とうちゃんのヨメ

りんくま

文字の大きさ
上 下
12 / 66
1章 絆

12

しおりを挟む
雪ちゃんは、綺麗で可愛い物や人が大好き。だからって、二十歳やそこらで、エステサロン、美容室、ネイルサロン、アパレルショップ、雑貨店など手広く経営出来る?この人もトウちゃんと同類で、若くして人生設計を算段するタイプだとわかった。

「まさか、織田様あのババアが、藤吉の前の未成年後見人なんてねぇ……世間は狭いな」

久美子さんは、雪ちゃんの経営するいくつかのサロンのお客様だったらしい。

「2年位前からピタリと来なくなったのは、そう言う事だったのか…うん」

一人でブツブツと呟いている。だけど、僕の手はしっかりと握っている。見た目は、綺麗なお姉さんなんだから、僕は少し恥ずかしいんだけどなぁ。今日は、お姉さんモードの雪ちゃんなのに、言葉はすっかりお兄さんモードだ。

「あぁ、仕事が早く終わって、信君に少しでも早く会いたいと思って学校側から来て正解だったな」
「僕も、雪ちゃんに会えて助かったよ。久美子さんは、苦手な人だから…」

久美子さんは、いつもお母ちゃんのことを悪く言っていた。勝手に父親と結婚して、子供を産んで、さっさと死んで、面倒だけを押し付けたと、僕に辛く当たっていた。僕が相続したお金が自由に使えないと判ると、直ぐに施設へ放り込んだ。

久美子さんが、管理すると言ってきたけど、久美子さんの生活態度から絶対にそれだけは許してはダメだと思ったからだ。市の職員さんにも後見人に管理してもらえば、安心だよと何度も説得してきたけど、僕の通帳を渡すことだけは、頑なに拒否をした。

「信君、それ正解だよ。織田様あのババア金遣い本当に荒かったから」
「うん、お母ちゃんが、僕の為に遺してくれたお金だったから、信頼できない人に渡せなかった」

雪ちゃんは、僕達の家に今日は泊まり込むという。

「じゃあ、今日は雪ちゃんの好きなご飯を作ってあげる」
「!ちょっと…雪ちゃん!道中!みんな見てるからー」



ガシッと道中で抱きしめられて、再び注目をされてしまった。帰ってきたトウちゃんが、今日の晩ご飯を見て、思いっきり拗ねてしまったのもいつもの出来事だ。




「藤吉、信君 父親の親戚が絡んできてる」
「名前判るか?」
「偶然にも、元ウチの顧客 織田 久美子って、藤吉、お前知っているのか?」

織田 久美子の名前を聞いて、藤吉は苦虫を噛み締めたような顔をした。

「俺の前に信の後見人だった人だ。わかった、大先生にも報告しておく」
「気を引き締めなさいよ、あの織田様ババア常識通じないから」


静かに歩いても、ギシリと床が鳴る。藤吉は、信を起こさないようにそっと布団に入った。一緒に暮らし始めた頃、信はよくうなされていた。隣の藤吉の部屋にまで、泣き声が聞こえてくることもあった。今では、落ち着きよく笑うようになった。隣でスヤスヤと眠る信の顔を愛おしく見つめた。

頬に手を添え、額にそっとキスを落とす。

「救われたのは、俺も一緒なんだ」

母が死に、姉が去り、親父も看取った。独りでがむしゃらに生きていくしかなかった。ただ、生きる屍としての生活しか残されていないと思っていた。

「信、俺の家族になってくれてありがとう。お前のことは、俺が守ってやる」

信をぎゅうっと抱きしめて、後頭部に鼻を埋める。そうして、いつも通りに藤吉も眠りについた。
しおりを挟む

処理中です...