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第15話 確信と絶望
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王宮辺りの地下に位置する牢獄。
牢屋から見える通路は暗くて奥が見えず、まるで何処までも道が続いているかのようだ。
静寂な牢獄内に騎士達の足音が嫌に響き渡っている。
「どうして‥‥‥‥‥」
鏡で自分の姿を見て、聖花は絶句した。
そこに立つ少女は『マリアンナ』ではなかったのである。
サファイアのような深い青の髪に真っ黒な目。
まさに、学園で会った怪しげな少女そのものだ。
聖花は気が付いた。
あの、視界が反転したときに何かが起こっていたのだと。
ヴェルディーレ家に向かった自分は、既に見知らぬ人間になっていたのだと。
原理は分からないが、そんなこと今の彼女にとってどうでも良かった。
ただ、この余りに耐え難い事実に胸の奥が締め付けられたような気持ちに陥った。
ソレは喪失感などではなく、一種の絶望に似たようなものだ。
転生は、偶発的なものだった。
前世の記憶があまりなく、ショックもあまり感じなかった。
有るすれば、亡くなった時の凄惨な記憶くらいだ。
だが、今度は違う。
間違いなく悪意を持って故意的に引き起こされた出来事。
身体を戻す気もなければ、生かすつもりも満更ないことは、この状況を見れば明白だった。
元に戻るよう頼むことは不可能だ。
おまけに、そもそもここから出られない。
鍵がないし、騎士達を掻い潜って狭い通路を抜けるのはリスクが高すぎる。
音も響く。
第一、脱獄する気力さえ湧かなかった。
ひとりで脱出できた所で、彼女の居場所は既にどこにもない。
恐らく追われ続け、怯えながら逃げ暮らすことになるだろう。
それだけ貴族への暴行の罪は重い。
彼女は事実を受け入れることが出来なかったのか、一時も鏡から目を離そうとしなかった。
そして遂に、あることに気が付いた。
他の人にとって些細なことだろう。
だが、今の彼女には重要で、すっかり見落としていたことだった。
否、敢えて目に入れることを避けていただけかもしれない。
試験で初めて会った、と信じたかったから。
けれども認めるしかなかった。
鏡に映る少女の髪をよく見ると、つむじの辺りが特徴的に黒くなっている。
コレは、‥‥‥‥‥‥。
突如、聖花にあの時の記憶が蘇った。
ーー…‥‥ふふっ。急に話し掛けるものだから
ビックリしました。マリアンナさん。
そうやって妖しく笑うのは、パーティーの夜、出会った奇妙な少女。
結局最後までどこの誰なのかが判明せず、不可解なまま幕を閉ざした事件。
それを引き起こした張本人だった。
あの日あの時、辺りは薄暗かった。
だから少女の髪色が分からなかった。と、聖花は思っていた。
‥‥しかし、元々黒であるとすればどうであろうか。
判別出来なかったのではなく、闇と同化していただけに過ぎなかったのだ。
聖花は確信した。
少なくともパーティーの日から既に彼女は狙われていたのだ。
何度危険を回避したとしても、いつかは必ず同じことが起こっていただろう。
それを理解した瞬間、途端に急激なストレスが襲い掛かった。
これまでに感じたことのない程の、耐えきれないストレス。
元々血の気が引いていた肌は、見る見るうちに青ざめていった。
更に、吐き気まで感じて、彼女は口元を押さた。
立っていられずその場に崩れ落ちる。
泣きたい気持ちでいっぱいになったが、思うように泣けなかった。
「う‥‥。うぅ‥‥‥‥、う‥‥」
そして彼女の泣き声は、ただの悲痛な呻き声となって、地下中に響き渡った。
唯一残っていた虚しさすらも全て流していくかのように、一晩、眠ることなく呻き続けた。
何度か騎士が彼女の横を通り過ぎたが、皆目を逸らした。 何度聞いても聞き慣れないものだ、と感じて。
牢屋から見える通路は暗くて奥が見えず、まるで何処までも道が続いているかのようだ。
静寂な牢獄内に騎士達の足音が嫌に響き渡っている。
「どうして‥‥‥‥‥」
鏡で自分の姿を見て、聖花は絶句した。
そこに立つ少女は『マリアンナ』ではなかったのである。
サファイアのような深い青の髪に真っ黒な目。
まさに、学園で会った怪しげな少女そのものだ。
聖花は気が付いた。
あの、視界が反転したときに何かが起こっていたのだと。
ヴェルディーレ家に向かった自分は、既に見知らぬ人間になっていたのだと。
原理は分からないが、そんなこと今の彼女にとってどうでも良かった。
ただ、この余りに耐え難い事実に胸の奥が締め付けられたような気持ちに陥った。
ソレは喪失感などではなく、一種の絶望に似たようなものだ。
転生は、偶発的なものだった。
前世の記憶があまりなく、ショックもあまり感じなかった。
有るすれば、亡くなった時の凄惨な記憶くらいだ。
だが、今度は違う。
間違いなく悪意を持って故意的に引き起こされた出来事。
身体を戻す気もなければ、生かすつもりも満更ないことは、この状況を見れば明白だった。
元に戻るよう頼むことは不可能だ。
おまけに、そもそもここから出られない。
鍵がないし、騎士達を掻い潜って狭い通路を抜けるのはリスクが高すぎる。
音も響く。
第一、脱獄する気力さえ湧かなかった。
ひとりで脱出できた所で、彼女の居場所は既にどこにもない。
恐らく追われ続け、怯えながら逃げ暮らすことになるだろう。
それだけ貴族への暴行の罪は重い。
彼女は事実を受け入れることが出来なかったのか、一時も鏡から目を離そうとしなかった。
そして遂に、あることに気が付いた。
他の人にとって些細なことだろう。
だが、今の彼女には重要で、すっかり見落としていたことだった。
否、敢えて目に入れることを避けていただけかもしれない。
試験で初めて会った、と信じたかったから。
けれども認めるしかなかった。
鏡に映る少女の髪をよく見ると、つむじの辺りが特徴的に黒くなっている。
コレは、‥‥‥‥‥‥。
突如、聖花にあの時の記憶が蘇った。
ーー…‥‥ふふっ。急に話し掛けるものだから
ビックリしました。マリアンナさん。
そうやって妖しく笑うのは、パーティーの夜、出会った奇妙な少女。
結局最後までどこの誰なのかが判明せず、不可解なまま幕を閉ざした事件。
それを引き起こした張本人だった。
あの日あの時、辺りは薄暗かった。
だから少女の髪色が分からなかった。と、聖花は思っていた。
‥‥しかし、元々黒であるとすればどうであろうか。
判別出来なかったのではなく、闇と同化していただけに過ぎなかったのだ。
聖花は確信した。
少なくともパーティーの日から既に彼女は狙われていたのだ。
何度危険を回避したとしても、いつかは必ず同じことが起こっていただろう。
それを理解した瞬間、途端に急激なストレスが襲い掛かった。
これまでに感じたことのない程の、耐えきれないストレス。
元々血の気が引いていた肌は、見る見るうちに青ざめていった。
更に、吐き気まで感じて、彼女は口元を押さた。
立っていられずその場に崩れ落ちる。
泣きたい気持ちでいっぱいになったが、思うように泣けなかった。
「う‥‥。うぅ‥‥‥‥、う‥‥」
そして彼女の泣き声は、ただの悲痛な呻き声となって、地下中に響き渡った。
唯一残っていた虚しさすらも全て流していくかのように、一晩、眠ることなく呻き続けた。
何度か騎士が彼女の横を通り過ぎたが、皆目を逸らした。 何度聞いても聞き慣れないものだ、と感じて。
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