悪役令嬢と入れ替えられた村娘の崖っぷち領地再生記

逢神天景

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一章

1話――見知らぬ、天蓋ベッド②

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「戻りまし……何してるんです?」
「遅かったわね。紅茶を淹れてるのよ。あんたも飲むでしょ?」
「あ、はい。ありがとうございます」

 カーリーの分のカップを用意し、紅茶を蒸らしている間に契約書に目を通す。
 ……すると、案の定困ったことが起きていた。

「リボ払いェ……悪名高いリボ払いを異世界で導入してるとか、この闇金なかなかやるわね」
「いやイザベルさん感心している場合じゃ……って、リボ払い? なんですかそれ」
「簡単にいえば、『毎月、決まった額だけ返せばいい借金』ね。どれだけ借りても、一定額よ」
「え、便利じゃないですか。やっぱりここの闇金は良心的ですね」

 断言しよう、こいつは元の世界にいたら絶対にマルチ商法に引っかかる。
 ……いやまぁ、十歳で死んでちゃその辺の知識が無くても当たり前か。

「あのねぇ」

 私だって詳しくは無いが、リボ払いというのは元金が中々減らないことで有名な支払方法だ。
 確かに「どれだけ借りても一定額の支払いで構わない」が、金を借りると必ず手数料が生じる。借りた額に応じて増えるその手数料は、いくら払っても借金が減らない。

「定額しか返さなくていい、って言ってるけどね……その返している金額ってのは手数料の部分なの。十万ミラ借りて、利息が二万ミラだとするわ」

 ミラっていうのはこの国の通貨の単位だ。金本位制を導入しているから、それなりに信用はある。

「毎月五千ミラだけ返すって契約だと……この契約書に書いてある利率で計算するなら、だいたい千七百ミラは利息を払うことになるわ」

 そうなると、元金である十万ミラは三千三百ミラしか減らないことになる。これでは返しても返しても元金が返せない。

「で、でも……それでも、ちゃんと毎月払えばいつかは無くなるのでは?」
「リボ払いのもう一つ面倒なところは、残高がいっしょくたにされることよ。普通の分割払いであれば、買った商品ごとに返済がある。でもこれは、全ての残高を一緒に計算されちゃうの」

 追加で五万ミラ借りても、返済額は五千ミラだ。でも、残高が一気に増えるので、返済する利息は二千五百ミラまで増える。
 すると、返済できる残高が七百ミラも減ってしまう。

「ひえ……」

 怯えた表情になるカーリー。ただもちろん、これはあくまで『カードのリボ払い』だ。この世界の……この会社の貸方はさらにえげつない。

「借りる度じゃなくて、これ毎月利息が計算しなおされるのよね。そして常に支払う額が利息の額を越えないようにされてる」
「え、それって……」
「そ、どれだけ払っても絶対に元金が減らないようになってるの。詐欺よ詐欺」

 とはいえ、貸金業法とか無い世界だししょっ引くのは難しそうね。別の罪状でひっとらえた方が早そう。どうせ他にも悪いことやってるだろうし。

「ただあれね、曲がりなりにも子爵家に貸すとか中々の度胸ね」
「あ、これは家じゃなくてイザベル様個人の借金ですね」
「はぁ!?」

 何をどうしたら子爵家の令嬢が借金をするのか。私は契約書をもう一度読み直すと、確かに名義がアザレア子爵家でなくイザベル本人になっている。

「いやー、まだイザベル様が実権を握って無かったころの借金なんですよね。一度に払う額がそこまで大きくないことからご両親にバレずに返済出来ていたみたいで。それ以降もちょくちょく利用していて……」

 私は呑気に話すカーリーの顔面を掴み、爪を食い込ませた。

「見てたんなら、あんたが止めなさいよ!」
「痛い痛い痛いです! で、でも返済額が少額だからいいかなって……」
「無限返済編が始まるだけでしょうが!」

 そのまま持ち上げて、ベッドに投げる。「きゃうん」と声を出して涙目になるカーリーはかなり可愛い。

「あー、もー。仕方ないから、全額一気に返すしか無いわね。現金で突きつければ向こうも納得するでしょ」

 頭を掻きながらそう言うと、カーリーが申し訳なさそうな顔になって起き上がる。

「で、でもですね……その、現金が入るのは四日後でして……」
「四日? ……ああ、納税日が四日後なのね。じゃあ四日待ってもらって全額返済して……」
「でも四日後には他の支払いがあって、こっちは借金じゃないんですが……」

 ベッドから立ち上がったカーリーは、部屋の入口に置いてあったカバンから書類を取り出す。そして出るわ出るわ、大量の請求書。
 見たくもないが、目を背けても状況は改善しない。止む無くそれらに目を通し……そして、借金がボコボコと膨れ上がっていた理由を察した。
 この領地、借金を返すために借金してやがる。

「自転車操業ね……うわぁ……もうやだ帰りたい……」
「あっはっは、何言ってるんですか。イザベル様のおうちはここですよ?」

 朗らかに笑うカーリー。私は彼女の右肩と左ひじを掴み、自分に引き寄せながら左足を思いっきり左足で払った。

「私の家はサッテ町の東部にある村よ!!!」
「大外刈りっ!?」

 床に肩から叩きつけられ、悶絶するカーリー。ゴムまりが弾むような音が響いたが、かなり痛かっただろう。

「何が悲しくてマイターサ領のラウワ区に来なくちゃならなかったのよ!! あーもー!」
「あれ、マイターサならヤオーミ区の方が好みでした? あっちは若干ドヤ街が多めですよ」
「賑やかで嫌いじゃないけど、比べるなら上品だからラウワの方が好きよ。ってそこじゃないのよ!! 私はサッテで平和に暮らしてたかったって言ってるの! あーもう……!」

 でもマイターサの領地を任された子爵になったのだ、こうもしていられない。

「そういえばマイターサって領地騎士団、無いのよね」
「はい。第一騎士団と第二騎士団が常駐しています。イザベル様が、王都ウキョートが近いのだからすぐに本隊も来れるし必要無いと」

 最初からあてにはしていなかったが、これで最悪騎士団を乗り込ませて有耶無耶にするっていう手は使えなくなった。
 第一騎士団とは、国の運営している軍隊だ。この世界にもいる巨大な魔物や、国同士の戦闘を主に担当している。
 そして第二騎士団がいわゆる警察。国家が運営しており、法律に則って犯罪者を逮捕する。

「こんなクソみたいな経営してて、領地騎士団なんて運営出来るわけないわよねぇ……」

 そう言ったところで、何か事態が好転するわけじゃない。
 私はカーリーを立ち上がらせ、部屋の外へ向かう。

「ど、どうされましたか」
「ここで話しててもらちが明かないわ。取り敢えず朝ご飯、そして明日までに何とか対策を練るわよ」

 口先三寸でどうにかなるような相手ならいいが、無限返済編を迫るような狡猾な闇金だ。こっちが領主だとしてもどうなるか分からない。

「腹が減っては戦は出来ぬ、よ。カーリー、コックに準備させなさい!」
「はい!」

 まずは腹ごしらえ。子爵家のコックなんて凄腕だろうし、さぞ豪華だろう。とても楽しみだ。

「でもコックはこの前クビにしたんで、ボクが作りますね」

 そんなことだと思ったわよチクショウ!!

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