とうちゃんのヨメ

りんくま

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1章 絆

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泣き過ぎて頭が痛い。重い腰を上げ、食材を冷蔵庫に収納した後、僕は布団に潜り混んだ。1時間位なら、仮眠を取っても大丈夫だろう。







「うん、お熱は下がったみたいね!」

おでことおでこをくっつけて、お母ちゃんは僕の熱を計ってくれた。懐かしい記憶。僕は、もう独りじゃないよ。今は、トウちゃんと一緒に暮らしているんだ。

「そう、良かったわね」

お母ちゃんは、優しく微笑んだ後、表情を歪めて言った。

「でも、もう信の事邪魔になったんじゃない?」
「邪魔?」
「だって、彼女追い返しちゃったんでしょ。きっと、もう嫌いになったよ」
「きらいになる?」
「うん、邪魔な信を嫌いになった」

思わず振り返ると、トウちゃんが汚物でも見るような表情で僕を見ていた。

「信、俺と一緒に暮らすのは彼女だ!お前はもういらないんだよ」

トウちゃんは、そう言い放つと綺麗なお姉さんを抱き寄せた。

「ごめんなさいね、君の居場所は私が貰ったから」

優しそうな声で、残酷に囁かれた。

「僕は、ここに居たらダメなの」
「駄目よ」
「良い子にしているから、側に置いて?」
「邪魔だから出て行ってくれる?」
「ト、トウちゃん!僕から離れていかないで!」

必死で、僕はトウちゃんに手を伸ばした。

「トウちゃん!僕を独りにしないで!」

伸ばした手は、トウちゃんを擦り抜けて掴む事ができない。

何度も何度も、トウちゃんを呼び続けた。トウちゃんは、お姉さんの肩を抱いて、僕を背にゆっくり離れて行った。

「トウちゃん!」

不意にグイッと抱き寄せられた。

「信、お前を独りには絶対にしない」

優しい陽だまりの匂い。大好きなトウちゃんの匂い。背中に手を回して抱きしめる。トウちゃんの背中ってこんなに大きかったかなぁ?

「信?信?大丈夫か?具合が悪いのか?」

僕をぎゅうぎゅうに抱きしめながら、トウちゃんは狼狽えていた。

「夢?」
「起きたか?もの凄くうなされていたぞ…うん?体調が悪いのか?」
「!!」

僕の前髪とトウちゃん自身の前髪をかきあげ、さも当然のようにおでこをくっつけてきた。

「よし、熱はないみたいだな…どうした?」

お母ちゃんと全く同じ仕草で、変わらない言葉で、熱を計られた。

「その…むかし、お母ちゃんにも同じ様に…」
「あぁ、やっぱり姉弟だな。俺のお袋、つまりお前の婆ちゃんな、婆ちゃんもこんな風にいつも熱を計っていたからなぁ」

ポリポリと指で頬をかく仕草は、少し恥ずかしそうだった。

「制服のまま布団で寝ているもんだから、体調悪いのかと思ったぞ」
「うん…少し頭が痛かったから…」

トウちゃんが、もの凄く心配してくれる。悪いと思うけど、凄く、凄く嬉しいと思ってしまうのは悪い事なのだろうか?

「トウちゃん…ゴメンね」

ピンッとおでこを不意に小突かれた。

「バーカ、こういう時はありがとうって言うんだ。謝るんじゃないよ。まぁ、晩飯は、俺が作るからゆっくり休んどけ」
「あ、ありがとう」

僕は、おでこを摩りながら、どす黒くなりかけた心が、ホワホワっと軽くなっていくのを感じていた。

この人に嫌われたくない、そう思うと少し勇気が湧いてきた。

「トウちゃん、今日、トウちゃんの彼女が家に来た」






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