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赤い瞳と青い瞳
第1話 火
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「さあ、火をかけろ」
兵士が次々と貼り付けにされる人々に火をつけていく。
私はそれをボーっと見つめる。
火が灯る中、悲鳴が聞こえてくる。
そんな中で私に聞こえてくる声は母の声だった。
「ジャンヌ。あなたは生きるのよ」
火の中から聞こえてくる声。悲鳴に消えているはずの声が私の目に飛び込んでくる。飛び込んできた声に刺激されて涙がこぼれた、そんなのお構いなしに隣で見ていたおじさんが石を手渡してくる。
「投げろ」そう言ってくるおじさん、「そうしないと魔女として始末されるぞ」続けておじさんが声をあげながら石を投げる。
黒焦げた人の形をしたものにあたる石、人の形をした塊が石の衝撃で爆ぜる。私も涙を流しながら火の中に石を放り投げる。火には届いたけど、人には当たらない、ホッとする私だったけど、すぐにそんな気持ちはなくなる。
「お母さん……」
母だったものが自重で崩れていくのが見えた。私は絶望した。
あの火あぶりから一年ほどが経った。
私は焼けこげる我が家のかろうじて屋根の残っている部屋で過ごしていた。
母が残していてくれた財産で何とか暮らせていたけど、それももう終わり。
「もういいよね。お母さん」
母からの声が呪いのように私を生かしていた。「生きるのよ」その言葉だけでこの一年は頑張れた。
ぼろぼろのベッドに横たわって目を瞑る。目を開けてまた瞑る……何度やっても終わりはやってこない。
お腹もすいて、骨だけの体。母の言葉だけで動いていた私の体。生きるのを諦めた今でも私の体は生きてる。
「ん? 少女か?」
隙間だらけの家を覗いてくる人が声をあげた。
私に気づいて家に入ってくる。これでやっと終われる。この人が私の火になってくれる。そう思っているとその人が外套をかぶせてきた。視界が真っ暗になると温かい体温を感じた。
「もう大丈夫。もう大丈夫だぞ」
温かい言葉、私の二倍はある体躯の男の人の言葉。大丈夫? なんでそんなことが言えるの? 私は怒りに身が震える。それでも抵抗できずに抱き上げられてどこかへ連れていかれる。
しばらく歩く男の人、帆馬車が見えてきて中に入れられる。
「何をしているバッグス! 孤児にかまうなといっただろ!」
私を運び込んだ人が怒られている。綺麗な服を着た人が言うだけでは足らずに剣を振り上げてバッグスと言った人の腕を切り落とした。バッグスはその場に倒れて息も絶え絶え。私はそれを見て羨ましく思った。
「まったく、これだから孤児出身の兵士は」
綺麗な服の男はそう吐き捨てるように言うととどめを刺す。嫌そうに剣の血を拭きとると私に視線を落とす。
「金髪に青い瞳か。ん? 片方の目は赤いな」
男は値踏みするように私を見てくる。青い瞳と赤い瞳、母が綺麗と言ってくれた瞳。男は顎に手を当てて考え込む。少しするとニヤッと口角をあげて馬車に乗り込んできた。
「じっとしていろよ。すぐに主人を探してやる」
男はそう言って部下の兵士達と一緒に馬車を走らせる。結局、バックスと言われた人と同じように私に終わりをくれなかった。
街道を進んでいく馬車。男の部下達は私にパンを手渡してくる。食べられないと乾燥したブドウを口に入れてくる。パンはとても硬くて今の私の体じゃ噛めなかった。
夜になると馬車が止まってテントを張る。綺麗な服の男はただ見ているだけ、焚火をつけて料理をし始める兵士達。
私はこの時、あることを思い出した。
「あの時の兵士……」
乾燥している口で声を漏らすと唇が切れる。血が口に入ってきて鉄の味がする。その痛みのせいか、体がふつふつと温かくなってきた。私は言葉にできないほどのいらだちを覚える。
この人たちは私の母を……村の人達を燃やした兵士達だ。そう思ったとき更に怒りが込みあがる。
「水で子供を洗え」
綺麗な服を着た男が部下に私を洗うように指示をとばす。敬礼して答えた兵士は黙ったまま私を馬車の外に出して水をかけてくる。ぼろぼろの服は着たまま。
「服は替えがあるからな」兵士は小さな声で優しく言ってきた。それでも私の怒りは消えなかった。
「剣が邪魔だな」そう言った兵士が剣を水桶の横に置く。私はその剣が跳ね返す月の光に目を奪われた。
「売れるように綺麗にしろよ」
馬車の中から私達を見もしないで言ってくる男。それでも私は剣から目が離せなかった。綺麗に手入れされた剣、あれがあれば私でもこの人たちを……
そう思ったら最後、私はやせ細る体で剣を取り、水を掲げていた兵士の首を切りつけた。
バシャン! 水桶が落ちる音が聞こえてきてもそれが兵士の絶命の声だとはだれも気付かない。次々と馬車の周りの兵士を切りつけ、静かになっていく。それでも気づかない綺麗な服の男。呑気に裸になって馬車から出てくると異変に気付いてあたりを見回す。
「な!? 敵襲?」
男はのんきに声をあげて剣を持つ。それでも上半身裸。こんな男達に母は……。
「ん? 死んでいるのか?」
返り血で赤く染まる私。剣を隠すようにうつ伏せに倒れていると安心しきった様子で男が近づいてくる。剣でつついてくる男、肩に痛みが走る。
それでも動かない私から視線を外す男、あたりを見回して誰がやったのかを確認しているのだろう。私はゆっくりと立ち上がって男の首に剣を突き刺した。
「ががが……」
男の最後の言葉はとても人の言葉とは思えないものだった。まるでカラスが矢を射かけられた時のようなそんな可笑しなものだった。
「涼しい」
人を6人程屠った後だというのに、私はすがすがしさを感じていた。人の命を奪って生きながらえる達成感。その時、母の言葉が頭を過ぎった。
「あなたは生きるのよ」呪いだと思っていた言葉、それが今、心を満たしてくれる。
帆馬車に兵士達の鎧を積んで走り出す。私を洗ってくれた兵士は女性だった。その時に少しだけ、罪悪感を感じて胃の中のものを吐き出してしまった。
彼女はどんな気持ちで私を洗ってくれていたんだろう。バックスさんはどんな思いで私を助けようとしていたのだろう。
でも、彼らは母の仇……大丈夫、あの鎧を着ている人は全員同じところに送ってあげる。そうすれば誰も悲しい思いをしなくてすむ。
ただただ暗い街道を赤い火と青い火が走り去っていく。
兵士が次々と貼り付けにされる人々に火をつけていく。
私はそれをボーっと見つめる。
火が灯る中、悲鳴が聞こえてくる。
そんな中で私に聞こえてくる声は母の声だった。
「ジャンヌ。あなたは生きるのよ」
火の中から聞こえてくる声。悲鳴に消えているはずの声が私の目に飛び込んでくる。飛び込んできた声に刺激されて涙がこぼれた、そんなのお構いなしに隣で見ていたおじさんが石を手渡してくる。
「投げろ」そう言ってくるおじさん、「そうしないと魔女として始末されるぞ」続けておじさんが声をあげながら石を投げる。
黒焦げた人の形をしたものにあたる石、人の形をした塊が石の衝撃で爆ぜる。私も涙を流しながら火の中に石を放り投げる。火には届いたけど、人には当たらない、ホッとする私だったけど、すぐにそんな気持ちはなくなる。
「お母さん……」
母だったものが自重で崩れていくのが見えた。私は絶望した。
あの火あぶりから一年ほどが経った。
私は焼けこげる我が家のかろうじて屋根の残っている部屋で過ごしていた。
母が残していてくれた財産で何とか暮らせていたけど、それももう終わり。
「もういいよね。お母さん」
母からの声が呪いのように私を生かしていた。「生きるのよ」その言葉だけでこの一年は頑張れた。
ぼろぼろのベッドに横たわって目を瞑る。目を開けてまた瞑る……何度やっても終わりはやってこない。
お腹もすいて、骨だけの体。母の言葉だけで動いていた私の体。生きるのを諦めた今でも私の体は生きてる。
「ん? 少女か?」
隙間だらけの家を覗いてくる人が声をあげた。
私に気づいて家に入ってくる。これでやっと終われる。この人が私の火になってくれる。そう思っているとその人が外套をかぶせてきた。視界が真っ暗になると温かい体温を感じた。
「もう大丈夫。もう大丈夫だぞ」
温かい言葉、私の二倍はある体躯の男の人の言葉。大丈夫? なんでそんなことが言えるの? 私は怒りに身が震える。それでも抵抗できずに抱き上げられてどこかへ連れていかれる。
しばらく歩く男の人、帆馬車が見えてきて中に入れられる。
「何をしているバッグス! 孤児にかまうなといっただろ!」
私を運び込んだ人が怒られている。綺麗な服を着た人が言うだけでは足らずに剣を振り上げてバッグスと言った人の腕を切り落とした。バッグスはその場に倒れて息も絶え絶え。私はそれを見て羨ましく思った。
「まったく、これだから孤児出身の兵士は」
綺麗な服の男はそう吐き捨てるように言うととどめを刺す。嫌そうに剣の血を拭きとると私に視線を落とす。
「金髪に青い瞳か。ん? 片方の目は赤いな」
男は値踏みするように私を見てくる。青い瞳と赤い瞳、母が綺麗と言ってくれた瞳。男は顎に手を当てて考え込む。少しするとニヤッと口角をあげて馬車に乗り込んできた。
「じっとしていろよ。すぐに主人を探してやる」
男はそう言って部下の兵士達と一緒に馬車を走らせる。結局、バックスと言われた人と同じように私に終わりをくれなかった。
街道を進んでいく馬車。男の部下達は私にパンを手渡してくる。食べられないと乾燥したブドウを口に入れてくる。パンはとても硬くて今の私の体じゃ噛めなかった。
夜になると馬車が止まってテントを張る。綺麗な服の男はただ見ているだけ、焚火をつけて料理をし始める兵士達。
私はこの時、あることを思い出した。
「あの時の兵士……」
乾燥している口で声を漏らすと唇が切れる。血が口に入ってきて鉄の味がする。その痛みのせいか、体がふつふつと温かくなってきた。私は言葉にできないほどのいらだちを覚える。
この人たちは私の母を……村の人達を燃やした兵士達だ。そう思ったとき更に怒りが込みあがる。
「水で子供を洗え」
綺麗な服を着た男が部下に私を洗うように指示をとばす。敬礼して答えた兵士は黙ったまま私を馬車の外に出して水をかけてくる。ぼろぼろの服は着たまま。
「服は替えがあるからな」兵士は小さな声で優しく言ってきた。それでも私の怒りは消えなかった。
「剣が邪魔だな」そう言った兵士が剣を水桶の横に置く。私はその剣が跳ね返す月の光に目を奪われた。
「売れるように綺麗にしろよ」
馬車の中から私達を見もしないで言ってくる男。それでも私は剣から目が離せなかった。綺麗に手入れされた剣、あれがあれば私でもこの人たちを……
そう思ったら最後、私はやせ細る体で剣を取り、水を掲げていた兵士の首を切りつけた。
バシャン! 水桶が落ちる音が聞こえてきてもそれが兵士の絶命の声だとはだれも気付かない。次々と馬車の周りの兵士を切りつけ、静かになっていく。それでも気づかない綺麗な服の男。呑気に裸になって馬車から出てくると異変に気付いてあたりを見回す。
「な!? 敵襲?」
男はのんきに声をあげて剣を持つ。それでも上半身裸。こんな男達に母は……。
「ん? 死んでいるのか?」
返り血で赤く染まる私。剣を隠すようにうつ伏せに倒れていると安心しきった様子で男が近づいてくる。剣でつついてくる男、肩に痛みが走る。
それでも動かない私から視線を外す男、あたりを見回して誰がやったのかを確認しているのだろう。私はゆっくりと立ち上がって男の首に剣を突き刺した。
「ががが……」
男の最後の言葉はとても人の言葉とは思えないものだった。まるでカラスが矢を射かけられた時のようなそんな可笑しなものだった。
「涼しい」
人を6人程屠った後だというのに、私はすがすがしさを感じていた。人の命を奪って生きながらえる達成感。その時、母の言葉が頭を過ぎった。
「あなたは生きるのよ」呪いだと思っていた言葉、それが今、心を満たしてくれる。
帆馬車に兵士達の鎧を積んで走り出す。私を洗ってくれた兵士は女性だった。その時に少しだけ、罪悪感を感じて胃の中のものを吐き出してしまった。
彼女はどんな気持ちで私を洗ってくれていたんだろう。バックスさんはどんな思いで私を助けようとしていたのだろう。
でも、彼らは母の仇……大丈夫、あの鎧を着ている人は全員同じところに送ってあげる。そうすれば誰も悲しい思いをしなくてすむ。
ただただ暗い街道を赤い火と青い火が走り去っていく。
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