何もしてないなんて言われてクビになった 【強化スキル】は何もしていないように見えるから仕方ないけどさ……

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
19 / 56
第一章

第18話 

しおりを挟む
「なんだい? あんたがスカイって言うのかい? うちのヒューイをいじめてたんだってね」

「は、はい……」

 たまたまあった次の日。早速、スカイがレバナさんの診療所へとやってきた。
 出ていけと言われたけど、ダンジョンに行かない日は通わせてもらえるようにしてもらった。
 僕の力が特別って言うのは分かったからね。目立ちたくはないけど、助けられる人がいるなら助けていきたいから。

「まったく、この子もお人好しに超がつく子だね。でもまあ、助けられるってんならそうする子だとは思っていたけどね」

 レバナさんはそういって僕の頭を撫でてくれる。まったく、身長差があるんだから無理しないでほしいんだよな。まあ僕も撫でやすいように屈んでるんだよね。結局撫でてほしかったりする。
 おばあちゃんが居たらこんな感じなのかな。

「すみません……」

「あんたはいいんだよ。何度も謝ったんだろ? その子達だよ」

「「「「……」」」」

 レバナさんの言葉に怪我が治ったルッコ達が申し訳なさそうにしてる。

「態度は謝ってるんだろうけどね。まったく、この子達は」

「みんな! 申し訳ないヒューイ」

「いいんだよスカイ。受け入れられないのはわかるからさ」

 ルッコ達は頑なに口から謝罪の言葉を言ってくれなかった。それでも申し訳なさそうにしてるから、それを僕は汲むよ。もう、スカイを許しちゃってるしね。

「ほら! 治ったんなら帰りな」

「はい、すみませんでした。ヒューイもごめんな」

「ははは……」

 レバナさんは腕を組んでみんなを見送る。ルッコ達は何度か振り返って僕を見ていたけど、口は開けなかったみたいだ。
 今まで僕のことを下だと思ってたから仕方ないのかな。

「ヒューイ」

「あれ? リーシャ?」

 スカイ達を見送りし終わると外にリーシャが待っていた。心配そうに声をかけてくる彼女。
 そういえば、告白の途中だったのを思い出した。あの後は、結局家帰ってすぐに夕食を食べて寝ちゃったからな。まともにリーシャのことが見れない。

「どうしたのヒューイ?」

「あっ、いや、何でもない」

「?」

 何とも思ってないリーシャは顔が熱くなってる僕を見て首を傾げてる。
 僕だけ意識してるみたいで恥ずかしいな。

「さあさあ、あんたらも帰りな。いつまでも非正規の労働者を働かせるなんてしたくないからね」

「レバナさん……」

「お金もいっぱい入ったんだろ。町でリーシャと遊んできな。いつまでも婆と一緒に居たら歳食っちまうよ」

 背中を押してくるレバナさん。
 ディアボロスを倒した褒賞金はかなり高かったからな。
 ダンジョンのボスにはそれぞれ褒賞金がかかってる。
 本来のボスは素材を落とすからそれを納品して更に褒賞金が上がる。それがなくてもディアボロスの報奨金がはるかに上回ってた。
 白金貨一枚の褒賞金、白金貨は豪邸が二棟買えてしまう。スカイ達が持っていたのは見ていたけど、自分で持ったのは初めてで嬉しかったな。

「リンゴか。珍しいな」

「美味しそうだね」

「じゃあ、みんなの分も買っていこうか」

「うん、みんな喜ぶね」

 砂漠の中にある町のキスタン。果実が届くことは珍しい。届いても痩せてるものが多くて食べられたもんじゃない。
 銀貨を五枚渡してかごいっぱいの赤いリンゴを買う。
 出店の店主は凄い喜んでたな。
 リンゴは珍しいから高かったから買い手がつかなかったんだろうな。
 別の町ではリンゴは珍しいものじゃない。銅貨一枚で一個と言った感じだ。かごのリンゴはせいぜい二十個。
 銅貨が百枚で銀貨に変わるわけだから、普通の町じゃ五百個買える値段。それが二十個しか買えないわけだ。かなり高いのがわかる。
 リンゴを買って闇の収納へと入れ込む。やっぱり便利ディアボロス。どんなに荷物を持っていても大丈夫だな。

「ヒュ、ヒューイ」

「え? ルッコ?」

 リンゴを一足先にかじっているとスカイの仲間のルッコが声をかけてきた。
 ルッコを見てリーシャが僕の前に出てくれる。そんなに警戒しなくていいと思うけどな。

「一人?」

「あ、ああ……その、ヒューイ」

 質問するともじもじと手遊びをはじめて小さな声をあげる。聞こえづらいな。

「ありがとう! それにごめんなさい!」

「え?」

 お礼と謝罪の言葉を置いて、そそくさと遠くへと走っていくルッコ。
 お礼と謝罪を言うのが恥ずかしくてもじもじしてたのか。

「もう! なんなのあのひと!」

「はは、彼女なりに悪いと思ってくれたってことだよ。それかスカイに言われたかだね」

「それにしても欠損を治してくれた人にちゃんとお礼も言えないなんて!」

「まあまあ、それでも前よりはましだよ。許してあげよ」

「ひゅ、ヒューイが許すなら私は何も言わないけど、お姉ちゃんは許してないみたいだけどね」
 
 リーシャが僕の代わりに怒ってくれたから頭を撫でると顔を赤くして視線をルッコが走っていったほうへと移す。そこにはミーシャがいて、建物の影からルッコが走っていったほうを見てた。顔は見えないけど、黒いもやが見える、殺気のような気がするけど、僕の気のせいならいいな。

 それから帰路にたって家に向かっている間にスカイの仲間の残りのメンバーがそれぞれ一人でやってきて。クイン、ルタエ、コエナがそれぞれ恥ずかしそうにお礼と謝罪を行ってきて、ルッコと同じように言葉だけを置いて逃げるように去っていった。素直じゃないというかなんというか……。
 とりあえず、元気そうで何よりだ。
 レバナさんの診療所で治したときは目が腫れていたりもしたからね。少なくともスカイの役に立てなくなった時に絶望を感じてたはずだからな。毎日泣いていたんだろう。
 まあ、それはスカイも同じ感じだっただろうけどさ。

「似たもの同士のチームなんだね」

「うん、そうだね」

 ニッコリと微笑むリーシャが声をあげた。
 それに同意して微笑むとリーシャが僕の手を取る。

「「……」」

 顔を合わせずに無言になる僕ら、それを他所にミーシャが後ろから抱き着いてきた。肩車の状態になると二カッとリーシャを見下ろした。

「お姉ちゃん!」

「あっれ~。奇遇だねお二人さん。今から帰るのかな~?」

 白々しく声をあげるミーシャ。
 まったく……、不意にディアボロスの闇の収納からリンゴを一つ取り出してミーシャの口に押し込む。
 僕の頭の上でシャリシャリと音を立てて食べ始めた。リーシャと違って落ち着きのない姉だな。
 リーシャと手を繋いでミーシャを肩車しながら帰路にたつ。すると見知った少年が本を片手に同じ方向へと歩いてるのが見えた。

「ヒューイ~」

「ルラナ」

 僕らに気づいて後ろを向くルラナ。本を小脇に抱えて、僕の開いてる手を取った。
 なんだか子だくさんのお父さんみたいな状態だな。
 リーシャもルラナも嬉しそうに手をブンブン揺らす。頭の上ではリンゴをシャリシャリさせているし、何とも穏やかな光景だろうか。

「ん? 地震?」

 みんなの笑顔を見ながら歩いてると急に地震が起こる。辺りを見回すと建物から出てきてあたふたする人たちが見える。
 地震なんて起こったなんていまだかつてないからな。驚くのも無理はない。

「ダ! ダンジョンから魔物が出るぞ~! 非戦闘員は町の外へ出ろ~!」

 な!? まさか、ダンジョンが魔物を放出した!?
 冒険者が脱出の扉をくぐって閉じるのに失敗した?
 扉はダンジョンの中から閉めないと一定時間開きっぱなしになる。その間、魔物は出っ放しになるはずだ。知恵のない魔物なら出てくることは稀だからいいけど、頭のいい魔物の階層だったら……、考えるだけでゾッとする。

「みんな! 行くよ!」

「「「はい!」」」

 三人に声をかける。それぞれ自分の武器は持っていた三人。武器を構えると僕を先頭にダンジョンへの入口へと走り出した。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です 再投稿に当たり、加筆修正しています

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...