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2、相席
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チャイムの音と共に昼休みになり、眼精疲労を感じながら海人は机の上を片付ける。
各々が自由に昼休みの時間を過ごそうと動き出す中、海人は空腹を満たすために立ちあがり、一人食堂へと向かった。
学生達で賑わう食堂で海人は食券を買い、両手でトレイを持って列に並ぶ。
列は定食や麺類、丼物などに分かれているがどこも昼休みになるとすぐに長い行列ができる。
慣れた手付きで配膳をしていくおばちゃんと親しみを込めて生徒達に呼ばれている女性たちの頑張りによって列は直実に進んでいた。
昼食を摂る以外、特に用事のない海人はゆっくり歩いて食堂までやってきたこともあり、五分ほど待つことになった。
デミグラスソースのかかったハンバーグがメインのB定食を受け取り、海人は席に着いた。
(何といってもこの時間が一番幸福を実感するなぁ……)
自分が選んだメニューを誰にも邪魔されることなく食する。
長い授業を耐え抜いた後だからこそ余計に美味しさを噛み締めることができる海人にとって大事な時間であった。
「桜井君、隣いいかな? どこも席がいっぱいで相席する相手が見つからなくて……」
苦笑いを浮かべ、困り顔をした美雪がトレイを手にしてやってきた。
ぼやけた視界で視線を上げて、海人は美雪が確かに一人でいるのを確認した。
「うん、もちろん。珍しいね……いつもお弁当じゃなかった?」
美雪に対してテレビに出てくるアイドルを凌ぐ愛くるしさと親しみやすさを感じる海人にとっては、誰も相席を断らないだろうと思ったが、女性にとっては隣に座るのが誰でもいい訳でないのだろうと思い立った。
「そうなんだけど、今日は寝坊しちゃってお弁当を作る時間がなくって」
仄かな甘い香りを漂わせながら安心した様子で海人の隣の席に座る美雪。普段から真面目に振舞う美雪が口にするとお茶目な雰囲気に思えた。
「自分で作ってるんだよね? 凄く大変だと思うから偉いと思うよ」
「偉いかな? 一人分作るのは昨日の残り物とか冷凍食品を使えば難しくないんだよ、きっと桜井君でも出来ると思うよ」
「本当に? 僕はギリギリまで寝てるタイプだから、近本さんの真似は出来ないかな」
クラスメイトになった最初の頃よりも段々と自然なやり取りで会話ができるようになって来たと実感できた海人だが、すぐ隣に美雪がいることを感じると胸がドキドキした。
一緒に暮らしている母親から幼い頃から料理を学んできた美雪は才色兼備、家事一般も苦手なくこなしている。
だが、近頃はある事情で忙しくなり、母親が作った夕食の残り物や冷凍食品に頼ることがしばしばあった。
「実はね、最近野球部のマネージャーになったの。
前までは大会近くだけ手伝ってたんだけど、頼まれるとなかなか断れなくって。頑張ってる男の子を見ていると、あたしでも役に立てるからいいかなって。
それでいつの間にか朝練の時間も手伝ってる自分がいるの。
もう少し自分では自己管理出来ると思ってたんだけどなぁ……」
大変そうな想像とは裏腹に楽しそうに部活動のマネージャーに入ったことを打ち明ける美雪。
自分の知らないところで頑張っていることを知った海人は感心すると同時にどこか自分のためではない、知らない誰かのために尽くしていることに対して空虚な気持ちになった。
(近本さんは誰にでも優しくしているタイプの優等生だって分かってるはずなのに……なんでこんなに胸が苦しくなるんだよ……)
自分のことを特別に見て欲しいという感情を制御できない海人は望んでもいない苛立ちを覚えた。
「野球部のマネージャーなんて凄い大変そうじゃん。
近本さんは要領もいいから、難なくこなしてそうなイメージあるけど」
必死に思考を読まれないよう努めて、美雪の方を向く海人。
美雪は積極的ではないものの、好意を持たれていることを感じながら、会話を続けた。
「そんなことないって。あたしって非力だから。
運動部には向いてないんだよ。それに夏場は特に日焼けするのが辛くって。
だからやり甲斐はあるんだけど、結構人を選ぶ部活かなって……」
海人は日焼けするのが辛いという言葉を聞き、女の子なら当然かと感想を持った。
押しに弱い印象を持っている海人は美雪が苦労をしているのを感じた。
音を立てないよううどんを器用に食べる美雪。
トレイには湯気を立てるきつねうどんとかやくご飯が置かれていて、見ているだけで食欲をそそる昼食だった。
各々が自由に昼休みの時間を過ごそうと動き出す中、海人は空腹を満たすために立ちあがり、一人食堂へと向かった。
学生達で賑わう食堂で海人は食券を買い、両手でトレイを持って列に並ぶ。
列は定食や麺類、丼物などに分かれているがどこも昼休みになるとすぐに長い行列ができる。
慣れた手付きで配膳をしていくおばちゃんと親しみを込めて生徒達に呼ばれている女性たちの頑張りによって列は直実に進んでいた。
昼食を摂る以外、特に用事のない海人はゆっくり歩いて食堂までやってきたこともあり、五分ほど待つことになった。
デミグラスソースのかかったハンバーグがメインのB定食を受け取り、海人は席に着いた。
(何といってもこの時間が一番幸福を実感するなぁ……)
自分が選んだメニューを誰にも邪魔されることなく食する。
長い授業を耐え抜いた後だからこそ余計に美味しさを噛み締めることができる海人にとって大事な時間であった。
「桜井君、隣いいかな? どこも席がいっぱいで相席する相手が見つからなくて……」
苦笑いを浮かべ、困り顔をした美雪がトレイを手にしてやってきた。
ぼやけた視界で視線を上げて、海人は美雪が確かに一人でいるのを確認した。
「うん、もちろん。珍しいね……いつもお弁当じゃなかった?」
美雪に対してテレビに出てくるアイドルを凌ぐ愛くるしさと親しみやすさを感じる海人にとっては、誰も相席を断らないだろうと思ったが、女性にとっては隣に座るのが誰でもいい訳でないのだろうと思い立った。
「そうなんだけど、今日は寝坊しちゃってお弁当を作る時間がなくって」
仄かな甘い香りを漂わせながら安心した様子で海人の隣の席に座る美雪。普段から真面目に振舞う美雪が口にするとお茶目な雰囲気に思えた。
「自分で作ってるんだよね? 凄く大変だと思うから偉いと思うよ」
「偉いかな? 一人分作るのは昨日の残り物とか冷凍食品を使えば難しくないんだよ、きっと桜井君でも出来ると思うよ」
「本当に? 僕はギリギリまで寝てるタイプだから、近本さんの真似は出来ないかな」
クラスメイトになった最初の頃よりも段々と自然なやり取りで会話ができるようになって来たと実感できた海人だが、すぐ隣に美雪がいることを感じると胸がドキドキした。
一緒に暮らしている母親から幼い頃から料理を学んできた美雪は才色兼備、家事一般も苦手なくこなしている。
だが、近頃はある事情で忙しくなり、母親が作った夕食の残り物や冷凍食品に頼ることがしばしばあった。
「実はね、最近野球部のマネージャーになったの。
前までは大会近くだけ手伝ってたんだけど、頼まれるとなかなか断れなくって。頑張ってる男の子を見ていると、あたしでも役に立てるからいいかなって。
それでいつの間にか朝練の時間も手伝ってる自分がいるの。
もう少し自分では自己管理出来ると思ってたんだけどなぁ……」
大変そうな想像とは裏腹に楽しそうに部活動のマネージャーに入ったことを打ち明ける美雪。
自分の知らないところで頑張っていることを知った海人は感心すると同時にどこか自分のためではない、知らない誰かのために尽くしていることに対して空虚な気持ちになった。
(近本さんは誰にでも優しくしているタイプの優等生だって分かってるはずなのに……なんでこんなに胸が苦しくなるんだよ……)
自分のことを特別に見て欲しいという感情を制御できない海人は望んでもいない苛立ちを覚えた。
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必死に思考を読まれないよう努めて、美雪の方を向く海人。
美雪は積極的ではないものの、好意を持たれていることを感じながら、会話を続けた。
「そんなことないって。あたしって非力だから。
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押しに弱い印象を持っている海人は美雪が苦労をしているのを感じた。
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