何もしてないなんて言われてクビになった 【強化スキル】は何もしていないように見えるから仕方ないけどさ……

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章

第30話 砂漠を越えて

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 砂漠を馬車で進んで三日、僕らはやっと砂漠を抜けた。
 砂漠が終わって、すぐに草原が現れる。
 街道の横に湖もあって村が見えてくる。魔物が少ないのか壁や柵で覆ってない村だ。50人いるかいないかって感じの小さな村、藁ぶき屋根の家々が並んでる。

「ちょっと寄っていくか」

 ステインの声にみんな頷いて答える。アルテナ様も嬉しそうに頷いてるな。暇そうにしていたからな。

「こんにちは。少し休憩させてもらっていいですか?」

 リーシャが馬車から降りて村の入口のおじいさんに声をかけた。するとおじいさんはにっこり微笑んで、

「おお、ようこそ。みなさんは冒険者かな? 好きなだけ休んでいきなさい。ここいらは魔物もいませんからな」

 やっぱり魔物は少ないみたいだ。よく見ると牛とか豚を飼ってるみたいだし、本当に平和な村なんだな。それにしては人が少ないようにも思えるけど。

「テスラ帝国への街道に一番近い家が空き家になっておる。そこは自由に使ってもらって大丈夫じゃ」

「ありがとうございます。これは代金です」

「フォッフォッフォ。代金はいりませんよ。金があってもここじゃあ使い道がありませんからの」

 おじいさんの厚意にルレインさんが金貨を一枚取り出した。それを見ておじいさんは笑いながら金貨を断る。
 お金に欲のない人だな。それでも外から来る行商人が寄ると思うから持っていて損はないと思うんだけどな。

「しかし、それでは私達の気が」

「お嬢さんはいい子じゃな~。綺麗なお洋服を着ているところを見ると貴族様かな?」

「いえ、私は」

「隠さんでもええ。この年になるとその人を見るだけで大体のことは分かるようになるもんじゃて。あなた様達からはとても高貴な何かをかんじるんじゃよ」

 アルテナ様が申し訳なさそうに呟くとおじいさんが微笑んで質問してくる。それを否定しようとするとおじいさんは答える。騎士の姿のルレインさんはしょうがないとして、アルテナ様は普通の服を着てる。バレるはずはないんだけど、そこは年の功ってやつかな。

「ふむ、ではこれでどうじゃ? ドワーフのお仲間がいるようじゃ。その方に農具を整えてもらえないだろうか? しばらく、農具を持ってくる行商人がいなくてな」

「そうですか。ステインさんお願いできますか?」

 おじいさんの提案にアルテナ様がステインにお願いする。ステインは頷いて、御者席で降りようとしてるワジソンに駆け寄っていった。
 そんな控えめなお願いをしてきたおじいさんに好感を持った僕はおじいさんに声をかける。

「おじいさん」

「フォッフォッフォ、儂の名はフォルドじゃよ」

「あっ、すみませんフォルドさん。僕はヒューイと言います」

 自己紹介をしてくれたフォルドさんに答える。

「何か用かな?」

 首を傾げるフォルドさん。

「他に何かやってほしいことはないですか?」

 何かしてあげたい。そんな思いをぶつける。するとフォルドさんは、

「そうじゃな~。回復魔法を使える方がいればよかったんじゃが。魔法使いはいらっしゃらないだろうし」

「怪我をされている方が?」

「ふむ、少々お転婆な子供がいてな。牛に跨って走り回っておったんじゃが落ちてしまってな。頭を打って眠ったままなんじゃよ」

「そうなんですか。それなら治せると思います」

「ん? なんじゃ? ヒューイさんは回復魔法が使えるのか?」

 話を聞いて僕なら出来ると話すとフォルドさんは驚いた。
 フォルドさんに案内されて子供の家へ。みんなはその空き家に行って休むみたいだ。リーシャだけついてきてくれた。

 家の前で目のはれた女性がフォルドさんにお辞儀をする。その時、フォルドさんが説明すると僕に縋りついてきた。
 『どうか! お願いします!』懇願の言葉を泣きながら言ってくる。僕は大きく頷いて家の中に入った。

「寝たきりでな。日に日に痩せていってしまっている」

「何日くらい経っているんですか?」

「三日程じゃ」

 子供の体で三日、危ない状況だったな。

「この子の父がテスラ帝国へと走っているんじゃがな。往復で6日はかかるからの。儂らは諦めておったわけじゃ」

「すぐに回復させますね」

 僕はベッドに横たわる少女へと【強化】を施す。

「良かったね。助けられて」

「ああ、本当に良かった」

 リーシャが微笑んだ。僕も笑い返す。あと一日遅かったら危なかったと思う。助けられそうで良かった。

「うん……。あれ~?」

 リーシャと一緒に様子を見ていると少女が目を覚まして声をもらした。
 外にいたはずなのに急に家の景色になったから驚いているのかな。

「あなた達誰~? お母さんは?」

「ふふ、すぐに呼んでくるね。はいお水」

 少女の声にリーシャが答えて水を渡す。リーシャはすぐに外へと出て少女のお母さんを呼んだ。

「僕らは冒険者だよ。君が怪我をしたって聞いて見に来たんだ」

「怪我~? 誰が怪我したの?」

 僕の言葉に少女は自分の事とは思ってないみたいだ。

「ルギ!!!」

 リーシャと共にお母さんが入ってきた。少女の名前を呼んで抱きしめる。ルギちゃんは驚いて抱き返すと泣き出してしまった。お母さんとルギちゃんの声が家に響く。

「ありがとうございます。ありがとうございます!」

「元気になって良かったです」

「本当にありがとうございます」

 泣き止んで僕らにお礼を言ってくる二人。

「少ないですが回復魔法代を」

「いえ! それは受け取れませんよ。ルギちゃんに何かあげてください」

「ヒューイさん、このご恩は忘れません」

 泣きながらお礼を言ってくるお母さんのエギさん。銅貨を数枚出してきたんだけど、受け取らないと告げると泣いてしまう。

「お母さん。もう泣かないで。お兄ちゃんありがとう」

「どういたしましてルギちゃん。今後はお母さんを心配させちゃダメだよ?」

「は~い。ヒューイ先生」

 不意にルギちゃんが先生と呼んできた。今さっきまでお兄ちゃんって言っていたのに? 

「病気やけがを治せる人は先生だっておじいちゃんやお母さんが言ってるの思い出したんだ。だから、お兄ちゃんは先生だよね」

 ルギちゃんが満面の笑顔で理由を話す。驚いてる僕の顔で察したのかな?
 先生か……なんか、レバナさんになった気分だな。

「ヒューイ先生ありがと~」

「ありがとうございました」

「「お大事に」」

 ルギちゃんの家を出ると二人が見送ってくれる。リーシャと手を振って答える。

「良かったねヒューイ」

「ああ」

 顔を見合って二人で話す。
 みんなの待つ空き家に向かう。そんなに広くない村、すぐに空き家が見えてくる。
 みんなで掃除をしてるみたいだ。空き家なだけに埃がたまっていたみたいだな。

「おかえり、みんなで掃除中だよ」

「ワジソンは早速農具の整備に行ってるぞ」

 ミーシャとステインが迎えてくれた。流石にアルテナ様とルレインさんに掃除をさせるわけにもいかないのでみんなが率先してやってる感じだな。

「お兄ちゃんもする?」

 ブルームちゃんが箒を片手に僕を見上げて話す。箒を受け取ってみんなで空き家の掃除に取り掛かる。

「ふう、終わった」

「やっと終わった~?」

「アルテナ様……」

 みんなで掃除をし終わるとアルテナ様が声をあげた。礼儀正しいアルテナ様とは思えない声が聞こえてくる。前にもこんなことがあったけど、それが本当の姿だと思ってたんだけどな。

「掃除が終わったら遊ぼ~」

「アルテナ様! 今は休む時です!」

「ん~。つまらない。テスラ帝国にはいつ到着するの?」

「ここからは三日程ですよ」

 わがままな様子のアルテナ様はルレインさんに文句をいい始める。見かねてミーシャが声をあげようとするとルレインさんに止められる。

「アルテナ様。少し我々は外に出ていますね」

「ルレイン? わらわを一人にするのか?」

「少し! 少しでございます。皆さん、外へ」

 困った様子でルレインさんはアルテナ様の言葉に答えてみんなを外へと促す。僕らは疑問に思いながら外へと出た。
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