。彼女の目標は、「世界一癒されるハーブティー」を作ること。そのため、村の知恵袋であるおばあさんや、遊び相手の動物たちに教わりながら、試行錯誤を重ねていく。 しかし、ただの素材採取だけではない。森の奥で珍しい植物を見つけたと思ったら、それが村の伝承に関わる貴重な薬草だったり、植物に隠れた精霊が現れたりと、小さな冒険がフィオを待ち受けている。そして、そんな日々を通じて、フィオは少しずつ村の人々と心を通わせていく――。 --- 主な登場人物 フィオ 主人公。都会から移住してきた若い女性。明るく前向きで、自然が大好き。素材を集めては料理やお茶を作るのが得意。 ミナ 村の知恵袋のおばあさん。薬草の知識に詳しく、フィオに様々な素材の使い方を教える。口は少し厳しいが、本当は優しい。 リュウ 村に住む心優しい青年。木工職人で、フィオの素材探しを手伝うこともある。 ポポ フィオについてくる小動物の仲間。小さなリスのような姿で、実は森の精霊。好物は甘い果実。 ※異世界ではあるが インターネット、汽車などは存在する世界

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

処理中です...