ぼくと神獣様が本当の友達になるまで~鏡よ鏡、鏡さん。ぼくらはこの旅を無事に終えられますか?~

逢神天景

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第一章 旅立ち

④-1

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 翌朝。
 ラミルは子パッカに揺すられて目を覚ましました。

「きゅい!」

「……おはよう、しーちゃん」

 見れば既にタニアはいません。眠い目をこすりながらベッドから降りると、まだ夜が明けていませんでした。
 いえ、薄っすら朝日の光が見えます。あと三十分もすれば完全に太陽が顔を見せるでしょう。

「だいぶ早いなぁ……虫取りの時くらいしかこんなに早く起きたこと無いよ」

 そう言ったラミルはベッドから降りて、パジャマを脱ぎました。高地で過ごしやすい気温とはいえ、一晩経てば寝汗をかきますから。
 そして新しいシャツに袖を通そうとしたところで――ドアの向こうで、ノックの音が聞こえます。

「ラミル、入るわよ」

「はーい」

「おはよう――って、アンタ! き、きききききき着替えてるなら言いなさいよ!!」

 バタン! と勢いよく扉を閉めるタニア。男女逆ならば分かりますが、何故男の自分が着替えていただけであんなに動揺されるのか分かりません。

「しーちゃんなんて、お洋服着てないのにね」

「きゅい?」

 子パッカに同意を求めますが、彼は何も分からず首を傾げます。取り敢えずラミルは着替え終え、ドアの外に声をかけました。

「タニアちゃん、もう着替えたよ」

「……朝ご飯、出来てるわよ」

 ドアを開けず、それだけ去っていくタニア。ラミルは首をかしげながらも……子パッカと共に、リビングの方へ向かいます。
 泊めてくれたビンゴおじさんの家は、平べったく広いタイプの木造建築です。実は地味に『お屋敷』以外に泊まったことが無かったラミルはちょっぴりワクワクしていました。

「おはようございます、ビンゴおじさん、イアおばさん。タニアもおはよう」

 リビングに入って声をかけると、ビンゴおじさんは新聞紙から顔をあげてこちらに笑顔を見せてくれます。タニアは少し顔を赤くしてそっぽを向いており、イアおばさんは皆のためにコーヒーを入れてくれているところでした。

「おはようございます、ラミル坊ちゃん。昨夜は寝られましたかな?」

「バッチリです。しーちゃんはタニアちゃんの方に行っちゃったんで、ちょっと寂しかったですけど」

「だって、男の子と二人きりで泊まるなんて何されるか分からないじゃない! しーちゃんはボディガードよ」

「きゅい!」

 タニアの前に立ち、ドヤっと胸を張る子パッカ。ラミルにしてみれば、そこまで警戒されると少し寂しいです。
 取り敢えずラミルもテーブルにつき、コーヒーが入ったマグカップを持ち上げました。まだ熱々の、ブラックコーヒーです。

「ラミル坊ちゃんは、ブラックでも飲めますか?」

「はい」

 ふぅふぅと吹きかけて冷まし、一口飲みます。芳醇な香りの後に苦みが広がり、飲み干すとほんの少し酸味が残ります。コクがあって酸味が少なめの、ラミルの好きなタイプのコーヒーでした。

「美味しいですね。タニアも飲んだら?」

 何故かブラックコーヒーを見て固まっているタニアに、遠慮しないようにと声をかけると……彼女は一瞬固まってから、意を決したようにマグカップを持ち上げました。
 ぐびっ、と喉が動き……そして数秒固まった後、タニアは引きつった笑みを向けます。

「お、美味しいわね!」

「……無理してない?」

「何が!?」

 食い気味に返事をするタニア。ラミルが鏡を取り出すと、タニアはグッとその腕を取り抑えます。

「アンタ、何しようとしてるの?」

「鏡に聞こうかなって……」

「余計なことしなくて良いのよ!」

 ラミルが渋々鏡を戻すと……その裏で、こっそりイアおばさんがタニアの分にミルクと砂糖をたっぷり入れてくれました。
 そしてウインクをパチリ。流石は何十年も『お母さん』をやっているだけあって、イアおばさんは気が利きますね。
 タニアも目でお礼を言って、チビチビとコーヒーをすすります。

「しかしラミル坊ちゃん、先ほどタニアさんから聞きましたが……あのカウベルを修理するとか」

「はい、もう新しい物も買えませんし……それなら直すしかないかなと思いまして」

 ラミルが頷くと、ビンゴおじさんは渋い顔になりました。

「しかし……いくらラミル坊ちゃんが不思議な力を持っていると言っても、どうやって直すんですかな? そちらはアンティークで部品も無いんでしょう?」

「この街にも金属を扱う……それこそ、鍛冶師とか武器屋さんはありますよね? 取り敢えずそこで相談してみようかなと思ってます」

 ルベライトは牧場以外何も無い町だなんて揶揄されることもありますが、いくらなんでも鍛冶屋と武器屋はあります。というか、これらが無い町を探す方が難しいです。
 冒険者たちが訪れる以上、そのどちらも必ず需要がありますからね。

「確かに素人の我々がここであーだこーだと言うよりは解決の糸口を見つけられそうですが……その、ですな」

 少し口ごもるビンゴおじさん。しかしすぐに顔をあげると、ラミルとタニアの顔をまっすぐに見据えて……落ち着いた声で話始めました。

「ご存じの通り、ミルベライトは十年も生きればだいぶ長生きです。通常は七、八年で死んでしまいますからね。しかしあの子はもう十五年も生きています、寿命が近いのです」

 昨日、ラミルが言っていたことなので、承知しているラミルとタニアはすぐに頷きます。

「そして昨夜、あの後……彼女の様子を見に行きましたが、もうだいぶ弱っています。恐らく……どれだけ頑張っても、あと数日生きられるかどうかです」

 暗に『そんな子を救ってどうする』とでも言わんばかりのビンゴおじさん。ラミルやタニア、そして子パッカにとっては『初めて出会った、困っているミルベライト』ですが……彼にとっては『二百頭も世話をしているミルベライトの一頭』です。
 しかも、ビンゴおじさんは他にもいくつか牧場を持っている……いわば経営者。その観点からいけば、そろそろ『助ける』にも別の方法を考えねばなりません。
 ラミルはビンゴおじさんの言葉に隠れている本音を……大まかに理解しながら、その上でやはり頷きました。

「ぼくの母は、亡くなる寸前まで笑っていました。病気で苦しかったと思いますが、それでも気丈に笑っていたんです。……だからこそ、苦しんだまま死なせるのは嫌です」

「……そうですか」

「昨日の夜、タニアとしーちゃんにも言いました。わがままだって、ただ偶々『困っているタイミング』に出会ったから助けたいだけだって。だからごめんなさい、もう少しだけぼくに足掻かせてください」

 ペコっと頭を下げるラミル。流石にここまで言われては、無駄だからやめろとは言えません。
 ビンゴおじさんは大きく息を吐いて、逆に頭を下げました。

「そこまで分かっているのであれば、ご協力は惜しみません。わしに出来ることがあれば何でもおっしゃってください」

「ありがとうございます、ビンゴおじさん」

 ラミルも顔を上げて笑みを向けます。そんな彼の横から、タニアがビンゴおじさんに話しかけました。

「最後にもう一度確認したいんですけど……本当に他に何も病気になっていないんですよね?」

「え、ええ。わしもこう見えて獣医師免許は持っておりますし、当然本職の獣医にも教会の聖女にもそれなりに腕のある魔術師にも見て貰いました。しかし乳が出ないこと以外は健康体です」

 やはり昨日の夜の結論に落ち着きます。
 あのカウベルが原因のストレスで……お乳が出ないのです。
 であれば、後はもう直す方法を探るだけ。

「じゃあおじさん、早速鍛冶屋か武器屋を紹介してください!」

「分かりましたぞ! この町なら……そうですな、ガポンのヤツがいいでしょう。アイツは相当腕が良い! 確かに中のクラッパーなど同じ物はもうないでしょうが、あ奴なら作ってしまうかもしれません!」

 男二人が立ち上がったところで――ふわっ、と良い香りがしてきます。そちらを見ると、イアおばさんがにこにこ笑顔でフレンチトーストと目玉焼きをテーブルの上に置いている所でした。

「朝ご飯は食べてから、行ってくださいね。急いてはことを仕損じますよ? 落ち着いて行動してくださいな」

「「は、はい」」

 怒られたラミルとビンゴおじさんは少ししゅんとして席に座り直します。
 その後ろでタニアは何とか一杯目のコーヒーを飲み終えるのでした。

                                   つづく
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