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本編――公爵令嬢リリア
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「‥‥お嬢様?入りますよ」
ノックを3回ほど鳴らして、1人のメイドが部屋の扉を開いた。すぅすぅと眠る彼女を一瞥して、小さく息をつく。
部屋の中へと入ったメイドは、窓に掛かっているカーテンを勢い良く開けた。
陽の光が部屋を明るく照らし出す。その余りの眩しさに、彼女は思わず唸り声を上げた。
意識がゆっくりと戻っていく。
「お嬢様、起きて下さい。朝ですよ」
それを確認したメイドは、漸く彼女――リリアに向かってそう言い放った。
リリアがハッとして目を開くと、視野の先には何処か懐かしいメイドの姿があった。
(失敗、した―――)
初めは絶望した。一体自分がしたかったことは何だったのだろうと考えさせられた。どれだけ諦めようとしても無駄なのか、と。
どうしようもない程の無力感が彼女の心を満たした。
けれども、よくよく考えて見ると何かが可笑しい。
彼女が違和感の正体に気が付いたのは案外直ぐのことだった。
だって、余りに明かる過ぎる日差しが部屋に、リリアに降り注いでいるのだから。
昨日までは確かに、薄暗いランプの光だけが頼りだった。窓さえ付いていない部屋で寝起きしていたのに、今では窓もある。
家具も、布団も、ハッキリと視界に映った。
―――そして再び、衝撃を受けた。
手入れの行き届いた部屋に、高級感のある綺羅びやかな家具の数々。羽毛がたっぷり詰め込まれた柔らかな布団に、ふかふかのベッド。
それらは明らかに何時もとは全く違っていた。
何度瞬きしても、頬を叩いても、景色が変わることはなく、傍のメイドが心配してくれるだけだ。
そんなメイドをリリアは改めてじっと見た。
不快に思われるかもしれないが、今のリリアはそんなことを流暢に考えられる状態ではない。
(思い‥出した‥‥)
記憶を辿って、そのメイドのことを漸く思い出す。
アルテミスの生前までナイーゼ家に仕えていた内の一人で、無愛想だがリリアを思ってくれていたメイド。
結局は彼女も追い出されてしまったが、真面目で逞しい女性だったとリリアは記憶している。
何か胸のざわめきを感じて、リリアはメイドに手鏡を持ってくるようお願いした。
本来ならば、ここで叩かれるか暴言を吐かれるかのどちらからであるが、メイドはそうはしなかった。
リリアの言う通り手鏡を取りに行って、不思議そうな顔をしつつも素直にそれをリリアへと手渡す。
手鏡を受け取ったリリアは、昂る心臓を抑え込み、恐る恐る鏡の中を覗き込んだ。
確信に近いものを胸に抱きながら。
当然、自分の姿が映し出される。
まだ十代にも満たない、幼き頃のリリアが。
予想してはいたものの、やはりその時の衝撃と言ったら堪ったものではない。鏡中のリリアとにらめっこをして、頬をつまみ、自身の身体を見渡した。
傍で見ているメイドには、気でも触れたのかと思われていることだろう。中々見ていられるものではない。
(夢、だったの‥‥‥‥‥?)
暫くして、やっとのことで現状を飲み込んだリリアは、自分自身に問い掛けた。
夢であれば、悪い夢で済まされるかもしれないが、あの凄惨な記憶が脳裏をかすめた時、あれが夢である筈がないと、そう確信させられた。
いや、確信せざるを得なかった。
思わず叫び出しそうになる。
「お嬢様‥‥‥?どうされたのですか‥‥‥?」
険しい顔を浮かべるリリアを、メイドが訝しげに見た。先程からずっと可笑しな行動ばかりしている彼女を、心から心配しているのだ。
「いいえ、とっても怖い悪夢を見たの。
考えたいことがあるから、少しの間ひとりにしてくれないかしら」
夢であればよかったのに、と心の中で付け加えた。
リリアの言葉を聞いて、メイドは一度退席することにした。
リリアひとりになった部屋で、軽く息をつく。
―――幼少期まで戻っている。
この事実に、ある種の思いを抱いた。
やり直せるのかもしれないという希望と、繰り返すのかもしれないという恐怖。
何歳かまでは分からなかったが、まだアルテミスが亡くなっていないことと、ラミアたちが来ていないことだけは確かだった。
まだ、やり直せる――――。リリアはそう思った。
ノックを3回ほど鳴らして、1人のメイドが部屋の扉を開いた。すぅすぅと眠る彼女を一瞥して、小さく息をつく。
部屋の中へと入ったメイドは、窓に掛かっているカーテンを勢い良く開けた。
陽の光が部屋を明るく照らし出す。その余りの眩しさに、彼女は思わず唸り声を上げた。
意識がゆっくりと戻っていく。
「お嬢様、起きて下さい。朝ですよ」
それを確認したメイドは、漸く彼女――リリアに向かってそう言い放った。
リリアがハッとして目を開くと、視野の先には何処か懐かしいメイドの姿があった。
(失敗、した―――)
初めは絶望した。一体自分がしたかったことは何だったのだろうと考えさせられた。どれだけ諦めようとしても無駄なのか、と。
どうしようもない程の無力感が彼女の心を満たした。
けれども、よくよく考えて見ると何かが可笑しい。
彼女が違和感の正体に気が付いたのは案外直ぐのことだった。
だって、余りに明かる過ぎる日差しが部屋に、リリアに降り注いでいるのだから。
昨日までは確かに、薄暗いランプの光だけが頼りだった。窓さえ付いていない部屋で寝起きしていたのに、今では窓もある。
家具も、布団も、ハッキリと視界に映った。
―――そして再び、衝撃を受けた。
手入れの行き届いた部屋に、高級感のある綺羅びやかな家具の数々。羽毛がたっぷり詰め込まれた柔らかな布団に、ふかふかのベッド。
それらは明らかに何時もとは全く違っていた。
何度瞬きしても、頬を叩いても、景色が変わることはなく、傍のメイドが心配してくれるだけだ。
そんなメイドをリリアは改めてじっと見た。
不快に思われるかもしれないが、今のリリアはそんなことを流暢に考えられる状態ではない。
(思い‥出した‥‥)
記憶を辿って、そのメイドのことを漸く思い出す。
アルテミスの生前までナイーゼ家に仕えていた内の一人で、無愛想だがリリアを思ってくれていたメイド。
結局は彼女も追い出されてしまったが、真面目で逞しい女性だったとリリアは記憶している。
何か胸のざわめきを感じて、リリアはメイドに手鏡を持ってくるようお願いした。
本来ならば、ここで叩かれるか暴言を吐かれるかのどちらからであるが、メイドはそうはしなかった。
リリアの言う通り手鏡を取りに行って、不思議そうな顔をしつつも素直にそれをリリアへと手渡す。
手鏡を受け取ったリリアは、昂る心臓を抑え込み、恐る恐る鏡の中を覗き込んだ。
確信に近いものを胸に抱きながら。
当然、自分の姿が映し出される。
まだ十代にも満たない、幼き頃のリリアが。
予想してはいたものの、やはりその時の衝撃と言ったら堪ったものではない。鏡中のリリアとにらめっこをして、頬をつまみ、自身の身体を見渡した。
傍で見ているメイドには、気でも触れたのかと思われていることだろう。中々見ていられるものではない。
(夢、だったの‥‥‥‥‥?)
暫くして、やっとのことで現状を飲み込んだリリアは、自分自身に問い掛けた。
夢であれば、悪い夢で済まされるかもしれないが、あの凄惨な記憶が脳裏をかすめた時、あれが夢である筈がないと、そう確信させられた。
いや、確信せざるを得なかった。
思わず叫び出しそうになる。
「お嬢様‥‥‥?どうされたのですか‥‥‥?」
険しい顔を浮かべるリリアを、メイドが訝しげに見た。先程からずっと可笑しな行動ばかりしている彼女を、心から心配しているのだ。
「いいえ、とっても怖い悪夢を見たの。
考えたいことがあるから、少しの間ひとりにしてくれないかしら」
夢であればよかったのに、と心の中で付け加えた。
リリアの言葉を聞いて、メイドは一度退席することにした。
リリアひとりになった部屋で、軽く息をつく。
―――幼少期まで戻っている。
この事実に、ある種の思いを抱いた。
やり直せるのかもしれないという希望と、繰り返すのかもしれないという恐怖。
何歳かまでは分からなかったが、まだアルテミスが亡くなっていないことと、ラミアたちが来ていないことだけは確かだった。
まだ、やり直せる――――。リリアはそう思った。
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