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第九章「プリンセスハーモニー」4
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「郁恵君、少し話をしないか? 聞いてもらいたいことがあるんだ」
イヤホンを着けて本番で演奏する曲を聴いていると唐突に私は話しかけられた。私を”君呼び”する人は一人しか思い浮かばない。
クリスマス当日、喫茶さきがけに私は午前中から来ていた。
少しだけクリスマスケーキの販売の手伝いをサンタ衣装に着替えてしていたが今は着替えを済ませて休憩中だ。
今日はランチからお客さんが多いので比較的空いている二階席でイヤホンを着けて演奏会本番のイメージトレーニングをしているところだった。
「お師匠さんですか?! こんな時間にどうしたんですか?」
「あぁ、神崎だよ。往人が来れなくなったことは聞いているだろう。
その件で少しばかり、話しておきたいことがある」
往人さんが体調不良になり、お仕事を休むことは先ほど聞かされた。
それは残念なことだけど、身体を治してもらうのが一番。
私は本番の演奏が終わるまであまり考えないようにして二階席で静かにしていた。
いつになく真剣な口調で私に話しかけて来るお師匠さん。込み入った話であることを想像して肩に力が入った。
わざわざ私のところまで話しかけてくれたのも驚きだが、パリに行くため関空に行かなければならない時刻が迫っているはずなのに、一体どうしたのかと思った。
「お時間は大丈夫なのでしょうか?」
「心配はいらんよ、長話をするつもりはない。予定通り飛行機には間に合わせるさ」
「分かりました、ここで大丈夫ですか?」
「もちろんだ、まぁ……気負わず聞いてくれ」
それからお師匠さんは先ほど家であった出来事を教えてくれた。
「そんなことを試していたのですね……。
私の絵に色が宿るかもしれないと、でもそうじゃなかった」
お師匠さんの気持ちは何となく分かる。弟子である往人さんのことを想ってのことだろう。私も力になりたいと話していたからすぐに納得できた。
「そういうことだ。試して悪かった、こんなタイミングで往人に渡したこともな」
「いえ……それは気にしてません……。
ただ、私は体調を崩した往人さんのことが心配なだけですから」
真っすぐに私はお師匠さんに思ったことを言った。
私の心の内が伝わってしまったとしても悔やむことはない。
告白するよりも、往人さんの元気に戻ってくれることの方が大切だ。
「だろうな、顔を見ていれば分かる。
それなら、あいつは話したがらないだろうから、もう一つ教えておいた方がいいだろう。
真っ赤な血を見て貧血を起こしたのは今回が初めてではない。
一番酷かったのは、母親が亡くなった時のことだ」
それを聞いた瞬間、背筋が凍るような思いだった。
軽々しくするような話ではないことはすぐに分かる。ショックを受けたであろう往人さんだったらなかなか躊躇ってしまって話すことが出来ないだろう。
往人さんのお母様が四年前に亡くなったことは聞いていたが、詳しいことは耳にしていない。
それは伏せられてしかるべきことだと受け入れていたから。
私は往人さんに秘められた辛い記憶と向き合う覚悟を受け入れようと心を落ち着かせた。
イヤホンを着けて本番で演奏する曲を聴いていると唐突に私は話しかけられた。私を”君呼び”する人は一人しか思い浮かばない。
クリスマス当日、喫茶さきがけに私は午前中から来ていた。
少しだけクリスマスケーキの販売の手伝いをサンタ衣装に着替えてしていたが今は着替えを済ませて休憩中だ。
今日はランチからお客さんが多いので比較的空いている二階席でイヤホンを着けて演奏会本番のイメージトレーニングをしているところだった。
「お師匠さんですか?! こんな時間にどうしたんですか?」
「あぁ、神崎だよ。往人が来れなくなったことは聞いているだろう。
その件で少しばかり、話しておきたいことがある」
往人さんが体調不良になり、お仕事を休むことは先ほど聞かされた。
それは残念なことだけど、身体を治してもらうのが一番。
私は本番の演奏が終わるまであまり考えないようにして二階席で静かにしていた。
いつになく真剣な口調で私に話しかけて来るお師匠さん。込み入った話であることを想像して肩に力が入った。
わざわざ私のところまで話しかけてくれたのも驚きだが、パリに行くため関空に行かなければならない時刻が迫っているはずなのに、一体どうしたのかと思った。
「お時間は大丈夫なのでしょうか?」
「心配はいらんよ、長話をするつもりはない。予定通り飛行機には間に合わせるさ」
「分かりました、ここで大丈夫ですか?」
「もちろんだ、まぁ……気負わず聞いてくれ」
それからお師匠さんは先ほど家であった出来事を教えてくれた。
「そんなことを試していたのですね……。
私の絵に色が宿るかもしれないと、でもそうじゃなかった」
お師匠さんの気持ちは何となく分かる。弟子である往人さんのことを想ってのことだろう。私も力になりたいと話していたからすぐに納得できた。
「そういうことだ。試して悪かった、こんなタイミングで往人に渡したこともな」
「いえ……それは気にしてません……。
ただ、私は体調を崩した往人さんのことが心配なだけですから」
真っすぐに私はお師匠さんに思ったことを言った。
私の心の内が伝わってしまったとしても悔やむことはない。
告白するよりも、往人さんの元気に戻ってくれることの方が大切だ。
「だろうな、顔を見ていれば分かる。
それなら、あいつは話したがらないだろうから、もう一つ教えておいた方がいいだろう。
真っ赤な血を見て貧血を起こしたのは今回が初めてではない。
一番酷かったのは、母親が亡くなった時のことだ」
それを聞いた瞬間、背筋が凍るような思いだった。
軽々しくするような話ではないことはすぐに分かる。ショックを受けたであろう往人さんだったらなかなか躊躇ってしまって話すことが出来ないだろう。
往人さんのお母様が四年前に亡くなったことは聞いていたが、詳しいことは耳にしていない。
それは伏せられてしかるべきことだと受け入れていたから。
私は往人さんに秘められた辛い記憶と向き合う覚悟を受け入れようと心を落ち着かせた。
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