才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
39 / 40
第一章 落とされたもの

第39話 アクリア

しおりを挟む
「アクリアさん……」

 僕は彼の名を呟く。

『ああ、私はアクリア。愛しき人をこの世に蘇らせるためにバッグへと命を捧げた男だ』

「え? バッグ?」

 彼の話を聞いて僕はバッグに視線を移す。薄っすらとバッグが輝いているのが見える。

『【落とし物バッグ】本来の姿は【賢者の石】と言われる不定形なスライムのようなものだった。おっとまずはこの状況をどうにかしよう。私に触れて口を大きく開けるんだ。アート!』

「は、はい!」

 言われた通りバッグに何とか手を伸ばして口を大きく開いた。すると僕を縛り付けていた触手が次々とバッグの中に入って行く。

「な、なんだそのバッグは!?」

 気が付いて驚愕の声をあげるヴァルエル。落とし物バッグの力はものすごくて、シエルさんやイーマちゃん。みんなの触手まで吸い込んでしまう。

『堕天使……神から落されたもの。お前もまた捨てられたものなのだよ』

 アクリアさんがそう言って白銀の剣を僕に突き出してきた。

『さあアート。これでやつを本当の捨てられしものに』

「え? でも、どうやって!」

 槍で突いても倒せない相手をどうやって倒せばいいんだよ。

『簡単なことだよ。神になればいいんだ。そして言ってやればいい。お前は要らないっと』

「神になる?」

『ああ』

 アクリアさんの言葉に首を傾げる。この白銀の剣と関係があるのかな?
 シエルさんやイーマちゃんに視線を泳がせるけど、二人も分からない様子だ。僕も理解できない。

『ふう。まったく君は……。私の中には何が入ってる?』

「え? バッグの中? ……もしかして?」

 アクリアさんの言葉を聞いて中を思い出す。そして、一つ思いつく。

「才能?」

 僕は才能の水晶をいくつも取り出す。

『神は全知全能。その白銀の剣は神にのみ本来の力を解放する』

「そ、そんなすごい剣だったの? で、でも、才能を得ると熱が……」

 アクリアさんの熱のこもった声に不安の声をもらす。才能を得るといつも倒れてしまう。今、そんなことになったら。

『大丈夫。私を信じて』

「……わ、分かりました! やってみます!」

 彼の声に答えて才能を取りこんでいく。

「させるものか!」

「邪魔はさせません!」

 ヴァルエルが触手や足を動かして邪魔をしてくる。シエルさん達が守ってくれるけど、僕も才能を取得しながら避ける。
 ドクンドクン、才能を入れるたびに血が沸騰するのを感じる。体が熱い……。

「は、白銀の剣が光って行く?」

 才能の光が体に入って行くたびに光を増す白銀の剣。ひびが割れるように光が纏わりついていく。

『あと少し!』

「は、はい……うっ!?」

「アート様!」

 アクリアさんの声で勇気づけられて最後の才能を取り込む。入れたとたんに視界が真っ暗になって驚きの声をあげるとシエルさんが体を支えてくれた。

「だ、大丈夫だよシエル。少し目がみえなくなっただけ」

「目が!? そ、そんな!?」

 目を開けてみても前が見えない。シエルさんが悲しそうな声をもらすけれど、まだ終わりじゃない。白銀の剣を両手で握りしめる。

「……。【神剣フリーディア】って言うんだね。じゃあ、君の本当の力を見せて」

 白銀の剣が囁きかけてきて答える。【神剣フリーディア】誰にも邪魔されない世界か。
 フリーディアは姿を光へと変えていく。僕よりもヴァルエルよりも大きくなった光は猛々しくやつを見下ろす。

「そ、そんなバカな! なぜ神の剣が!?」

「さあ、落とされしもの! 土に還れ!」

「!?」

 僕の声でフリーディアが光の津波となってヴァルエルへと覆いかぶさる。光の一つ一つがやつを切り刻み、大地へと還していく。

『終わりです。やつは私の中に入りました』

「アクリアさん……」

 バッグの中を見るとヴァルエルという名が刻まれているのが見えた。大きなままでは神の”落とし物”にならなかったってことか。
 でも、落とし物バッグは複製されるはず?

『奴は落とし物になる前に私の中に入れています。複製などしてしまったら大変なことになりますから。ですが、少々力を使いすぎてしまいました』

 アクリアさんはそう言うとバッグが光を失って行く。

「アクリア様……」

『ははは、シエル。相変わらず君は綺麗だな』

 シエルさんがバッグに手を添えて話しかける。嬉しそうで、悲しそうな彼女。胸が締め付けられる。

「賢者の石に命を?」

『ははは、イシリアと一緒に作り出してね。大変だったよ。だけど、もう一度君に会えたのだから報われたよ』

 賢者の石、どんな形状のものかもわからない秘宝と言われている魔道具みたいなものだな。僕も物語か何かでしか聞いたことがない。

『イシリアと作った賢者の石は魔物の命を多く使ってね。スライムのようなやつになった。そして、奴は私に取引を持ち掛けてきたのさ』

「取引ですか?」

『ああ、私の命を差し出せば私の記憶から人や物を再生させるとね』

 アクリアさんの話は本当に夢物語だった。死んだ人も生き返すことができるのだから。

『範囲はイシリアが作った、この町という限定ではあるがしっかりと活用できたみたいだね。本当に良かったよ。君もイーマもしっかりと再生されてる』

「アクリア様」

 楽しそうに話すアクリア様。だけど、シエルさんは悲しそうで僕は見ていられない。

『さて、そろそろ喋れなくなってしまうな。また喋れるようになるまで、アート。みんなを守っておくれよ?』

「は、はい!」

『いい返事だ。じゃあシエル。愛している』

「アクリア様……」

 アクリアさんがそう言うとバッグが光を失って行く。泣き崩れるシエルさんを抱きしめると自然と僕も涙が流れていた。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

のほほん素材日和 ~草原と森のんびり生活~

みなと劉
ファンタジー
あらすじ 異世界の片隅にある小さな村「エルム村」。この村には魔物もほとんど現れず、平和な時間が流れている。主人公のフィオは、都会から引っ越してきた若い女性で、村ののどかな雰囲気に魅了され、素材採取を日々の楽しみとして暮らしている。 草原で野草を摘んだり、森で珍しいキノコを見つけたり、時には村人たちと素材を交換したりと、のんびりとした日常を過ごすフィオ。彼女の目標は、「世界一癒されるハーブティー」を作ること。そのため、村の知恵袋であるおばあさんや、遊び相手の動物たちに教わりながら、試行錯誤を重ねていく。 しかし、ただの素材採取だけではない。森の奥で珍しい植物を見つけたと思ったら、それが村の伝承に関わる貴重な薬草だったり、植物に隠れた精霊が現れたりと、小さな冒険がフィオを待ち受けている。そして、そんな日々を通じて、フィオは少しずつ村の人々と心を通わせていく――。 --- 主な登場人物 フィオ 主人公。都会から移住してきた若い女性。明るく前向きで、自然が大好き。素材を集めては料理やお茶を作るのが得意。 ミナ 村の知恵袋のおばあさん。薬草の知識に詳しく、フィオに様々な素材の使い方を教える。口は少し厳しいが、本当は優しい。 リュウ 村に住む心優しい青年。木工職人で、フィオの素材探しを手伝うこともある。 ポポ フィオについてくる小動物の仲間。小さなリスのような姿で、実は森の精霊。好物は甘い果実。 ※異世界ではあるが インターネット、汽車などは存在する世界

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

処理中です...