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最終話「14少女漂流記」1
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凛翔学園転校から数日後、私は祖母の手記を探すために学園長と共に学園に隠された地下書庫の探索を始めることにした。
私は11桁の暗証番号が刻まれたカギとなる指輪を右手人差し指に着けて、学園長室へと向かった。
隠された手記を手に入れるため、必要な工程を考えここまで来たが、もう迷うことはなかった。
「人がいない夜間の方が都合がいいとは言ったけど、夜の学園を探索することになるなんて……」
人目を気にせず探索が出来るよう、陽が落ちるのを私は待った。
時刻はすでに20時を回っていて、すっかり夜になって暗くなっている。
学園のかなりの部分の照明は落とされ、異様な雰囲気のあるホラースポットのような様相に変化していた。
ローファーを履いて忍び足でやってきたが、それでも足音がすると異常に気になってしまうほど、人気のない夜の学園を歩くというのは雰囲気満載であった。
「ゆ、幽霊なんて怖くないんだからっ」
私は恐怖心を紛らわせようとしたが咆えてみたが、情けないくらいの震え声でどうしようもなかった。
「ビビってない、ビビってない、ビビってない、怖くない、怖くない、怖くないよぉ……」
薄暗い廊下を歩きながら呪文のように吐いていると余計に恐怖心を自分で煽っているようで、まるで意味がない。
一体、私は一人で何をやっているのかと、我に返るところだった。
「紀子さん、いますか? お邪魔します」
私は紀子さんに声を掛けながら、そろりそろりと静かに学園長室に入った。
夜間にもかかわらず電気の付いた学園長室には、すでに紀子さんが机にパソコンを置いて集中していた様子で眼鏡をかけて業務を続けていた。
自然と背筋が伸びる広い学園長室の椅子に座る紀子さんの背後にある窓は、雨が一日降り続いているために、夜の暗闇と相成って雰囲気いっぱいだった。
「こんな夜更けに、わざわざお越しいただき、ありがとう」
「なんだか、雰囲気いっぱいですね」
疲れた表情を見せず、包容感を感じる穏やかな微笑みを浮かべ私を迎えてくれる紀子さん。
雨音が室内にまで響く学園長室にいると、何とも言えない緊張感があった。
「あら、こういうのが好みだったかしら?」
「いえ、全然。幽霊はとんでもなく嫌いです」
「確かに、人が喰われるのは見たくないものね」
「その冗談はキツ過ぎるでしょう……」
私はホラー映画も残虐な描写がある映像も苦手だ。
夜の密談に乗じて意味深な会話を繰り広げながら、書類が書き終わるまで私は紀子さんを待った。
「知枝さんは、厄災のことをどれぐらいご存じなのかしら? 知枝さんの目的は何なのかしら? 姉の手記を見つけて、厄災の真相を知り、その先に何が見えているのかしら?」
書類を書く手を一度止めて顔を上げると、フロントを上げピントを合わせてから、丁番を指で押さえ紀子さんがゆったりとした口調で問い掛ける。
その質問にどんな意図があるのか、私よりもずっと長い時を生きてきた紀子さん相手に、そのことを考えるのは難しいことに思えた。
私は祖母の後を継ぐものとして、思考を切り替えると、その問いに答えようと考え付いた言葉を紀子さんに向けて伝えることにした。
「祖母は厄災の生き残りで、祖母は厄災のような悲劇が繰り返されないことを願っていて、街の再建のために残りの生涯を捧げたと、この街の復興こそが祖母の願いであったと聞いています。
ただ、私はその厄災の原因も、何が街で起こり、どうして大勢の犠牲者が出て、そしてその中でなぜ祖母が生き残ることが出来たのか、14日間の出来事に関しては祖母から聞かされてはいないのです。
私はその答えに自分の手で調べて辿り着かなければならないと、そう思って生きてきました。これはおそらく、祖母から課せられた試練であり、宿題なのだと思います」
私は私なりに考えて、祖母が自分の言葉で伝えなかったのには、それだけ意味があることだと信じてきた。それがどういう意図や思惑があるのかは分からないけど、事実として経験したことを口頭で説明するのは難しいことなのかもしれないと思った。
機密保持として口止めされてきたとはいえ、祖母にとって厄災は思い出したくない記憶なのかもしれないとも思った上に、いずれ厄災の真実を何らかのきっかけで知ることになるだろうと、どこかで覚悟していた。
おそらく、自分が今まで関わって来た研究と無関係ではないだろうから。
「そうね、姉の気持ちも分からないでもないから、地下書庫に向かいながら、私の知っていることを話そうかしら。
もう、覚悟ができているのなら、私の口から話しても大丈夫でしょう」
そう言葉にして、紀子さんは立ち上がり、机の上に置いていた鍵束と懐中電灯を持った。
「知枝さん、脅かすようだけど、真実を知るという事は、それだけで罪であるということは覚えておいて。
あなたは真実を探求する中で、姉や政府が隠してきた秘密に触れることになるわ。それが国家機密となれば、これまで通り生きることも難しくなる。それだけは覚悟しておいて」
紀子さんは学園長というだけあり、大人だと感じた。
様々な人と関わり、知ることの危険性を経験してきたのだろう。
責任ある立場の振る舞い方、そのことを言われていることはよく分かった。
「はい、覚悟は出来ています。
祖母が何を見て、何を経験してきたのか、それを知るためにここまで来たのですから」
紀子さんは先に学園長室を出て、その後ろに私も付いて行く。
懐中電灯を灯し、人気のない廊下を歩いていく。雨が降りしきる夜の学園を歩くのは、肝試しのようで不気味な気分だった。
私は11桁の暗証番号が刻まれたカギとなる指輪を右手人差し指に着けて、学園長室へと向かった。
隠された手記を手に入れるため、必要な工程を考えここまで来たが、もう迷うことはなかった。
「人がいない夜間の方が都合がいいとは言ったけど、夜の学園を探索することになるなんて……」
人目を気にせず探索が出来るよう、陽が落ちるのを私は待った。
時刻はすでに20時を回っていて、すっかり夜になって暗くなっている。
学園のかなりの部分の照明は落とされ、異様な雰囲気のあるホラースポットのような様相に変化していた。
ローファーを履いて忍び足でやってきたが、それでも足音がすると異常に気になってしまうほど、人気のない夜の学園を歩くというのは雰囲気満載であった。
「ゆ、幽霊なんて怖くないんだからっ」
私は恐怖心を紛らわせようとしたが咆えてみたが、情けないくらいの震え声でどうしようもなかった。
「ビビってない、ビビってない、ビビってない、怖くない、怖くない、怖くないよぉ……」
薄暗い廊下を歩きながら呪文のように吐いていると余計に恐怖心を自分で煽っているようで、まるで意味がない。
一体、私は一人で何をやっているのかと、我に返るところだった。
「紀子さん、いますか? お邪魔します」
私は紀子さんに声を掛けながら、そろりそろりと静かに学園長室に入った。
夜間にもかかわらず電気の付いた学園長室には、すでに紀子さんが机にパソコンを置いて集中していた様子で眼鏡をかけて業務を続けていた。
自然と背筋が伸びる広い学園長室の椅子に座る紀子さんの背後にある窓は、雨が一日降り続いているために、夜の暗闇と相成って雰囲気いっぱいだった。
「こんな夜更けに、わざわざお越しいただき、ありがとう」
「なんだか、雰囲気いっぱいですね」
疲れた表情を見せず、包容感を感じる穏やかな微笑みを浮かべ私を迎えてくれる紀子さん。
雨音が室内にまで響く学園長室にいると、何とも言えない緊張感があった。
「あら、こういうのが好みだったかしら?」
「いえ、全然。幽霊はとんでもなく嫌いです」
「確かに、人が喰われるのは見たくないものね」
「その冗談はキツ過ぎるでしょう……」
私はホラー映画も残虐な描写がある映像も苦手だ。
夜の密談に乗じて意味深な会話を繰り広げながら、書類が書き終わるまで私は紀子さんを待った。
「知枝さんは、厄災のことをどれぐらいご存じなのかしら? 知枝さんの目的は何なのかしら? 姉の手記を見つけて、厄災の真相を知り、その先に何が見えているのかしら?」
書類を書く手を一度止めて顔を上げると、フロントを上げピントを合わせてから、丁番を指で押さえ紀子さんがゆったりとした口調で問い掛ける。
その質問にどんな意図があるのか、私よりもずっと長い時を生きてきた紀子さん相手に、そのことを考えるのは難しいことに思えた。
私は祖母の後を継ぐものとして、思考を切り替えると、その問いに答えようと考え付いた言葉を紀子さんに向けて伝えることにした。
「祖母は厄災の生き残りで、祖母は厄災のような悲劇が繰り返されないことを願っていて、街の再建のために残りの生涯を捧げたと、この街の復興こそが祖母の願いであったと聞いています。
ただ、私はその厄災の原因も、何が街で起こり、どうして大勢の犠牲者が出て、そしてその中でなぜ祖母が生き残ることが出来たのか、14日間の出来事に関しては祖母から聞かされてはいないのです。
私はその答えに自分の手で調べて辿り着かなければならないと、そう思って生きてきました。これはおそらく、祖母から課せられた試練であり、宿題なのだと思います」
私は私なりに考えて、祖母が自分の言葉で伝えなかったのには、それだけ意味があることだと信じてきた。それがどういう意図や思惑があるのかは分からないけど、事実として経験したことを口頭で説明するのは難しいことなのかもしれないと思った。
機密保持として口止めされてきたとはいえ、祖母にとって厄災は思い出したくない記憶なのかもしれないとも思った上に、いずれ厄災の真実を何らかのきっかけで知ることになるだろうと、どこかで覚悟していた。
おそらく、自分が今まで関わって来た研究と無関係ではないだろうから。
「そうね、姉の気持ちも分からないでもないから、地下書庫に向かいながら、私の知っていることを話そうかしら。
もう、覚悟ができているのなら、私の口から話しても大丈夫でしょう」
そう言葉にして、紀子さんは立ち上がり、机の上に置いていた鍵束と懐中電灯を持った。
「知枝さん、脅かすようだけど、真実を知るという事は、それだけで罪であるということは覚えておいて。
あなたは真実を探求する中で、姉や政府が隠してきた秘密に触れることになるわ。それが国家機密となれば、これまで通り生きることも難しくなる。それだけは覚悟しておいて」
紀子さんは学園長というだけあり、大人だと感じた。
様々な人と関わり、知ることの危険性を経験してきたのだろう。
責任ある立場の振る舞い方、そのことを言われていることはよく分かった。
「はい、覚悟は出来ています。
祖母が何を見て、何を経験してきたのか、それを知るためにここまで来たのですから」
紀子さんは先に学園長室を出て、その後ろに私も付いて行く。
懐中電灯を灯し、人気のない廊下を歩いていく。雨が降りしきる夜の学園を歩くのは、肝試しのようで不気味な気分だった。
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