視えない私のめぐる春夏秋冬

shiori

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第二章「dear my friend~砂絵のある部屋で~」2

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「お邪魔しまーす!」「お邪魔するわよー!」
「どうぞ、今日はゆっくりして行ってください!」

 私はエプロン姿のまま歓迎しようと出迎えて玄関に立つ。
 元気な二人の声を聞けて早速私は上機嫌になった。

 今日は奮発してチキンカレーを御馳走するつもりでいた。
 調理をするにはまだ時間が早いからと、私は静江さんがフェロッソのブラッシングをしたいと懇願していたのを思い出して、ブラッシングをさせてあげることにした。
 その間、恵美ちゃんが退屈するかと思ったが、テレビでプロ野球観戦を始めて、そっちに意識が集中してしまったようだ。
 家族と現地に観戦に行くこともあるそうで、偶然にも恵美ちゃんの意外な趣味を発見した形だった。

「本当にいいの?! ちょっとドキドキしてきちゃった……」

 ブラッシングしてもいいですよと声を掛けると静江さんは喜びのあまり挙動不審になった。そんなに喜んでくれるなら、早く実現させてあげればよかったと思ってしまう。

「今日は遠慮なくです。午前中に散歩してきたので、喜ぶと思いますよ」

 私の言葉に「それでは失礼して」とフローリングの床に座り、礼儀正しくブラッシングを始める静江さん。

「愛くるしいつぶらな瞳をして可愛いわね。フサフサだわぁ……幸せ……」

 終始、ご機嫌さが声に滲み出ていて幸せいっぱいな様子の静江さん。
 うっとりした調子でブラッシングをしてあげていることだろう。
 お利巧なのでお手も出来ますよと軽く口にすると、すぐに実践して喜びを爆発させていた。

「うぅぅ……ワンちゃんは賢くて散歩も一緒に出来て良いわね……。私も盲導犬でなくてもいいからワンちゃんを飼いたくなっちゃった。でも、うちには猫が二匹とインコがいるから、もうキャパ限界なのよね……」

 動物好きとは聞いていたが、家でも十分に充実した動物達との生活が垣間見られた。
 私は猫を飼ったことがないからちょっと興味がある。
 猫は気まぐれだというから、なかなか懐いてくれないと私のところにやって来て可愛がらせてもらえない可能性が高いが。
 そう考えると目の見えない私では、気まぐれな猫の居場所を見つけるだけでも至難の業かもしれない。

「喜んでもらえて良かったです。静江さんの可愛い声も聞けましたから」
「もう……郁恵さんは相変わらず口が上手いわね」

 静江さんとの談笑は止まらないが、そろそろチキンカレーの準備をする頃合いかもしれないと思って私は立ち上がった。いつかまた静江さんが来た時に、一緒にフェロッソのシャンプーを手伝ってもらうのはいいかもしれない。
 今でも1~2週に1回ほどシャンプーをしてあげるようにしているが、飼い主が至らないばかりにフェロッソに可愛そうな思いをさせることだけはしたくないからね。
 
 そんなことまで考えていると、今度は恵美ちゃんが私に気になったことがあったようで声を掛けてきた。
 どうやら実況のアナウンサーの音声を聞く限り、大差で恵美ちゃんの推しチームが勝っているらしい。安心してテレビの前に座ってかじりつく必要がなくなったみたい。

「ねぇ? この砂絵に描かれてる女の子、郁恵でしょう?」

 何が気になったのかと思ったが、壁に掛けてある砂絵のことだった。

「うん、そうだよ。お父さんがくれた砂絵サンドアート
 意地悪で私のことが描いてあるって最初は教えてくれなかったんだけどな」

 思い出深い、私を変えた一枚の砂絵。
 私はどんな絵が描かれているのか、人から聞いた話から想像することしか出来ないが、父から貰ったプレゼントの中で一番大切にしている。

 結果的に未来を暗示するような一枚。
 父は砂絵に影響されて本当に砂浜のある海に私が行くことになるとは思わなかっただろうが、私は現実の光景にして見せた。

 真美のおかげでもあるが、自分にそれだけの力が備わっていたなんて、今でも不思議な思い出だ。

「やっぱりそうなんだ。郁恵は絵になるくらい昔から美人だね」
「そうなのかな? 四年前は病院にいて病弱でもっと痩せてて背も小さかったから、変わってる子だと思ってたよ」

 褒めてくれるのは嫌な気分はしないが、昔は簡単に息切れしてしまうくらい身体が弱かったから、外出するのが辛かったのをよく覚えている。容姿のことなんてそこまで考える余裕はなかった。

「確かに今よりも痩せてて儚い雰囲気がするけど、それもまたアクセントになって広大な海岸の景色に合ってるわよ。いかにも芸術作品って感じ。まぁ私は絵のことは詳しくないからよく分からないけど」

 隣に立った静江さんが真っすぐな言葉で砂絵を褒めてくれる。
 あまり自分のことのような気がしなくて照れる程ではないが、これを描いた人のセンスは相当なものだと思う。
 お父さんは今でもこの砂絵を作ってくれた人のことを教えてはくれない。
 友人の奥さんだとは聞かせてくれたが、それ以上の言葉はなかった。

「そんなにその砂絵に興味を持つとは思わなかったよ。
 私、そろそろ調理を始めるね。今日は腕にりをかけて仕上げるから! 期待しててくださいね!」

 昔の自分を見られているようで大変こそばゆいが、二人からの褒め言葉に私は気分を良くして台所へと向かった。

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