とうちゃんのヨメ

りんくま

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1章 絆

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爺ちゃんとお母ちゃんの仏壇に手を合わせた後、僕はリビングで古いアルバムを捲り眺めるのが、最近の日課だ。トウちゃんの持っていた古いアルバムには、僕の知らないお母ちゃんの過去がいっぱいある。

「あはっ ちっちゃいトウちゃんが、泣いてる」

婆ちゃんが、赤ちゃんのトウちゃんを抱っこして、傍に幼いお母ちゃんが心配そうに見上げている。優しそうな婆ちゃんの顔は、何処となく僕に似ている。僕はお母ちゃんの写真を持っていない。

デジタルの世の中となった今、アナログの写真は廃れていった。お母ちゃんと僕の思い出は、いっぱい残っていたはずだった。お母ちゃんのスマホにいっぱいいっぱい思い出は、残っていた。だけどお母ちゃんが事故に遭った時、車にいっぱい踏みつけられ、ガチャガチャになったスマホは、二度とデーターを映し出す事も、抽出する事も出来なくなった。

「写真って良いなぁ」

二度と会うことが出来ないと思って諦めていたお母ちゃんに会える。会ったことのない爺ちゃんや婆ちゃんにも会える。僕にも家族がいたって証が、ここにある。

ふと、家族の集合写真に目が止まる。何処となくこの家の玄関によく似ている。

「おはよう、懐かしい物見てるなぁ」

トウちゃんが、柱にもたれて優しい表情で、僕を見つめていた。

「おはよう、トウちゃんの引っ越しの荷物の中からアルバムを見つけたんだ」

写真に写る背景は、どれもこれも何処となくこの家の中に似ている。台所はシステムキッチンに変わっていたり、畳の部屋がフローリングになっていたりしているけど、基本的な柱や壁、押し入れの位置などよく似ている。

「トウちゃん、写真の家とこの家ってよく似ているよね」

何気なく聞いてみる。

「そりゃそうさ、俺が10歳まで暮らしていた家だかんな」

一枚の写真を指差し
「コレ、ここの柱傷あるだろ?そいつはこの柱だ」
コンコンともたれていた柱を叩きながらトウちゃんは言った。
「偶然、売りに出されていたのをみつけてな、信と暮すのに運命だと思って購入を決めた。ド中古だから安かったってのもある」

トウちゃんは、単に懐かしいからって言うけれども、少し寂しさが込み上げてくる。僕には、柱の傷も、家族で集合写真を撮る思い出も何もない。父親との記憶なんて、全くの皆無だ。もっとお母ちゃんに甘えたい時期だってあったのに、困らせたくない一心で、我慢していた。何か言葉にすると泣きそうになる。ぺらっ、ぺらっ、静かにアルバムのページを捲る音だけが聞こえて来る。


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