とうちゃんのヨメ

りんくま

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1章 絆

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挽きたてのコーヒーの薫りが、鼻先をくすぐる。ことんとテーブルにカップが置かれた。

「ありがとう、陽子」
「何考えてたの?」
「あぁ、藤吉と出会った時のことだよ」

ふふっと二人で笑いが溢れる。

「藤吉君がいなければ、私たちも結婚していなかったわね」
「…そうだな」
「私たちの夢を叶えてくれた藤吉君を、今度は私たちが支える番ね」
「あぁ」
「噂をすれば、ほら」

勢いよく事務所の扉が開かれる。藤吉と信君が旅行から帰ってきて、お土産を持って事務所にやってきた。

「ただいま、大先生、陽子さん」
「大先生、陽子さん、お土産持ってきたよ」

大きな紙袋には、藤原お気に入りの地酒。ツマミに合うであろう干物やウニ漬け。信が大層気に入った茶蕎麦と地元銘菓の外郎など大層な量を購入していた。

「雪からもなんで気にしないでください」
「僕ん家用も買ったんですよ」

藤原は、楽しそうに旅行での出来事を一生懸命に話す信を見て、良い息抜きになったのだとホッとした。

旅行の話題に尽きない信を陽子が相手をしている間に、藤原は藤吉を事務所奥の書斎に連れ出した。

仕事の話だと言えば、信も然程気にすることはなかった。書斎に入るなり、藤吉は真剣な表情に変わる。

「何か有ったんですか?」
「一応お前の耳にも入れておこうと思ってな。座談会の出席者の中に、織田久美子の縁者もいたらしい。心あたりあるか?」

藤吉にとっては、あまり楽しくもない座談会出会った。少し考えながら、もしかしてと藤原に尋ねた。

「いやね、俺だけはお見合いパーティみたいな状態だったんですけど、それですかね?」
「…浅はかなあの女らしい…。お前を篭絡しろとでも命じたかもな」
「ねぶりつくように結婚観や恋愛観ばかり聞いてくるんで、正直うんざりしてました」

浅はかななハニートラップに掛かるような藤吉ではないことは重々承知していた。

「金欲しさに、手段を選ばないだろうからな、取り敢えずコレでも保険がわりに書いておけ」

一枚の紙を藤吉に手渡す。

「…委任状ですか?」
「あぁ、後見人はお前で保佐人は陽子としている。万が一俺も絡めるように保険だな。事務所として、信君の後見人をしている証だ」

深々と頭を下げる藤吉に、藤原は笑顔を見せた。

「お前、俺たちが出会った時のこと覚えているか?」
「忘れるわけないじゃないですか!」
「俺の理念は、あの時と何も変わっていない」
「…本当の弱者を助ける!」

藤吉の答えに満足する藤原。そしてもう一つの書類を渡した。

「こっちは、お前一人の問題ではない。だが、俺は、最強の防御手段の一つと考える。信君と一緒に考えてみろ」
「…!対策としては、最強のカードですね。…確かに…だけど、こればかりは、俺だけの気持ちでは、結論出せません…俺自身も少し考えたいです」

渡された書類を藤吉は、ファイルに納めて鞄に仕舞った。



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