ぼくと神獣様が本当の友達になるまで~鏡よ鏡、鏡さん。ぼくらはこの旅を無事に終えられますか?~

逢神天景

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第一章 旅立ち

③-2

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 さて、意気込んでランラットの巣を探す二人ですが……意気込みに反して、成果は芳しくありません。
 ランラットの巣は浅いのですぐに中身を取り出せますが、出てくるものはコインどころかネジや針金のようなガラクタばかりです。

「うーん、すぐ出てくるなら苦労しないか。いや、待てよ」

 顔に泥が付き、一度ランラットから反撃を受けた所で――ラミルは再度、鏡を見ます。先ほどと同じように、この場所の絵が浮かんでいます。

「……これの中心にあるのって、あの木の下だね。タニア、大樹の下にランラットの巣無い?」

「え? ……あ、小さい巣があったわ! ちょっと待ってね」

 タニアが手を入れてもぞもぞすると……中から、小さめのカウベルが出てきました。
 少しくすんでおり、欠けていますが……先ほど、ミルベライトが付けていたものと同じ形です。

「これじゃない?」

「やった、あっさり見つかったね! じゃあ、さっきのミルベライトに届けようか。おーい、しーちゃん!」

 子パッカの方を振り向くと、そこではビンゴおじさんがポーンとぶん投げられているところでした。

「「大丈夫ですか!?」」

 どずんとかなり大きな音を立て、ビンゴおじさんはお尻から着地します。しかしすぐに立ち上がると、パン! と手を叩いて受け止める構えを取ります。

「さぁ来い!」

「きゅい!」

「「なんで!?」」

 取り敢えずこれ以上やると怪我をしそうなので止めに入ります。ビンゴおじさんは大笑いすると、楽しそうに子パッカの頭を撫でました。

「元気の良い子ですな、ラミル坊ちゃん」

「うーん……元気が良いで済ませていいのかなぁ……」

「よく考えたら、アタシらの荷物を一人で軽々持っちゃうからね。これからは軽々にスモウをやっていいとはいえないわ」

 ラミルとタニアがため息をついていると、子パッカは喜びの舞いを踊り出しました。おそらくビンゴおじさんに勝ったから嬉しいのでしょう。
 その様子を見ていたラミルは子パッカに近づくと、彼の手を取りました。

「しーちゃん、お年寄りは労わらないとダメだよ。ほら、やり過ぎてごめんなさいってしなくちゃ」

「きゅい?」

「えっとね、一緒に遊んでても、痛い思いをしたら悲しいでしょ? だから、相手に痛い思いをさせたらちゃんと謝らないといけないんだ。ほら、ごめんなさいって」

 ラミルがペコっと頭を下げて見せると、子パッカは少し首を傾げながらも……褒められているわけじゃないということに気づいたか、ラミルの真似をして頭を下げました。

「そんな、坊ちゃん。遊んでただけですから」

 慌ててビンゴおじさんが恐縮すると、ラミルは首を振ります。

「しーちゃんは力持ちだって忘れてました。大丈夫とは思いますけど、誰彼構わず挑むようになったらいけませんから。ビンゴおじさん、ごめんなさい」

 ちょっとバツの悪そうな顔になるビンゴおじさん。しゅんとしている子パッカの手に、先ほど見つけたカウベルを置きます。

「ほら、しーちゃん。これを持ってあのミルベライトに元気を出して貰おう」

「きゅいっ!」

 気を取り直せたようで、子パッカはカウベルを握りしめて歩き出します。その後ろ姿を見て、ビンゴおじさんが軽く笑みを浮かべました。

「ふふ、しかしアレですな。人間の子どもに比べると随分と物分かりが良いというか、素直というか。うちの息子たちが跳ねっかえりだっただけですかな」

「物を――というか人間の常識を知らないだけで、知能が低いわけでも幼すぎるわけでもありませんから。少なくともぼくらの言葉を理解していますしね」

 子育てをとっくの昔に終え、子どもどころか孫すら独り立ちしたビンゴおじさんにとっては子パッカは子どものように見えているのでしょう。
 でも、ラミルにとっては違います。

「ぼくらはあくまで、『友達』として『人』付き合いを教えるだけですから。神獣様とのギャップや、個体差についても同様に」

「はっはっは、ラミル坊ちゃんは子どもらしからぬことを言いますな」

 腹を揺すって笑うビンゴおじさん。子ども扱いされて少し不満のラミルですが、相手は既に老齢なのですから誰でも子供に見えているのだと考え直します。

「ラミル、しーちゃんもう着いたみたいよ」

「おっと、急がないと」

 ラミルとタニア、ビンゴおじさんが子パッカとミルベライトの所に駆け寄ると……子パッカが悲しそうな顔でカウベルを握っていました。どうやら、ミルベライトが受け取ってくれないようです。

「モゥ……」

 悲痛な唸り声をあげながら、もぞもぞと動くミルベライト。
 このカウベルじゃ無かったのか――そう思ったラミルは、再度『パッカの鏡』を取り出し、問いかけました。

「鏡よ鏡、鏡さん。彼女がなんて言っているか分かりますか?」

 ゆらゆらと鏡面が揺らめき、文字が現れます。

『私が失くしたカウベル、壊れてしまっている。まさか壊れているなんて……それなら、いっそ見つからない方が良かった。どうして、悲しい、悲しい……せっかく、お父さんが選んでくれたカウベルなのに、悲しい、悲しい』

「……どうも壊れてるみたいね。どの辺が壊れてるのかしら」

 鏡の文字を見たタニアがそう呟きます。そして子パッカの持っているカウベルを覗き込むと……確かにキャスティングの縁の部分が欠けており、中で揺れるクラッパーが無くなっていました。
 道理で手に取った時に鳴らなかったわけです。

「きゅい~」

 しょぼんとへこむ子パッカ。しかしそれ以上に落胆しているのはミルベライトの方です。彼女は柵にもたれかかり、ピクリとも動かなくなってしまいました。
 どうした物かと思っていると――ぽつ、ぽつと雨粒が落ちてきました。

「雨……。ビンゴおじさん、ミルベライトたちは大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、坊ちゃん。殆どのミルベライトは雨が降ったら、自力で牛舎に戻ります。ワシらは迷った子がいないかチェックするくらいのモンです。とはいえ……この子は自力で動けそうにないな、どうしたものか」

 そう言ってビンゴおじさんは、ミルベライトに駆け寄ります。自力で立てないミルベライトはしょげたまま、ピクリとも動きません。
 ミルベライトの平均体重は、牛の中では軽い方で四百キロほどです。しかし、いくら何でもその体重を抱えて移動は出来ません。
 勿論、戦いが本業の冒険者や騎士なら話は別ですが……この場にいるのは、少年少女と老人。持ち上げるどころか押して動かすことも困難です。

「このままじゃ雨が強くなってきちゃうね。いくらしーちゃんでも、流石に持ち上げられないだろうし……ただでさえお乳が出なくて体調が悪いのに、雨ざらしになったら本格的にマズいかも」

「んー、それならいっそここに屋根でも作る? もしくは牛舎をここに移動させるとか……って、無理よねごめん」

 なんとはなしに提案するタニア。しかしラミルはポンと手を打つと、タニアに笑みを向けました。

「タニアちゃん、グッドアイディア。そうだ、牛舎を移動させればいいんだよ」

「えっ、いやアンタ……ミルベライトよりも重たいわよ牛舎なんて!」

 そう言うタニアの視線の先には、続々とミルベライトが戻っている牛舎が。しかしラミルは首を振ると、その横を指さします。
 そこには少し小さいですが、雨風が凌げそうな小屋がありました。

「ラミル坊ちゃん、アレなら確かに牛舎よりも小さいですが……しかしアレはただの作業小屋ですし、そもそも作業小屋だって動かすのは……」

「確かに動かすけど、こうするんだよ。鏡よ鏡、鏡さん。あの小屋を映して?」

 そう言ったラミルは、小屋に鏡を向けます。鏡面に小屋が映ったところでピカーっと光り出し、ラミルの前に作業小屋が現れました。
 中身はありませんが、ドアも動くし立派な作業小屋です。

「ぼ、坊っちゃんこれは一体!?」

「鏡で増やしたんですよ。ささ、ミルベライトを早くこの小屋に入れましょう」

「いや、鏡で増やしたって……え……ええ……?」

 困惑した様子のビンゴおじさん。しかしラミルは相変わらずテキトーな説明しかせず、ミルベライトを小屋の中に押し込みます。
 やや荒っぽいですが、柵を壊すことでころんと小屋の中に入るミルベライト。そして干し草を持ってきて、彼女の身体を温めます。
 これで取り敢えずは大丈夫でしょう。

「っと……だいぶ降って来たわね。ラミル、アタシたちも早く雨宿りしましょう?」

「そうだね、ビンゴおじさん……他のミルベライトは大丈夫ですか?」

 ラミルがビンゴおじさんの方を向いて問うと、彼はこくんと頷きます。

「それを見回るのはワシの仕事ですよ、坊っちゃん。むしろ彼女を小屋に入れてくれてありがとうございます。ささ、お三方は最初に入って来たピンクの屋根の小屋に戻ってくださいな」

「分かりました。行こう、二人とも」

 二人を連れて、ラミルは走り出します。
 ――壊れてしまった、あのミルベライトのカウベルを持ちながら。

                                         つづく
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