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1章 絆
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僕は、気合を入れて病院の自動ドアを潜る。
カツカツカツ
何度も履いて、踵のある靴も履きなれた。
「信ちゃん、今日も彼氏さんのお見舞い?」
「あ、どうも…」
はい、一人目。
「信ちゃん、信ちゃん。今日も可愛い。僕とお付き合いしてください」
「あ、ごめんなさい」
はい、二人目。
「あの、一目惚れしました。これ、読んでください」
「ごめんなさい、受け取れません」
三人目。ヒラヒラと舞うスカートを靡かせ、僕はトウちゃんの病室に向かう。
「ムリです…。この後予定あります…。お気持ちだけで結構です…」
今の僕は、信子ちゃん。雪ちゃんの家でお世話になって二週間。僕は、信子ちゃんで過ごしている。
「雪ちゃん、僕この恰好で病院に行かなきゃダメ?昨日、来ていた服でも良いんだけど」
「ダメダメ、ほらじっとしてて、グロスがはみ出ちゃうから。藤吉も喜ぶわよ?」
「そう…かな?」
あの日、雪ちゃんに唆されて、信子ちゃんになって、トウちゃんのお見舞いに来たんだった。
病室では、先に大先生も来ていた。僕の信子ちゃんの話は聞いた事があったみたいだけど、実際に現物を見てびっくりしていた。まさか、信子ちゃんの僕とイケメン風味の雪ちゃんが、手を繋いで病室に現れるなんて想像もつかないしね。
「雪、何テメエ、信と手を繋いでんだ!」
トウちゃん、突っ込むところそこですか?僕は、がっかりしてしまった。
「信君の男避けに、最適でしょ」
悪怯れる事もなく、雪ちゃんは、そう言ってのけたもんだから、トウちゃん喜ぶどころか、超機嫌が悪くなったしね。
「へぇ、信君なんだ」
大先生は、僕の目の前に立ち、上から下まで何度も目線を動かして僕を観察してきた。
「大先生?」
顎に手をかけて何かを考えはじめる大先生。そして、ぽんっと手を叩いて大先生は、恐ろしい提案をしてきた。
「藤吉!これで行こう。信君、藤吉が入院している間、信子ちゃんで過ごしてくれないかな?」
「大先生何を?」
「良いかい、今日から君は、雪君の妹で、藤吉の彼女の信子ちゃんだよ」
「何言ってんだ!大先生」
トウちゃんも慌てて止めに入る。
「え!大先生、私が彼氏の方が良いんですけど?」
はい!雪ちゃんも間違ってるよ。どっちが彼氏とか、問題はそこじゃないから。
「いや、雪が彼氏なんて許可できるか!仕方ない、兄のポジションは雪に譲ろう。信、もっと彼氏の側に来ないとみんなを騙せないぞ」
だから、トウちゃんも最速で陥落されてますから。
「ねぇ、大先生も正気に戻って。トウちゃんも頭怪我して、おかしなスイッチ入ったんじゃない。雪ちゃんも兄って事を悔しがらないで!」
僕の説得は、全く響かず今に至る。
病院では、先生や看護士さんを始め、僕はすっかり毎日彼氏をお見舞いに来るトウちゃんの彼女って思われている。
すっかり日課となったナースステーションへの挨拶を済ませて、トウちゃんのいる病室に足を向ける。何故か毎回このタイミングで、先生が一緒に診察に行くと声をかけてくる。
そして、先生と一緒に病室に入ると、嫌な顔をしたトウちゃんが先生に文句を言い始める。
「なんで、また先生も一緒なんですか?もう、今日の診察終わったでしょう」
「トウ…藤吉君、せっかく先生が心配してくれてるんだから、そんな風に言わないで」
これを言うと、先生は凄く満面の笑みを浮かべるけど、トウちゃんがブスっと不機嫌になる。
「信、お前は毎回わかっていない。この先生は、お前目当てなんだ。頼むからもう少し危機感を持ってくれよぉ」
「何言ってんの、ト…藤吉君」
トウちゃんも僕が男なのを知っているのに、毎回こんなやりとりをするもんだから僕も困っている訳で。
トウちゃんが、手招きをして僕を呼び寄せる。そしていつも僕を股の間に招き入れてちょこんと座らせるんだ。
大きな右腕が、がっちりと回され僕を固定してくる。
「先生、毎回言いますけど、信は俺のなんです。信を目当てに病室に来るの見え見えなんですよ」
そう言って、先生を警戒してしまうトウちゃん。だけど、先生も懲りずにやってくるもんだから、僕も毎回困っている。
「ト…藤吉君、人前だから止めようね」
首を傾げお願いするも、トウちゃんは日々エスカレートしているわけで、体を撫でまくり、ほっぺをブチュっとしてきたり、僕にぐりぐりして甘えてきたりしてくる。
トウちゃん、可愛すぎて、あざといです。
結果、僕は悶えるしかできなくて、先生はいつもそれをガン見して、その後悔しそうに帰っていく。
「アイツ、絶対信をおかずにしているに違いない」
「おかずって何?」
意味がわからなくて、トウちゃんに聞くが教えてくれなかった。
カツカツカツ
何度も履いて、踵のある靴も履きなれた。
「信ちゃん、今日も彼氏さんのお見舞い?」
「あ、どうも…」
はい、一人目。
「信ちゃん、信ちゃん。今日も可愛い。僕とお付き合いしてください」
「あ、ごめんなさい」
はい、二人目。
「あの、一目惚れしました。これ、読んでください」
「ごめんなさい、受け取れません」
三人目。ヒラヒラと舞うスカートを靡かせ、僕はトウちゃんの病室に向かう。
「ムリです…。この後予定あります…。お気持ちだけで結構です…」
今の僕は、信子ちゃん。雪ちゃんの家でお世話になって二週間。僕は、信子ちゃんで過ごしている。
「雪ちゃん、僕この恰好で病院に行かなきゃダメ?昨日、来ていた服でも良いんだけど」
「ダメダメ、ほらじっとしてて、グロスがはみ出ちゃうから。藤吉も喜ぶわよ?」
「そう…かな?」
あの日、雪ちゃんに唆されて、信子ちゃんになって、トウちゃんのお見舞いに来たんだった。
病室では、先に大先生も来ていた。僕の信子ちゃんの話は聞いた事があったみたいだけど、実際に現物を見てびっくりしていた。まさか、信子ちゃんの僕とイケメン風味の雪ちゃんが、手を繋いで病室に現れるなんて想像もつかないしね。
「雪、何テメエ、信と手を繋いでんだ!」
トウちゃん、突っ込むところそこですか?僕は、がっかりしてしまった。
「信君の男避けに、最適でしょ」
悪怯れる事もなく、雪ちゃんは、そう言ってのけたもんだから、トウちゃん喜ぶどころか、超機嫌が悪くなったしね。
「へぇ、信君なんだ」
大先生は、僕の目の前に立ち、上から下まで何度も目線を動かして僕を観察してきた。
「大先生?」
顎に手をかけて何かを考えはじめる大先生。そして、ぽんっと手を叩いて大先生は、恐ろしい提案をしてきた。
「藤吉!これで行こう。信君、藤吉が入院している間、信子ちゃんで過ごしてくれないかな?」
「大先生何を?」
「良いかい、今日から君は、雪君の妹で、藤吉の彼女の信子ちゃんだよ」
「何言ってんだ!大先生」
トウちゃんも慌てて止めに入る。
「え!大先生、私が彼氏の方が良いんですけど?」
はい!雪ちゃんも間違ってるよ。どっちが彼氏とか、問題はそこじゃないから。
「いや、雪が彼氏なんて許可できるか!仕方ない、兄のポジションは雪に譲ろう。信、もっと彼氏の側に来ないとみんなを騙せないぞ」
だから、トウちゃんも最速で陥落されてますから。
「ねぇ、大先生も正気に戻って。トウちゃんも頭怪我して、おかしなスイッチ入ったんじゃない。雪ちゃんも兄って事を悔しがらないで!」
僕の説得は、全く響かず今に至る。
病院では、先生や看護士さんを始め、僕はすっかり毎日彼氏をお見舞いに来るトウちゃんの彼女って思われている。
すっかり日課となったナースステーションへの挨拶を済ませて、トウちゃんのいる病室に足を向ける。何故か毎回このタイミングで、先生が一緒に診察に行くと声をかけてくる。
そして、先生と一緒に病室に入ると、嫌な顔をしたトウちゃんが先生に文句を言い始める。
「なんで、また先生も一緒なんですか?もう、今日の診察終わったでしょう」
「トウ…藤吉君、せっかく先生が心配してくれてるんだから、そんな風に言わないで」
これを言うと、先生は凄く満面の笑みを浮かべるけど、トウちゃんがブスっと不機嫌になる。
「信、お前は毎回わかっていない。この先生は、お前目当てなんだ。頼むからもう少し危機感を持ってくれよぉ」
「何言ってんの、ト…藤吉君」
トウちゃんも僕が男なのを知っているのに、毎回こんなやりとりをするもんだから僕も困っている訳で。
トウちゃんが、手招きをして僕を呼び寄せる。そしていつも僕を股の間に招き入れてちょこんと座らせるんだ。
大きな右腕が、がっちりと回され僕を固定してくる。
「先生、毎回言いますけど、信は俺のなんです。信を目当てに病室に来るの見え見えなんですよ」
そう言って、先生を警戒してしまうトウちゃん。だけど、先生も懲りずにやってくるもんだから、僕も毎回困っている。
「ト…藤吉君、人前だから止めようね」
首を傾げお願いするも、トウちゃんは日々エスカレートしているわけで、体を撫でまくり、ほっぺをブチュっとしてきたり、僕にぐりぐりして甘えてきたりしてくる。
トウちゃん、可愛すぎて、あざといです。
結果、僕は悶えるしかできなくて、先生はいつもそれをガン見して、その後悔しそうに帰っていく。
「アイツ、絶対信をおかずにしているに違いない」
「おかずって何?」
意味がわからなくて、トウちゃんに聞くが教えてくれなかった。
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