45 / 165
第二章 黒煙

第一話 カテジナ

しおりを挟む
 ある村にカテジナという女性が住んでいた。
 
 女性はいつも怒っているような短気な女性だった。
 
 彼女は普通に好きな人が出来て二人の愛の結晶を授かり育てていた。
 
 彼女の夫は冒険者、逞しい体でいつもカテジナを抱き寄せて微笑んでくれていた。
 
 そんなある日、夫の帰りが遅いので冒険者ギルドに行くと夫は依頼を受けて帰ってこないと言われて戸惑った。冒険者の行方不明とは死を意味している。カテジナも同じであった。
 
 子供を残して先立たれては明日暮らすお金もないとカテジナはユアンを抱きながらその場へ力なく座ってしまう。
 
 その場にいてもギルドに迷惑がかかるだけ、今はお金の心配をしなくちゃいけない。カテジナはすぐに我に返って外へと歩き出した。

「ビエ~ン」
「ごめんね。寒いよね。でも、安心してね。私には従妹がいるから大丈夫よ」

 まるで自分に言い聞かせるように彼女は呟いた。しかし、その願いも虚しく終わりを告げた。
 
 従妹の家に着くとそこには書置きが置いてあり、部屋の隅には自分の娘と同じくらいの幼児が立っていたのだ。彼女は絶句した。

 しかし、絶望しているわけにもいかず、彼女は手紙を読み始めた。

(大金貨10枚を置いて行きます。どうかこの子をお願いします。家も使ってください)

 カテジナはこれを見てから子供をみた。微笑む幼児はとても可愛らしく見えてすさんだ彼女の心を癒していく。彼女はユアンと従妹の子供のルークを育てる事となった。従妹の家は借家ではないので引っ越す事にした。なにより元の家では死んだ夫の事を思い出してしまうからである。ルークには親は死んだと伝えている、最初はルークが可哀そうだという事でそうしたのだがそれはルークにとってカテジナにつながる鎖を強固にする事となった、唯一の親という鎖を。

 幼児の時にはとても献身的な彼女だったがルークが大きくなっていくにつれてすさんでいった。手のかからない二人の子供を見て自分の必要性に疑問に思った彼女はその寂しさを男の暖かさで補っていた、それが偽りのものだというのに。
 彼女はその偽りのものにお金を使い自分を満たしていた。

 そして、時は流れて。ユアンを旅立たせ、邪魔になったルークを旅立たせた。彼女は見事に二人の子供を旅立たせた。最後の方はとても褒められたものではないが確かに彼女は見事に達成したのだ。

「あなたがユアンのお母様ですか?」
「あんたら誰だい?」

 カテジナの家に騎士の一団がやってきた。騎士は王の書状を取り出し、読み始める。

「王からの書状を読み上げます。(我が国に大きな利益を上げたユアン、その母君であるカテジナに感謝を込めてこれを送る。それとともに王都リナージュに母君とユアンの為の家を建てた。ぜひこちらに来ていただきたい)以上です」
「えっ・・・ええ~~」

 カテジナはワナワナと狼狽えた。まさか、王直々の言葉と家まで貰えるとは思っていなかったのだ。

「ユアンはどんな功績を上げたんですか?」

 どんな功績を上げればこのようなことになるのかと戸惑っている。騎士達は兜を取り片膝をついた。

「私達は皆、ユアンに助けられました」

 騎士達はその経緯を説明する。

 ユアンはパーティメンバーと一緒にBランクの依頼をこなしていた。依頼は無事に終わり帰ろうとしたその時、ある異変が起こった。

 地面は裂け、空は黒煙で覆われた。

「何、あれ!」

 黒煙の中に龍のような光が、それに気付いたユアン達は城壁のある街へと村の人達を誘導していった。避難が終わってすぐに王都から騎士団達が到着した。

「お前がユアンか、王に認められたからといってしゃしゃり出るなよ」

 騎士団の隊長がユアンに食って掛かる。他の騎士団の者達も同じようにユアンに食って掛かる。しかし、ユアンは慣れたもので我関せずといった様子だった。

 そして、決戦の時、騎士団の団長は意気こんで山へと駆けあがった。黒煙から生まれた龍は山の頂上に鎮座していたのだ。

 騎士団達は重装備で山を登っていく。後ろにギルドから派遣された冒険者達も続く。騎士団はその名誉に誓って冒険者に負けるわけにもいかないと重装備で登っていくのだった。
 しかし、案の定、傾斜に足を取られズルズルと遅れていく、冒険者達は騎士団を横目に山を登っていく。

「大丈夫ですか?」

 ユアンは騎士団に声をかけた。しかし、騎士団達は息を切らせるだけで気づかいの言葉に睨みを利かせるだけだった。

「騎士団はここで待機してください。私達冒険者がここまで龍をおびき寄せてきます」
「なにを、調子にのりよって」
「騎士団は最後の剣なのです。山を無理に登ってその剣を傷つけてはまともに戦う事も出来ませんよ。ですから、冒険者を使っておびき寄せ、龍に剣を突き立てるのです」 
 疲弊もあり騎士団の団長はユアンの説得に応じて頷いた。ユアンは男も魅了する笑顔を見せ、山を登っていった。

 このあと、黒煙龍を撃退して追い払った騎士団と冒険者達は王から褒美をもらった。ユアンはその一番の貢献者、片目を抉り追い払う大きな要因を作ったのだ。ユアンはこの功績で家と爵位をいただき今に至る。

「私達があのまま山を登っていたら、こうやってあなたを迎えに来れなかったでしょう」

 騎士団の証言で騎士団長は叱責され今は一兵卒として一からやり直しているらしい。今はなしている騎士の男が今の団長を務めている。

「私はガザロフ、母君を迎える為に使わされました。準備が出来ましたらお声がけください」
「・・・はい」

 カテジナは引っ越しの準備に急かされた。急な話だが荷物はそれほどない、ユアンとルークがいなくなったことでそれほど食器もないし服もそこそこ、なければ王都で買えばいい。何て言ってもお金は山ほどあるのだから。

 カテジナの総資産は今やこの村を買ってもおつりが来るほどである。村が安いという事もあるが。

「ユアンとは別の息子がいるんだけど連絡してもらっていいかい?」
「では、人を向かわせましょう。ギルドよりも早馬を行かせればそちらの方が早いですからね」

 カテジナはルークの事をガザロフに伝えた。早馬がエリントスへと走り去っていく。

 騎士団はカテジナを馬車に乗せて王都リナージュへと戻って行った。
しおりを挟む
感想 296

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。 だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。 一度目では騙されて振られた。 さらに自分の力不足で全てを失った。 だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。 ※他サイト様にも公開しております。 ※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※ ※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...