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1章 絆
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藤原は、事務所で信の身辺について洗い出し作業をしていた。
藤吉自身、信が12歳の時に初めてお互いの存在を知った。信の祖父にあたる藤吉の父親が、亡くなる直前まで藤吉に知らせていなかったからだ。ただの頑固一徹だけで、孫の存在を息子に隠すだろうか?
藤吉も面識のない信の父。その妹の久美子。立場的に藤吉と久美子は叔父、叔母と同じ立ち位置であった。
戸籍謄本、住民票、信出生届をはじめ、信の父親である織田 信三の死亡診断書と病院のカルテ、母親である織田 寧々の死亡診断書、事故証明書を取り揃えた。
藤原は、一人一人、データーをまとめていく。
織田 信三。信の生後半年後に病死。胃癌 進行癌でステージⅣ。血液型はAB型。元中学校教諭。配偶者の織田 寧々は、教え子の一人。年齢差は30歳。
織田 寧々。木下 藤吉の姉。高校卒業後、信三と結婚、そしてその年に信を出産。実家とは絶縁状態のまま、12年後交通事故で他界。
織田 信。信三と寧々の息子。寧々が他界した後、叔母の織田 久美子に引き取られる。その後、久美子によって施設へ入所。その頃、藤吉と出会い二人の交流が始まる。藤吉が成人した年に、後見人が久美子から藤吉に代わり、その後藤吉と暮らし始める。
「こうやって改めて信君の身の上を確認して見ると、今の幸せを絶対に守ってあげたくなるわね」
陽子は、藤原にコーヒーが淹れられたカップを渡した。藤原もありがとうとお礼を伝えて、カップを受けとって鼻先でコーヒーの香りを嗅ぐ。
「藤吉は、虐待を受け引きこもった状態になっていた信を見て驚愕したらしい。休みの度に通って、また手紙を書いて、少しずつ絆を深めていったんだ」
二人が藤吉と出会ったのも、同じ時期だった。藤原が、独立して法律事務所を立ち上げる切っ掛けになったのが、信の存在だった。
「守る手段を教えてください…だったかしら?」
藤吉が、法律家を目指したのも、信を守りたかったからだ。偶然にも、母親の勧めで司法書士の国家資格を手にしていた。実務経験と適応力を藤吉は求めて、藤原に懇願したのだった。
「だけど、三人の経歴を見ていくと、何かしら違和感を感じて仕方がないんだよな」
「因みに、寧々さんと藤吉君のお父さんは、絶縁状態だったんでしょ?」
藤原は、陽子の質問を肯定した。
「藤吉が、6歳の時に家を出てそれっきりだったらしい」
「だけど、お父さんは、信君の存在は知っていたのよね?」
「そうだろうな」
「寧々さんとお父さんって、本当に絶縁していたのかしら?」
「どういうことだ?」
藤原は、陽子の疑問の意味がわからなかった。今となれば、誰も証明する者がいない為、藤吉の証言が全てだ。藤吉も藤原に隠す必要はないし、嘘で誤魔化す性格でもない。
陽子は、指先にボールペンを持って、上下に振りつつ、話を続けた。
「なら、どうして藤吉君は、あっさり信君にたどり着けたの?お父さんからの情報で探したんでしょ?12年も音信不通だったのよ、捜索願いも出さないで、自力で見つけるのは、あの頃の藤吉君には無理よ」
確かに陽子の言う通りだった。藤吉が、持っていた情報は新しすぎる。本人たちに確かめようもないが、陽子の疑問は信憑性が高いと判断できる。
藤原は、カップに残ったコーヒーを一気に飲み干す。机の上に置いてあったバイクのキーを手に取って、席をたった。
「藤吉の見舞いに行ってくる。何かあったら連絡して」
「行ってらっしゃい」
陽子は、手を振って藤原を見送った。
藤吉自身、信が12歳の時に初めてお互いの存在を知った。信の祖父にあたる藤吉の父親が、亡くなる直前まで藤吉に知らせていなかったからだ。ただの頑固一徹だけで、孫の存在を息子に隠すだろうか?
藤吉も面識のない信の父。その妹の久美子。立場的に藤吉と久美子は叔父、叔母と同じ立ち位置であった。
戸籍謄本、住民票、信出生届をはじめ、信の父親である織田 信三の死亡診断書と病院のカルテ、母親である織田 寧々の死亡診断書、事故証明書を取り揃えた。
藤原は、一人一人、データーをまとめていく。
織田 信三。信の生後半年後に病死。胃癌 進行癌でステージⅣ。血液型はAB型。元中学校教諭。配偶者の織田 寧々は、教え子の一人。年齢差は30歳。
織田 寧々。木下 藤吉の姉。高校卒業後、信三と結婚、そしてその年に信を出産。実家とは絶縁状態のまま、12年後交通事故で他界。
織田 信。信三と寧々の息子。寧々が他界した後、叔母の織田 久美子に引き取られる。その後、久美子によって施設へ入所。その頃、藤吉と出会い二人の交流が始まる。藤吉が成人した年に、後見人が久美子から藤吉に代わり、その後藤吉と暮らし始める。
「こうやって改めて信君の身の上を確認して見ると、今の幸せを絶対に守ってあげたくなるわね」
陽子は、藤原にコーヒーが淹れられたカップを渡した。藤原もありがとうとお礼を伝えて、カップを受けとって鼻先でコーヒーの香りを嗅ぐ。
「藤吉は、虐待を受け引きこもった状態になっていた信を見て驚愕したらしい。休みの度に通って、また手紙を書いて、少しずつ絆を深めていったんだ」
二人が藤吉と出会ったのも、同じ時期だった。藤原が、独立して法律事務所を立ち上げる切っ掛けになったのが、信の存在だった。
「守る手段を教えてください…だったかしら?」
藤吉が、法律家を目指したのも、信を守りたかったからだ。偶然にも、母親の勧めで司法書士の国家資格を手にしていた。実務経験と適応力を藤吉は求めて、藤原に懇願したのだった。
「だけど、三人の経歴を見ていくと、何かしら違和感を感じて仕方がないんだよな」
「因みに、寧々さんと藤吉君のお父さんは、絶縁状態だったんでしょ?」
藤原は、陽子の質問を肯定した。
「藤吉が、6歳の時に家を出てそれっきりだったらしい」
「だけど、お父さんは、信君の存在は知っていたのよね?」
「そうだろうな」
「寧々さんとお父さんって、本当に絶縁していたのかしら?」
「どういうことだ?」
藤原は、陽子の疑問の意味がわからなかった。今となれば、誰も証明する者がいない為、藤吉の証言が全てだ。藤吉も藤原に隠す必要はないし、嘘で誤魔化す性格でもない。
陽子は、指先にボールペンを持って、上下に振りつつ、話を続けた。
「なら、どうして藤吉君は、あっさり信君にたどり着けたの?お父さんからの情報で探したんでしょ?12年も音信不通だったのよ、捜索願いも出さないで、自力で見つけるのは、あの頃の藤吉君には無理よ」
確かに陽子の言う通りだった。藤吉が、持っていた情報は新しすぎる。本人たちに確かめようもないが、陽子の疑問は信憑性が高いと判断できる。
藤原は、カップに残ったコーヒーを一気に飲み干す。机の上に置いてあったバイクのキーを手に取って、席をたった。
「藤吉の見舞いに行ってくる。何かあったら連絡して」
「行ってらっしゃい」
陽子は、手を振って藤原を見送った。
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