今度はあなたと共に。

荒川きな

文字の大きさ
10 / 21
本編――公爵令嬢リリア

2-6

しおりを挟む
 アルテミスの死因は不慮の事故が原因だった。
 、彼女の乗っていた馬車が転落したのだと、アバンリッシュから伝えられたのをリリアは覚えている。
 そういう彼も誰かから聞いたらしい。

 当時のリリアはそれを信じ込んだ。幼い彼女は、恐怖に支配されていた彼女は、疑うことすらしなかった。
 そんな余裕などなかったのだ。

 が、今になって考えてみると不可思議である。
 アルテミスの死後からラミアと再婚するまでの期間が余りに短過ぎるのだ。

 普通、妻が亡くなったともなれば、愛していようが、いまいが、体裁を守る為にもそんなに直ぐ再婚はしない。
 少なくとも数年は空けることだろう。

 けれども彼等は年を跨ぐことなく再婚した。それも上位貴族 公爵 の地位を持ちながら、だ。
 これは、アバンリッシュがするようなことにはとてもではないが思えない。皮肉にも、リリアと皇太子の婚約を勝手に結ぶような彼が。

 つまり、アルテミスの事故は偶然ではなく、意図して引き起こされた可能性が高い。

 もし、母の事故が故意に引き起こされたことでなかったとしても、リリアはアルテミスの命を救いたかった。
 例えリリアを愛していなくても、彼女の唯一の母であったから。

 けれども、故意に起こされたことであれば、一度救えたところで根本的な解決にはならない。
 大本を絶たなければならないのだ。

 それでも、先ずは目の前にあることの方が大事だった。
 アルテミスの事故を何とかして防ぎ、ラミアたちの再来を無くす。あるいは遅らせることが彼女の今の目標だ。

 が、それだけでは足りない。
 最終的なリリアの目標は、ラミアの魔の手から完全に逃れ、常に付き纏う恐怖を取り払うことだ。

 アルテミスとの過去を振り返る。
 何度も何度も構ってもらおうと話し掛けた。が、結局殆ど口さえ聞いてくれもらえないままに彼女の命は潰えてしまった。
 決して明るい話ではない。むしろ苦々しい思い出だ。

 それでも、リリアは心からアルテミスを救いたかった。
 大好きだったから。これから、関係を修復していけるかもしれないから。
 端から見殺しにする選択肢はリリアには存在していなかった。

 アルテミスが亡くなるのは、初めてリリアとカルロが出会う日。
 記憶の中の彼は、リリアにとってのヒーローだった。けども、そんな人物の影はもう見当たらない。
 今では、将来リリアを地獄へと叩きつける1人で、出来るだけ関わりたくない人間である。

 例えリリアの未来が変わったとしても、今度はカルロを愛したくはなかった。信じたくなかった。
 もう彼に捨てられるのは耐えられないし、似たようなことが繰り返されない保証はないから。
 
 リリアは首を振った。
 今は感傷に浸っている場合ではない、と。

 兎に角、リリアには運命の日に街へと降りずに、アルテミスを引き止めるしか方法がなかった。
 そしたら自ずとカルロとの接触は避けられるし、婚約の打診さえ来ないかもしれない。
 
 が、突然、パタパタとメイドが駆け込んで来た。慌てた様子で、ノックさえ忘れている。


「どうしましたか?」

 ただならぬ気配を感じ取り、リリアは、何ら咎めることなくメイドに尋ねた。
 落ち着きを取り繕って。
 


「お嬢様、落ち着いて聞いて下さい」

「何、でしょうか‥‥‥‥?」

「皇太子殿下から婚約の打診がきているのです」

 そこまで聞いて、リリアは自分の耳を疑った。聞き間違いではないか、と。
 まだ出会ってさえいない筈だ。なのにどうしてそんなことが起こるのか。

 おまけに、衝撃的なのはそれだけではない。
 メイドの話を呆然と聞き流していると、最後にとんでもない台詞が飛んできたのだ。


「今、客室にいらしております!!」

 明らかに早すぎる来訪。アルテミスはまだ亡くなってはいない筈だ。
 メイドがその証拠である。

 まさか自身が戻って来たことで未来が変わってしまったのかと考えて、リリアは血の気が引くのを感じていた。
 これでは対策のしようがない。

 メイドに急かされるがままに慌てて仕度をした彼女は、部屋から勢い良く飛び出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。 しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。 その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。 だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。 そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。 さて、アリスの運命はどうなるのか。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ
恋愛
リリム王国辺境伯エインズワース伯爵家の長女、ユーニス・エインズワース。伯爵令嬢であるはずなのに、生活は使用人以下で、まともに育てられたことはない。それでも心優しく強かに育った彼女は、ある日、隣国との国境である森で二人の怪我をした男性を見つけて……?※不定期更新です。2024/5/14、18話が抜けていたため追加しました。 【2024/9/25 追記】 次回34話以降は10/30より、他サイト様と同時の更新予定です。

処理中です...