視えない私のめぐる春夏秋冬

shiori

文字の大きさ
15 / 135

第二章「dear my friend~砂絵のある部屋で~」1

しおりを挟む
 肌寒い春風から少しずつ暖かい風薫る季節へと変わり、短い桜の開花は終わりを迎え、街は夏の気配を漂わせる。
 マスクを着けて花粉症対策をしながら、私もようやく新しい日常生活に慣れてきた。

 そして、最初の大型連休であるゴールデンウイークが迫ったある日、私は仲良くなった学生サポートスタッフの静江さんと同じ社会福祉学科の恵美ちゃんを寮室に招待することにした。
 日頃の感謝を込めて、カレーライスを調理して二人に振る舞う。それが私なりに出来る範囲で考えた恩返しの形だ。

 限られた寮室のスペースを圧迫させていた段ボール箱も無事に片付けてすっきりさせたので、二人を招待しても窮屈させなくて済みそうで一安心である。

 前日に訪問看護と一緒に苦手な部屋の掃除を行い、程よい汗を掻いて準備に必要な買い物を終えると、連休初日はあっという間に通り過ぎて行った。

 ―――そして、二人を招待する日がやって来た。
 
 休日ともなればより長い春眠に導かれていく。
 朝起きて気が付くと抱いていたはずのイルカのヌイがフローリングの上に転がっていた。
 イルカさんをフローリングの床から救出して再び胸に抱き入れ、スマホを掴んで時刻を確認すると、すっかりいつもの起床時間を過ぎていた。
 二人がやって来るのは午後からなのでここは焦ることなく、フェロッソの散歩に繰り出すことにすると、私は焦ることなく身支度を済ませた。

 昼間になっていくにつれて暖かくなっていく穏やかな日常。
 技術的な進歩によって雨の予報は正確になり、雨雲レーダーを事前にしっかり調べていれば雨に打たれることも少なくなった。
 安全に歩ける散歩コースも確立して急ぐ時やまったり公園で過ごす時などバリエーションも豊かになって来て、散歩に出る楽しみは増えてきたところだった。

 フェロッソと一緒に歩む一人と一頭の暮らし。

 入学前の興奮と緊張は段々と今の習慣に慣れていく日々の中で払拭されつつある。

 父のいない生活に今だって不安はあるけど、自己管理することで得られる成長を実感することも出来る大切な機会だ。今を大事に過ごさなければならない、これから続く長い将来のためにも。

 寮生活といっても門限が決まっていること以外、月二回の寮会に出席することと共有スペースの清掃など当番をこなすことを除けば自由な風潮だ。

 郵便物も管理人さんが一旦預かってくれて私の部屋まで持って来てくれる。
 手紙の中身までは管理人さんも忙しいのでなかなか確認を手伝ってくれることは少ないが、その場合でもガイドヘルパーや訪問看護が来た時に郵便物の内容を代読してくれる。

 学生アパートで暮らすよりも仲間同士の交流はあるが、そこまで密なやり取りはない。
 そもそも目の見えない私は夜に出歩くような用事もなく、これ以上周りに迷惑を掛けられないから大人しくしている。
 完全に自由であることよりも、こうして管理が行き届いている方が、私にとって安全で快適であるという思いに間違いはないと思う。
 
 ゴールデンウイーク中ということもあって、寮生は実家に帰省している人や外に出掛けている人が多く寮内は実に静かだった。
 
 やがて、メッセージアプリに二人が合流したという連絡が入り、それから間もなく寮室にやって来て二人のおかげで一気に賑やかに変わっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...