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第一章 旅立ち
④-2
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ラミルとタニア、そして子パッカは……ビンゴおじさんに書いてもらった紹介状を手に、鍛冶屋を訪れていました。
看板には大きく『ガポン鍛冶屋』と書いてあります。
「結構汚い看板だねぇ」
「アンタ店主にぶっ飛ばされるわよ」
率直な感想を言うラミルと、そんな彼に呆れるタニア。そんな彼らはおいておいて、さっさとドアを開けて中に入る子パッカ。
「きゅいー?」
やってるー? みたいなノリで入っていった子パッカ。それを追いかけて二人もドアを潜ると、そこには所狭しと金属の作品が並んでいました。
「わぁ」
博物館のような光景に思わず声を出してしまうラミル。時計や水差し、鏡、食器と言った調度品に始まり、まるで美術品のように輝く剣や斧、甲冑など。
古めかしいそれらは男心をくすぐるものだったようで、ラミルと子パッカは足を止めて見惚れてしまいます。
このお店は鍛冶屋ですが、アンティークものなどの修理やその販売も行っているようです。だからビンゴおじさんが紹介してくれたのでしょう。
「ね、ね。ちょっと見ても良いかな」
「きゅいきゅい」
「……アタシは先に店長さんに会いに行ってくるわよ」
そんな役に立たなくなった二人をしり目にタニアが奥に目をやると、そこでは細身でほほがこけたおじさんが椅子に座って新聞紙を読んでいました。
「らっしゃい。……ん? ガキが何の用だ」
新聞から顔をあげて、腰から下しか無いエプロンをつけたおじさんが立ち上がります。ビンゴおじさんも大柄でしたが、それ以上に背が高いです。
恐らくこの人が店主のガポンさんでしょう。無愛想にこちらを見た彼は、タニアの前まで歩いてきました。
「ここは駄菓子屋じゃねえぞ。ってか、その珍妙な生き物は何だ……?」
不思議そうな顔をするガポンさん。しかしそれを無視して、タニアはペコっと頭を下げました。
「初めまして。私はタニア・マーシュと申します。あっちの彼はラミル。ビンゴおじさん――ビンゴ・マクドナルド氏の紹介でやって来ました」
そう言ってタニアが紹介状を渡すと、ガポンさんは少し驚いた目をしてそれを受け取りました。暫く読んだ後、なるほどとうなずきます。
「お前らが何で来たのかは分かった。それじゃあ、そのカウベルを見せてみろ」
子パッカがカウベルをガポンさんに渡すと、ガポンさんはそれをジッと眺めます。上下さかさまにしてじっくり見た後に……スッと横の方を指さしました。
「あっちに新しいカウベルがある。これに似た奴があるかもしれないから、持っていきな」
「いえ、ぼくらは新しいカウベルが欲しいんじゃなくて……これを直して欲しいんです」
ラミルがガポンさんに言うと、彼は舌打ちしてさっきまで座っていた椅子の方へ。そして荒々しく腰を下ろすと、大きくため息をつきました。
「オレは割と腕のいい鍛冶師だ。それはビンゴさんから聞いていると思う。……しかし、どんなに腕が良かろうと材料が無いんじゃどうしようもねぇ」
「いえ……確かに部品というか、直すためのパーツが無いのは分かっています。でも、ガポンさんならそれに近い物を作れるんじゃないかって……」
「無理だ。そういう次元じゃねえ」
ラミルの子どもらしい雑な頼み方を、ガポンさんは一蹴します。そしてカウベルを彼らに見せると、指でそれを突きました。
キンッ……と澄んだ音が鳴ります。とても壊れているとは思えません。
「こういう楽器みたいな物を『直す』っていうのは、同じ音が出るようにするってことだ。……だが、このカウベルに使われている金属は無い。違う金属で継ぎはぎしたら、違う音になる。即ち、それはもう別のカウベルだ」
ラミルたちが黙って聞いていると、ガポンさんは言葉を続けます。
「違う金属でそれっぽく作ることは可能だが、しかしそんなんじゃちゃんと『直せた』とは言えねえ。オレは安い仕事といい加減な仕事はしたくない。『直して欲しい』と言われたのに、それっぽい物を作って妥協するなんて嫌だね」
職人らしい発言です。ただ一方で……ラミルは彼の発言にも一定以上の『理』があるなとも感じていました。
もし『それっぽい』物で妥協したとして……それを見破られてしまえば、あのミルベライトを余計に悲しませてしまうでしょう。それは避けなければなりません。
「そんなに貴重な金属なんですか?」
ラミルが言うと、ガポンさんは彼をジロッと睨みつけながらカウベルを近づけてきました。
「同じ種類の金属……なら、別にうちにも在庫はある。しかし新し過ぎるんだよ」
「新し過ぎる……あ、経年劣化の具合ってことですか?」
タニアが問うと、こくんとガポンさんは頷きます。
「そうだ。このカウベルに使われているのは導金と脈銅の合金。脈銅はまだしも、導金は作られた年代でマジで色からなにから全部違ってくるんだよ」
魔力や奇跡などで後天的に加工された金属のことを『魔鉄(まがね)』と呼び、導金は金をベースに生み出されたそれの一種です。
導金は非常に特殊な性質を持っており、『どれだけ加工しても、最初に生成された年代や加工の変遷が分かる』のです。
調べる方法はいくつもありますが……年代を特定出来る特徴の一つが色です。
「同じ年代に作られた導金があれば、同じパーツを作ることも出来るが……。狙った年代の導金なんて、取り寄せようと思って取り寄せられるもんじゃねえ。分かったか? 土台無理なんだよ、このカウベルを直すのは」
カウベルをラミルに押し付け、ふんと鼻を鳴らすガポンさんはくいっと親指でベルの山の方を指さします。
「さっきも言った通り、あん中から好きなのを選べ。言っとくが、うちに導金を使ったカウベルなんて無いしぞ」
当たり前ですが、導金は非常に高価なのでそう簡単に装飾品には使えません。実際の導金貨も大部分はメッキであると聞きます。
「導金はありふれているようで、貴重なんだ。分かったか?」
最後通牒のように――絶望を突き付けるかのように丁寧に説明をするガポンさん。その言葉を聞いて、俯いていたラミルは……ホッとしたような声を出して顔を上げました。
「良かった、もうこの世に無いとかじゃないんですね」
「……は?」
あまりにもあっさりした反応のラミルに、呆けた反応を返してしまうガポンさん。そんな彼をスルーして、ラミルはタニアの方を向きました。
「ねぇ、タニアちゃん。このカウベルと同じ年代の調度品って……分かる? 別に武器でも良いけど、四十年前の物なんて中々ないでしょ」
「は? まぁ分かるだろうけど……って、アンタまさか」
「うん。それじゃあこのお店の中にある調度品で、これと同じ年代の物を割り出してその中にある導金をかき集めたらいいんじゃないかな?」
継ぎはぎにはなりますが、それならば同じ年代の導金を集めることが出来ます。溶かして加工すれば、少なくとも見た目の色合いは同じものになるはずです。
ガポンさんはあんぐりと口を開けると、ブルブルと首を振りました。
「い、いやいや待て待て。ここにあるモンはガキの小遣いで買えるようなモンじゃねえぞ? しかも仮に導金が使われてたとしても、これを直す量をってなったら一個や二個じゃ無理だ! いくら世話んなってるビンゴさんの頼みとはいえ……流石にこのカウベル一つ直すために、売りものを無料で鋳つぶす義理はねえ!」
「いいですよ、使う分は全部買いますから。後で値段教えてくださいね」
流石はボンボン、即決です。あまりのレスポンスの速さにガポンさんが唖然としたところで、ラミルはタニアに指示を出しました。
「じゃあ、近い年代の奴らを片っ端から集めて!」
「分かったわ、およそ四十年前ね。えーっと……うん、この時計は裏にイーサージの銘があるから約七十年前……こっちはバライカ? ってことは四十年前くらいね。正確には四十七年前の奴かしら。こっちはジンスカンの町で作られた量産品のネックレス……」
そう言いながら、タニアは室内にある物を片っ端からチェックしていきます。そのあまりの早業に、ガポンさんは少し引き気味です。
「な、なんで見ただけで年代が分かるんだ? 作られた場所も、作った奴も! オレでも全然分かんねえのに」
「商人の娘ですから! あ、ガポンさん。この懐中時計、偽物ですよ。値札の額を後で書き換えておいた方が良いです。逆にこっちは安すぎます、この十倍でも買う人は買いますから。……っていうか、ここにある物殆ど値付けが雑過ぎませんか? ちゃんと目利きしてます?」
「いや、オレの仕事は鍛冶師であって直したりが主だから……だいたいは近くの鑑定人に頼んで値段を付けて貰っている」
「自分で目利きも出来ないなんて、それでも商売人ですか! 適正な値段で売らないと、お客さん離れますよ!」
いきなり鍛冶屋に説教を始めてしまうタニア。彼女らしいといえば彼女らしいですが、流石のガポンさんもたじたじです。
あまり室内は広く無かったため、一時間もすれば目当ての年代の物をだいたい洗い出すことが出来ました。後はこれらを買い取って、中の導金を取り出すだけです。時計の文字盤や燭台の飾り部分など……小さく、細かい場所にある導金を。
「……えーっと、全部で二百三十五万シードだな」
「じゃあこちらを」
小切手を差し出すラミル。ガポンさんはうわぁ……という顔をすると同時に、その小切手に書かれている紋章を見て目を見開きます。
「これ……」
「あ、すいません……またやっちゃいました。ぼくの名前はラミル・グラーノ。冴えない領地の冴えない領主の四男坊です」
いつも通りほんわかした笑顔でぺこりと頭を下げるラミル。
「ただいま神獣様と『連星の試練』中です」
ガポンさんはポカーンと口を開けてラミルと視線を合わせ……次いで、子パッカの方を見ました。彼はあまり信心深い方ではありませんが、神獣様が一体何をしているのかは知っています。
だから彼は、小切手を破りました。
「領主様の息子様とは知らずに無礼を働きました。このガポン、全力でことに当たらせてもらいます」
しっかりと頭を下げ、礼を尽くすガポンさん。そしてラミルの方はそういう対応をされることも慣れていますので――頷いて、笑みを浮かべました。
「ありがとうございます。それじゃあ導金を引っぺがすので少々お待ちください!」
「はい」
ラミルは躊躇なく時計や燭台から導金をえぐり出し、集めて行きます。
全ては、あのミルベライトを助けるために。
つづく
看板には大きく『ガポン鍛冶屋』と書いてあります。
「結構汚い看板だねぇ」
「アンタ店主にぶっ飛ばされるわよ」
率直な感想を言うラミルと、そんな彼に呆れるタニア。そんな彼らはおいておいて、さっさとドアを開けて中に入る子パッカ。
「きゅいー?」
やってるー? みたいなノリで入っていった子パッカ。それを追いかけて二人もドアを潜ると、そこには所狭しと金属の作品が並んでいました。
「わぁ」
博物館のような光景に思わず声を出してしまうラミル。時計や水差し、鏡、食器と言った調度品に始まり、まるで美術品のように輝く剣や斧、甲冑など。
古めかしいそれらは男心をくすぐるものだったようで、ラミルと子パッカは足を止めて見惚れてしまいます。
このお店は鍛冶屋ですが、アンティークものなどの修理やその販売も行っているようです。だからビンゴおじさんが紹介してくれたのでしょう。
「ね、ね。ちょっと見ても良いかな」
「きゅいきゅい」
「……アタシは先に店長さんに会いに行ってくるわよ」
そんな役に立たなくなった二人をしり目にタニアが奥に目をやると、そこでは細身でほほがこけたおじさんが椅子に座って新聞紙を読んでいました。
「らっしゃい。……ん? ガキが何の用だ」
新聞から顔をあげて、腰から下しか無いエプロンをつけたおじさんが立ち上がります。ビンゴおじさんも大柄でしたが、それ以上に背が高いです。
恐らくこの人が店主のガポンさんでしょう。無愛想にこちらを見た彼は、タニアの前まで歩いてきました。
「ここは駄菓子屋じゃねえぞ。ってか、その珍妙な生き物は何だ……?」
不思議そうな顔をするガポンさん。しかしそれを無視して、タニアはペコっと頭を下げました。
「初めまして。私はタニア・マーシュと申します。あっちの彼はラミル。ビンゴおじさん――ビンゴ・マクドナルド氏の紹介でやって来ました」
そう言ってタニアが紹介状を渡すと、ガポンさんは少し驚いた目をしてそれを受け取りました。暫く読んだ後、なるほどとうなずきます。
「お前らが何で来たのかは分かった。それじゃあ、そのカウベルを見せてみろ」
子パッカがカウベルをガポンさんに渡すと、ガポンさんはそれをジッと眺めます。上下さかさまにしてじっくり見た後に……スッと横の方を指さしました。
「あっちに新しいカウベルがある。これに似た奴があるかもしれないから、持っていきな」
「いえ、ぼくらは新しいカウベルが欲しいんじゃなくて……これを直して欲しいんです」
ラミルがガポンさんに言うと、彼は舌打ちしてさっきまで座っていた椅子の方へ。そして荒々しく腰を下ろすと、大きくため息をつきました。
「オレは割と腕のいい鍛冶師だ。それはビンゴさんから聞いていると思う。……しかし、どんなに腕が良かろうと材料が無いんじゃどうしようもねぇ」
「いえ……確かに部品というか、直すためのパーツが無いのは分かっています。でも、ガポンさんならそれに近い物を作れるんじゃないかって……」
「無理だ。そういう次元じゃねえ」
ラミルの子どもらしい雑な頼み方を、ガポンさんは一蹴します。そしてカウベルを彼らに見せると、指でそれを突きました。
キンッ……と澄んだ音が鳴ります。とても壊れているとは思えません。
「こういう楽器みたいな物を『直す』っていうのは、同じ音が出るようにするってことだ。……だが、このカウベルに使われている金属は無い。違う金属で継ぎはぎしたら、違う音になる。即ち、それはもう別のカウベルだ」
ラミルたちが黙って聞いていると、ガポンさんは言葉を続けます。
「違う金属でそれっぽく作ることは可能だが、しかしそんなんじゃちゃんと『直せた』とは言えねえ。オレは安い仕事といい加減な仕事はしたくない。『直して欲しい』と言われたのに、それっぽい物を作って妥協するなんて嫌だね」
職人らしい発言です。ただ一方で……ラミルは彼の発言にも一定以上の『理』があるなとも感じていました。
もし『それっぽい』物で妥協したとして……それを見破られてしまえば、あのミルベライトを余計に悲しませてしまうでしょう。それは避けなければなりません。
「そんなに貴重な金属なんですか?」
ラミルが言うと、ガポンさんは彼をジロッと睨みつけながらカウベルを近づけてきました。
「同じ種類の金属……なら、別にうちにも在庫はある。しかし新し過ぎるんだよ」
「新し過ぎる……あ、経年劣化の具合ってことですか?」
タニアが問うと、こくんとガポンさんは頷きます。
「そうだ。このカウベルに使われているのは導金と脈銅の合金。脈銅はまだしも、導金は作られた年代でマジで色からなにから全部違ってくるんだよ」
魔力や奇跡などで後天的に加工された金属のことを『魔鉄(まがね)』と呼び、導金は金をベースに生み出されたそれの一種です。
導金は非常に特殊な性質を持っており、『どれだけ加工しても、最初に生成された年代や加工の変遷が分かる』のです。
調べる方法はいくつもありますが……年代を特定出来る特徴の一つが色です。
「同じ年代に作られた導金があれば、同じパーツを作ることも出来るが……。狙った年代の導金なんて、取り寄せようと思って取り寄せられるもんじゃねえ。分かったか? 土台無理なんだよ、このカウベルを直すのは」
カウベルをラミルに押し付け、ふんと鼻を鳴らすガポンさんはくいっと親指でベルの山の方を指さします。
「さっきも言った通り、あん中から好きなのを選べ。言っとくが、うちに導金を使ったカウベルなんて無いしぞ」
当たり前ですが、導金は非常に高価なのでそう簡単に装飾品には使えません。実際の導金貨も大部分はメッキであると聞きます。
「導金はありふれているようで、貴重なんだ。分かったか?」
最後通牒のように――絶望を突き付けるかのように丁寧に説明をするガポンさん。その言葉を聞いて、俯いていたラミルは……ホッとしたような声を出して顔を上げました。
「良かった、もうこの世に無いとかじゃないんですね」
「……は?」
あまりにもあっさりした反応のラミルに、呆けた反応を返してしまうガポンさん。そんな彼をスルーして、ラミルはタニアの方を向きました。
「ねぇ、タニアちゃん。このカウベルと同じ年代の調度品って……分かる? 別に武器でも良いけど、四十年前の物なんて中々ないでしょ」
「は? まぁ分かるだろうけど……って、アンタまさか」
「うん。それじゃあこのお店の中にある調度品で、これと同じ年代の物を割り出してその中にある導金をかき集めたらいいんじゃないかな?」
継ぎはぎにはなりますが、それならば同じ年代の導金を集めることが出来ます。溶かして加工すれば、少なくとも見た目の色合いは同じものになるはずです。
ガポンさんはあんぐりと口を開けると、ブルブルと首を振りました。
「い、いやいや待て待て。ここにあるモンはガキの小遣いで買えるようなモンじゃねえぞ? しかも仮に導金が使われてたとしても、これを直す量をってなったら一個や二個じゃ無理だ! いくら世話んなってるビンゴさんの頼みとはいえ……流石にこのカウベル一つ直すために、売りものを無料で鋳つぶす義理はねえ!」
「いいですよ、使う分は全部買いますから。後で値段教えてくださいね」
流石はボンボン、即決です。あまりのレスポンスの速さにガポンさんが唖然としたところで、ラミルはタニアに指示を出しました。
「じゃあ、近い年代の奴らを片っ端から集めて!」
「分かったわ、およそ四十年前ね。えーっと……うん、この時計は裏にイーサージの銘があるから約七十年前……こっちはバライカ? ってことは四十年前くらいね。正確には四十七年前の奴かしら。こっちはジンスカンの町で作られた量産品のネックレス……」
そう言いながら、タニアは室内にある物を片っ端からチェックしていきます。そのあまりの早業に、ガポンさんは少し引き気味です。
「な、なんで見ただけで年代が分かるんだ? 作られた場所も、作った奴も! オレでも全然分かんねえのに」
「商人の娘ですから! あ、ガポンさん。この懐中時計、偽物ですよ。値札の額を後で書き換えておいた方が良いです。逆にこっちは安すぎます、この十倍でも買う人は買いますから。……っていうか、ここにある物殆ど値付けが雑過ぎませんか? ちゃんと目利きしてます?」
「いや、オレの仕事は鍛冶師であって直したりが主だから……だいたいは近くの鑑定人に頼んで値段を付けて貰っている」
「自分で目利きも出来ないなんて、それでも商売人ですか! 適正な値段で売らないと、お客さん離れますよ!」
いきなり鍛冶屋に説教を始めてしまうタニア。彼女らしいといえば彼女らしいですが、流石のガポンさんもたじたじです。
あまり室内は広く無かったため、一時間もすれば目当ての年代の物をだいたい洗い出すことが出来ました。後はこれらを買い取って、中の導金を取り出すだけです。時計の文字盤や燭台の飾り部分など……小さく、細かい場所にある導金を。
「……えーっと、全部で二百三十五万シードだな」
「じゃあこちらを」
小切手を差し出すラミル。ガポンさんはうわぁ……という顔をすると同時に、その小切手に書かれている紋章を見て目を見開きます。
「これ……」
「あ、すいません……またやっちゃいました。ぼくの名前はラミル・グラーノ。冴えない領地の冴えない領主の四男坊です」
いつも通りほんわかした笑顔でぺこりと頭を下げるラミル。
「ただいま神獣様と『連星の試練』中です」
ガポンさんはポカーンと口を開けてラミルと視線を合わせ……次いで、子パッカの方を見ました。彼はあまり信心深い方ではありませんが、神獣様が一体何をしているのかは知っています。
だから彼は、小切手を破りました。
「領主様の息子様とは知らずに無礼を働きました。このガポン、全力でことに当たらせてもらいます」
しっかりと頭を下げ、礼を尽くすガポンさん。そしてラミルの方はそういう対応をされることも慣れていますので――頷いて、笑みを浮かべました。
「ありがとうございます。それじゃあ導金を引っぺがすので少々お待ちください!」
「はい」
ラミルは躊躇なく時計や燭台から導金をえぐり出し、集めて行きます。
全ては、あのミルベライトを助けるために。
つづく
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