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第二章 募集
④-2
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「ラミル! カスターニエさんが一緒に来てくれるって言ってるのに……何食べてるのよ!」
もきゅもきゅ、と頬張ったラミルはそれを飲み込んでから……ニコッと笑ってタニアにも一つ渡しました。
「ネズオークの種子を焼いたヤツだよ! 美味しいよ!」
「いや美味しそうだけども!」
「きゅい!」
子パッカが目を輝かせたので、ラミルが一つ彼に渡します。そしてもきゅっ、と一口食べて――目をキラキラと輝かせ、踊り出しました。
「きゅいっ、きゅいきゅいっ!」
「これ、食べると脳がビックリするよ」
「ええ……」
ちょっと怖いことを言われ、躊躇するタニア。さっきお腹を掻っ捌いて取り出している所を見たから、なおさらです。
しかし……立ち上ってくる香りがあまりにも美味しそうで、ごくっと唾を飲み込んでしまいました。
「い、いただきます」
ほわぁ……と湯気が立つ、ネズオークの種子。黄色かった表面はほのかに赤みを帯びており、食欲をそろります。
口を当てると、ソーセージのような弾力が返ってきました。グッと歯を立てて噛みきると、ジューシーな肉汁と共に……身が口内でジャガイモのようにほろほろと崩れていきます。そして噛めば噛むほど、ジャガイモのような淡白ながらも素朴な味わいと、豚肉の旨味が交互に顔を出します。
まるで肉汁がしみ込んだジャガイモ……否、肉汁が染み出してくるジャガイモ。
「うわっ……美味しい、なにこれ。いくらでも食べられる……」
「ネズオークの身体の方はベーコンにすると美味しいらしいけど、種子はああやって焼くか燻製にするのが一番なんだってさ」
「スープに入れても美味しいんだけど、今日はこれくらいしか無いからねぇ」
そう言って豪快に笑うヴィルヤージュ。そして彼女は子パッカに、焼き種子を渡します。
「カスターニエが一緒に来てくれるそうだよ、ほらこれを渡してきてあげな」
「きゅい!」
グッとサムズアップを返す子パッカ。そしてカスターニエの前に行くと、彼女に向かって焼き種子をそっと差し出しました。
「きゅい~」
優しい表情で渡す子パッカ。カスターニエはそれを受け取ると、ポンと彼の頭に手を乗せました。
「ありがとう」
お礼を言われた子パッカは、目を細めて喜びます。そしてカスターニエは兜の口の部分を開けて食べようとしましたが……焼き種子が大きいからか、上手く食べられません。
やむを得ず、彼女が兜を外すと――中からは……端正な顔立ちをした美女が出てきました。
切れ長の目に、スッと通った鼻筋。薔薇のように真っ赤な髪は、肩の辺りで切りそろえられています。
しかし最大の特徴は……頬についた大きな傷でしょう。猛獣の爪で引き裂かれたような傷跡が残っており、そのせいで『誰もが振り向く美女』でありながら『歴戦の猛者』の風格を醸し出しています。
「わぁ……美人さん」
「ちょっ……ラミル、アタシだって五年もすればこれくらいには……うう、でも綺麗ね……どこの化粧下地使ってんのかしら」
ラミルとタニアがその美貌に見惚れていると、カスターニエは色白の肌を一瞬にしてタコのように紅潮させると……「そっ!」と奇声を発しました。
「そんなマジマジ、みな、見ないでください……!」
「あ、ごめんなさい」
すぐに謝罪して、視線を外すラミル。
カスターニエは小さく口を開いて焼き種子にかぶりつくと……美味しそうに、頬を綻ばせました。
「……美味しいです」
彼女がそう言うと、ラミルとタニア、そして子パッカはすぐにテンションを上げてうんうんと頷きました。
「美味しいですよね! ぼく、初めて食べました」
「普通、狩り立てのお肉って下処理しないと美味しく無いのにね」
「あっははは、まぁ普通の肉とはちょっと違うからねぇ。――ほら、もう少し食べな。ソースも作っておいたから」
「「ソースを!?」」
どうもさっき、彼女が物足りないからと言って作っていたのはソースだったようです。マスタードのような色合いで、ラミル達は焼き種子にかけてもらいました。
そして今度はラミルが、カスターニエの所へ持っていきます。
「ソースですって! カスターニエさんもいりますか?」
「……ありがとうございます」
彼女は顔を赤くしたまま、ソースをかけてもらいます。そしてそれを一口食べると、ホッとしたように息を吐きました。
「一人じゃない食事は……久しぶりです」
「あ、そうなんですか? やっぱり皆で食べると美味しいですよ!」
「きゅい!」
「ええ、とっても美味しいです」
ラミルと子パッカが無邪気に言うと、カスターニエはさらに肩の力を抜きます。焼き種子をパクパクと食べ終えると、改めて子パッカとラミル、そしてタニアに頭を下げました。
「改めまして、カスターニエ・キルサンタスです。今日から『連星の試練』に同行させていただくことになりました。どうか、よろしくお願いします」
「きゅっいー!」
ぴょこん! と跳ねて喜ぶ子パッカ。そしてるんたるんたとカスターニエの周りをぐるぐると回ります。
ラミルはそんな子パッカを見ながら、カスターニエに話しかけます。
「よろしくお願いします。何かご要望があれば言ってくださいね」
スッと手を差し出すラミル。カスターニエはその手を取り、ぎゅっと握りました。
「その、剣は振れませんが……盾くらにはなれると思うので、いざという時は皆さんを逃がしますね」
「そんな、逃げる時は皆で逃げましょうよ。誰かが犠牲になるのは良くないです」
驚いた様に言うラミルに、カスターニエは少しだけ微笑ましい思いになります。タニアから聞いたことが確かであれば、彼は貴族の子女のはずです。でも、冒険者を相手にそれを素で言える。
なるほど、タニアの言う通り……変な人であることは間違いないみたいです。
「大丈夫ですよ。さっきのネズオーク程度なら、そもそもわたしの身体に傷一つ付けられませんから。じゃれてるうちに一人にしていただければ、スパッとやっちゃいます」
ニッコリと、当たり前のように言うカスターニエ。彼女にとってネズオークは、ネズミとかその程度の扱いのようです。
「それって、冒険者では普通なんですか?」
「普通なんじゃないですか? 他の人の戦いなんて殆ど見たことありませんけど」
「へぇー、皆さん凄いんですね」
「普通なモンかい。アンタのジジイもそうだったけど、オーガよりも硬いもんねぇアンタら」
はぁ……と大きく煙管の煙を吐き出しながら、呆れた声を出すヴィルヤージュ。カスターニエの座る丸太に彼女も腰掛けると、脚を組んで煙管を咥えました。
「人間はそんな頑丈に出来て無いんだよ。ドワーフや獣人、オーガ種でも無傷とはいかない。鍛えたらそうなるってモンじゃないから、この子らに嘘教えんじゃないよ?」
オーガ種でも……という所で若干引くラミルとタニア。しかしナチュラルにフィジカルお化けな子パッカだけは、仲間だねと言わんばかりにうんうんと頷いています。
一方、自分が普通ではないと言われたカスターニエはちょっとショックを受けた顔で俯きました。頬が赤いところからみて、どうも恥ずかしいようです。
ヴィルヤージュはそんな彼女を見つつ、ニヤッと笑いました。
「まぁ、一緒に行くから……間違ってることがあったらあたしが訂正してあげるよ」
「「「へ?」」」
ラミル、タニア、カスターニエの言葉が重なります。子パッカもキョトンとした風に首を傾げました。
しかしヴィルヤージュはその反応が予想外だったのか、眉に皺を寄せて首を傾げます。
一体何か、コミュニケーションエラーでも起きたのでしょうか。
「ん? いやさっき、あたしも付いて行くって言っただろう? で、この小さい神獣様が良いよって言ってくれたじゃないか」
子パッカを指しながら言うヴィルヤージュ。
「えーっと、ぼくはてっきり……カスターニエさんを見つけるまでのことだとばっかり思ってたんですけど」
「おや、嫌かい?」
「い、嫌っていうか……むしろ助かりますけど、なんでいきなり……?」
カスターニエは、ラミルたちか勧誘しましたしタニアが金銭面の交渉もしてくれた上で同行してくれることになりました。
しかし、ヴィルヤージュには金銭的なことはおろかそもそも同行を願い出てすらいません。仲間は多い方が良いですが、理由が分からなければ少し不気味です。
ラミルたちの問いに……ヴィルヤージュは煙管をふかしながら、空を見上げました。
「あたしは見た目通り、もう300年は生きてるお婆ちゃんなのさ。長く生きてると、色々あってねぇ。……だからそんな、アンタらのひいお婆ちゃんすら生まれてない時に、厄介な約束をしちゃってね。それを果たさなくちゃいけないんだよ」
「その約束って……なんですか?」
「恥ずかしいから今は言いたくないねぇ。まぁ、何れ話すよ」
顔を前に戻すと、ちょいちょいと子パッカを手招きするヴィルヤージュ。子パッカが前に来ると、彼の頭を撫でました。
「今代の子は、素直でいい子だ。ふふ、見守ってあげたくなるってもんさ」
「……もしかして、先代の神獣様のことをご存じなんですか?」
ラミルが問うと、ヴィルヤージュはウインクを一つ。そして煙管の煙を吸い込みました。
「それも秘密」
「なんでも秘密ね」
「イイ女の秘訣だからね」
タニアの文句に、笑みを崩さないヴィルヤージュ。ラミルとタニアが子パッカの方を見ると……彼はヴィルヤージュの目をジッと見つめました。
微動だにせず、目を。
「……きゅい」
「ん?」
子パッカの目が……何故か、鏡面のように光ります。そしてその目にヴィルヤージュを映した後、こくんと頷きました。
「きゅいっ、きゅいきゅい」
確信を持った目を向けてくる子パッカ。タニアはその目を見て、一歩引きました。後はラミルに決めて貰うために。
そしてラミルはタニアから託されたことを理解した上で……笑みを浮かべました。
「ん……いいんだね。じゃあ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ラミルが頭を下げたので、タニアも頭を下げます。ヴィルヤージュは煙を吐き出し、満足げに唇を舐めました。
「ありがとう。やれやれ、さっき了解を得たとばかり思っていたから驚いちゃったよ」
冗談だか本気だか分からないことを言ったヴィルヤージュは、うんと伸びをします。それを見たタニアが、ふわぁと大きな欠伸をしました。
パッと慌てて口を抑えたタニアですが、ラミルはふふっと笑ってからパンと手を打ちました。
「えーっと、じゃあそろそろ戻りましょうか。明日、冒険者酒場の前で集合ということで」
「ちょっ、ラミル! 今のは別に眠いとかそういうことじゃなくて……」
すぐに反論しようとするタニアですが、他の皆はスルーして各々話始めます。
「わ、わたしは狩り残した最後の一体を狩ってから戻りますね」
「きゅいきゅい」
「あたしは酒でも飲んでねるかねぇ」
「あ、あの聞いて……」
皆でぞろぞろと立ち上がって帰る準備を始めたので、タニアはやむなくラミルのお腹をツンツンと突くだけにとどまります。
ラミルはそんな彼女に笑みを返しつつ、コホンと咳払いしました。
「じゃあ、明日改めて目的地は言いますので! 今夜は皆さん、ゆっくり休んでくださいね」
「はい」
「はいよ」
「きゅい!」
さて――ラミルたち旅の本格的なスタートですね。
3章へつづく
もきゅもきゅ、と頬張ったラミルはそれを飲み込んでから……ニコッと笑ってタニアにも一つ渡しました。
「ネズオークの種子を焼いたヤツだよ! 美味しいよ!」
「いや美味しそうだけども!」
「きゅい!」
子パッカが目を輝かせたので、ラミルが一つ彼に渡します。そしてもきゅっ、と一口食べて――目をキラキラと輝かせ、踊り出しました。
「きゅいっ、きゅいきゅいっ!」
「これ、食べると脳がビックリするよ」
「ええ……」
ちょっと怖いことを言われ、躊躇するタニア。さっきお腹を掻っ捌いて取り出している所を見たから、なおさらです。
しかし……立ち上ってくる香りがあまりにも美味しそうで、ごくっと唾を飲み込んでしまいました。
「い、いただきます」
ほわぁ……と湯気が立つ、ネズオークの種子。黄色かった表面はほのかに赤みを帯びており、食欲をそろります。
口を当てると、ソーセージのような弾力が返ってきました。グッと歯を立てて噛みきると、ジューシーな肉汁と共に……身が口内でジャガイモのようにほろほろと崩れていきます。そして噛めば噛むほど、ジャガイモのような淡白ながらも素朴な味わいと、豚肉の旨味が交互に顔を出します。
まるで肉汁がしみ込んだジャガイモ……否、肉汁が染み出してくるジャガイモ。
「うわっ……美味しい、なにこれ。いくらでも食べられる……」
「ネズオークの身体の方はベーコンにすると美味しいらしいけど、種子はああやって焼くか燻製にするのが一番なんだってさ」
「スープに入れても美味しいんだけど、今日はこれくらいしか無いからねぇ」
そう言って豪快に笑うヴィルヤージュ。そして彼女は子パッカに、焼き種子を渡します。
「カスターニエが一緒に来てくれるそうだよ、ほらこれを渡してきてあげな」
「きゅい!」
グッとサムズアップを返す子パッカ。そしてカスターニエの前に行くと、彼女に向かって焼き種子をそっと差し出しました。
「きゅい~」
優しい表情で渡す子パッカ。カスターニエはそれを受け取ると、ポンと彼の頭に手を乗せました。
「ありがとう」
お礼を言われた子パッカは、目を細めて喜びます。そしてカスターニエは兜の口の部分を開けて食べようとしましたが……焼き種子が大きいからか、上手く食べられません。
やむを得ず、彼女が兜を外すと――中からは……端正な顔立ちをした美女が出てきました。
切れ長の目に、スッと通った鼻筋。薔薇のように真っ赤な髪は、肩の辺りで切りそろえられています。
しかし最大の特徴は……頬についた大きな傷でしょう。猛獣の爪で引き裂かれたような傷跡が残っており、そのせいで『誰もが振り向く美女』でありながら『歴戦の猛者』の風格を醸し出しています。
「わぁ……美人さん」
「ちょっ……ラミル、アタシだって五年もすればこれくらいには……うう、でも綺麗ね……どこの化粧下地使ってんのかしら」
ラミルとタニアがその美貌に見惚れていると、カスターニエは色白の肌を一瞬にしてタコのように紅潮させると……「そっ!」と奇声を発しました。
「そんなマジマジ、みな、見ないでください……!」
「あ、ごめんなさい」
すぐに謝罪して、視線を外すラミル。
カスターニエは小さく口を開いて焼き種子にかぶりつくと……美味しそうに、頬を綻ばせました。
「……美味しいです」
彼女がそう言うと、ラミルとタニア、そして子パッカはすぐにテンションを上げてうんうんと頷きました。
「美味しいですよね! ぼく、初めて食べました」
「普通、狩り立てのお肉って下処理しないと美味しく無いのにね」
「あっははは、まぁ普通の肉とはちょっと違うからねぇ。――ほら、もう少し食べな。ソースも作っておいたから」
「「ソースを!?」」
どうもさっき、彼女が物足りないからと言って作っていたのはソースだったようです。マスタードのような色合いで、ラミル達は焼き種子にかけてもらいました。
そして今度はラミルが、カスターニエの所へ持っていきます。
「ソースですって! カスターニエさんもいりますか?」
「……ありがとうございます」
彼女は顔を赤くしたまま、ソースをかけてもらいます。そしてそれを一口食べると、ホッとしたように息を吐きました。
「一人じゃない食事は……久しぶりです」
「あ、そうなんですか? やっぱり皆で食べると美味しいですよ!」
「きゅい!」
「ええ、とっても美味しいです」
ラミルと子パッカが無邪気に言うと、カスターニエはさらに肩の力を抜きます。焼き種子をパクパクと食べ終えると、改めて子パッカとラミル、そしてタニアに頭を下げました。
「改めまして、カスターニエ・キルサンタスです。今日から『連星の試練』に同行させていただくことになりました。どうか、よろしくお願いします」
「きゅっいー!」
ぴょこん! と跳ねて喜ぶ子パッカ。そしてるんたるんたとカスターニエの周りをぐるぐると回ります。
ラミルはそんな子パッカを見ながら、カスターニエに話しかけます。
「よろしくお願いします。何かご要望があれば言ってくださいね」
スッと手を差し出すラミル。カスターニエはその手を取り、ぎゅっと握りました。
「その、剣は振れませんが……盾くらにはなれると思うので、いざという時は皆さんを逃がしますね」
「そんな、逃げる時は皆で逃げましょうよ。誰かが犠牲になるのは良くないです」
驚いた様に言うラミルに、カスターニエは少しだけ微笑ましい思いになります。タニアから聞いたことが確かであれば、彼は貴族の子女のはずです。でも、冒険者を相手にそれを素で言える。
なるほど、タニアの言う通り……変な人であることは間違いないみたいです。
「大丈夫ですよ。さっきのネズオーク程度なら、そもそもわたしの身体に傷一つ付けられませんから。じゃれてるうちに一人にしていただければ、スパッとやっちゃいます」
ニッコリと、当たり前のように言うカスターニエ。彼女にとってネズオークは、ネズミとかその程度の扱いのようです。
「それって、冒険者では普通なんですか?」
「普通なんじゃないですか? 他の人の戦いなんて殆ど見たことありませんけど」
「へぇー、皆さん凄いんですね」
「普通なモンかい。アンタのジジイもそうだったけど、オーガよりも硬いもんねぇアンタら」
はぁ……と大きく煙管の煙を吐き出しながら、呆れた声を出すヴィルヤージュ。カスターニエの座る丸太に彼女も腰掛けると、脚を組んで煙管を咥えました。
「人間はそんな頑丈に出来て無いんだよ。ドワーフや獣人、オーガ種でも無傷とはいかない。鍛えたらそうなるってモンじゃないから、この子らに嘘教えんじゃないよ?」
オーガ種でも……という所で若干引くラミルとタニア。しかしナチュラルにフィジカルお化けな子パッカだけは、仲間だねと言わんばかりにうんうんと頷いています。
一方、自分が普通ではないと言われたカスターニエはちょっとショックを受けた顔で俯きました。頬が赤いところからみて、どうも恥ずかしいようです。
ヴィルヤージュはそんな彼女を見つつ、ニヤッと笑いました。
「まぁ、一緒に行くから……間違ってることがあったらあたしが訂正してあげるよ」
「「「へ?」」」
ラミル、タニア、カスターニエの言葉が重なります。子パッカもキョトンとした風に首を傾げました。
しかしヴィルヤージュはその反応が予想外だったのか、眉に皺を寄せて首を傾げます。
一体何か、コミュニケーションエラーでも起きたのでしょうか。
「ん? いやさっき、あたしも付いて行くって言っただろう? で、この小さい神獣様が良いよって言ってくれたじゃないか」
子パッカを指しながら言うヴィルヤージュ。
「えーっと、ぼくはてっきり……カスターニエさんを見つけるまでのことだとばっかり思ってたんですけど」
「おや、嫌かい?」
「い、嫌っていうか……むしろ助かりますけど、なんでいきなり……?」
カスターニエは、ラミルたちか勧誘しましたしタニアが金銭面の交渉もしてくれた上で同行してくれることになりました。
しかし、ヴィルヤージュには金銭的なことはおろかそもそも同行を願い出てすらいません。仲間は多い方が良いですが、理由が分からなければ少し不気味です。
ラミルたちの問いに……ヴィルヤージュは煙管をふかしながら、空を見上げました。
「あたしは見た目通り、もう300年は生きてるお婆ちゃんなのさ。長く生きてると、色々あってねぇ。……だからそんな、アンタらのひいお婆ちゃんすら生まれてない時に、厄介な約束をしちゃってね。それを果たさなくちゃいけないんだよ」
「その約束って……なんですか?」
「恥ずかしいから今は言いたくないねぇ。まぁ、何れ話すよ」
顔を前に戻すと、ちょいちょいと子パッカを手招きするヴィルヤージュ。子パッカが前に来ると、彼の頭を撫でました。
「今代の子は、素直でいい子だ。ふふ、見守ってあげたくなるってもんさ」
「……もしかして、先代の神獣様のことをご存じなんですか?」
ラミルが問うと、ヴィルヤージュはウインクを一つ。そして煙管の煙を吸い込みました。
「それも秘密」
「なんでも秘密ね」
「イイ女の秘訣だからね」
タニアの文句に、笑みを崩さないヴィルヤージュ。ラミルとタニアが子パッカの方を見ると……彼はヴィルヤージュの目をジッと見つめました。
微動だにせず、目を。
「……きゅい」
「ん?」
子パッカの目が……何故か、鏡面のように光ります。そしてその目にヴィルヤージュを映した後、こくんと頷きました。
「きゅいっ、きゅいきゅい」
確信を持った目を向けてくる子パッカ。タニアはその目を見て、一歩引きました。後はラミルに決めて貰うために。
そしてラミルはタニアから託されたことを理解した上で……笑みを浮かべました。
「ん……いいんだね。じゃあ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ラミルが頭を下げたので、タニアも頭を下げます。ヴィルヤージュは煙を吐き出し、満足げに唇を舐めました。
「ありがとう。やれやれ、さっき了解を得たとばかり思っていたから驚いちゃったよ」
冗談だか本気だか分からないことを言ったヴィルヤージュは、うんと伸びをします。それを見たタニアが、ふわぁと大きな欠伸をしました。
パッと慌てて口を抑えたタニアですが、ラミルはふふっと笑ってからパンと手を打ちました。
「えーっと、じゃあそろそろ戻りましょうか。明日、冒険者酒場の前で集合ということで」
「ちょっ、ラミル! 今のは別に眠いとかそういうことじゃなくて……」
すぐに反論しようとするタニアですが、他の皆はスルーして各々話始めます。
「わ、わたしは狩り残した最後の一体を狩ってから戻りますね」
「きゅいきゅい」
「あたしは酒でも飲んでねるかねぇ」
「あ、あの聞いて……」
皆でぞろぞろと立ち上がって帰る準備を始めたので、タニアはやむなくラミルのお腹をツンツンと突くだけにとどまります。
ラミルはそんな彼女に笑みを返しつつ、コホンと咳払いしました。
「じゃあ、明日改めて目的地は言いますので! 今夜は皆さん、ゆっくり休んでくださいね」
「はい」
「はいよ」
「きゅい!」
さて――ラミルたち旅の本格的なスタートですね。
3章へつづく
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