悪役令嬢と入れ替えられた村娘の崖っぷち領地再生記

逢神天景

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一章

2話 情報収集、そして金融の理想②

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「イザベル様ー、三時のおやつを持ってきましたよー」
「あら、ちょうど良かったわ。入って良いわよ」

 ノック音とともに、カーリーの声が。中に入るように促すと、彼女は驚いた声をあげる。

「わっ! え……筆と羽ペンと眼鏡が浮いてる!? 羽まで生えてる!」
「おやつ、ありがとう。その子たちは私の使い魔よ、気にしないでいいわ」
「はえぇ……」

 彼女がポカンと口を開けて見つめているのは、三体の使い魔……筆(ドロー)と羽ペン(ライター)、そして眼鏡(ウォッチャー)の三体。それぞれ描く、書く、見るで情報収集をしてくれる使い魔だ。
 朝ご飯が終わった時、棚から拝借したそれらに魔法でAIを付与して使い魔にしたのだ。

「使い魔って……って、うわぁ! 凄いですねこれ、写真みたいです!」

 私が手に持つ書類を見て、簡単の声を出すカーリー。ちなみにライターの書く文字は私よりも綺麗……というか、ワープロで書いたレベルだ。そしてドローの絵も抜群に上手。彼女の言う通りほぼ写真だ。

「いいでしょう。ウインが姿を消して、彼女らを潜り込ませれば大体の情報をゲット出来るわよ」

 流石に蓄音機なんて持ってないし(あっても大きすぎて潜入には向かない)、映像を録画することは出来ないが……ウォッチャーで見た物を、ドローとライターでアップロードすることは出来る。
 ウインのAIが成長しているから数を数えたりは出来るし、どいつがトップっぽいかくらいは確認できる。

「便利なんですねぇ……」

 そう言いながら、チョコタルトを置いてくれるカーリー。一つ一つが一口サイズで、クッキーで出来た容器の中に入っている。可愛いし美味しそうね。
 私は茶葉を取り出して、フレアとアクアに紅茶を淹れるようにお願いする。

「まーね。じゃあ皆、ありがとう」

 三体にお礼を言ってそれぞれ物に戻し、ウインが持っててくれた紙に目を落とす。

「人数は五十人~六十人、建物は四階建て。入れなかったが地下室がある模様……。ん……こいつが頭なのね」

 脂ぎったオッサン、パパ活とかやってそうな雰囲気。太っていて、生え際が若干後退している。
 しかし、厳めしい目つきや拳だこからして……若い頃は武闘派だったのかもしれない。いや、今もそうでないと決めつけるのは早計ね。
 あとはもう一人若頭っぽいやつがいるとのこと、そして……まぁ、どう見てもヤのつく自由業の方々みたいな雰囲気が漂っている。

「これ相手に、どうやって借りに行ったのよ」

 ため息とともに独り言を漏らすと、カーリーが紅茶をサーブしながら答えてくれる。

「イザベル様が呼びつけて用立ててましたよ。うわー、凄いですね」

 相変わらずゴーイングマイウェイだ。向こうとしてもお得意様だったのだろうが。

「それで、何か作戦は思いつきました?」
 少し目をキラキラさせて問うてくるカーリー。既に時刻は昼下がり。明日返済である以上、この辺で指針を決めておかないと対処が間に合わなくなる。
「まぁ、概ね?」

 そう言いながら、私は紙を持ってくる。そして再度、ライターを呼び出した。

「というか、紙ってこんなにたくさんあるのね。私の住んでた村では貴重品だったから驚きよ」

 いつも木の板を持たせ、そこに描いたり書いたりして情報収集していた。それ故に、さっき使用人室みたいなところで大量に紙を見つけた時は驚いたのだ。

「ゲームでも言及されていましたけど、製紙技術と活版印刷の技術はありますからね。地球とは紙の原料が違うだけで。だからちゃんと都会であれば安定的に供給されていますよ」

 暗に――というか思いっきり田舎者と言われてしまった。どうせ私は田舎の村娘ですよ。

「まぁいいわ。ライター、お願い」
「ふでふで」

 身体を揺らして答えるライター。私は紙を机に置いて話し始める。

「現状、案は三つ。一つ目は一番簡単で、一番効果的な時間稼ぎ。持ち物を売って現金を作る」

 私の喋る言葉を、紙に書き出してくれるライター。
 今回支払う額は十万ミラ。ドレスの一着や二着売れば簡単にそれくらいの金額を作ることは出来るだろう。時間的に質屋はまだ空いているだろうし。
 イザベル(真)は馬鹿だが、さすがにすべての衣服が抵当権をつけられているわけもあるまいし――

「えっと……じゃあ早速、まだ担保に入れてない物を探しますね」

 ――なんだか、歯切れの悪い喋り方のカーリー。私は嫌な予感を覚えつつ、彼女に尋ねた。

「ねぇ……カーリー、まさかとは言わないけど……」
「その……まさかですね。その手は飽きるほど使ってきたので……」

 オーマイゴッド。
 顔に手を当てて空を見る。そりゃそうだ、こんな簡単な手……イザベルが思い当たらないわけがない。そして彼女の性格からして、それをすることに躊躇は無いだろう。
 よく考えたら騎士団を解散させてまで金を節約している領地だ、どこまで抵当権がついてるか分かったもんじゃない。

「もっとしっかり資料見るわ……。えーっと、じゃあ二つ目の案。お願いして待ってもらう」

 こっちは貴族で、領主だ。まさか強硬手段に出ることもあるまい。カーリーも複雑そうな表情で頷く。

「やっぱりそれしか無いですよね……」

 アンニュイなため息をついたかと思うと、はっとした表情で自らの肉体を抱きしめた。

「で、でも『利子代わりにそっちの女を置いて行ってもらおうか』とか言われちゃったらどうしましょう!」

 きゃー! なんて言って、タコのように顔を赤くして体をくねらせる。
 そんな彼女を見て、私は遠い目で窓の方を見た。

「ロリコンってこっちの世界にもいるのかしらね」
「どういう意味ですか! ボクは二十歳ですよ!」
「十歳児の肉体に欲情したらロリコンでしょうが!」

 うぎゃーと反論するカーリー。私はそんな彼女をスルーして、三本目の指を立てる。

「ただ、それだと現状維持からマイナス。どこかプラスにしないとどうにもならないわ。ということで三つ目の案」
「三つ目……ですか?」

 カーリーは首を傾げながらタルトを食べる。そのタイミングで紅茶が出来たらしい、アクアが私とカーリーの前に注いでくれた。
 私は紅茶に詳しくないが、相変わらず良い香りだ。こういう所に金をかけてるから領地の運営がおろそかになるんでしょうが。
 私もカーリーが作ってくれたチョコタルトを食べる。甘くて美味しいし、周囲のクッキーとの相性も抜群だ。これは紅茶が進むわね。

「そう、三つ目。私たちは領法を作れるわ、それを使って取引をする」

 この領地を運営するのは私たち。イザベル(真)はバカみたいな運営していたけれど、まだ悪法を連発するという破滅の道までは足を踏み入れていなかった。いや持ち物だの屋敷だのに抵当権がついている時点でアウトだけども。

「領法って……も、もしかして重税を課すとかですか!?」
「おばか。こっから領地の運営をどうにかしようって言ってるのに、重税を課して住民の信頼を手放してどうするのよ。違うわ、金貸しに対して適切なルールを設けるのよ」

 金利の上限や、貸し出す対象の制限、そして登録制度など。前世の貸金業法ほどかっちりした物は作れないし(そこまで知らないし)、実際の調整には時間がかかるけど……少なくとも全ての『金貸し』にルールが無い状況を、『違法金貸し』と『合法金貸し』に分けることが出来るようになる。
「そして、アンタらには先に教えるから――真っ当な金貸しになりなさい、って言うのよ」
 ここまで頭が回るのだ、この取引には乗ってくるだろう。実際はここをフロントにして違法な金貸し屋を作って運営するかもしれないけど……。

「上手くいけば取り込める。こっち側にね」

 狡猾に金を稼ぎたいだけなら、私たちにショバ代を払ってでも合法側にいようとするだろう。ハッキリ言って、アホみたいな借金で身を持ち崩す奴がいようがどうだっていい。
 でも、こうやってしっかり金貸しにルールを作れれば……ちゃんとした融資や弱者救済の融資だって出来るようになる。

「ルールが無ければ、全ての債務者は弱者よ。でもルールを作れば、『金を借りる』ことがちゃんとした救いになる人が必ず出てくる」

 それが金融だからね。

「……えーっと、よく分からないんですけど。だってお金を借りても、結局利子とか手数料とかがかかって……最終的にお金は損するんじゃないですか?」

 私の言葉に、ピンと来ていない様子のカーリー。そりゃ十歳で死んだのなら、お金がどういう物かなんか分かりはしないだろう。
 というかその認識しか持っていない部下一人で、よく領地を運営しようと思ったわねイザベル(真)は。

「お金を貸すっていうのはね、相手に時間を売ることと同義なのよ」
「時間……?」

 彼女は更に意味不明と言った表情になって、首を傾げた。私はチョコタルトを食べながら、笑顔を作る。

「そう、時間。例えばそうね、月に五万ミラ稼げる人がいたとしましょう。でも、馬車があれば月に七万ミラ稼げるようになるとしたら……その人は馬車を欲しがるだろうと思わない?」

 こくんと頷くカーリー。彼女はタルトも食べずに真剣にこちらの話を聞いている。将来、詐欺師に騙されないように守ってあげないとね。

「でも馬車は百万ミラ。そしたら、二十ヵ月時間が必要になるわ。……でも、お金を借りて今すぐ馬車を手に入れたら、その二十ヵ月で差額にして四十万円多く儲けられるってことになるの」
「た、確かに……」
「借りたお金の利子が四十万円以下だったら、その差分儲かる上に二十ヵ月前倒しで馬車が手に入る。これが『お金を借りることは時間を買うこと』ってことよ」

 時は金なり、タイムイズマネー。
 これは「時間はお金と同じく貴重なものなので、浪費することなく、有意義に使うことが大切である」という戒めでは無く、言葉通りの意味なのだ。
 時間は金で買えるし、金は時間に変換出来る。
 ただ等価になるかどうかは、本人次第というだけで。

「これを上手く使えば、お金が無いために自分の力を十分に発揮出来ていない人や、お金が無いせいで我慢を強いられている人たちを救うことが出来る。金融を整備するということは、より多くの人が活躍出来る社会を作れるということでもあるのよ!」
「う、うおおお……」

 感動した様子のカーリー。うん、やっぱりこの子は絶対に詐欺に騙されるわね。
 とはいえ、言っている内容に嘘は無い。金融マンの理想であることは間違いないから。

(理想だけで動けないのが、現実なんだけどね)

 とはいえ、せっかくの理想。異世界なら叶えられるかもしれない。

「それが分かったらカーリー、早速いろいろと準備するわよ!」
「は、はい!」

 頬を紅潮させ、感涙しているカーリーを立たせ――私たちは準備に向かうのであった。

「でもほんと、良かったです。もう既にボクの持ち物は殆ど売りさばかれちゃってたので」

 だからどんだけこの家は困窮してるのよ!! あと十歳児の持ち物を先に売るんじゃないイザベル(真)!



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