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1章 絆
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藤原法律事務所は、弁護士藤原 大の自宅兼事務所として構えている。藤原自身、独立する迄は、別の弁護士事務所の雇われ弁護士でもあった。仕事として生業をするのだから、利益を求めるのは当然でもある、だが利益重視の業務方針に疑問を抱いていた。その事務所で出会ったのが、妻の陽子だった。陽子は、事務員として勤務しており、仕事も淡々とこなすが他のスタッフと馴れ合うといったこともなく、どことなく壁を作っている感じがしていた。
そんな陽子との距離が急激に縮まったのが、藤吉との出会いでもあった。当時、高校3年だった藤吉は、新人採用の募集を見て、藤原の務める事務所の問を叩いた。
募集要項は、30歳までの司法書士資格を所持する者だった。事務所の方針として、自己破産、再生法、また各種クレジットカードの負債を減額処理を手がけるにあたり、利益率を上げるために若い司法書士を採用したかったからだ。
藤吉は、高校生でありながら司法書士の国家資格を持っていた。興味が湧き、所長に面接の同席を願い出た。
「高校生なんか信用性に欠ける。採用しないよ?時間の無駄無駄」
面接前から不採用を決める所長に、嫌悪を抱く。
「採用の判断はどうでもいいので、同席をさせてください」
頭を下げて、同席を懇願した。事務所内の来客用ソファーに座り、藤吉は待機していた。秘匿性もないため、面接はその場で行われる。
藤原たちが現れると、藤吉はスッと立ち上がり、深々とお辞儀をする。
「本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございます」
芯のある瞳、真っ直ぐに結ばれた意思の強さを表す口元、真っ直ぐに伸びた背筋、第一印象は、悪くない。
「構わないよ、どうぞおかけください」
座ることを許可すると、
「ありがとうございます」
とお礼を言ってから、俺たちが座るのを待ってから座った。今時の高校生には見えないな。
所長は、採用する意思がないため当たり障りのない質問をして行く。愛想良くハキハキと答えてはいるが、この子は手答えが無いことを理解しているだろうと思った。ギュっと握られた拳に気持ちが表れている。まだまだ若いと思わざるを得ない。
「採用の場合は、3日以内に連絡します。連絡なければ、不採用と考えてください。その場合、履歴書の返送はご希望ですか?」
「いえ、返送は不要です」
その答えも正解だ。毎回履歴書をつかい回してますといった印象を与えない。俺は、もう少しこの少年と話がしたい。だけどそれはここではない。
「所長、下まで送っていきます」
所長も、無碍には出来ないことを悟り、許可をくれた。事務所から出ると扉が閉まっていることを確認して声をかけた。
「少年、私に少し時間を貰えないか?」
自分の名刺を少年に渡す。
「不採用だと実感しているんだろう?」
「…ハイ」
「なら、是非に時間が欲しい。私も正直に君の意見を聞きたい。駄目か?」
含ませた言葉の意味を瞬時に理解した少年は、二つ返事で俺にお辞儀をした。本当に聡い少年だと実感する。改めて、連絡先を交換し、事務所に俺は戻った。
鞄の中に入れていた辞表を持って、所長に手渡す。直ぐに受理はしてくれなかったが、半年後俺は、この事務所を後にすることが決まった。
そんな陽子との距離が急激に縮まったのが、藤吉との出会いでもあった。当時、高校3年だった藤吉は、新人採用の募集を見て、藤原の務める事務所の問を叩いた。
募集要項は、30歳までの司法書士資格を所持する者だった。事務所の方針として、自己破産、再生法、また各種クレジットカードの負債を減額処理を手がけるにあたり、利益率を上げるために若い司法書士を採用したかったからだ。
藤吉は、高校生でありながら司法書士の国家資格を持っていた。興味が湧き、所長に面接の同席を願い出た。
「高校生なんか信用性に欠ける。採用しないよ?時間の無駄無駄」
面接前から不採用を決める所長に、嫌悪を抱く。
「採用の判断はどうでもいいので、同席をさせてください」
頭を下げて、同席を懇願した。事務所内の来客用ソファーに座り、藤吉は待機していた。秘匿性もないため、面接はその場で行われる。
藤原たちが現れると、藤吉はスッと立ち上がり、深々とお辞儀をする。
「本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございます」
芯のある瞳、真っ直ぐに結ばれた意思の強さを表す口元、真っ直ぐに伸びた背筋、第一印象は、悪くない。
「構わないよ、どうぞおかけください」
座ることを許可すると、
「ありがとうございます」
とお礼を言ってから、俺たちが座るのを待ってから座った。今時の高校生には見えないな。
所長は、採用する意思がないため当たり障りのない質問をして行く。愛想良くハキハキと答えてはいるが、この子は手答えが無いことを理解しているだろうと思った。ギュっと握られた拳に気持ちが表れている。まだまだ若いと思わざるを得ない。
「採用の場合は、3日以内に連絡します。連絡なければ、不採用と考えてください。その場合、履歴書の返送はご希望ですか?」
「いえ、返送は不要です」
その答えも正解だ。毎回履歴書をつかい回してますといった印象を与えない。俺は、もう少しこの少年と話がしたい。だけどそれはここではない。
「所長、下まで送っていきます」
所長も、無碍には出来ないことを悟り、許可をくれた。事務所から出ると扉が閉まっていることを確認して声をかけた。
「少年、私に少し時間を貰えないか?」
自分の名刺を少年に渡す。
「不採用だと実感しているんだろう?」
「…ハイ」
「なら、是非に時間が欲しい。私も正直に君の意見を聞きたい。駄目か?」
含ませた言葉の意味を瞬時に理解した少年は、二つ返事で俺にお辞儀をした。本当に聡い少年だと実感する。改めて、連絡先を交換し、事務所に俺は戻った。
鞄の中に入れていた辞表を持って、所長に手渡す。直ぐに受理はしてくれなかったが、半年後俺は、この事務所を後にすることが決まった。
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