9 / 135
第一章「視えない私のキャンパスライフ」2
しおりを挟む
「真美? 真美なの?」
「…………」
「どうしてここにいるの……真美?」
かつての友人である真美の気配を感じ取った私は堪らず声を掛けていた。
しかし反応はなく、虚しい沈黙の時間が流れる。こんなところに真美がいるわけないはずなのに、私は何を感じ、そこに何を視ているのだろう。
こんな経験はオーストラリアにいた頃からずっとなかった。
魔が差したように心がざわつく。とても強く見つめられているという不思議な感覚。
一歩二歩と進んで手を伸ばすと、桜の木の太い幹に触れていた。
無理矢理に心を落ち着かせ、私は懐かしい夏の日の思い出に思いを巡らせた。
四年前、まだ病院に入院していた私は、オーストラリアに住む父からプレゼントで届いた砂絵に触れ、海岸にある砂浜への憧れを抱き想いを募らせた。
ザラザラとした砂に触れているだけで、貝殻のある砂浜の姿や波の音が聞こえて来るような非現実的な体験。
私は同じ病室の仲間、真美の言葉もあって、病院を抜け出して人気のない砂浜のある海を目指した。
病弱な私が一人始めた無謀な旅、勇気を持って繰り出した大冒険。出発したのはまだ陽が昇る前、夜明け前のことだった。
あの日、真美が背中を押してくれたから私は前に進むことが出来た。
この経験があったから、父のことを許して、勇気を持ってオーストラリアに行って一緒に暮らすことが出来るようになった。
だけど、海に着いた私はその同じ頃、真美が病院で亡くなったことを知った。
じりじりと照り付ける夏の日差しを受けながら、汗を流し海を目指した。
海に着き、心地いいくらいの潮風を浴びた。
冷たい海の塩水に触れて、新鮮な外の世界の美しさを知ったのに。
信じたくはなかった、でも受け入れなければならなかった。
真美はどうしてかその日手術を受けることを私に教えてはくれなかった。
もし教えてくれていれば、真美のことを応援することが出来た、励ましの言葉を掛けて上げられたのに。
だけど、今更それを口にしても何もならない。
現実には真美はそれを望まず、私を遠い場所へと向かわせたのだ。
結果として私は真美の手術が失敗に終わったことを後になって知り、真美が何を考えていたのかは闇の中に消えて行った。
整理しきれない忘れることの出来ない出来事。
あの日の事は……今でも不思議な冒険譚として胸に深く残っている。
「―――どうして今になって現れたの? 真美……もしかして、日本に帰って来るのを待っていたの?」
何も分からない……触れることも出来なければ、声を聞かせてもくれないのだから、分かるはずがない。
でも、私は確かにここで真美の存在を感じた。幻影か死んだ真美の幽霊かどうかなんて分からないけど、確かに気配を感じたのだ。
時にはからかって来ることもあったが、心優しくて、入院する私のことを心配してくれた真美。
真美は私に知らない花や色のことを興味深い話しぶりで教えてくれた。私に似合う服を教えてくれたりもした。
病院にいるのが不思議なくらい明るく接してくれるルームメイトような年の近い女友達だった。
過去にしてしまうのは悲しいくらい、辛い別れとして今も記憶に残っている。
私がじっと桜の木の下で立ち止まっていると、背中をトントンと叩かれた。私は慌てて後ろを振り返った。
「…………」
「どうしてここにいるの……真美?」
かつての友人である真美の気配を感じ取った私は堪らず声を掛けていた。
しかし反応はなく、虚しい沈黙の時間が流れる。こんなところに真美がいるわけないはずなのに、私は何を感じ、そこに何を視ているのだろう。
こんな経験はオーストラリアにいた頃からずっとなかった。
魔が差したように心がざわつく。とても強く見つめられているという不思議な感覚。
一歩二歩と進んで手を伸ばすと、桜の木の太い幹に触れていた。
無理矢理に心を落ち着かせ、私は懐かしい夏の日の思い出に思いを巡らせた。
四年前、まだ病院に入院していた私は、オーストラリアに住む父からプレゼントで届いた砂絵に触れ、海岸にある砂浜への憧れを抱き想いを募らせた。
ザラザラとした砂に触れているだけで、貝殻のある砂浜の姿や波の音が聞こえて来るような非現実的な体験。
私は同じ病室の仲間、真美の言葉もあって、病院を抜け出して人気のない砂浜のある海を目指した。
病弱な私が一人始めた無謀な旅、勇気を持って繰り出した大冒険。出発したのはまだ陽が昇る前、夜明け前のことだった。
あの日、真美が背中を押してくれたから私は前に進むことが出来た。
この経験があったから、父のことを許して、勇気を持ってオーストラリアに行って一緒に暮らすことが出来るようになった。
だけど、海に着いた私はその同じ頃、真美が病院で亡くなったことを知った。
じりじりと照り付ける夏の日差しを受けながら、汗を流し海を目指した。
海に着き、心地いいくらいの潮風を浴びた。
冷たい海の塩水に触れて、新鮮な外の世界の美しさを知ったのに。
信じたくはなかった、でも受け入れなければならなかった。
真美はどうしてかその日手術を受けることを私に教えてはくれなかった。
もし教えてくれていれば、真美のことを応援することが出来た、励ましの言葉を掛けて上げられたのに。
だけど、今更それを口にしても何もならない。
現実には真美はそれを望まず、私を遠い場所へと向かわせたのだ。
結果として私は真美の手術が失敗に終わったことを後になって知り、真美が何を考えていたのかは闇の中に消えて行った。
整理しきれない忘れることの出来ない出来事。
あの日の事は……今でも不思議な冒険譚として胸に深く残っている。
「―――どうして今になって現れたの? 真美……もしかして、日本に帰って来るのを待っていたの?」
何も分からない……触れることも出来なければ、声を聞かせてもくれないのだから、分かるはずがない。
でも、私は確かにここで真美の存在を感じた。幻影か死んだ真美の幽霊かどうかなんて分からないけど、確かに気配を感じたのだ。
時にはからかって来ることもあったが、心優しくて、入院する私のことを心配してくれた真美。
真美は私に知らない花や色のことを興味深い話しぶりで教えてくれた。私に似合う服を教えてくれたりもした。
病院にいるのが不思議なくらい明るく接してくれるルームメイトような年の近い女友達だった。
過去にしてしまうのは悲しいくらい、辛い別れとして今も記憶に残っている。
私がじっと桜の木の下で立ち止まっていると、背中をトントンと叩かれた。私は慌てて後ろを振り返った。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる