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第四話「たった一つの願い」1

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 翌日、昼休みが終わり、これから部活会議が始まるという時刻になって、羽月は生徒会室に放送で呼び出しを食らった。
 同じく呼び出されたのは、別のクラスの生徒が二人いたようで、すでに事情を把握していた羽月は深刻な面もちで教室にいるであろう浩二の元へと向かった。



(私一人で解決できる範疇はんちゅうを超えてる、申し訳ないけど、浩二を呼ばなきゃ!)

 気まずさとか、モラトリアムだとか言っていられない、このままでは浩二と一緒に演劇をするという約束も果たせなくなってしまうかもしれない。

 浩二に頼るということ自体が懐かしい心境にさせてしまうが、今はそんな感傷に浸っている状況ではない。

 あの時、何のために漆原うるしばら先生のところに出向き、無理を言って一緒のクラスにいれてもらったのか、私情だけで言っているんじゃないって、考えに考え懸命にアピールして、漆原先生は私の気持ちを理解してくれた。

 その判断は合理的な理由というには無理があったし、リスクがある事も承知で受けてくれたので先生には感謝するほかなかった。先生は私たちの関係だって知っていたのに。

 だから、私はちゃんと応えないと、みんなと一緒にさらなる高みへ行くために。

 私はいてもたってもいられず、浩二の姿を求めて教室へ向かって早足で走る。
 そして、まだ慣れない演劇クラスの面々が揃う教室に入って、いつものように席に座る浩二の姿を見つけた。

「浩二」

 私はそのまま席まで向かい、間髪入れずに話しかけた。

「どうしたんだ、そんなに慌てて、生徒会室に行くんじゃないのか?」

 慌てた様子でやってきた私に浩二は驚いているようだった。名前を呼ばれ浩二は事情も分からないから、不思議そうに制服姿の私を見ていた。

「一緒に来てほしいの、もしかしたら、一緒に演劇できないかもしれない」
「ええっ、それってどういうことだ? それに、今から部活会議の時間だろ?」
「一大事だから、私たちが戻るまでは自習にしましょう」

 真剣な表情で訴えかける私の姿に、浩二は珍しく動揺していた。
 そんな私たちの様子をみて、浩二の前の席に座る内藤くんが口を開いた。

「行ってきたらどうだ? 浩二、一大事なんだろ? あとはこっちに任せておけばいいよ」
「いいのか?」
「ああ、それが浩二の役目だろ?」
「サンキューな、後を頼む」

 浩二が信頼する内藤くんに後を託して椅子から立ち上がる、私と浩二は教室を飛び出して、生徒会室に向かった。
 教室を出る直前、教室に残された唯花さんや内藤くんが心配そうにこちらを見ているのが確認できた。
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