とうちゃんのヨメ

りんくま

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1章 絆

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「暑苦しい」
懐かしい夢から覚めた現実。僕の身体をぎゅうぎゅうに抱きしめて眠るこの男、6歳年上の叔父さん事、木下 藤吉きのした とうきち。僕のお母ちゃんの一回り歳の差がある弟だ。僕の本当の父親は、生まれて直ぐに病死したと聞いている。その後、女手一つでお母ちゃんは、僕を育ててくれていた。

「トウちゃん、暑いよ」

うっすらと伸びた無精髭がある顎を見ながら、身体を捩って隙間を求める。

「うぅ…ん」

身体の拘束が緩みトウちゃんは、ゴロリと反対側に寝返りを打った。起こさない様にそっと布団を抜け出し、側に置いてあるパーカーを羽織って、音を立てない様に僕の部屋を出た。

軋む階段をゆっくり降りながら、向かう先は木下家のキッチン。僕と暮らす為に、トウちゃんが購入した古い一戸建て。田舎という事もあって部屋数は無駄に多い。もちろん自分の部屋はあるのに、トウちゃんはいつも僕の布団に入り込んでくる。

「お母ちゃんが、死んで独りぼっちだったからなぁ」

お母ちゃんは、家族について多くを語る事はなかった。幼いなりに困るお母ちゃんの顔を見ると、無理矢理聞く気にもならなかった。事故で呆気なく還らぬ人となったお母ちゃん。お葬式もなく市の職員さんに連れられて、父親の親戚に引き取られるも、お母ちゃんの保険金が当てにならないと判るや否や、僕を施設に預けた。

トウちゃんと僕の弁当を用意しながら、朝食も一緒に調理していく。じゅうじゅうと音をたてながら、卵焼きをくるくるっと巻いていく。お味噌汁は、最近あごだしがお気に入り。紅鮭を焼きながら、ジャガイモを茹でてポテトサラダも作った。昨日たくさんあげた唐揚げも弁当のおかずに盛り付ける。

お母ちゃんを少しでも楽させたくて覚えた家事が、ここぞと発揮する。トウちゃんがお母ちゃんの死を知ったのは、僕を引き取る1ヶ月前。時同じくして爺ちゃんが亡くなった。死に際に告げられたお母ちゃんの死と僕の存在。死にゆく爺ちゃんにバカヤロウと怒鳴り、必死で僕を見つけてくれた。

お母ちゃんも爺ちゃんに頼らなかった。
爺ちゃんも意地になって孫に手を差し伸べなかった。トウちゃんは、お母ちゃんの事を知らせが無いのは元気な証拠と楽観的に考えていた。

何度も謝られたけどトウちゃんは、何も悪くないよ。お母ちゃんも爺ちゃんも、僕の事が心残りだったから、意地になってたけで、ちゃんとトウちゃんに知らせてくれたんだ。あの孤独から救い出してくれてありがとう。僕、織田 信おだ しんは、今日も感謝でいっぱいです。

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