紅い騎士の物語

アヴァン

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弱点に至る一撃

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 そこは森の中とは思えない開けた場所だった。

 誰かが整地したかのように地面には少しの草しか生えておらず、学校のグラウンドくらいのスペースが円形状に周囲一帯に広がっている。

 その中央部といえる場所には、探していたレインのジュリーの二人の姿があった。しかし、その風貌はついさっきまでヒカリが見ていたものとかなり違っていた。

 全身白の服装に所々教会のシンボルである十字架マークが黒の刺繍であしらわれており、手には両手にはそれぞれ短剣のような武器が握られている。さらに、その服がうっすらと光を帯びており、神聖さを感じさせるふるまいをしているのであった。

 ヒカリから二人までの距離はかなり遠く、また、周囲も暗いというのになぜかその姿がはっきりと視認できる。このことに気づきつつも余計なことは考えまいとして頭の片隅に置いておく。それよりもヒカリはあの二人の正面にまた違う誰かがいるということに注目した。

 それは、全身鎧を身にまとった戦国武将を思わせる風貌の人物だった。甲冑は全身青の塗装が施されており、兜には一本の角が取り付けられている。そして、特筆すべきはその右腕に取り付けられているであろう大きな板である。

 その板、というよりは盾に近い長方形の物体は取り付けている本人よりも少し大きいくらいのサイズで、それを平然と体の芯がぶれることなく立っていることからその鎧武者の身体能力が並大抵のものではないことが伺えた。
 右手には一本の日本刀が握られており、何の構えもせずに双子に相対している。

「うん? 誰か来たようだのぅ」

 鎧武者がヒカリの方向に少し顔を傾けたかと思うと年配の男性を思わせるしわがれた声で厳《おごそ》かに話す。

「!? ヒカリンが何でここに!?」
「どうして!?」

 それにつられて二人はヒカリの方向に顔を傾ける。その顔を見た瞬間、ヒカリは驚愕で一瞬体が硬直した。

 両目が紫色に染まっていたのだ。レインとジュリーの二人とも。

「な、なんだよそれ!! 二人ともどうしたんだよ!!」

 ヒカリはわけもわからないまま二人のもとに駆け寄ろうとする。何が起こっているのかはわからないがあの三人は争いあっていたに違いない。どうであれ、双子は助けなければならないと判断したのだ。
 近寄ってくるのを少しの間静観していた鎧武者は完全にこちらの方に向き直ると威圧感のある声でヒカリに話しかける。

「おい、それ以上近づいたら斬るぞ?」
「!!」

 その殺気の塊のようなどす黒い声がヒカリの足を半強制的に止めさせる。生まれて初めての自分に対して向けられる明確な殺意。それだけでヒカリの体を縮こまらせるのには十分だった。

「お、お前は誰なんだ!」

 精一杯勇気を振り絞って鎧武者に叫ぶがおどおどとした口調になってしまった。それをあざ笑うかのように鎧武者は落ち着いた口調で返す。

「わしか?わしは五条幸宗ゆきむね。お前さんは見たところ孫と同じ制服じゃのう」
「…………五条?もしかして巴の家族?」
「ほぅ、巴の学友じゃったか。これはすまなんだ。殺気を放って悪かったのぅ」

 カッカッカと快活に笑う。さっきまでとは打って変わり、子供のような無邪気さが感じられた。だが、それは一時の事。再度、こちらに意識を向けた鎧武者は何の構えもせずに構えているというよくわからない構えをこちらに向ける。

「じゃがのぅ、この場にいてこやつらの仲間っちゅうのはいただけんなぁ。たとえ孫の友人じゃろうが斬らんといけんわぃ」
「!!」

 どうも鎧武者は双子にだけ用があるようだが、双子を助けるのは鎧武者にとってよくは思われないようだ。しかし、今のヒカリにとって双子を助けないという選択肢はない。いくら、教会に不信感を抱こうと中学生の女の子に危険が迫っているというのに何もしない程無情なわけではないのだ。

 双子の様子を改めてみると向こうは向こうで混乱しているみたいだ。相変わらず鎧武者に武器を構えているものの額にはかなりの汗が噴き出しており、顔色はかなり悪そうだ。きっと実力差は鎧武者の方が上なのだろう。

「お前、名は何という?」
「ぼ、僕は千堂だ。千堂ヒカリ」
「……千堂? あの山賊共のか? なぜ教会の人間を助ける。貴様…家族を裏切ったのか?」

 鎧武者の顔は顔当てでしっかりと隠れている筈なのに怒気が感じられた。それは敵であろうと何だろうと『裏切る』ということに対して許せない、という信念があるようにも思われた。千堂はそのことに戸惑いつつも今の自分の状況をわかる範囲で簡潔に話す。

「……それがわからないんだ。僕には高校以前までの記憶がはっきりとしていない。今日気づいたばかりなんだけど… 誰か知らない人が言うには教会の人間が記憶をいじくったっていうんだ。でも確証が得られるまでは教会に居続けた方がいいと思うから…」
「それで? 敵地だと思いつつもその場におるのか? お前は」

 鎧武者は怒気を抑えたものの、依然として構えはとかない。そもそも、この暗闇の中で全員が正確に周囲の事象を把握できているということが異常なのだがどういう仕組みなのだろうか?

「ああ、僕には他に居場所はないからね……」
「ほぅ……ならばわしんとこに来るかのぅ? 巴の友人であるならば歓迎するし、千堂の者ならばわしらは恩があるからのぅ」

 鎧武者がヒカリを勧誘しようとした瞬間、今まで傍観《ぼうかん》していた双子がそれはまずいと、焦ったように口を挟んできた。

「だ、ダメだよ! ヒカリンは教会にいないと! 私達家族なんだから!」
「私達の事がそんなに信用できないの?」

 依然として鎧武者に注意を向けつつも武器を構え続けている。二人をよく見ると足が小刻みに震えていることが分かる。それが目の前の鎧武者への恐怖によるものなのか、疲れによるものなのか、はたまた二つともなのかはわからないが、見ていてギリギリといった感じだ。もう満足に動ける状態ではないのだろう。
 
「………悪いけど信用できるはずないだろ。この状況で信じられるものなんて何もないじゃないか」

 うぅ、と双子はうろたえる。本人たちにとっても図星であることから何も言い返すことができない。それ程までにヒカリに対する隠し事は多すぎた。
 だから、ヒカリが鎧武者の提案を受け入れるものだと双子は思い、うなだれている所にヒカリは思いもよらない言葉を鎧武者に対して吐き出す。

「でもさ、たとえ偽りの関係だとしても、偽りの記憶を植え付けられていたとしても、この高校時代は本物の筈なんだ。学校から帰るとレインとジュリーがすぐに笑顔で出迎えてくれた。誕生日にはケーキをみんなが作ってくれた。落ち込んだ時は神父様が何も言わずに愚痴を聞いてくれた。些細なものだけれど楽しかったこの事実は変わらない。だから……」

 ヒカリがそこまで言うと握りしめていた右手を胸のところに持ってくる。その手から僅かに赤い光が漏れてきて、ほのかにその場を照らし始めた。

 鎧武者と双子はその光景に目を奪われ、何のアクションをとることもできない。赤い光は段々とその輝きを強めていき、千堂が手をゆっくりと開くとその輝きから赤いマークがはっきりと浮かび上がる。

「……赤じゃと?」

 鎧武者はつぶやく。その光景を見た双子は驚く素振りは見せているものの、その輝きの正体を知っているかのように言葉を漏らす。

「……まずい、このままじゃあ戻ってしまう!」
「早くゆかりを呼ばないと!」

 双子はこの場にいないゆかりを探しに教会の方向へと走り出そうとする。しかし、一体どうやって移動したのか。鎧武者は一瞬で双子の先へ先回りして仁王立ちでどっしりと構える。

「行かせるわけがなかろぅ? どういう事か説明してもらおうかのぅ!」

 瞬間、剣戟が両者の間で交わされる! 鋭い金属音が幾重にも折り重なって無数の火花を散らし始める!

 その小さい花火は段々と数を増やしていき、常人でもその場が明るくなるほど周囲を照らす。しかし、その光は双子の方へと迫っていき、双子の頬を、手を、服を。容赦なく切り裂いていく。

「ほれほれ、どうした? わしはまだ本命を残しておるぞ?」
「くっ!やはり分が悪い!」
「しつこい爺さんは孫に嫌われちゃうんだよ!」

 本命とはその肩に取り付けている大きな盾のことだろうか。しかし、その本命を残している状態で双子は圧されている。一本の刀と四本の短刀。数では圧倒的に勝っている筈なのに純粋に速度で、威力で負けているのだ。その証拠に鎧武者の手元や太刀筋が見えないのに対し、双子の剣筋は速いものの、なんとか視認することはできる。

 千堂は状況が一変しつつも、その様子を見守っていたが、意を決したかのように双子の補助に入るべく戦闘の中心地に向かって走り出す。その距離およそ三十メートル。

「なぁ! この場はお互い引いてくれないか! お互い痛み分けでいいだろう!」

 ヒカリのその言葉がおかしかったのか。鎧武者は戦闘中でありながらも快活に笑いながら返す。

「痛み分けとな? 異なことを。わしは何もこやつらからは食らってはおらん。寧ろ、わしが一方的に痛めつけておるわ!」
「余計悪いわ!!」

 ヒカリはもう我慢ならないとばかりに地面に落ちていた太い木の棒を右手で拾い、鎧武者に対して思いっきり投げる。その棒を避けるでもなく、そこに鎧武者は佇んでいたのだが突如、体からいくつもの血しぶきを無数に上げる!

「な、なんだと! わしの日本刀がただの棒にまけるなど!」

 鎧武者は傷を受けたとみるや一瞬で双子から距離をとる。双子はそれを好機を思い追撃しようとしていたのだが、おそらく殺気を感じたのだろう。足がビクっと震え、体が動かなくなる。
 
 鎧武者の方は構えていた日本刀が刀身の中ほどからぽっきりと折れていることに驚愕していた。

 まさか、僕の木の棒で折れた?日本刀が?そんなバカな!

「……やはり千堂の家系の者か。なかなか侮れん、武器も持ってない故"奇跡"があろうと何も出来はせんと思っていたのだがな…」

 そういうと鎧武者はヒカリの方へ注意を向ける。

 それは一瞬だった。一瞬で千堂の目の前に鎧武者は移動し、その折れた日本刀を千堂に向けて突き刺そうとする!

「じゃがこれで終わりよ」

 シャン!

 それは何かが砕けるような、崩れていくような奇怪な音だった。千堂はもうだめかと思い、咄嗟の抵抗で腕を前に突き出したのだが、その腕と日本刀が触れ合った瞬間から日本刀が粉々になっていく!

「な、なにを! まさかこれもダメか!」
「う、うわ!なんだこれ!」
 
 ヒカリは情けなくも後ろに後退しながら倒れこむ。鎧武者はなぜ日本刀が粉々になったのか驚きつつも、武器の一つを失ったことに愕然としているようであった。
 それをみた双子は注意が逸れたことをチャンスと思ったのか、再度教会に向けて走り出す。

「くそが! 逃がさんよ!」

 鎧武者は双子に向けてその肩に取り付けている大盾を前方に打ち出し全力で突進する。

 その様は一つの岩の塊。高速移動する戦車の類。盾といいつつもそれは守るものではなく攻めの盾。攻守一体の重厚な鈍器は容赦なく双子に襲い掛かる!

 二本の短剣を前方にクロスして防ごうとしたが、そんなものが目前に迫る大盾には何の意味をも持たない。しかし、双子には他にとれる手段がなかった。避けようにも俊敏に動ける体力が残されていないし、避けたところで大盾を軽々と扱っていることから避けたところで軌道を読まれておしまいだ。そのくらいの実力差は双子自身がよくわかっている。

 よって結果は無惨な結果によって終わる。戦車に突進された二人の小さな命の運命はここに決まる。

 ドコっ! バキっ!

 およそ人間があげるべきではない鈍い音を立てて双子は宙を舞う。鎧武者は残心とばかりに二人を追い越すと、くるりと反転して双子が地面にたたきつけられるのを見ると愉快に笑う。

「カッカッカ! 面白いほどよく跳ねおるわい! 二人とはいえ子供体型であればそれも当然かのぅ?」
「て、てめぇ! 何しやがる!!」

 ヒカリは立ち上がり、鎧武者に向かって走り出す!
 
 しかし、その鎧武者は丸腰の千堂に対し、意外にも距離を取って後退する。

「なんで二人を攻撃する! もう戦意はなかった筈だ!」
「なかったのぅ。でも、今逃がしたらあの二人はわしの仲間を殺すじゃろぅ? だから今のうちに潰す。これでも『祓い人』の中では上の方じゃからのぅ。若い奴らの邪魔になるようなら排除せねばなるまい?」
「はらいびと? なんだそれは!」
「それも知らんのか……。そんな力がありながら何も知らされておらんとは。お主らの方がよっぽど異端ではないかのぅ?なぁ?」

 鎧武者が顔を向けた先には二つの物体。その二つはわずかながらにビクビクと動いている。
 それに気づいたヒカリは二人に駆け寄る。

「だ、大丈夫か! 二人とも!」
「………うん」
「………なんとか……ね……」

 見ると所々から打撲痕や出血があり、腕や足は曲がってはいけない方向に曲がっていた。おそらく内臓もぐちゃぐちゃな状態なのだろう。生きているのが不思議なくらいだ。

「その状態で生きているのが不思議か? それが『粛清隊』というものじゃよ。表向きは神に仕えているようなことは言うが、裏ではあくどいことを平気でしよる。人でなければなんでも殺す。人体実験に肉体改造。挙句の果てには記憶操作ときたもんだ。どちらが異端かわかったものではない」
「え?……そんなことをしているの?二人とも……」
「………」
「………」

 二人は気まずそうに千堂から顔を背ける。それはもう明らかな肯定という意味合い以外の何ものでもない。

「そんな! なんでそんなことを……」

「私達はね……そもそも人間じゃないんだよ……」
「呪われた一族の末裔……『魔人』の一族……その生き残りなんだ……」
「!?」

 レインとジュリーが人間じゃない? そんなバカな!

「ほぅ! 『魔人』の一族じゃったか! これは珍しいのぅ!」
「なんなんだよ! その『魔人』ってのはさ!」

 その質問に答えようと双子が声を発しようとするが傷が深いのか、上手く話すことができない。見かねた鎧武者は代わりとばかりに話し始める。

「『魔人』とはな、人の姿かたちをしていながら人を襲うバケモノの事じゃよ。奴らの特性は夜にその力が発揮することと、『人を殺す』という技術においては子供でもプロの暗殺者並みに上手いということかのぅ…」

 鎧武者はその存在が懐かしいとばかりに昔話を始める。

「一番ひどかったのは十年前の『魔人狩り』の日じゃな。あの時わしら『祓い人』は総出で奴らを駆逐しに出向いたんじゃがな。わしらの五分の一のメンバーがやられてしまったわい。まぁ全員皆殺しにしたんじゃがのぅ」

 いやー、参った参った、と鎧武者は事も無げに語る。仲間が大勢死んだみたいなのだがなぜこんなにも笑うことができるのだろうかとヒカリは困惑してしまった。

「だがここに生き残りがいるとはなぁ…、それも教会の奴らの手先になってまでのぅ。何故じゃ?お主らとて教会には散々ひどい目に合わされておるじゃろう?」
「わ……私達は……"服従"の"祝福"を受けている……」
「内容……は……『教会に逆らったら自害せよ』……よ……死ぬまで……その呪いは……続く……」

「……そんな、そんなことって……」

 ヒカリは信じられなかった。教会の人間は信用できないと思っていたのだが、どうやら教会の属している人にも強制的に従わされている者もいるという事実が。
 
「なるほどのぅ…。『粛清隊』の『飼い犬』じゃったか…」
「『飼い犬』?」

 疑問に思ったことが口に出ていたが鎧武者はそれに答えてくれる。

「教会の中には『粛清隊』という戦闘集団がいてな。その中の『飼い犬』というのは異形の者を殺す異形。目には目をって奴だな。そんな使い捨ての駒みたいなのがいるわけよ。外道じゃろう?」
「………ひどい、それを神父様やシスターがしてるっていうの…?」

「ええ………私達にもそうだけどあなたもされているのよ……?」
「名前も……過去も……何もかもをあの人たちが操っている……」

 なんだと? 過去だけじゃないのか!?

「……名前も?僕は千堂ヒカリじゃないの?」
「あなたは……"異端狩り"の中でも別格の存在……"赤い死"……」
「数少ない……"最果て"に至った最強……」
「"赤い死"じゃと!? それはまさか……」





「そこまでですよ。二人とも」

 それは森の中から足音共に聞こえてきた。この場に来てほしくない、僕にとって改めて"敵"になったすべての元凶。赤嶺善導と赤嶺ゆかりが。

「もう、びっくりしちゃうじゃない。ヒカリ?だめでしょう?森の中に入ったら」
「ゆかりさん……」

 僕は茫然として二人を見つめる。神父様は丸腰のようだが、ゆかりさんは手に細長い槍を携えている。その先端には五つの鋭利な突起物がついており、刺さるとかなり痛そうだ。

「神父様。僕の記憶をいじったのは本当なのですか?」
「………ふむ。まぁ気づいてしまったのは仕方がありませんね。最近は気づく頻度が多くなってきました。ゆかり君?あなたのミスでは?」
「あら。記憶操作なんて高度なことをしているのですから仕方がなくて? それに、気づくのは本人が自発的に思い出しているのではなくて外部の接触があるからだと思いますわよ?」
「………やはり誰かをそばにつけるべきでしたね。適当な人員をあしらうしかありませんか……」

 二人はヒカリのことなどどうでもいいとばかりに話し始める。

「……ゆかりさん。あなたが記憶を操作していたんですね」
「そうよぉ?大変なんだからね?記憶操作。一晩中あなたにつきっきりで相手しないといけないんですもの。勘弁してほしいわ」

 ヒカリはイラつきながらも神父に向かって再度尋ねる。

「レインとジュリーを強制的に戦わせているというのは本当ですか?」
「自分の事より他人の事が気になりますか? 記憶がないだけでここまで変わるとは。やはりゆかり君の"祝福"は素晴らしいですね」
「答えてください!」

 ヒカリが叫ぶと神父は眉をひそめ、怪訝な顔をしながらいう。

「そうですね。異端の者同士で潰しあってくれれば私共は助かりますから。寧ろ、感謝して欲しいのですよ?本来なら殺すところを生かしてあげているのです」

 平然と神父は答える。その顔はヒカリにとって悪魔のような顔に見えた。いくらなんでも酷すぎる。あんな小さい子供に戦わせて自分は高見の見物なんて……、だから……

「……神父様、いえ、赤嶺善導。あなたは今から僕の敵です」
「それはいただけませんね。まだ思い出していないとはいえ刻印が浮かび上がっているのですから。ゆかり君、対処できますか?」
「……正直相手にしたくないですね。『弱点に至る一撃』はかなり厄介です。"最果て"に至らずともその力は最弱でも無敵です」
「やはりそうですか……であれば二人を使うしかありませんね」
「いいのですか?あの二人はかなりの実績を積んでますが……」
「こういう状況ですから。やってください」
「一体さっきから何を…」

 すると、突然双子の体が急激にビクンビクンと跳ね始める。それは陸に打ち上げられて魚が暴れまわるかのように。

「!? レイン! ジュリー!」
「がぎぎぃぃぃぃぃぃぃ」
「ぐががががぁぁぁぁぁ」

 二人は苦悶の声を上げる。次第に口から泡をふき、目は白目になりつつあった。

「二人に何をした!」
「そう怒らないで、ヒカリ。私だってつらいのよ。こんなことをするのは。でも、神父様がおっしゃるのだから仕方がないでしょう?」
「ああ、ど、どうしよう!幸宗さん!どうにかできませんか!」

 いきなり話しかけられたもんだから、え、わし?みたいな仕草でおどけていたが返答はすぐにきた。

「うーむ、おそらくこれは"祝福"とは別のもんじゃのう。お主ら、あの小娘共に何を仕込んだ?」
「へー、おじいちゃん勘がいいのね。そうよ。それは能力ではなくただの虫。『死刻虫』っていえばわかるかしら?」
「わかるとも、外道ども。わしの仲間がそれで何人やられたと思っておる。やはり教会の奴らは好かん」

 死刻虫?なんだそれは。

「ああ、お前さんはわからんよな。『死刻虫』はその名の通り虫じゃよ。しかしのぅ、寄生された人間は暴れまわって死ぬがの」
「は?そんなのダメだ!早く取り除かないと!!」
「まぁ待て。その虫は人為的に作られたものでな。操っておる奴しか解除することは出来ん。この場合、操っておるのは……あのゆかりというシスターじゃろうなぁ」

 鎧武者は、もうわし帰っていい?とふざけたことをぬかしてくる。あの双子が死ねとわかればもう用はないとでもいうように。

「そ、そんな! あなたにとって教会は憎むべき敵でしょう!? あの二人は敵ではないんですか!!」
「ああ。敵ではあるがの。ちょいと分が悪いわい。特にあの男はの」

 そういうと神父の方へ顔を向ける。

「赤嶺善導。あの男は『粛清隊』の中でもかなりの実力者じゃ。噂によると"異端狩りの千堂"に勝るとも劣らない力を持っておるとかなんとか。わしも『祓い人』の中でもかなり上の方じゃが一人では戦いたくない相手じゃからのぅ」

 意外だった。あの神父はまだ若い年齢ではあるし、貫禄のある佇まいをしているからか、弱くはないのだろうと思っていたのだが、さっきからゆかりさんを戦わせようとしたり、丸腰であることから指揮官タイプの人間だと思っていたからだ。

「そ、そんな。じゃあどうすれば……」
「諦めろ。もうあの小娘共は捨ておけ。それよりお前さんはどうするんじゃ?わしと来るか?」
「で、でも……」
「はっきりわかったじゃろう? あやつらは外道よ。なんでお前さんに記憶操作までして生かしておるのかは不明じゃが戻ればまた記憶を消されるぞ?」

 ヒカリは考え込む。このまま神父とシスターと敵対しても鎧武者の言うとおりになるだろう。でも、このままでは双子の命が危ない。

 すると、今までうめき声しかあげていなかった双子が急に立ち上がり、僕と鎧武者を見つめてさらに叫び声を上げる。

「ごロス! ごロス! ごロスぅぅぅぅぅ!」
「がわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「!?」

 双子はそういうや否や、僕たちめがけて突進してくる!

「くそ!なんで僕たちを襲うんだよ!」
「ふむ、あ奴ら死刻虫までも操るすべを持ちおったな?」

 ヒカリと鎧武者は双子から距離を取るべく慌てて後退する。しかし、狂化している二人から逃げ切れるわけもなく、すぐに追いつかれてしまった。
 仕方ないとばかりに鎧武者は大盾を双子に向けて構え、防御の姿勢に入る。

「お前さん、わしの後ろに下がっておれ。後ろから攻撃するんじゃないぞ?」
「そ、そんなことするか!」

 いくらなんでも守ってくれる人を後ろからだまし討ちするようなことはするはずもない。そもそもヒカリには武器と言えるものなどないのだから。

「お前さんにとって万物は全て余さず武器であり盾だ。そのことを忘れるでないぞ」
「はぁ? どういう意味だよ!」

 鎧武者の方からいくつもの金属同士がぶつかる音が聞こえる。全然後ろに下がってこないことから狂化された双子でもこの鎧武者には敵わないのだろう。

「おそらくお前さんの”奇跡”は全ての攻撃が相手にとっての弱点になるというものじゃ」
「………は?」
「この世の全ての物には弱点がある。火には水。水には電気。わしにはカミさんとかな」
「最後のは余計でしょ……」
「まぁ聞け。つまりな、お前さんが何でもいいから攻撃という目的をもって攻撃したのであれば、その攻撃は結果的に受けた方は弱点になるんじゃよ」
「なんだよそれ、最強じゃん」
「ああ、しかもそれは攻撃だけにおさまらん。防御にも転じる。お前さんに対するすべての攻撃はお前さんに向けられた瞬間、弱点になるから全て無効になるわけじゃ」

 そんな力があったなんて……だったらこの状況も上手くすればなんとかなる……?

「じゃからの?お前さんがうちに来てくれればわしにとっても助かるわけじゃ。カミさんからわしを守ってくれ」
「あんたの奥さんがこの状況より怖いってことが何より怖いんだけど……」

 ヒカリは鎧武者についていきたいという思いが少しはあったのに今の発言で行きたくなくなってしまった。




「本格的に僕に居場所無くなってきたな」


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