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本編――公爵令嬢リリア
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ナイーゼ家の中でも際立って豪華な客室。そこには6人の男女が席についていた。
リリアと皇太子、そしてその両親だ。
つまりは公爵家と皇族が顔を見合わせている状況で、畏れ多い面々にメイド達も息が詰まる思いだった。
それを察してか、あるいは大事な話をするからか、アバンリッシュがその場のメイドを下げさせる。
(どう、して‥‥‥‥?)
リリアは頭が追い付かなった。不意打ちを食らった気分なのもあったが、何よりもこの既視感のある光景に。
リリアはこの光景を知っていた。前回と殆ど同じ配置に、変わらぬ面々。
唯一違うことといえば、アルテミスが席についていることぐらいだ。
その時には、既に帰らぬ人になっていたから。
「さて。皆揃ったところで始めるとしようか」
リリアが席に着いたのを確認するなり、待ちくたびれたと言わんばかりに皇帝が口火を切った。
どこか威厳のある声に、自然と空気に緊張が走る。
未だに混乱するリリアを他所に、話はどんどん進められた。右から左へと、話が流れて行く。
彼女の目の前で、あの時と全く変わらない会話が繰り広げられていた。
(あぁ、同じ―――)
男たちだけで勝手に進む会話。変わらない子供の疎外感。例え王妃や公爵夫人がいようがいまいが、それだけは何ら変わらなかった。
彼女らは殆ど口出しすることはなく、会話を静かに聞いている。特に話すようなことはないのだろう。
アルテミスの反応を見てみると、時々リリアの方に視線だけ向けては不安げな表情を浮かべていた。それもごく微妙な違いで、よくよく見てみなければ分からないレベル。
子供の時には決して気が付かなかっただろうこと。
それは、この中で唯一、アルテミスに気を配っていたリリアだけに出来る代物だった。
彼女にとってアルテミスだけが特異な存在なのだ。
けれどもきっとそれで何かが変わる訳はなく、リリアが反抗しようがしまいが、勝手に話は進むのだろう。
彼が声を上げるまで、彼女はそう思っていた。
「お父様、お母様。私からも少し申し上げたいことがあるのですが‥‥、よろしいでしょうか?」
突然声を出したのは、皇太子だ。
予想外の出来事にリリアは思わず目を見開いて彼を見た。
これは、一度目ではなかったことだった。
一体何を言い出すのか。この場ではリリアさえも分からない。
分かることと言えば、縁談の時期といい、やはり何かが可笑しいことだけだ。
続きを催促するかのように、皆が皇帝の出方を静かに待った。イエスかノーか、視線が一斉に皇帝へと集中する。
暫くして、彼は小さく頷いた。
「ふむ、そうだな。言ってみなさい」
皆を宥めるように、皇帝はそう言い聞かせる。いや、カルロに向けた父としての言葉だった。
アバンリッシュとは違い、きっと子のことをしっかりと考えてくれているのだろう。
父の返答を聞いたカルロは感謝の言葉を口にすると、躊躇うことなく言葉を続けた。
「私は一度、そちらのご令嬢と二人でお話したいのです。何せ初対面なのですから、彼女も不安なことでしょう。先に交流を深めてからでも遅くはないでしょう?」
そう堂々と言い放ち、カルロは冷静に周囲を見回した。
流石は皇太子。子供といえど、やはり周りの子息たちに比べ、一段と大人びている。リリアの記憶する彼と少し違う気がするが。
兎に角その言葉も、前には聞かなかった台詞だった。
リリアは困惑し、カルロの様子を探ることしか出来ない。それはアバンリッシュも同様で、余計な言葉を吐く彼を凝視している。
暫く彼らの様子を見た後、皇帝は小さく頷いた。
「成る程‥‥‥‥。では、子は子同士で話すと良いだろう。アバンリッシュ」
「は。別室に部屋を用意させます」
「よろしい。カルロにリリア嬢よ、後は子ら同士で仲を深めると良い。行きなさい」
こう言われてしまえばどうすることも出来ない。誰にも頷く他、選択肢がないのだ。
一抹の不安はあったものの、リリアとしてもこのまま勝手に婚約を結ばれるよりはましである。
正直な所、二人きりで話すことに抵抗はあった。
けれど、もしかすると何かが変わるかもしれないと期待して、彼女は深く頷いた。
「「はい」」
リリアとカルロの言葉が偶然にも重なる。思わずふたり顔を見合わせた。
目が合うと、カルロの表情が一瞬ふにゃりと崩れる。まるで心から大切に思う人に向けるような笑みだ。
そこに先程までの大人びた雰囲気はなく、まるで別人のようだった。
不覚にもリリアは、そんな彼を愛らしいと思ってしまって、表情を少し緩めた。
が、直ぐにその考えを頭から振り落とす。私は何を考えているのかと。
今はそんな気配を見せなくとも、目の前の彼はリリアを裏切った挙げ句に捨てるかもしれない男である。
呑気に気を抜いている場合ではないのだ。
そうして警戒していると、カルロが突然手を差し出した。
不思議に思い、リリアは小首を傾げてその手を見つめる。何をしているのか思考が追いつかない。
暫く立って「行こうか」とカルロは小さく告げた。申し訳なさげにその手をおろして。
そこで漸く、彼がリリアの手を引こうとしてくれていたのだと気が付いた。初めて家に来た彼が道案内など出来る筈がないのに。
差し伸べられた掌は、汚れのない綺麗な手だった。まだ柔らかくて、幼さの残る手。
けれどもどの道、その手を取るような自信をリリアは持ち合わせてはいなかった。取ってしまえば最後、あの悲劇が繰り返される気がして。
リリアは彼のことが余計に分からなくなった。
皇太子の義務だからなのか、それともまさか一目惚れしたのか。
視線の先にいる、同い年の子供の考えていることがこれといって分からない。
ふたりは距離をほんの少しだけ空けて、別室へと向かった。
リリアと皇太子、そしてその両親だ。
つまりは公爵家と皇族が顔を見合わせている状況で、畏れ多い面々にメイド達も息が詰まる思いだった。
それを察してか、あるいは大事な話をするからか、アバンリッシュがその場のメイドを下げさせる。
(どう、して‥‥‥‥?)
リリアは頭が追い付かなった。不意打ちを食らった気分なのもあったが、何よりもこの既視感のある光景に。
リリアはこの光景を知っていた。前回と殆ど同じ配置に、変わらぬ面々。
唯一違うことといえば、アルテミスが席についていることぐらいだ。
その時には、既に帰らぬ人になっていたから。
「さて。皆揃ったところで始めるとしようか」
リリアが席に着いたのを確認するなり、待ちくたびれたと言わんばかりに皇帝が口火を切った。
どこか威厳のある声に、自然と空気に緊張が走る。
未だに混乱するリリアを他所に、話はどんどん進められた。右から左へと、話が流れて行く。
彼女の目の前で、あの時と全く変わらない会話が繰り広げられていた。
(あぁ、同じ―――)
男たちだけで勝手に進む会話。変わらない子供の疎外感。例え王妃や公爵夫人がいようがいまいが、それだけは何ら変わらなかった。
彼女らは殆ど口出しすることはなく、会話を静かに聞いている。特に話すようなことはないのだろう。
アルテミスの反応を見てみると、時々リリアの方に視線だけ向けては不安げな表情を浮かべていた。それもごく微妙な違いで、よくよく見てみなければ分からないレベル。
子供の時には決して気が付かなかっただろうこと。
それは、この中で唯一、アルテミスに気を配っていたリリアだけに出来る代物だった。
彼女にとってアルテミスだけが特異な存在なのだ。
けれどもきっとそれで何かが変わる訳はなく、リリアが反抗しようがしまいが、勝手に話は進むのだろう。
彼が声を上げるまで、彼女はそう思っていた。
「お父様、お母様。私からも少し申し上げたいことがあるのですが‥‥、よろしいでしょうか?」
突然声を出したのは、皇太子だ。
予想外の出来事にリリアは思わず目を見開いて彼を見た。
これは、一度目ではなかったことだった。
一体何を言い出すのか。この場ではリリアさえも分からない。
分かることと言えば、縁談の時期といい、やはり何かが可笑しいことだけだ。
続きを催促するかのように、皆が皇帝の出方を静かに待った。イエスかノーか、視線が一斉に皇帝へと集中する。
暫くして、彼は小さく頷いた。
「ふむ、そうだな。言ってみなさい」
皆を宥めるように、皇帝はそう言い聞かせる。いや、カルロに向けた父としての言葉だった。
アバンリッシュとは違い、きっと子のことをしっかりと考えてくれているのだろう。
父の返答を聞いたカルロは感謝の言葉を口にすると、躊躇うことなく言葉を続けた。
「私は一度、そちらのご令嬢と二人でお話したいのです。何せ初対面なのですから、彼女も不安なことでしょう。先に交流を深めてからでも遅くはないでしょう?」
そう堂々と言い放ち、カルロは冷静に周囲を見回した。
流石は皇太子。子供といえど、やはり周りの子息たちに比べ、一段と大人びている。リリアの記憶する彼と少し違う気がするが。
兎に角その言葉も、前には聞かなかった台詞だった。
リリアは困惑し、カルロの様子を探ることしか出来ない。それはアバンリッシュも同様で、余計な言葉を吐く彼を凝視している。
暫く彼らの様子を見た後、皇帝は小さく頷いた。
「成る程‥‥‥‥。では、子は子同士で話すと良いだろう。アバンリッシュ」
「は。別室に部屋を用意させます」
「よろしい。カルロにリリア嬢よ、後は子ら同士で仲を深めると良い。行きなさい」
こう言われてしまえばどうすることも出来ない。誰にも頷く他、選択肢がないのだ。
一抹の不安はあったものの、リリアとしてもこのまま勝手に婚約を結ばれるよりはましである。
正直な所、二人きりで話すことに抵抗はあった。
けれど、もしかすると何かが変わるかもしれないと期待して、彼女は深く頷いた。
「「はい」」
リリアとカルロの言葉が偶然にも重なる。思わずふたり顔を見合わせた。
目が合うと、カルロの表情が一瞬ふにゃりと崩れる。まるで心から大切に思う人に向けるような笑みだ。
そこに先程までの大人びた雰囲気はなく、まるで別人のようだった。
不覚にもリリアは、そんな彼を愛らしいと思ってしまって、表情を少し緩めた。
が、直ぐにその考えを頭から振り落とす。私は何を考えているのかと。
今はそんな気配を見せなくとも、目の前の彼はリリアを裏切った挙げ句に捨てるかもしれない男である。
呑気に気を抜いている場合ではないのだ。
そうして警戒していると、カルロが突然手を差し出した。
不思議に思い、リリアは小首を傾げてその手を見つめる。何をしているのか思考が追いつかない。
暫く立って「行こうか」とカルロは小さく告げた。申し訳なさげにその手をおろして。
そこで漸く、彼がリリアの手を引こうとしてくれていたのだと気が付いた。初めて家に来た彼が道案内など出来る筈がないのに。
差し伸べられた掌は、汚れのない綺麗な手だった。まだ柔らかくて、幼さの残る手。
けれどもどの道、その手を取るような自信をリリアは持ち合わせてはいなかった。取ってしまえば最後、あの悲劇が繰り返される気がして。
リリアは彼のことが余計に分からなくなった。
皇太子の義務だからなのか、それともまさか一目惚れしたのか。
視線の先にいる、同い年の子供の考えていることがこれといって分からない。
ふたりは距離をほんの少しだけ空けて、別室へと向かった。
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